未成年者の性的虐待事件における被害者証言の重要性:人民対リベラ事件
[G.R. No. 130607, November 17, 1999]
はじめに
性的虐待は、被害者に深刻な精神的トラウマを与える犯罪であり、特に被害者が未成年の場合はその影響は計り知れません。フィリピンでは、未成年者に対する性的虐待は厳しく処罰され、加害者には重い刑罰が科せられます。しかし、多くの場合、性的虐待は密室で行われるため、被害者の証言が事件の真相を解明する上で極めて重要な役割を果たします。本稿では、フィリピン最高裁判所の判例である人民対リベラ事件(People v. Rivera)を分析し、未成年被害者の証言がどのように評価され、有罪判決に繋がったのか、そしてこの判例が今後の性的虐待事件にどのような影響を与えるのかについて解説します。
法的背景:強姦罪と加重強姦罪
フィリピン刑法第335条は強姦罪について規定しており、主に以下の状況下で女性と性交した場合に成立します。
- 暴行または脅迫を用いた場合
- 女性が理性喪失状態または意識不明の場合
- 女性が12歳未満または精神障害者の場合
強姦罪の基本的な刑罰は再監禁永久刑です。しかし、RA 7659号法により刑法第335条が改正され、特定の加重事由が存在する場合、刑罰が死刑まで引き上げられることになりました。この加重事由の一つが、被害者が18歳未満であり、加害者が親、尊属、継親、保護者、三親等以内の血縁者または姻族、あるいは被害者の親の事実婚配偶者である場合です。本件、人民対リベラ事件は、まさにこの加重事由が適用された事例であり、実父による娘への性的虐待という、最も非道な犯罪の一つです。
重要な条文として、改正刑法第335条の関連部分を以下に引用します。
「第335条。強姦がいつ、どのように行われるか。強姦は、以下のいずれかの状況下で女性と性交することによって行われる。
- 暴行または脅迫を用いること。
- 女性が理性喪失状態または意識不明であること。
- 女性が12歳未満であるか、または精神障害者であること。
強姦罪は、再監禁永久刑によって処罰されるものとする。
強姦罪が凶器の使用または二人以上の者によって行われた場合は、刑罰は再監禁永久刑から死刑とする。
強姦を理由として、またはその機会に、被害者が精神異常になった場合は、刑罰は死刑とする。
強姦が未遂または未遂に終わり、故殺がその理由またはその機会に犯された場合は、刑罰は再監禁永久刑から死刑とする。
強姦を理由として、またはその機会に、故殺が犯された場合は、刑罰は死刑とする。
死刑は、強姦罪が以下のいずれかの付随状況下で犯された場合にも科されるものとする。
- 被害者が18歳未満であり、加害者が親、尊属、継親、保護者、三親等以内の血縁者または姻族、または被害者の親の事実婚配偶者である場合。
- 被害者が警察または軍当局の拘禁下にある場合。
- 強姦が夫、親、子供のいずれか、または三親等以内のその他の親族の目の前で行われた場合。
- 被害者が宗教家または7歳未満の子供である場合。
- 加害者が後天性免疫不全症候群(AIDS)疾患に罹患していることを知っている場合。
- フィリピン国軍またはフィリピン国家警察の隊員、または法執行機関の隊員によって犯された場合。
- 強姦を理由として、またはその機会に、被害者が永続的な身体的切断を受けた場合。
」
事件の経緯:アルファミアさんの苦しみ
本件の被害者であるアルファミア・リベラさんは、事件当時10歳の少女でした。1995年5月16日の午後、アルファミアさんは自宅で父親のルスティコ・リベラ被告から性的暴行を受けました。アルファミアさんの証言によれば、被告はまず彼女の背中を触り、その後、短パンと下着を脱がせ、胸をまさぐり、陰部を舐めるなどの猥褻な行為を行いました。さらに、被告はアルファミアさんを床に敷いたござの上に寝かせ、無理やり脚を開き、自らの性器を挿入しようとしました。アルファミアさんは痛みを感じましたが、出血はありませんでした。被告は行為後、「誰かに言ったら殺す」と脅迫しました。
アルファミアさんは恐怖のため誰にも事件を打ち明けられませんでしたが、妹のニナ・ジョイさんが事件を目撃しており、後に親戚に話したことから事件が発覚しました。母親のアマリアさんは親族に相談した後、警察に通報し、アルファミアさんは医師の診察を受けました。診察の結果、アルファミアさんの処女膜には古い裂傷痕があり、さらに新しい裂傷と炎症の所見が認められました。これは、最近性的暴行を受けたことを強く示唆するものでした。
