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  • フィリピンの不渡り小切手法(BP 22)における証拠: 銀行担当者の証言は必須ではない

    不渡り小切手法(BP 22)訴訟において、被害者の証言のみで有罪判決が下される場合

    G.R. No. 129774, 1998年12月29日

    フィリピンでは、不渡り小切手(Bouncing Checks)は、企業経営者や個人にとって深刻な法的問題を引き起こす可能性があります。ビジネス取引、賃貸料の支払い、その他の金融取引において、小切手は依然として一般的な決済手段です。しかし、資金不足により小切手が不渡りとなった場合、Batas Pambansa Bilang 22(BP 22)、通称「不渡り小切手法」に基づく刑事責任を問われる可能性があります。

    本稿では、フィリピン最高裁判所のナルシソ・A・タデオ対フィリピン国事件(Narciso A. Tadeo v. People of the Philippines, G.R. No. 129774)を分析し、BP 22違反の訴訟における重要な教訓を解説します。この判決は、不渡り小切手法違反事件において、検察側が銀行担当者の証言を必須としないことを明確にしました。被害者の証言と不渡りとなった小切手自体が、有罪判決を支持するのに十分な証拠となり得るのです。

    不渡り小切手法(BP 22)とその法的背景

    BP 22は、資金不足または口座閉鎖を理由に不渡りとなった小切手の発行を犯罪とする法律です。この法律の目的は、小切手の信頼性を維持し、金融取引における信用を保護することです。BP 22違反で有罪となると、罰金、禁固刑、またはその両方が科せられる可能性があります。

    BP 22第1条は、罪となる行為を次のように定義しています。

    「自己の当座預金口座または自己の資金により支払われる小切手を作成、発行、または振出し、支払期日に呈示されたにもかかわらず、振出人が銀行に十分な資金を預けていないか、または他の理由で銀行のせいではないにもかかわらず、銀行が支払いを拒否した場合、および振出人が小切手の不払い通知を受け取ってから5営業日以内に受取人に小切手の金額を全額支払わなかった場合。」

    この条項から、BP 22違反が成立するためには、以下の要素が満たされる必要があることがわかります。

    1. 小切手の作成、発行、または振出し
    2. 小切手の呈示
    3. 資金不足または口座閉鎖による不渡り
    4. 不渡り通知の受領
    5. 不渡り通知受領後5営業日以内の支払い不履行

    タデオ事件以前は、特に3番目の要素である「資金不足または口座閉鎖による不渡り」の証明方法について議論がありました。被告側は、銀行担当者の証言が不可欠であると主張することが一般的でした。しかし、タデオ事件は、この点に関する最高裁判所の見解を明確にしました。

    タデオ事件の事実と裁判所の判断

    タデオ事件では、原告のルズ・M・シソンが所有するアパートの賃貸料の滞納をめぐり、被告のナルシソ・A・タデオが8枚の不渡り小切手を振り出したことが発端となりました。小切手はすべて資金不足を理由に不渡りとなり、シソンはタデオをBP 22違反で告訴しました。

    第一審裁判所は、タデオの証拠不十分による棄却請求(Demurrer to Evidence)を認めず、控訴裁判所もこれを支持しました。タデオは、最高裁判所に上訴しました。タデオの主な主張は、検察側が銀行担当者を証人として提出せず、小切手の不渡りを証明していないため、有罪とするには証拠が不十分であるというものでした。

    しかし、最高裁判所はタデオの主張を退け、控訴裁判所の判決を支持しました。最高裁判所は、判決の中で次のように述べています。

    「検察官が、資金不足による小切手の不渡りについて証言するために、銀行の担当者を証人として提出することは、必須でもなければ、ましてや不可欠でもない。」

    裁判所は、原告であるシソン自身の証言が、BP 22違反のすべての要素を証明するのに十分であると判断しました。シソンは、小切手を銀行に預金したこと、銀行から不渡りとなった小切手を受け取ったこと、小切手に「資金不足」と記載されていたこと、そしてタデオが不渡り通知を受け取ってから5営業日以内に支払いをしなかったことを証言しました。

    最高裁判所は、不渡りとなった小切手自体に銀行の「資金不足」のスタンプまたは記載がある場合、または不渡り通知が添付されている場合、それ自体が不渡りの証拠となるとしました。そして、そのような証拠があれば、振出人は資金不足を認識していたという推定が成立するとしました。この推定は反証可能ですが、反証がない限り、検察側はこの推定に依拠して有罪を立証できるのです。

