フィリピン最高裁判所の判決から学ぶ主要な教訓
Philippine National Construction Corporation and Atty. Luis F. Sison, Petitioners, vs. National Labor Relations Commission, Elizabeth N. Lopez-de Leon, et al., Respondents. G.R. No. 248401, June 23, 2021
フィリピンで事業を展開する企業や従業員にとって、労働法と行政法の交錯はしばしば複雑な問題を引き起こします。特に、政府が所有または管理する企業(GOCC)においては、その法的地位が労働法の適用に大きな影響を及ぼします。フィリピン国立建設公社(PNCC)に対する2013年の中間ボーナス支給に関する訴訟は、このような法的問題の典型的な例です。この事例では、PNCCが従業員に対して中間ボーナスを支給する義務があるかどうかが争われました。
PNCCは1966年に設立され、当初はフィリピン建設開発公社(CDCP)として知られていました。その後、政府の債務転換によりPNCCに改名され、政府が多数の株式を保有するようになりました。しかし、PNCCがGOCCであるかどうか、またその従業員が労働法の適用を受けるかどうかが問題となりました。
法的背景
フィリピンでは、GOCCは政府が所有または管理する企業を指し、その法的地位は重要です。GOCCには、オリジナルチャーターを持つものと持たないものがあり、前者は公務員法、後者は労働法の適用を受けます。PNCCは、オリジナルチャーターを持たないGOCCであり、したがって労働法の適用を受けるとされています。
オリジナルチャーターとは、国会によって制定された特別な法律によって設立されたGOCCのことです。これに対して、PNCCのように会社法の下で設立されたGOCCはオリジナルチャーターを持たないとされます。フィリピン憲法第IX-B条第2項第1段落は、オリジナルチャーターを持つGOCCのみが公務員法の適用を受けると明記しています。
また、労働法は、従業員の給与や福利厚生に関する規定を含んでおり、非減少条項(Article 100)は、従業員に既に与えられている福利厚生を減少させてはならないと規定しています。しかし、行政法の下では、GOCCの福利厚生は大統領の承認を必要とすることがあります。
具体的な例として、PNCCが従業員に対して20年間中間ボーナスを支給してきた場合、その慣行が労働法の非減少条項に基づいて保護されるかどうかが問題となります。一方で、行政法の下では、GOCCが新たな福利厚生を導入するには大統領の承認が必要です。
この事例に関連する主要な法律として、大統領令第1597号(PD 1597)と共和国法第10149号(RA 10149)があります。PD 1597は、GOCCの給与と職位分類に関する国家計画を規定し、RA 10149は、すべてのGOCCがこの計画に従うことを義務付けています。
事例分析
PNCCは1966年に建設開発公社(CDCP)として設立され、1977年に大統領令第1113号(PD 1113)により、ノースルソンとサウスルソンの有料道路の運営フランチャイズを付与されました。1983年には、大統領令第1894号(PD 1894)によりメトロマニラ高速道路の運営も追加されました。
1983年、フィリピン政府はCDCPの債務を株式に転換し、政府が多数の株式を保有するようになりました。1986年には、政府の民営化プログラムの一環として、フィリピン資産民営化信託(APT)が設立され、PNCCの株式を管理するようになりました。2004年には、PNCCは貿易産業省(DTI)の下に置かれました。
1992年から2012年まで、PNCCは従業員に対して毎年5月15日に中間ボーナスを支給してきました。しかし、2013年にPNCCの社長が中間ボーナスの支給について政府企業法律顧問室(OGCC)に意見を求めたところ、OGCCは大統領の承認が必要であると回答しました。PNCCはガバナンス委員会(GCG)に承認を求めましたが、GCGは法律的に不適切であるとして承認を拒否しました。
この結果、PNCCは2013年の中間ボーナスを支給しないと決定し、従業員は労働仲裁委員会(NLRC)に訴えました。労働仲裁官は、PNCCが非減少条項に違反していると判断し、中間ボーナスの支給を命じました。しかし、PNCCはNLRCに上訴し、NLRCもまたPNCCがGOCCではなく私企業であると判断しました。
PNCCはさらに控訴審に上訴し、控訴審はPNCCがGOCCであると判断しましたが、オリジナルチャーターを持たないGOCCであるため労働法の適用を受けるとしました。しかし、RA 10149の規定により、PNCCは大統領の承認なしに中間ボーナスを支給することはできないと判断しました。
最高裁判所は、PNCCがGOCCであることを確認し、RA 10149の規定に基づいて中間ボーナスの支給を拒否する権利があると判断しました。最高裁判所の推論の一部を以下に引用します:
「PNCCはGOCCであり、その従業員は労働法の適用を受けるが、RA 10149の規定により、大統領の承認なしに中間ボーナスを支給することはできない。」
「PNCCは1992年から2012年まで中間ボーナスを支給してきたが、RA 10149の施行後は大統領の承認が必要であり、その承認が得られなかったため、2013年の中間ボーナスを支給する義務はない。」
実用的な影響
この判決は、フィリピンで事業を展開する企業やGOCCにとって重要な影響を及ぼします。特に、GOCCが従業員に対して新たな福利厚生を導入する場合、大統領の承認が必要であることを明確に示しています。これにより、GOCCは従来の慣行を変更する前に慎重に検討する必要があります。
企業や不動産所有者、個人がこの判決から学ぶべきことは、GOCCの法的地位が労働法の適用に影響を及ぼすことです。特に、オリジナルチャーターを持たないGOCCは労働法の適用を受けるため、従業員との労働条件に関する交渉に注意が必要です。また、福利厚生の導入や変更には行政法の規定に従う必要があります。
主要な教訓
- GOCCの法的地位を明確に理解し、それに基づいて労働法と行政法の適用を判断する
- 従業員に対する福利厚生の導入や変更には、大統領の承認が必要であることを確認する
- 長期間にわたる慣行が労働法の非減少条項に基づいて保護される可能性があることを考慮する
よくある質問
Q: GOCCとは何ですか?
A: GOCCは、政府が所有または管理する企業のことです。フィリピンでは、オリジナルチャーターを持つGOCCと持たないGOCCがあり、それぞれ公務員法と労働法の適用を受けます。
Q: PNCCはGOCCですか?
A: はい、PNCCはGOCCです。しかし、オリジナルチャーターを持たないため、労働法の適用を受けます。
Q: 非減少条項とは何ですか?
A: 非減少条項は、労働法のArticle 100に規定されており、従業員に既に与えられている福利厚生を減少させてはならないと定めています。
Q: PNCCが中間ボーナスを支給しなかった理由は何ですか?
A: PNCCは、大統領の承認を得ることができなかったため、2013年の中間ボーナスを支給しなかったとされています。
Q: この判決は他のGOCCにどのような影響を及ぼしますか?
A: この判決は、他のGOCCが新たな福利厚生を導入する際には大統領の承認が必要であることを明確に示しています。また、オリジナルチャーターを持たないGOCCは労働法の適用を受けるため、従業員との労働条件に関する交渉に注意が必要です。
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