タグ: 強姦致死罪

  • 自白の許容性と強姦致死罪の証明責任:人民対モヘッロ事件

    本判決は、被疑者の権利擁護と自白の証拠能力、そして強姦致死罪の立証責任に関する重要な判断を示しました。最高裁判所は、ドナルド・モヘッロに対する地方裁判所の死刑判決を覆し、法定強姦罪のみで有罪としました。この判断は、自白が憲法上の権利を侵害せずに得られた場合でも、他の証拠によって犯罪事実が合理的な疑いなく証明されなければならないことを強調しています。本判決は、刑事裁判における証拠の重要性と、被疑者の権利保護のバランスを改めて示唆するものです。

    強姦の自白、立証責任の壁:レイコ事件の真相

    事の発端は、1996年12月15日の夜、セブ州サンタフェで発生しました。ロジェリオ・レイコは、姪のレンレン・レイコが、被告人ディンド・モヘッロと共に歩いているのを目撃します。翌朝、レンレンは海岸で変わり果てた姿で発見されました。捜査の結果、モヘッロは逮捕され、強姦致死罪で起訴されます。

    裁判では、モヘッロの自白の信憑性と、強姦致死罪の立証責任が争点となりました。地方裁判所はモヘッロの自白を証拠として採用し、有罪判決を下しました。しかし、最高裁判所は、自白が憲法上の権利を遵守して得られたものであることを認めつつも、強姦致死罪の成立には十分な証拠がないと判断しました。この判断の背景には、「ミランダ権」と呼ばれる、被疑者の権利擁護の原則があります。

    ミランダ権とは、逮捕された者が、黙秘権、弁護士の援助を受ける権利、そして、供述が法廷で不利な証拠として使用される可能性があることを告知される権利を指します。フィリピンの憲法は、「いかなる犯罪の嫌疑を受けている者も、黙秘権を有し、自己の選択による有能かつ独立した弁護士の援助を受ける権利を有する」と規定しています。この権利は、書面で、かつ弁護士の立会いなしには放棄できません。モヘッロ事件では、モヘッロが弁護士の援助を受けながら自白したことが認められました。

    しかし、最高裁判所は、自白だけでは強姦致死罪を立証するには不十分であると判断しました。事件の記録からは、モヘッロが被害者を殺害したという直接的な証拠は見つかりませんでした。検察は、殺害方法、凶器、そしてモヘッロが殺害に至った動機などを具体的に示す必要がありましたが、これを十分に立証できませんでした。また、被害者の死因となった窒息死と、強姦との因果関係も明確には証明されませんでした。

    この事件で重要となるのは、「合理的な疑い」の原則です。刑事裁判では、検察は被告人が有罪であることを「合理的な疑い」を超えて証明しなければなりません。「合理的な疑い」とは、証拠に基づいて生じる可能性のある疑いを指し、完全に可能性のない疑いとは異なります。モヘッロ事件では、検察が、モヘッロが強姦の際に被害者を殺害したという「合理的な疑い」を超えた立証ができなかったため、強姦致死罪での有罪判決は覆されました。

    この判決は、フィリピンの刑事裁判における証拠の重要性と、被疑者の権利保護のバランスを改めて強調するものです。自白は有力な証拠となりえますが、それだけで有罪判決を下すことはできません。検察は、自白に加えて、他の客観的な証拠を提示し、犯罪事実を合理的な疑いなく証明する必要があります。また、裁判所は、被疑者の権利が侵害されていないかを厳格に審査し、公正な裁判を実現しなければなりません。