    さらに、裁判所は、タデオが第一審裁判所に証拠不十分による棄却請求を提出する際に、裁判所の許可を得ていなかったことを指摘しました。フィリピンの刑事訴訟法では、被告が証拠不十分による棄却請求を提出する際に裁判所の許可を得ていない場合、弁護側の証拠を提出する権利を失います。

    実務上の影響と教訓

    タデオ事件の判決は、BP 22違反訴訟における証拠の要件に関する重要な先例となりました。この判決により、検察側は、銀行担当者の証言を得ることなく、被害者の証言と不渡り小切手のみで、より効率的にBP 22違反を立証できるようになりました。これは、被害者にとって訴訟手続きの負担を軽減し、迅速な正義の実現に貢献する可能性があります。

    一方、小切手振出人にとっては、より厳格な注意義務が求められることになります。小切手を振り出す際には、口座に十分な資金があることを常に確認し、不渡りを避けるための対策を講じる必要があります。また、万が一、不渡りが発生した場合でも、速やかに被害者と連絡を取り、誠実な対応をすることが、刑事責任を回避するための重要なポイントとなります。

    主な教訓

    • BP 22違反訴訟において、銀行担当者の証言は必須ではない。被害者の証言と不渡り小切手自体が証拠となり得る。
    • 不渡り小切手に「資金不足」の記載があれば、振出人は資金不足を認識していたという推定が成立する。
    • 小切手振出人は、口座残高を常に確認し、不渡りを避けるための対策を講じるべきである。
    • 万が一、不渡りが発生した場合は、速やかに被害者と連絡を取り、誠実な対応をすることが重要である。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: BP 22違反で告訴された場合、弁護士に依頼する必要がありますか?

    A1: はい、BP 22違反は刑事犯罪であり、有罪となると罰金や禁固刑が科せられる可能性があります。早期に弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受けることを強くお勧めします。

    Q2: 不渡り小切手の金額が少額でもBP 22違反になりますか?

    A2: はい、BP 22は小切手の金額に関わらず適用されます。少額であっても、不渡りとなった場合はBP 22違反となる可能性があります。

    Q3: 知らずに資金不足の小切手を振り出してしまった場合でも有罪になりますか?

    A3: BP 22は、「故意」を要求していませんが、「認識」を要素としています。資金不足を認識していなかったことを立証できれば、有罪を免れる可能性がありますが、立証は容易ではありません。弁護士にご相談ください。

    Q4: 不渡り通知を受け取ってから5営業日以内に支払えば、刑事責任を回避できますか?

    A4: はい、BP 22は、不渡り通知を受け取ってから5営業日以内に支払えば、刑事責任を問わないとしています。ただし、これは刑事責任のみを回避するものであり、民事上の責任(利息、損害賠償など)は別途発生する可能性があります。

    Q5: 民事訴訟と刑事訴訟の違いは何ですか?

    A5: 民事訴訟は、個人間の権利や義務に関する紛争を解決するための手続きです。一方、刑事訴訟は、法律違反行為(犯罪)に対する責任を追及するための手続きです。BP 22違反は刑事犯罪であり、刑事訴訟の対象となります。

    ASG Lawは、フィリピン法、特に不渡り小切手法(BP 22)に関する豊富な経験と専門知識を有する法律事務所です。BP 22違反に関するご相談、訴訟対応、予防策など、お気軽にお問い合わせください。初回のご相談は無料です。専門弁護士がお客様の状況を詳しくお伺いし、最適な法的アドバイスを提供いたします。

    メールでのお問い合わせはkonnichiwa@asglawpartners.comまで。 お問い合わせページからもご連絡いただけます。ASG Lawは、マカティ、BGC、フィリピン全土のお客様をサポートいたします。



    Source: Supreme Court E-Library
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  • 小切手法違反における刑事責任の免除:パートナーシップ解消時の小切手発行の法的解釈