一方、被告は一貫して否認し、妻や義母が自分を陥れるために嘘の証言をしていると主張しました。しかし、裁判所は、アルファミアさんとニナ・ジョイさんの証言は一貫しており、医学的証拠とも合致していると判断し、被告の主張を退けました。
裁判の過程で、アルファミアさんは詳細かつ率直に事件の状況を証言しました。検察官と弁護人からの尋問、そして裁判官からの質問にも、落ち着いて答えました。以下は、アルファミアさんの証言の一部です。
検察官:「その後、お父さんは何をしましたか?」
アルファミア:「その後、起こされました。」
検察官:「どこで寝ていたのですか?」
アルファミア:「寝室です。」
検察官:「お父さんはどのように起こしましたか?」
アルファミア:「背中を指でつつかれました。」
検察官:「その時、どんな服を着ていましたか?」
アルファミア:「Tシャツと短パンです。」
検察官:「下着は?」
アルファミア:「はい、下着も履いていました。」
検察官:「起こされた時、お父さんは体のどこを触っていましたか?」
弁護人:「すでに答えました。」
検察官:「起きた時、お父さんは何をしましたか?」
アルファミア:「陰部を触られました。」
検察官:「他に触られた部分はありますか?」
アルファミア:「胸です。」
検察官:「その後、お父さんは何をしましたか?」
アルファミア:「陰部を性器で触られました。」
検察官:「短パンと下着を履いていたのに?」
アルファミア:「はい、履いていました。」
検察官:「陰部を触ったり、性器を陰部に当てようとしたりする以外に、何をしましたか?」
アルファミア:「陰部を舌で舐められました。」
検察官:「舐められましたか?」
アルファミア:「はい。」
検察官:「その時も短パンと下着を履いていましたか?」
アルファミア:「脱がされました。」
検察官:「Tシャツは?」
アルファミア:「脱がされませんでした。」
検察官:「陰部を舐めている時、他に何かしましたか?」
アルファミア:「Tシャツの中に手を入れられました。(左胸を指差す)」
検察官:「その後、お父さんは何をしましたか?」
アルファミア:「ベッドから降ろされました。」
裁判官:「どこに連れて行きましたか?」
アルファミア:「ござを敷いて、そこに寝かされました。」
検察官:「ベッドの下ですか?」
アルファミア:「ベッドの真下にござを敷きました。」
検察官:「ベッドの高さは?」
アルファミア:「これくらいです。(約1.2メートルの高さを指差す)」
検察官:「ござの上に寝かされた後、お父さんは何をしましたか?」
アルファミア:「仰向けに寝かされて、太ももを開かれ、陰部を性器で触られました。」
検察官:「その時の体勢を実演してください。」
アルファミア:「こんな感じです。(うずくまり、父親が自分の上に覆いかぶさり、腕を両側に広げている様子を実演)」
検察官:「お父さんの性器が陰部に触れているのを感じましたか?」
アルファミア:「はい。」
検察官:「体のどの部分に触れていると感じましたか?」
アルファミア:「ここです。(陰部を指差す)」
検察官:「お父さんの性器が膣の入り口に触れていると感じましたか?」
アルファミア:「はい。」
検察官:「お父さんの性器は膣に少しでも挿入されましたか?」
アルファミア:「はい。」
裁判官:「挿入された時、どんな感じがしましたか?」
アルファミア:「痛かったです。」
裁判官:「挿入は浅かったですか、深かったですか?」
アルファミア:「浅かったです。」
裁判官:「出血はありましたか?」
アルファミア:「いいえ。でも、お父さんの性器から尿のような液体が出ました。」
裁判官:「液体の色は?」
アルファミア:「水っぽい液体でした。」
裁判官:「色は?」
アルファミア:「色は分かりません。」
検察官:「その後、お父さんは何をしましたか?」
アルファミア:「誰かに見られるといけないから、やめようと言いました。」
検察官:「その後、お父さんは何をしましたか?」
アルファミア:「部屋から出ました。」
検察官:「部屋を出た後、何か言われましたか?」
アルファミア:「何も言われませんでした。」
検察官:「お母さんにこのことを話しましたか?」
アルファミア:「いいえ、怖かったからです。」
検察官:「誰が怖かったのですか?」
アルファミア:「お母さんとお父さんです。お母さんに話したら叩かれるかもしれないし、お父さんにも叩かれるかもしれないと思ったからです。」
裁判官:「証人が泣き始めました。」
検察官:「お父さんの何が怖かったのですか?」
アルファミア:「叩かれるかもしれないからです。」
検察官:「お父さんに脅されましたか?」
アルファミア:「はい。」
検察官:「どんな言葉で脅されましたか?」
アルファミア:「誰かに言ったら殺すと言われました。」