    FAQs

    本件の重要な争点は何でしたか? 本件の重要な争点は、被告人の自白の証拠能力と、被告人が強姦致死罪を犯したことを立証するために十分な証拠があるかどうかでした。
    裁判所は自白についてどのように判断しましたか? 裁判所は、被告人が自身の権利を理解した上で弁護士の支援を受けて自白したため、自白は証拠として許容されると判断しました。ただし、自白だけでは有罪判決を下すのに十分ではないと判断しました。
    「合理的な疑い」とは何ですか? 「合理的な疑い」とは、検察が有罪であることを証明する責任を負う基準です。もし陪審員に犯罪を犯したかどうか合理的な疑念がある場合、彼らは被告人に無罪判決を下すべきです。
    強姦致死罪はどのような場合に成立しますか? 強姦致死罪は、強姦の際に、または強姦を理由として殺人事件が発生した場合に成立します。検察は、強姦と殺人の間の直接的なつながりを立証する必要があります。
    裁判所は最終的にどのような判決を下しましたか? 最高裁判所は、地方裁判所の強姦致死罪の判決を破棄し、被告人を未成年者に対する法定強姦罪で有罪としました。
    被告人はどのような刑罰を受けましたか? 被告人は終身刑を言い渡され、被害者の遺族に対して損害賠償と慰謝料を支払うよう命じられました。
    本件判決からどのような教訓が得られますか? 本件判決は、刑事裁判における証拠の重要性、被疑者の権利保護の重要性、そして、検察が有罪を立証する責任の重さを改めて示唆しています。
    ミランダ権とは何ですか? ミランダ権とは、逮捕された者が有する権利であり、黙秘権、弁護士の援助を受ける権利、そして、供述が法廷で不利な証拠として使用される可能性があることを告知される権利が含まれます。

    モヘッロ事件は、自白の有効性、証拠の評価、そして裁判における立証責任の重要性について、重要な教訓を示しています。これらの原則は、法制度の公正さと、個人の権利の保護に不可欠です。

    この判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、お問い合わせまたは、frontdesk@asglawpartners.com からASG Lawにご連絡ください。

    免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的助言については、資格のある弁護士にご相談ください。
    出典: PEOPLE OF THE PHILIPPINES, APPELLEE, VS. DINDO “BEBOT” MOJELLO, G.R. No. 145566, March 09, 2004

  • フィリピン最高裁判所判例解説:強姦致死罪における共謀と状況証拠の重要性

    状況証拠と共犯者の証言が強姦致死罪の有罪判決を導いた事例

    [ G.R. Nos. 113022-24, December 15, 2000 ]

    性的暴行と殺人を伴う罪、強姦致死罪は、被害者が証言できないため、立証が非常に困難な犯罪類型です。しかし、フィリピン最高裁判所は、本件「PEOPLE OF THE PHILIPPINES, PLAINTIFF-APPELLEE, VS. TEOFILO SERANILLA Y FRANCISCO, LEO FERRER Y PADILLA, EDMUNDO HENTOLIA Y RETAA, DANIEL ALMORIN Y BALBIN AND CARLOS CORTEZ, JR., ACCUSED」において、状況証拠と共犯者の証言を組み合わせることで、強姦致死罪の有罪判決を支持しました。本稿では、この重要な判例を詳細に分析し、その教訓と実務上の影響を解説します。

    強姦致死罪とは?フィリピン刑法における定義と構成要件

    フィリピン刑法第335条は、強姦罪の遂行またはその機会に殺人が行われた場合、強姦致死罪として重く処罰することを規定しています。強姦致死罪が成立するためには、以下の2つの要素が不可欠です。

    1. 強姦罪の成立:暴行、脅迫、または畏怖を用いて、女性の意に反して性交を行うこと。
    2. 殺人:強姦の遂行またはその機会に、被害者が死亡すること。

    重要なのは、強姦と殺人の間に因果関係がある必要はなく、「機会に」(on occasion of)殺人が行われた場合も含まれるという点です。つまり、強姦の意図がなくても、強姦の現場で偶発的に殺人が発生した場合も、強姦致死罪が成立する可能性があります。当時の刑法では、強姦致死罪の刑罰は死刑でしたが、本判決時は死刑制度が停止されていたため、下級審はreclusion perpetua(終身刑)を宣告しました。

    本件では、4人の被告がそれぞれ強姦を行い、その機会に被害者が殺害されたとして、4件の強姦致死罪で起訴されました。検察は、直接的な証拠がない中で、共犯者の証言と状況証拠を積み重ね、有罪立証を目指しました。

    事件の経緯:共犯者の自白と状況証拠が示す犯行

    1992年9月20日、被害者のマリア・ビクトリア・P・サントスは、勤務先のショッピングモールでの会議後、帰宅途中に被告のグループに遭遇しました。被告らは、被害者を暴行し、近くの草むらに連れ込み、集団で強姦しました。その後、被害者は首を切りつけられ殺害されました。

    事件から5日後、被害者の遺体が発見され、警察の捜査が開始されました。捜査の結果、共犯者の一人であるカルロス・コルテス・ジュニアが逮捕され、犯行の詳細を自白する供述書を作成しました。コルテスの供述によると、被告らは酒に酔った勢いで被害者に襲い掛かり、順番に強姦した後、口封じのために殺害したとのことでした。