    不渡り小切手発行でも刑事責任を免れるケース:ビジネスパートナーシップ解消時の法的考察

    G.R. No. 110782, 1998年9月25日 – イルマ・イドス対控訴裁判所およびフィリピン国民

    はじめに

    ビジネスの世界では、小切手は日常的な支払手段ですが、その発行には法的責任が伴います。特に、不渡りとなった場合、小切手法(Batas Pambansa Blg. 22、以下BP 22)違反として刑事責任を問われる可能性があります。しかし、最高裁判所のイルマ・イドス対控訴裁判所事件は、BP 22の適用には例外があることを示唆しています。本稿では、この判例を基に、どのような場合に不渡り小切手発行の刑事責任が免除されるのか、特にビジネスパートナーシップ解消の文脈における法的解釈を詳しく解説します。

    法的背景:不渡り小切手法(BP 22)とは

    BP 22は、不渡り小切手の発行を犯罪とする法律です。これは、小切手制度の信頼性を維持し、経済取引の円滑化を図ることを目的としています。BP 22の第1条は、資金不足を知りながら、または資金不足となることを知りながら、支払いのため、または価値のために小切手を振り出し、その小切手が不渡りとなった場合、発行者を処罰すると規定しています。重要なのは、BP 22が「悪意」や「詐欺の意図」を必要とせず、単に不渡り小切手を発行する行為自体を犯罪とする点です(最判例では「malum prohibitum」と表現されます)。

    BP 22 第1条(抜粋):

    「十分な資金のない小切手。何人も、支払いのためまたは価値のために小切手を振り出し、発行時にその小切手の全額支払いのために支払銀行に十分な資金または信用がないことを知りながら、当該小切手を振り出し、発行し、その後、資金不足または信用不足のために支払銀行によって不渡りとなる、または、正当な理由なく振出人が銀行に支払停止を命じていなかったならば同じ理由で不渡りとなっていたであろう小切手を発行した者は、30日以上1年以下の懲役、または小切手金額の2倍以下の罰金(ただし、罰金は20万ペソを超えないものとする)、またはその両方を科すものとする。」

    しかし、BP 22の適用は絶対的なものではありません。最高裁判所は、BP 22の厳格な適用が不合理な結果を招く場合、その適用を制限する解釈を示しています。イルマ・イドス事件は、まさにその例外を認めた判例と言えるでしょう。

    事件の概要:イルマ・イドス対控訴裁判所事件

    イルマ・イドス氏は、皮革製造業を営む実業家であり、エディ・アラリラ氏は、イドス氏の以前の供給業者でありビジネスパートナーでした。アラリラ氏は、イドス氏をBP 22違反で訴えました。事件の背景は、イドス氏とアラリラ氏が設立したパートナーシップ「タグンパイ・マニュファクチャリング」の解消に遡ります。パートナーシップ解消時、アラリラ氏の取り分として、イドス氏は合計90万ペソ相当の4枚の小切手をアラリラ氏に振り出しました。そのうち3枚は問題なく換金されましたが、4枚目の小切手(本件の対象)が資金不足で不渡りとなりました。

    アラリラ氏はイドス氏に支払いを求めましたが、イドス氏は支払いを拒否。その後、アラリラ氏はBP 22違反として刑事告訴しました。イドス氏は、小切手はパートナーシップの資産からの支払いを意図したものであり、即時の支払い義務を負うものではないと主張しました。第一審の地方裁判所はイドス氏を有罪としましたが、控訴裁判所もこれを支持しました。イドス氏は最高裁判所に上訴しました。

    最高裁判所の判断:BP 22違反は成立せず

    最高裁判所は、控訴裁判所の判決を破棄し、イドス氏を無罪としました。その主な理由は以下の3点です。

    1. 「価値のため」の小切手ではない:裁判所は、問題の小切手が、BP 22が対象とする「価値のため」または「勘定のため」に発行されたものではないと判断しました。小切手は、パートナーシップ解消時のアラリラ氏の取り分を示すものであり、即時の債務の支払いとして発行されたものではありませんでした。資金源は、パートナーシップの未売却在庫や未回収債権の回収に依存しており、発行時点では確定していませんでした。
    2. 資金不足の認識の欠如:BP 22違反が成立するためには、発行者が小切手発行時に資金不足を知っていたことが要件となります。最高裁判所は、検察側がイドス氏が資金不足を認識していたことを証明できなかったと指摘しました。小切手が不渡りになったことは、資金不足の「推定」を生じさせますが、これは反証可能です。イドス氏は、パートナーシップの資産売却と債権回収によって資金を確保する意図であり、意図的に不渡り小切手を発行したわけではないと解釈されました。
    3. 不渡り通知の欠如:BP 22の第2条は、不渡り通知を受け取ってから5営業日以内に支払いまたは支払い Arrangements が行われなかった場合、資金不足の認識の「推定」が成立すると規定しています。本件では、イドス氏に不渡り通知が適切に送達された証拠がありませんでした。この点も、BP 22違反の成立を否定する重要な要素となりました。