裁判所は、アルファミアさんの証言が具体的で一貫性があり、虚偽の申告をする動機がないと判断しました。また、妹のニナ・ジョイさんの証言もアルファミアさんの証言を裏付けており、医学的証拠とも矛盾しないことから、被告の有罪を認めました。
判決と実務への影響
地方裁判所は、被告に対し、加重強姦罪(近親相姦強姦)で有罪判決を下し、死刑を宣告しました。最高裁判所もこの判決を支持し、被告の上訴を棄却しました。最高裁判所は、判決理由の中で、未成年被害者の証言の重要性を強調し、特に性的虐待事件においては、被害者の証言が直接的な証拠となり得ることを明確にしました。また、被害者が幼い子供である場合、虚偽の申告をする可能性は極めて低いと指摘し、被害者の証言の信頼性を高く評価しました。
本判決は、フィリピンにおける性的虐待事件の裁判において、重要な先例となりました。特に、未成年被害者の証言が有力な証拠となり得ることを改めて確認したことは、今後の同様の事件の審理に大きな影響を与えると考えられます。また、家族間の性的虐待という、最も隠蔽されやすい犯罪に対する司法の姿勢を示すものとして、社会的な意義も大きいと言えるでしょう。
実務上の教訓
本判例から得られる実務上の教訓は以下の通りです。
- 性的虐待事件においては、被害者の証言が最も重要な証拠となり得る。
- 未成年被害者の証言は、その年齢や発達段階を考慮しつつ、慎重かつ丁寧に評価されるべきである。
- 被害者の証言が一貫しており、具体的な状況を詳細に語っている場合、その信頼性は高いと判断される可能性が高い。
- 医学的証拠や目撃者の証言など、他の証拠によって被害者の証言が裏付けられる場合、有罪判決に繋がる可能性がさらに高まる。
- 弁護側は、被害者の証言の矛盾点や虚偽の申告をする動機などを指摘することで、証言の信用性を争うことができるが、幼い被害者の証言の信用性を覆すことは容易ではない。
よくある質問(FAQ)
Q1: フィリピンで強姦罪が成立する要件は何ですか?
A1: フィリピン刑法第335条によれば、主に暴行・脅迫、被害者の無意識状態、または被害者が12歳未満である場合に強姦罪が成立します。
Q2: 加重強姦罪とは何ですか?
A2: 特定の加重事由(凶器の使用、二人以上の犯行、被害者の精神異常、または特定の身分関係など)が存在する場合に成立する強姦罪で、刑罰が死刑まで引き上げられる可能性があります。本件のように、被害者が18歳未満で、加害者が親である場合も加重事由に該当します。
Q3: 未成年者の証言は裁判でどの程度重視されますか?
A3: 未成年者の証言も成人の証言と同様に証拠能力がありますが、裁判所は未成年者の年齢や発達段階を考慮し、より慎重に証言の信用性を判断します。特に性的虐待事件では、未成年被害者の証言が重要な証拠となることが多いです。
Q4: 被害者が事件をすぐに警察に届け出なかった場合、証言の信用性は下がりますか?
A4: 必ずしもそうとは限りません。性的虐待、特に家族間の虐待の場合、被害者が恐怖や恥ずかしさからすぐに届け出ることが難しい場合があります。裁判所は、そのような事情も考慮して証言の信用性を判断します。
Q5: 被告が否認した場合、有罪判決は難しくなりますか?
A5: 被告が否認しても、被害者の証言や他の証拠(医学的証拠、目撃者の証言など)によって合理的な疑いを容れない程度に犯罪事実が証明されれば、有罪判決となる可能性があります。本件のように、被告が否認しても、被害者の証言の信用性が高く評価され、有罪判決に繋がることがあります。
Q6: 死刑判決が出た場合、必ず執行されますか?
A6: フィリピンでは死刑制度は存在しますが、執行停止措置が取られています。死刑判決が出ても、自動的に大統領府に上申され、恩赦の可能性が検討されます。しかし、恩赦が認められない場合は、死刑が確定する可能性があります。本件も、死刑判決が確定しましたが、その後の執行状況は不明です。
ASG Lawからのお知らせ
ASG Lawは、フィリピン法、特に刑事事件、家族法分野において豊富な経験と専門知識を有する法律事務所です。本稿で解説した性的虐待事件をはじめ、様々な法律問題でお困りの際は、ぜひASG Lawにご相談ください。経験豊富な弁護士が、お客様の権利擁護と問題解決のために尽力いたします。
ご相談は、konnichiwa@asglawpartners.comまでメールにてご連絡いただくか、お問い合わせページからお問い合わせください。初回のご相談は無料です。お気軽にご連絡ください。
出典: 最高裁判所E-ライブラリー
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