不渡り小切手法(BP 22)訴訟において、被害者の証言のみで有罪判決が下される場合
G.R. No. 129774, 1998年12月29日
フィリピンでは、不渡り小切手(Bouncing Checks)は、企業経営者や個人にとって深刻な法的問題を引き起こす可能性があります。ビジネス取引、賃貸料の支払い、その他の金融取引において、小切手は依然として一般的な決済手段です。しかし、資金不足により小切手が不渡りとなった場合、Batas Pambansa Bilang 22(BP 22)、通称「不渡り小切手法」に基づく刑事責任を問われる可能性があります。
本稿では、フィリピン最高裁判所のナルシソ・A・タデオ対フィリピン国事件(Narciso A. Tadeo v. People of the Philippines, G.R. No. 129774)を分析し、BP 22違反の訴訟における重要な教訓を解説します。この判決は、不渡り小切手法違反事件において、検察側が銀行担当者の証言を必須としないことを明確にしました。被害者の証言と不渡りとなった小切手自体が、有罪判決を支持するのに十分な証拠となり得るのです。
不渡り小切手法(BP 22)とその法的背景
BP 22は、資金不足または口座閉鎖を理由に不渡りとなった小切手の発行を犯罪とする法律です。この法律の目的は、小切手の信頼性を維持し、金融取引における信用を保護することです。BP 22違反で有罪となると、罰金、禁固刑、またはその両方が科せられる可能性があります。
BP 22第1条は、罪となる行為を次のように定義しています。
「自己の当座預金口座または自己の資金により支払われる小切手を作成、発行、または振出し、支払期日に呈示されたにもかかわらず、振出人が銀行に十分な資金を預けていないか、または他の理由で銀行のせいではないにもかかわらず、銀行が支払いを拒否した場合、および振出人が小切手の不払い通知を受け取ってから5営業日以内に受取人に小切手の金額を全額支払わなかった場合。」
この条項から、BP 22違反が成立するためには、以下の要素が満たされる必要があることがわかります。
- 小切手の作成、発行、または振出し
- 小切手の呈示
- 資金不足または口座閉鎖による不渡り
- 不渡り通知の受領
- 不渡り通知受領後5営業日以内の支払い不履行
タデオ事件以前は、特に3番目の要素である「資金不足または口座閉鎖による不渡り」の証明方法について議論がありました。被告側は、銀行担当者の証言が不可欠であると主張することが一般的でした。しかし、タデオ事件は、この点に関する最高裁判所の見解を明確にしました。
タデオ事件の事実と裁判所の判断
タデオ事件では、原告のルズ・M・シソンが所有するアパートの賃貸料の滞納をめぐり、被告のナルシソ・A・タデオが8枚の不渡り小切手を振り出したことが発端となりました。小切手はすべて資金不足を理由に不渡りとなり、シソンはタデオをBP 22違反で告訴しました。
第一審裁判所は、タデオの証拠不十分による棄却請求(Demurrer to Evidence)を認めず、控訴裁判所もこれを支持しました。タデオは、最高裁判所に上訴しました。タデオの主な主張は、検察側が銀行担当者を証人として提出せず、小切手の不渡りを証明していないため、有罪とするには証拠が不十分であるというものでした。
しかし、最高裁判所はタデオの主張を退け、控訴裁判所の判決を支持しました。最高裁判所は、判決の中で次のように述べています。
「検察官が、資金不足による小切手の不渡りについて証言するために、銀行の担当者を証人として提出することは、必須でもなければ、ましてや不可欠でもない。」
裁判所は、原告であるシソン自身の証言が、BP 22違反のすべての要素を証明するのに十分であると判断しました。シソンは、小切手を銀行に預金したこと、銀行から不渡りとなった小切手を受け取ったこと、小切手に「資金不足」と記載されていたこと、そしてタデオが不渡り通知を受け取ってから5営業日以内に支払いをしなかったことを証言しました。
最高裁判所は、不渡りとなった小切手自体に銀行の「資金不足」のスタンプまたは記載がある場合、または不渡り通知が添付されている場合、それ自体が不渡りの証拠となるとしました。そして、そのような証拠があれば、振出人は資金不足を認識していたという推定が成立するとしました。この推定は反証可能ですが、反証がない限り、検察側はこの推定に依拠して有罪を立証できるのです。