    最高裁判所は、判決の中で以下の重要な点を強調しました。

    「刑罰法規であるBP 22は、被告人の権利を慎重に保護するように厳格に解釈されなければならない。」

    「(BP 22の)目的は、銀行システムと正当な公共小切手口座利用者の利益を保護するために考案されたものである。…善良な実業家を犠牲にして、一攫千金を狙ったような取引で自らを豊かにするシステム利用者を保護したり、優遇したり、奨励したりすることを意図したものではない。」

    実務上の教訓と影響

    イルマ・イドス事件は、BP 22の適用範囲に関する重要な判例です。特に、ビジネスパートナーシップの解消や、将来の収入に依存する支払いの場合、小切手発行が必ずしもBP 22違反となるわけではないことを明確にしました。この判例から得られる実務上の教訓は以下の通りです。

    重要な教訓

    • 小切手の目的を明確にする:ビジネス取引において小切手を発行する際、その目的(即時支払い、将来の支払い、保証など)を明確にすることが重要です。特に、将来の収入に依存する支払いの場合、小切手にその旨を明記するなどの対策を講じるべきです。
    • 資金計画を慎重に行う:小切手発行前に、十分な資金があるか、または確実に入金される見込みがあるかを確認することが不可欠です。資金不足が予想される場合は、小切手発行を避ける、または受取人と支払い条件について協議するなどの対応が必要です。
    • 不渡り通知への適切な対応:万が一、小切手が不渡りとなった場合は、速やかに受取人に連絡し、支払いまたは支払い Arrangements について協議することが重要です。BP 22の刑事責任を回避するためには、不渡り通知を受け取ってから5営業日以内の対応が求められます。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: BP 22違反で有罪になると、どのような刑罰が科せられますか?

    A1: BP 22違反の場合、30日以上1年以下の懲役、または小切手金額の2倍以下の罰金(ただし、罰金は20万ペソを超えないものとする)、またはその両方が科せられる可能性があります。

    Q2: パートナーシップ解消時に発行した小切手は、常にBP 22の対象外となりますか?

    A2: いいえ、常にそうとは限りません。イルマ・イドス事件は、特定の状況下での例外を認めたものです。小切手の目的、資金源、発行者の認識、不渡り通知の有無など、様々な要素が総合的に判断されます。

    Q3: 不渡り通知はどのように送られるのが適切ですか?

    A3: BP 22は、不渡り通知の方法について明確な規定はありませんが、通常は書面による通知が推奨されます。配達証明付き郵便など、送達の記録が残る方法が望ましいでしょう。

    Q4: 口頭で資金不足を伝えていた場合、BP 22違反を免れることができますか?

    A4: イルマ・イドス事件では、イドス氏がアラリラ氏に資金不足の可能性を伝えていたことが、BP 22違反を否定する根拠の一つとなりました。しかし、口頭での伝達だけでは証拠として不十分な場合もあります。書面での記録を残すことが望ましいでしょう。

    Q5: 民事的な和解が成立した場合、刑事責任は免除されますか?

    A5: 民事的な和解は、刑事責任の判断に影響を与える可能性があります。イルマ・イドス事件でも、民事的な和解が成立したことが、最高裁判所の判断に影響を与えた可能性があります。しかし、民事的な和解が成立した場合でも、検察官の判断や裁判所の裁量により、刑事訴追が継続される可能性はあります。

    不渡り小切手法(BP 22)に関するご相談は、ASG Lawにお任せください。当事務所は、複雑な法律問題を分かりやすく解説し、お客様のビジネスを強力にサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。

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  • フィリピンの小切手不渡り法:刑罰と弁済義務の明確化

