フィリピンの政府機関における給与増加の適法性と返還責任:重要な教訓
Small Business Corporation v. Commission on Audit (G.R. No. 251178, April 27, 2021)
フィリピンで事業を展開する企業にとって、従業員の給与に関する規制は重要な課題です。特に、政府機関や政府系金融機関(GFIs)における給与増加の適法性とその後の返還責任は、企業の財務計画や従業員のモチベーションに大きな影響を与えます。この事例では、Small Business Corporation(SBC)がCommission on Audit(COA)に対して提起した訴訟を通じて、これらの問題が詳細に検討されました。SBCが2012年から2014年にかけて従業員に支払った給与増加が、当時の大統領令(EO)No. 7に違反しているとしてCOAに取り消され、返還を求められた事件です。この事例を通じて、フィリピンの政府機関における給与管理の重要性と、適切な手続きを遵守しないことのリスクが明らかになりました。
法的背景
フィリピンでは、政府機関やGFIsの給与管理は厳格に規制されています。特に、大統領令(EO)No. 7は、政府所有および管理企業(GOCCs)やGFIsの給与増加に対するモラトリアムを課しています。この規制は、過度な給与や手当の支給を防ぐために設けられました。EO No. 7の第9条では、「給与率の増加、および手当、インセンティブ、その他の利益の新たな増加の付与に対するモラトリアムが、大統領が特に承認するまで課される」と明記されています。
また、フィリピンでは、政府機関の給与構造は通常、給与標準化法(Salary Standardization Law)に基づいて設定されますが、特定の機関はこの法から免除されることがあります。しかし、免除された場合でも、給与増加は大統領の承認が必要です。例えば、SBCはRA 6977に基づいて独自の給与構造を設定する権限を持っていましたが、EO No. 7のモラトリアムが適用されると、その権限も制限されました。
このような規制は、政府の財政健全性を保つための重要な手段です。例えば、ある地方自治体が新たなプロジェクトを始めるために追加の予算が必要な場合、給与増加のモラトリアムが適用されると、その予算を確保するための他の方法を検討しなければなりません。
事例分析
SBCは2009年に組織構造と給与構造の改定を承認し、これを2010年にDTI(Department of Trade and Industry)Secretaryの承認を得ました。しかし、2010年9月にEO No. 7が発効し、給与増加に対するモラトリアムが課せられました。それにもかかわらず、SBCは2011年に給与構造の運用に関するガイドラインを発行し、2012年から2014年にかけて従業員に給与増加を支給しました。
これに対し、COAは2014年に6つの不許可通知(Notice of Disallowance)を発行し、合計4,489,002.09ペソの給与増加を違法としました。SBCはこれに異議を唱え、COA Cluster Directorに控訴しましたが、2015年に否決されました。その後、COA Properに提訴し、2017年にも否決されました。
最高裁判所は、SBCの給与増加がEO No. 7に違反していると判断しました。裁判所は、「給与増加の実際の支給日が重要であり、GOCC/GFIの給与構造が承認された日とは無関係である」と述べています(SBC v. COA, G.R. No. 230628, October 2017)。また、承認・認証官が悪意または重大な過失で行動した場合、返還責任が発生するとされました(Administrative Code of 1987, Sections 38 and 43)。
具体的には、以下の手順が重要でした:
- 2009年:SBCが組織構造と給与構造の改定を承認
- 2010年:DTI Secretaryの承認を得る
- 2010年9月:EO No. 7が発効し、給与増加に対するモラトリアムが課される
- 2011年:SBCが給与構造の運用に関するガイドラインを発行
- 2012年-2014年:SBCが従業員に給与増加を支給
- 2014年:COAが不許可通知を発行
- 2015年:COA Cluster Directorが控訴を否決
- 2017年:COA Properが控訴を否決
- 2021年:最高裁判所がCOAの決定を支持
実用的な影響
この判決は、政府機関やGFIsが給与増加を実施する際の重要なガイドラインとなります。特に、EO No. 7のようなモラトリアムが適用される場合、事前に大統領の承認を得ることが不可欠です。この事例は、適切な手続きを遵守しないことのリスクを示しており、企業は給与管理に関する規制を厳格に遵守する必要があります。
企業や不動産所有者、個人のための実用的なアドバイスとしては、以下の点が挙げられます:
- 政府機関やGFIsの給与増加に関する規制を常に確認し、適切な承認を得ること
- 給与構造の変更や増加を計画する際には、法律顧問に相談し、適法性を確認すること
- 不許可通知を受けた場合、迅速に法的対応を検討し、必要に応じて控訴すること
主要な教訓
- 政府機関やGFIsの給与増加は、モラトリアムが適用される場合、大統領の承認が必要です
- 適切な手続きを遵守しないと、給与増加が取り消され、返還を求められる可能性があります
- 承認・認証官は、悪意または重大な過失がある場合、返還責任を負うことがあります
よくある質問
Q: 政府機関やGFIsの給与増加はいつ承認が必要ですか?
EO No. 7のようなモラトリアムが適用される場合、給与増加は大統領の承認が必要です。
Q: 給与増加が不許可通知を受けた場合、どのような対応が必要ですか?
不許可通知を受けた場合、迅速に法的対応を検討し、必要に応じて控訴することが重要です。
Q: 承認・認証官が返還責任を負う条件は何ですか?
承認・認証官が悪意または重大な過失で行動した場合、返還責任を負う可能性があります(Administrative Code of 1987, Sections 38 and 43)。
Q: フィリピンの給与標準化法とは何ですか?
給与標準化法は、政府機関の給与構造を規制する法律で、特定の機関はこの法から免除されることがありますが、給与増加は大統領の承認が必要です。
Q: 日本企業がフィリピンで給与管理を行う際の注意点は何ですか?
日本企業は、フィリピンの給与管理に関する規制を厳格に遵守し、特に政府機関やGFIsとの取引がある場合には、適切な承認を得ることが重要です。また、法律顧問に相談し、適法性を確認することが推奨されます。
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