    裁判では、コルテスの証言が重要な証拠となりました。コルテス自身も現場にいましたが、強姦には直接加担せず、逃亡しました。しかし、彼の証言は、犯行の状況、被告らの役割、被害者の状況などを詳細に語っており、非常に具体的で信用性が高いと判断されました。

    一方、被告らは全員否認し、アリバイを主張しました。しかし、彼らのアリバイは曖昧で、客観的な裏付けに欠けていました。また、検察は、被告らが犯行前に一緒に飲酒していたこと、犯行現場近くで目撃されていたこと、被害者の遺体が発見された場所が被告らの行動範囲内であったことなど、状況証拠を積み重ねました。

    最高裁判所の判断:状況証拠と共犯者証言の信用性

    最高裁判所は、下級審の有罪判決を支持し、被告らの上訴を棄却しました。最高裁は、判決理由の中で、以下の点を強調しました。

    • 共犯者コルテスの証言の信用性:コルテスの証言は、具体的で一貫性があり、動機や虚偽供述の疑いもない。自己の関与も認めている点も信用性を高める。
    • 状況証拠の積み重ね:被告らが犯行前に一緒にいたこと、犯行現場近くにいたこと、被害者の遺体発見場所、被告らのアリバイの不備など、状況証拠が総合的に被告らの犯行を強く示唆している。
    • アリバイの脆弱性:被告らのアリバイは、客観的な裏付けがなく、犯行現場から遠く離れた場所にいたという証明にもなっていない。

    最高裁は、状況証拠の判断基準として、以下の3点を改めて示しました。

    1. 複数の状況証拠が存在すること
    2. 状況証拠の根拠となる事実が証明されていること
    3. 全ての状況証拠を総合的に判断して、合理的な疑いを差し挟む余地がないほど有罪と確信できること

    本件では、これらの要件が満たされていると判断されました。最高裁は、「状況証拠は、直接証拠がない場合でも、有罪判決を支持するのに十分な証拠となり得る」と述べ、状況証拠の重要性を改めて強調しました。

    また、最高裁は、下級審が認めた損害賠償額を増額し、慰謝料50,000ペソに加えて、遺族への賠償金100,000ペソを連帯して支払うよう命じました。これは、強姦致死罪の被害者遺族に対する賠償額の相場を考慮したもので、判決時の判例に沿ったものです。

    実務上の教訓:状況証拠立証と弁護活動のポイント

    本判例は、強姦致死罪の捜査・裁判において、状況証拠がいかに重要であるかを示しています。直接的な証拠が得られない場合でも、状況証拠を丹念に積み重ねることで、有罪立証が可能であることを示唆しています。

    捜査・検察側のポイント:

    • 共犯者からの自白・供述の取得:共犯者の証言は、犯行状況を具体的に示す有力な証拠となる。
    • 状況証拠の網羅的な収集:犯行前後の被告の行動、現場の状況、アリバイの不備など、あらゆる状況証拠を収集し、総合的に立証する。
    • 状況証拠の関連性と証明力の精査:個々の状況証拠だけでなく、全体として合理的な疑いを差し挟む余地がないほど有罪を立証できるかを検討する。

    弁護側のポイント:

    • 共犯者証言の信用性の吟味:証言の動機、一貫性、客観的証拠との矛盾点などを徹底的に検証し、信用性を争う。
    • 状況証拠の反証:検察側の提示する状況証拠一つ一つに対し、合理的な反論を提示し、状況証拠の全体的な証明力を弱める。
    • アリバイの強化:アリバイを客観的な証拠で裏付け、犯行時刻に現場にいなかったことを立証する。

    よくある質問(FAQ)

    Q1. 強姦致死罪とはどのような犯罪ですか?

    A1. 強姦罪の遂行またはその機会に殺人が行われた場合に成立する犯罪です。刑法第335条に規定されており、非常に重い罪です。

    Q2. 状況証拠だけで有罪判決が出ることはありますか?

    A2. はい、状況証拠が十分に積み重ねられ、合理的な疑いを差し挟む余地がないと裁判官が判断すれば、状況証拠だけでも有罪判決が出ることはあります。本判例はその典型例です。

    Q3. アリバイは有効な弁護になりますか?