    不渡り小切手発行に対する刑事責任と民事責任の区別

    G.R. No. 117488, September 05, 1996

    フィリピンのビジネス界において、小切手は日常的な取引手段として広く利用されています。しかし、不渡り小切手が発生した場合、その法的責任は複雑であり、多くの誤解が存在します。本稿では、不渡り小切手問題に関する最高裁判所の判例、SANTIAGO IBASCO対控訴裁判所およびフィリピン国事件(G.R. No. 117488)を詳細に分析し、不渡り小切手発行に対する刑事責任と民事責任の区別、およびその法的影響について解説します。

    不渡り小切手に関する法律の背景

    フィリピンには、不渡り小切手の発行を犯罪として処罰する「不渡り小切手法(Batas Pambansa Blg. 22)」が存在します。この法律は、小切手が不渡りになった場合、発行者がその事実を知っていたかどうかに関わらず、刑事責任を問うことができるという点で、他の多くの国とは異なります。不渡り小切手法は、以下の条項を含んでいます。

    「何人も、対価を支払う目的で、または口座に適用するために小切手を作成、振出し、または発行し、かつ、振出し時に十分な資金がないことを知りながら、または引受銀行に十分な資金または信用があるにもかかわらず、その小切手の全額を支払うのに十分な資金を維持しない場合、または信用を維持しない場合、その小切手が振出日から90日以内に提示された場合、引受銀行によって不渡りとなった場合、違反行為となる。」

    この法律の目的は、不渡り小切手の流通を防止し、銀行システムへの信頼を維持することにあります。しかし、この法律が適用される範囲は広く、意図しない違反者も処罰される可能性があるため、注意が必要です。

    SANTIAGO IBASCO対控訴裁判所事件の概要

    本件は、SANTIAGO IBASCOが、飼料の購入代金としてMANUEL TRIVINIOに振り出した3通の小切手が不渡りとなったことが発端です。IBASCOは、小切手発行時に十分な資金がなかったことを認識していたとされ、不渡り小切手法違反で起訴されました。地方裁判所はIBASCOを有罪と判決し、控訴裁判所もこれを支持しました。IBASCOは、最高裁判所に対して上訴しましたが、最高裁は下級審の判決を支持し、IBASCOの有罪判決を確定しました。

    事件の経緯は以下の通りです:

    • IBASCOは、TRIVINIOから飼料を購入する際に、3通の小切手を振り出しました。
    • これらの小切手は、いずれも資金不足を理由に不渡りとなりました。
    • TRIVINIOはIBASCOに対して、小切手の不渡りを通知しましたが、IBASCOは必要な金額を入金しませんでした。
    • TRIVINIOはIBASCOを不渡り小切手法違反で告訴しました。
    • 地方裁判所はIBASCOを有罪と判決し、控訴裁判所もこれを支持しました。
    • 最高裁判所は、IBASCOの上訴を棄却し、有罪判決を確定しました。

    裁判所は、IBASCOが小切手を発行した場所がケソン州グマカであると認定しました。これは、裁判所の管轄権を判断する上で重要な要素となりました。また、裁判所は、IBASCOが小切手を保証として発行したという主張を退け、小切手が支払いとして発行されたと判断しました。

    最高裁は判決の中で、以下の点を強調しました:

    「不渡り小切手法の違反は、継続的な犯罪の性質を持つ。裁判所は、小切手の作成、振出し、または発行、およびその引渡しの要素がコミットされた場所によって決定される。」

    「小切手の振出人が、小切手の振出し時に十分な資金がないことを知っていたという事実は、小切手が不渡りになったという事実から法的に推定される。」

    本判決の法的影響と実務上の注意点

    本判決は、不渡り小切手法が厳格に適用されることを改めて確認したものです。企業や個人は、小切手を発行する際には、常に十分な資金があることを確認する必要があります。また、小切手を保証として発行する場合には、その法的リスクを十分に理解しておく必要があります。

    本判決から得られる教訓は以下の通りです:

    • 小切手を発行する際には、常に口座に十分な資金があることを確認する。
    • 小切手を保証として発行する場合には、その法的リスクを十分に理解する。
    • 不渡り小切手が発生した場合には、速やかに弁済する。

    よくある質問(FAQ)

    以下に、不渡り小切手問題に関するよくある質問とその回答をまとめました。

    Q: 不渡り小切手を発行した場合、どのような法的責任を負いますか?

    A: 不渡り小切手法違反として刑事責任を問われる可能性があります。また、民事上の損害賠償責任も負う可能性があります。

    Q: 小切手を保証として発行した場合でも、不渡り小切手法は適用されますか?

