囲繞地通行権が認められた場合でも、権利濫用がない限り損害賠償請求は認められない
G.R. No. 116100, February 09, 1996 SPOUSES CRISTINO AND BRIGIDA CUSTODIO AND SPOUSES LITO AND MARIA CRISTINA SANTOS, PETITIONERS, VS. COURT OF APPEALS, HEIRS OF PACIFICO C. MABASA AND REGIONAL TRIAL COURT OF PASIG, METRO MANILA, BRANCH 181, RESPONDENTS.
はじめに
土地に囲まれて公道に通じない土地(囲繞地)の所有者は、公道に出るために他人の土地を通行する権利(囲繞地通行権)を有します。しかし、通行権が認められたとしても、常に損害賠償請求が認められるわけではありません。本判例は、囲繞地の所有者が通行権を求めたケースにおいて、損害賠償請求が認められるための要件と、権利濫用の原則について重要な判断を示しています。
本件では、原告(マバサ氏の相続人)が所有する土地が被告(クストディオ夫妻、サントス夫妻)の土地に囲まれており、公道への通行のために被告の土地を通行する必要がありました。原告は通行権を求めて訴訟を提起しましたが、被告が通行路を閉鎖したことにより賃借人が退去し、賃料収入が減少したとして損害賠償も請求しました。裁判所は通行権を認めたものの、損害賠償請求は棄却しました。
法的背景
フィリピン民法は、囲繞地通行権について以下の規定を設けています。
第649条:土地が他の不動産に囲まれ、公道への適切な出口がない場合、囲繞地の所有者は、周囲の土地を通過する通行権を請求する権利を有する。ただし、適切な補償を支払うものとする。
この規定により、囲繞地の所有者は、生活に必要な範囲で他人の土地を通行する権利が認められています。しかし、通行権は無制限に認められるわけではなく、必要最小限の範囲に限定され、通行地の所有者への補償も必要とされます。
また、権利濫用の原則(民法第21条)も重要な法的概念です。これは、権利の行使が社会通念に照らして許容される範囲を超え、他人に損害を与える場合には、権利の濫用として違法となるという原則です。権利濫用の成立には、以下の3つの要件が必要です。
- 権利者が道徳、善良な風俗、または公序良俗に反する方法で行動したこと
- 権利者の行為が故意であったこと
- 原告に損害または傷害が発生したこと
たとえば、自分の土地に高い塀を建てて隣家の採光を妨げる行為は、権利の行使として一見正当に見えますが、その目的が単に隣人に嫌がらせをするためである場合、権利濫用として違法となる可能性があります。
判例の分析
本件の経緯は以下の通りです。
- 原告(マバサ氏)は、被告(クストディオ夫妻、サントス夫妻)の土地に囲まれた土地を購入。
- 被告は、原告の土地に通じる通路に塀を建設し、通路を閉鎖。
- 原告の土地の賃借人が退去し、賃料収入が減少。
- 原告は、被告に対して通行権の設定と損害賠償を請求する訴訟を提起。
- 第一審裁判所は通行権を認めたが、損害賠償請求は棄却。
- 控訴裁判所は、損害賠償請求を一部認め、被告に損害賠償を命じた。
最高裁判所は、控訴裁判所の判決を破棄し、第一審裁判所の判決を支持しました。その理由として、以下の点を挙げています。
「損害賠償の回復を保証するためには、被告によって引き起こされた法的違法行為に対する訴訟権と、それによって原告に生じた損害の両方が存在しなければならない。違法行為のない損害、または損害のない違法行為は、訴訟原因を構成しない。なぜなら、損害賠償は、違反または違法行為によって引き起こされた損害に対する救済の一部にすぎないからである。」
「被告が自分の土地に塀を建設した行為は、所有者としての権利の正当な行使であり、道徳、善良な風俗、または公序良俗に反するものではない。法律は、所有者に対して、法律によって定められた制限以外に、物を享受し処分する権利を認めている。」
最高裁判所は、被告が通路を閉鎖した時点では、原告はまだ通行権を有しておらず、被告の行為は所有権の正当な行使であったと判断しました。したがって、原告に損害が発生したとしても、それは「damnum absque injuria」(違法行為を伴わない損害)であり、損害賠償請求は認められないと結論付けました。
実務への影響
本判例は、囲繞地通行権が認められた場合でも、損害賠償請求が認められるためには、権利濫用などの違法行為が必要であることを明確にしました。土地所有者は、自分の土地を自由に利用する権利を有しますが、その権利行使が他人に不当な損害を与える場合には、法的責任を問われる可能性があることを認識しておく必要があります。
本判例から得られる教訓は以下の通りです。
- 囲繞地の所有者は、通行権を求める前に、まずは隣接地の所有者と協議し、円満な解決を目指すべきである。
- 土地所有者は、自分の土地を利用する権利を正当に行使する限り、他人に損害を与えたとしても法的責任を問われることはない。
- しかし、権利の行使が社会通念に照らして許容される範囲を超え、他人に損害を与える場合には、権利濫用として違法となる可能性がある。
よくある質問
Q1: 囲繞地通行権はどのような場合に認められますか?
A1: 自分の土地が他の土地に囲まれており、公道への適切な出口がない場合に認められます。ただし、通行の必要性と、通行地の所有者への損害を考慮して、通行場所や方法が決定されます。
Q2: 通行権が認められた場合、通行地の所有者にどのような補償を支払う必要がありますか?
A2: 通行地の使用による損害を補償するための金額を支払う必要があります。具体的な金額は、当事者間の協議または裁判所の決定によって決定されます。
Q3: 自分の土地に囲繞地通行権が設定された場合、自由に土地を利用できなくなりますか?
A3: 通行権の設定によって、土地の利用が一部制限される可能性があります。しかし、通行権の範囲内で、土地を自由に利用する権利は依然として有しています。
Q4: 隣人が通行路を不当に妨害した場合、どうすればよいですか?
A4: まずは隣人と協議し、妨害行為の中止を求めるべきです。それでも解決しない場合は、裁判所に妨害排除の訴えを提起することができます。
Q5: 権利濫用と判断される具体的なケースはありますか?
A5: 例えば、自分の土地に必要以上に高い塀を建てて隣家の採光を著しく妨げる、騒音を故意に発生させて隣人の生活を妨害する、などが権利濫用と判断される可能性があります。
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