    A3. アリバイは有効な弁護になり得ますが、単に「現場にいなかった」と主張するだけでは不十分です。アリバイを客観的な証拠で裏付け、犯行時刻に現場にいなかったことを立証する必要があります。

    Q4. 強姦致死罪の刑罰は?

    A4. 本判決当時は死刑が規定されていましたが、死刑制度が停止されていたため、reclusion perpetua(終身刑)が宣告されました。現在のフィリピンでは死刑制度が復活していますが、強姦致死罪は依然として重罪であり、終身刑または死刑が科される可能性があります。

    Q5. 強姦被害に遭ってしまった場合、どこに相談すれば良いですか?

    A5. まずは警察に被害届を提出してください。その後、弁護士に相談し、法的アドバイスを受けることをお勧めします。また、被害者支援団体なども相談窓口として利用できます。


    ASG Lawは、フィリピン法、特に刑事事件に精通した法律事務所です。本判例のような強姦致死罪事件をはじめ、様々な刑事事件に関するご相談を承っております。刑事事件でお困りの際は、お気軽にご連絡ください。

    お問い合わせはこちらまで:konnichiwa@asglawpartners.com

    お問い合わせページ

  • 違法な自白と証拠能力:フィリピン最高裁判所の判例解説

    違法に取得された自白は証拠として認められない:憲法上の権利の重要性

    [ G.R. No. 130612, May 11, 1999 ]

    はじめに

    刑事事件において、自白はしばしば決定的な証拠となりますが、その自白が違法に取得された場合、裁判で証拠として認められるのでしょうか?フィリピン最高裁判所のドマンタイ対フィリピン国事件は、この重要な問題を扱っています。幼い少女が殺害された悲劇的な事件を背景に、この判決は、憲法が保障する権利、特に逮捕後の被疑者の権利、そして違法に取得された証拠の証拠能力について、重要な教訓を教えてくれます。本稿では、この判例を詳細に分析し、その法的意義と実務への影響を解説します。

    法的背景:違法収集証拠排除法則と憲法上の権利

    フィリピン憲法第3条第12項は、刑事事件の被疑者が有する権利を明確に規定しています。具体的には、黙秘権、弁護人選任権、そしてこれらの権利を放棄する場合には書面で行い、弁護人の面前で行う必要があると定めています。この規定は、被疑者が警察などの捜査機関から不当な圧力を受け、自己に不利な供述を強要されることを防ぐためのものです。

    憲法第3条第12項の条文は以下の通りです。

    (1) 犯罪の嫌疑で取り調べを受けている者は、黙秘権を有すること、及び自己の選択による有能かつ独立した弁護人を選任する権利を有することを知らされる権利を有する。もし、弁護人のサービスを受ける余裕がない場合は、弁護人が提供されなければならない。これらの権利は、書面により、かつ弁護人の面前で放棄する場合を除き、放棄することはできない。

    (3) 本条または第17条に違反して取得された自白または供述は、証拠として認められないものとする。

    この憲法規定を具体化するものとして、「違法収集証拠排除法則」があります。これは、違法な捜査手続きによって収集された証拠は、裁判で証拠として採用してはならないという原則です。この原則の根拠となるのは、違法な証拠を裁判で利用することを認めれば、憲法が保障する国民の権利を侵害する捜査を助長することになり、正義に反するという考え方です。違法収集証拠排除法則は、適正手続きの保障、人権擁護の観点から、非常に重要な原則とされています。

    この原則は、直接的に違法に収集された証拠だけでなく、そこから派生した二次的な証拠にも及びます。これを「毒樹の果実」理論と呼びます。毒樹の果実理論とは、違法な行為(毒樹)によって得られた証拠(果実)だけでなく、その違法な証拠から派生して得られた証拠も、違法性の影響を受け、証拠能力を否定されるという考え方です。

    事件の概要:少女殺害事件と自白の証拠能力

    1996年10月17日、パンガシナン州マラスィキの竹林で、6歳のジェニファー・ドマンタイの遺体が発見されました。彼女は、背中に38箇所もの刺し傷を負っており、死因は多臓器不全と失血性ショックでした。警察の捜査の結果、被害者の祖父のいとこであるベルナルディノ・ドマンタイが容疑者として浮上しました。

    警察はドマンタイを警察署に連行し、取り調べを行いました。この取り調べにおいて、ドマンタイは少女殺害を自白したとされています。さらに、彼は凶器である銃剣を叔父夫婦に預けたと供述し、警察はドマンタイの供述に基づき、銃剣を押収しました。