    A: はい、適用される可能性があります。裁判所は、小切手が支払いとして発行されたか、保証として発行されたかに関わらず、不渡り小切手法の適用を判断します。

    Q: 不渡り小切手が発生した場合、どのように対処すればよいですか?

    A: 速やかに弁済することが重要です。また、弁護士に相談し、法的アドバイスを受けることをお勧めします。

    Q: 不渡り小切手法違反で起訴された場合、どのような弁護戦略がありますか?

    A: 弁護戦略は、個々のケースによって異なりますが、例えば、小切手発行時に十分な資金があったこと、または小切手が保証として発行されたことを主張することが考えられます。

    Q: 不渡り小切手問題で訴訟を起こされた場合、どのような証拠が必要ですか?

    A: 小切手のコピー、銀行の取引明細書、および関連する契約書などの証拠が必要となる場合があります。

    不渡り小切手問題は複雑であり、法的専門家のアドバイスが不可欠です。ASG Lawは、不渡り小切手問題に関する豊富な経験と専門知識を有しており、お客様の法的ニーズに最適なソリューションを提供します。お気軽にご相談ください。

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  • 不渡り小切手法(BP 22)違反:会社役員の責任と実務上の注意点

    不渡り小切手の発行は犯罪:取締役も責任を負う事例

    G.R. No. 99032, 1997年3月26日

    フィリピンの不渡り小切手法(Batas Pambansa Blg. 22、通称BP 22)は、正当な理由なく不渡りとなる小切手を発行する行為を犯罪としています。本件、リカルド・A・リャマド対控訴裁判所及びフィリピン国人民(Ricardo A. Llamado vs. Court of Appeals and People of the Philippines)判決は、会社 treasurer(財務担当役員) が会社の小切手に署名した場合、たとえ自身が取引に直接関与していなくても、BP 22違反の責任を個人として負う可能性があることを明確にしました。本稿では、この最高裁判所の判決を詳細に分析し、企業及び個人の実務に与える影響について解説します。

    不渡り小切手法(BP 22)とは?

    BP 22は、ビジネスにおける小切手の信頼性を維持し、不渡り小切手の発行を抑制するために制定された法律です。同法第1条には、以下の重要な規定があります。

    「資金不足または預金口座閉鎖を理由に支払いが拒絶された小切手を作成、発行、または振り出した者は、当該小切手の作成または振り出しの理由を知っていたか否かにかかわらず、この法律に基づく責任を負う。」

    この条文が示すように、BP 22は、小切手が不渡りになった時点で、発行者に犯罪責任を問う、いわゆる厳格責任主義を採用しています。重要なのは、不渡りの原因が資金不足だけでなく、「支払停止」も含まれる点です。また、同法は、法人名義の小切手の場合の責任についても規定しています。

    「小切手が会社、団体、または事業体によって振り出された場合、当該振出人のために実際に小切手に署名した個人または人々は、本法に基づき責任を負う。」

    この規定により、会社等の代表者や役員が署名した小切手が不渡りとなった場合、署名者個人も刑事責任を負う可能性があることが明確になります。過去の最高裁判例では、Lozano vs. Martinez (G.R. No. 63419, 1986年12月18日) などで、BP 22の合憲性と厳格責任主義が確立されています。

    リャマド事件の経緯

    リカルド・A・リャマド氏は、パン・アジア・ファイナンス・コーポレーション(Pan Asia Finance Corporation)の treasurer でした。レオン・ゴー氏(Leon Gaw)は、同社に18万ペソを投資しました。その際、リャマド氏と社長のハシント・パスクアル氏(Jacinto Pascual)は、投資元利金18万6,500ペソを支払う小切手をゴー氏に交付しました。この小切手は、リャマド氏とパスクアル氏が署名したものでした。

    しかし、期日到来後、ゴー氏が小切手を銀行に持ち込んだところ、支払停止と資金不足を理由に不渡りとなりました。ゴー氏はリャマド氏に不渡りを通知しましたが、支払いは行われず、最終的にBP 22違反で刑事告訴されました。

    一審の地方裁判所はリャマド氏を有罪とし、控訴裁判所も一審判決を支持しました。リャマド氏は最高裁判所に上告しましたが、最高裁も控訴審判決を支持し、リャマド氏の有罪が確定しました。