さらに、裁判所は、タデオが第一審裁判所に証拠不十分による棄却請求を提出する際に、裁判所の許可を得ていなかったことを指摘しました。フィリピンの刑事訴訟法では、被告が証拠不十分による棄却請求を提出する際に裁判所の許可を得ていない場合、弁護側の証拠を提出する権利を失います。
実務上の影響と教訓
タデオ事件の判決は、BP 22違反訴訟における証拠の要件に関する重要な先例となりました。この判決により、検察側は、銀行担当者の証言を得ることなく、被害者の証言と不渡り小切手のみで、より効率的にBP 22違反を立証できるようになりました。これは、被害者にとって訴訟手続きの負担を軽減し、迅速な正義の実現に貢献する可能性があります。
一方、小切手振出人にとっては、より厳格な注意義務が求められることになります。小切手を振り出す際には、口座に十分な資金があることを常に確認し、不渡りを避けるための対策を講じる必要があります。また、万が一、不渡りが発生した場合でも、速やかに被害者と連絡を取り、誠実な対応をすることが、刑事責任を回避するための重要なポイントとなります。
主な教訓
- BP 22違反訴訟において、銀行担当者の証言は必須ではない。被害者の証言と不渡り小切手自体が証拠となり得る。
- 不渡り小切手に「資金不足」の記載があれば、振出人は資金不足を認識していたという推定が成立する。
- 小切手振出人は、口座残高を常に確認し、不渡りを避けるための対策を講じるべきである。
- 万が一、不渡りが発生した場合は、速やかに被害者と連絡を取り、誠実な対応をすることが重要である。
よくある質問(FAQ)
Q1: BP 22違反で告訴された場合、弁護士に依頼する必要がありますか?
A1: はい、BP 22違反は刑事犯罪であり、有罪となると罰金や禁固刑が科せられる可能性があります。早期に弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受けることを強くお勧めします。
Q2: 不渡り小切手の金額が少額でもBP 22違反になりますか?
A2: はい、BP 22は小切手の金額に関わらず適用されます。少額であっても、不渡りとなった場合はBP 22違反となる可能性があります。
Q3: 知らずに資金不足の小切手を振り出してしまった場合でも有罪になりますか?
A3: BP 22は、「故意」を要求していませんが、「認識」を要素としています。資金不足を認識していなかったことを立証できれば、有罪を免れる可能性がありますが、立証は容易ではありません。弁護士にご相談ください。
Q4: 不渡り通知を受け取ってから5営業日以内に支払えば、刑事責任を回避できますか?
A4: はい、BP 22は、不渡り通知を受け取ってから5営業日以内に支払えば、刑事責任を問わないとしています。ただし、これは刑事責任のみを回避するものであり、民事上の責任(利息、損害賠償など)は別途発生する可能性があります。
Q5: 民事訴訟と刑事訴訟の違いは何ですか?
A5: 民事訴訟は、個人間の権利や義務に関する紛争を解決するための手続きです。一方、刑事訴訟は、法律違反行為(犯罪)に対する責任を追及するための手続きです。BP 22違反は刑事犯罪であり、刑事訴訟の対象となります。
ASG Lawは、フィリピン法、特に不渡り小切手法(BP 22)に関する豊富な経験と専門知識を有する法律事務所です。BP 22違反に関するご相談、訴訟対応、予防策など、お気軽にお問い合わせください。初回のご相談は無料です。専門弁護士がお客様の状況を詳しくお伺いし、最適な法的アドバイスを提供いたします。
メールでのお問い合わせはkonnichiwa@asglawpartners.comまで。 お問い合わせページからもご連絡いただけます。ASG Lawは、マカティ、BGC、フィリピン全土のお客様をサポートいたします。


Source: Supreme Court E-Library
This page was dynamically generated
by the E-Library Content Management System (E-LibCMS)