    その後、ドマンタイは強姦致死罪で起訴されました。裁判では、警察官による取り調べでの自白と、ラジオ記者への自白の証拠能力が争点となりました。第一審の地方裁判所は、ドマンタイの自白を証拠として認め、彼を強姦致死罪で有罪とし、死刑判決を言い渡しました。

    最高裁判所の判断:警察官への自白は違法、記者への自白は適法

    ドマンタイは判決を不服として最高裁判所に上告しました。最高裁判所は、まず、警察官による取り調べでの自白の証拠能力について検討しました。裁判所は、ドマンタイが警察署に連行された時点で、既に少女殺害事件の容疑者であり、憲法第3条第12項が保障する権利が適用される状況にあったと判断しました。

    警察官は、ドマンタイに対し、黙秘権と弁護人選任権を告知したと証言しましたが、ドマンタイが弁護人の援助なしに供述することを承諾したにもかかわらず、その権利放棄は書面で行われておらず、弁護人の面前でも行われていませんでした。最高裁判所は、このような状況下での権利放棄は無効であり、警察官への自白は違法に取得されたものとして、証拠能力を否定しました。さらに、自白に基づいて発見された凶器である銃剣も、「毒樹の果実」として証拠能力を否定しました。

    一方、最高裁判所は、ラジオ記者への自白については、証拠能力を認めました。裁判所は、憲法第3条第12項は、国家と個人間の関係を規律するものであり、私人間の関係には適用されないと解釈しました。ラジオ記者は私人に過ぎず、ドマンタイへのインタビューは「custodial investigation(拘束下での取り調べ)」には該当しないため、憲法上の権利告知や弁護人の立会いは不要であると判断しました。裁判所は、過去の判例(People v. Andan事件)も引用し、報道機関への自白は憲法上の保護の対象外であることを改めて確認しました。

    裁判所は、ドマンタイが記者に対して自発的に自白したと認定しました。インタビューは刑務所内で行われたものの、記者はドマンタイの独房の外からインタビューを行い、警察官の圧力を受けて自白したとは認められないと判断しました。また、記者への自白は、ジェニファー・ドマンタイの死亡という事実(corpus delicti)によって裏付けられているとしました。

    強姦致死罪の成否:強姦の証明は不十分

    最高裁判所は、ドマンタイの殺人罪については有罪としましたが、強姦罪については証拠不十分として無罪としました。裁判所は、強姦致死罪は、強姦と殺人の両方が合理的な疑いを容れない程度に証明されなければならないと指摘しました。

    検察側は、NBI(国家捜査局)の法医学専門家による鑑定結果を提出し、被害者の処女膜に裂傷があり、性器周辺に炎症が見られると主張しました。しかし、裁判所は、処女膜裂傷は強姦の証明に不可欠ではない上、裂傷の原因が性行為によるものとは限らないと指摘しました。法医学専門家自身も、処女膜裂傷は男性器以外の鈍器によっても起こり得ると証言しました。また、事件現場の状況や被害者の衣服の状態など、強姦を裏付ける状況証拠も乏しいと判断しました。

    裁判所は、「状況証拠のみに基づいて強姦致死罪で有罪判決を維持した過去の判例では、被害者の衣服の状態、特に下着、遺体発見時の体位など、強姦を示す明確な兆候が存在した」と述べ、本件ではそのような状況証拠がないことを指摘しました。さらに、被害者の刺し傷がすべて背部に集中している点も、強姦の状況とは矛盾するとしました。これらの理由から、最高裁判所は、強姦罪の証明は不十分であると結論付けました。

    量刑と損害賠償

    最高裁判所は、ドマンタイを殺人罪で有罪とし、量刑を死刑から減刑しました。犯行には、被害者が6歳の幼い少女であり、抵抗が困難であったという「優越的地位の濫用」という加重事由が認められるものの、「残虐性」は認められないとしました。裁判所は、多数の刺し傷があったとしても、それだけで残虐性を認定することはできないと判断しました。残虐性の認定には、被害者に苦痛を故意に与えたという証明が必要であるとしました。

    その結果、ドマンタイには、懲役12年(仮釈放付き懲役刑の最下限)から20年(仮釈放付き懲役刑の最上限)の刑が言い渡されました。また、損害賠償については、遺族に対する賠償金、慰謝料、懲罰的損害賠償、実損害賠償が認められました。実損害賠償については、証拠によって裏付けられた金額に減額されました。