    リャマド氏の主な主張は以下の通りでした。

    • 小切手は投資が成功した場合の条件付きの支払いであり、「対価」のためのものではない。
    • 自身は小切手に署名しただけで、取引に直接関与していない。
    • 不渡り後に支払い条件を変更する合意(更改)が成立しており、BP 22違反は成立しない。
    • 小切手は会社名義であり、個人として責任を負うべきではない。

    しかし、最高裁判所はこれらの主張を全て退けました。判決の中で、最高裁は以下の点を強調しました。

    「知識は立証が困難な心の状態を伴う。したがって、法規自体が推定を創設する。すなわち、振出人は、小切手の振出時および支払呈示時に、銀行の資金または信用が不足していることを知っていたという推定である。」

    リャマド氏は、不渡り通知後5銀行日以内に支払いを行わず、この推定を覆すことができませんでした。また、最高裁は、リャマド氏が小切手に署名した treasurer という役職、および取引の経緯から、彼が取引に関与していなかったという主張を認めませんでした。

    「法律が処罰するのは、不渡り小切手の発行であり、発行目的や発行条件ではない。価値のない小切手を発行する行為そのものが違法行為(malum prohibitum)である。」

    さらに、最高裁は、支払い条件の変更に関する合意は、実際には履行されておらず、単にゴー氏の告訴を遅らせるための空約束に過ぎなかったと判断し、更改の成立を認めませんでした。そして、BP 22の条文を引用し、会社名義の小切手に署名したリャマド氏個人が責任を負うことを改めて確認しました。

    実務上の影響と教訓

    本判決は、企業、特に役員にとって、不渡り小切手問題に関する重要な教訓を与えてくれます。

    企業への影響

    企業は、小切手の管理体制を強化する必要があります。特に、役員が blank check(白地小切手)に署名する慣行は、本判決が示すように、大きなリスクを伴います。小切手の発行と管理に関する内部統制を確立し、不渡り小切手が発生しないように努めるべきです。

    役員への影響

    役員は、会社名義の小切手に署名する際には、その責任の重さを十分に認識する必要があります。たとえ自身が取引に直接関与していなくても、署名者としてBP 22違反の責任を問われる可能性があります。特に treasurer などの財務担当役員は、小切手の資金状況を常に把握し、不渡りが発生しないように注意しなければなりません。

    重要な教訓

    • 小切手の安易な発行は厳禁: 特に blank check への署名は避けるべきです。
    • 資金管理の徹底: 小切手発行前に、口座残高を必ず確認しましょう。
    • 役員の責任: 会社名義の小切手に署名する役員も、個人として責任を負う可能性があります。
    • 不渡り発生時の対応: 不渡り通知を受けたら、速やかに支払いを済ませることが重要です。
    • 安易な合意は危険: 口約束や履行されない合意は、法的責任を免れる理由にはなりません。

    よくある質問(FAQ)

    Q1. BP 22違反で逮捕されることはありますか?

    A1. はい、BP 22違反は犯罪であり、逮捕・起訴される可能性があります。有罪判決を受けた場合、懲役刑や罰金刑が科せられることがあります。

    Q2. 会社が倒産した場合、役員個人がBP 22の責任を負いますか?

    A2. はい、会社が倒産した場合でも、小切手に署名した役員個人の責任は免れません。BP 22は署名者個人に責任を問う法律です。

    Q3. 不渡りになった小切手を後日現金で支払えば、罪は問われませんか?

    A3. いいえ、BP 22は小切手発行時に犯罪が成立するため、後日支払っても、遡って罪がなくなるわけではありません。ただし、支払いが済んでいる事実は、量刑判断において考慮される可能性があります。

    Q4. 投資の保証として小切手を振り出した場合もBP 22違反になりますか?

    A4. はい、投資の保証として振り出した小切手であっても、不渡りになればBP 22違反となる可能性があります。小切手の発行目的は、BP 22の成否には影響しません。

    Q5. どのような場合に「支払停止」となりますか?

    A5. 支払停止は、例えば、小切手の振出人が銀行に支払いをしないよう依頼した場合や、口座が凍結された場合などに発生します。

    不渡り小切手問題は、企業経営における重大なリスクの一つです。ASG Law は、フィリピン法務に精通した専門家が、BP 22に関するご相談から訴訟対応まで、幅広くサポートいたします。お困りの際は、お気軽にご連絡ください。

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