    実務への影響と教訓

    ドマンタイ対フィリピン国事件は、刑事訴訟における重要な教訓を数多く提供しています。

    重要なポイント

    • 違法収集証拠排除法則の徹底: 警察官は、逮捕後の被疑者に対する取り調べにおいて、憲法が保障する権利を十分に告知し、権利放棄の手続きを厳格に遵守しなければなりません。違法な手続きで取得された自白は、裁判で証拠として認められず、事件の真相解明を妨げるだけでなく、警察の信用を失墜させることにもつながります。
    • 自白の証拠能力の限界: 自白は重要な証拠となり得ますが、それだけで有罪判決を導くことはできません。自白の信用性を慎重に判断する必要があり、特に、違法な状況下で取得された自白は、証拠能力が厳しく制限されます。自白の裏付けとなる客観的な証拠の収集が不可欠です。
    • 強姦致死罪の立証の困難性: 強姦致死罪で被告人を処罰するためには、強姦と殺人の両方を合理的な疑いを容れない程度に証明する必要があります。性犯罪の立証は、被害者の証言や法医学的な鑑定結果に大きく依存しますが、状況証拠も重要な役割を果たします。
    • 報道機関への自白の取り扱い: 報道機関への自白は、憲法上の権利告知や弁護人の立会いが不要であり、証拠能力が認められる場合があります。しかし、報道機関への自白が、警察などの捜査機関の意図的な誘導によって行われた場合や、被疑者が自由な意思決定ができない状況下で行われた場合には、証拠能力が否定される可能性もあります。

    FAQ

    Q1: 警察官による取り調べで、黙秘権や弁護人選任権を告知されなかった場合、自白は無効になりますか?

    A1: はい、無効になる可能性が高いです。フィリピン憲法第3条第12項は、被疑者には黙秘権と弁護人選任権が保障されており、これらの権利を告知されなかった場合、または権利放棄が書面で行われず、弁護人の面前で行われなかった場合、自白は違法に取得されたものとして、裁判で証拠として認められない可能性が高いです。

    Q2: ラジオ記者への自白は、なぜ証拠として認められたのですか?

    A2: 最高裁判所は、憲法第3条第12項は、国家と個人間の関係を規律するものであり、私人間の関係には適用されないと解釈しました。ラジオ記者は私人に過ぎず、記者によるインタビューは「custodial investigation(拘束下での取り調べ)」には該当しないため、憲法上の権利告知や弁護人の立会いは不要であると判断されました。

    Q3: 処女膜裂傷があれば、必ず強姦があったと認定されるのですか?

    A3: いいえ、必ずしもそうとは限りません。処女膜裂傷は強姦の証明に不可欠なものではなく、裂傷の原因が性行為によるものとは限らないからです。法医学的な鑑定結果は、強姦の有無を判断する上での一つの要素に過ぎず、他の証拠と総合的に判断する必要があります。

    Q4: 強姦致死罪で有罪になるためには、どのような証拠が必要ですか?

    A4: 強姦致死罪で有罪になるためには、強姦と殺人の両方を合理的な疑いを容れない程度に証明する必要があります。強姦については、被害者の証言、法医学的な鑑定結果、状況証拠などが考慮されます。殺人については、死因、凶器、犯行状況などを立証する必要があります。両罪の関連性も証明する必要があります。

    Q5: この判例は、今後の刑事事件にどのような影響を与えますか?

    A5: この判例は、フィリピンの刑事訴訟における違法収集証拠排除法則の適用を明確にした点で、重要な意義を持ちます。警察などの捜査機関は、被疑者の権利保護をより一層徹底する必要があり、違法な捜査手法による証拠収集は厳に慎むべきです。また、裁判所は、自白の証拠能力を厳格に判断し、人権に配慮した公正な裁判を行うことが求められます。

    ASG Lawからのメッセージ

    ドマンタイ対フィリピン国事件は、刑事事件における弁護活動の重要性を改めて示しています。ASG Lawは、刑事事件における豊富な経験と専門知識を有しており、お客様の権利保護のために尽力いたします。刑事事件でお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。

    konnichiwa@asglawpartners.com

    お問い合わせページ



    Source: Supreme Court E-Library
    This page was dynamically generated
    by the E-Library Content Management System (E-LibCMS)