フィリピン最高裁判所の決定から学ぶ主要な教訓
Carlos B. Lozada, et al. v. Commission on Audit and Manila International Airport Authority, G.R. No. 230383, July 13, 2021
フィリピンで働く公務員が直面する最大の恐怖の一つは、不正な支出に対する責任を問われることです。特に、連帯責任の原則が適用されると、個々の公務員は大きな経済的負担を背負うことになります。Carlos B. Lozadaらがフィリピン最高裁判所に提出した訴訟は、こうした問題を浮き彫りにしました。彼らは、監査委員会(COA)の規則が不公平であると主張し、連帯責任の概念を巡って争いました。この事例では、公務員がどのように連帯責任を負うのか、またそれが彼らの生活にどのように影響を与えるのかが明らかになります。
この訴訟の中心的な法的問題は、COA Circular No. 006-09のセクション16.3が憲法に違反しているかどうかという点です。具体的には、連帯責任の適用が公正であるかどうか、そしてそれが現役の公務員に不当に重い負担を強いるものではないかという点が争点となりました。
法的背景
フィリピンでは、公務員の不正な支出に対する責任は、連帯責任(solidary liability)の原則に基づいて課せられます。これは、1987年行政法典(Administrative Code of 1987)の第43条に規定されています。この条項では、不法な支出に対して関与した全ての公務員が、支出額の全額に対して共同連帯で責任を負うとされています。つまり、一人の公務員が全額を支払う義務を負う可能性がある一方で、その他の関与者も同様に責任を負うことになります。
この原則は、公務員が不正行為を防ぐための強力な抑止力となる一方で、個々の公務員にとっては大きなリスクを伴います。例えば、ある公務員が不正な支出に関与した場合、その公務員は退職後も責任を問われる可能性があります。また、連帯責任は、公務員が故意または重大な過失(bad faith or gross negligence)で行動した場合にのみ適用されるべきであるとされています。これは、公務員が正当に職務を遂行した場合には責任を問われないようにするためです。
具体的な例として、ある地方自治体が不正な支出を行い、その支出が監査で不適切と判断された場合、関与した全ての公務員が連帯責任を負うことになります。ただし、その責任は各公務員の関与度に応じて異なる場合があります。例えば、支出の承認者と支出の証明者が異なる場合、それぞれの責任の範囲が異なる可能性があります。
この事例に関連する主要条項のテキストは以下の通りです:「SECTION 43. Liability for Illegal Expenditures. — Every expenditure or obligation authorized or incurred in violation of the provisions of this Code or of the general and special provisions contained in the annual General or other Appropriations Act shall be void. Every payment made in violation of said provisions shall be illegal and every official or employee authorizing or making such payment, or taking part therein, and every person receiving such payment shall be jointly and severally liable to the Government for the full amount so paid or received.」
事例分析
Carlos B. Lozadaらは、COA Circular No. 006-09のセクション16.3が憲法に違反しているとして、フィリピン最高裁判所に訴えを起こしました。彼らは、連帯責任の適用が不公平であり、現役の公務員に不当に重い負担を強いると主張しました。この訴訟の背景には、Manila International Airport Authority(MIAA)の公務員が不正な支出に対して責任を問われた事実があります。
MIAAの公務員は、不正な支出に対する責任を負わされ、給与から差し引かれることとなりました。しかし、一部の公務員はすでに退職しており、彼らに対する責任の追及が困難であるとされました。この点について、COAは連帯責任の原則に基づき、現役の公務員から全額を回収することを決定しました。
最高裁判所は、以下のように判断しました:「The liability of persons determined to be liable under an ND/NC shall be solidary and the Commission may go against any person liable without prejudice to the latter’s claim against the rest of the persons liable.」また、「The debtor who pays the solidary debt has the right to demand reimbursement from his co-debtors in proportion to each one’s share therein.」と述べています。
この事例の進行は以下の通りです:
- 2015年3月13日と4月30日にCOAが執行命令(COE)を発行
- 2016年1月12日にMIAAがLozadaに対して給与差し引きの通知を送付
- 2016年2月15日からMIAAが給与差し引きを開始
- 2017年3月27日にLozadaらが最高裁判所に訴訟を提起
最高裁判所は、COAの規則が憲法に違反していないと判断し、訴えを却下しました。裁判所は、連帯責任の原則が適切に適用されており、現役の公務員に対する給与差し引きは合法であると結論付けました。
実用的な影響
この判決は、フィリピンの公務員が不正な支出に対してどのように責任を負うべきかについて重要な影響を与えます。特に、連帯責任の原則が厳格に適用されることを確認しました。これにより、公務員は職務を遂行する際に慎重になる必要があります。また、退職後も責任を問われる可能性があるため、退職後の生活設計にも影響を及ぼします。
企業や不動産所有者、個人に対しては、公務員との取引において不正な支出が発生しないよう注意することが重要です。また、連帯責任の原則を理解し、適切なリスク管理を行うことが求められます。
主要な教訓
- 公務員は、不正な支出に対して連帯責任を負う可能性があるため、職務を遂行する際に慎重になる必要がある
- 連帯責任の原則は、現役の公務員だけでなく退職した公務員にも適用される
- 企業や個人は、公務員との取引において不正な支出が発生しないよう注意する必要がある
よくある質問
Q: 連帯責任とは何ですか?
A: 連帯責任は、複数の債務者が一つの債務に対して共同で責任を負うことを指します。フィリピンでは、公務員が不正な支出に対して連帯責任を負うことがあります。
Q: COA Circular No. 006-09のセクション16.3は何を規定していますか?
A: この条項は、不正な支出に対する責任が連帯責任であることを規定しています。つまり、COAは関与した全ての公務員に対して責任を追及することができます。
Q: 公務員が退職した場合も連帯責任を負うのですか?
A: はい、退職後も不正な支出に対する連帯責任を負う可能性があります。ただし、その責任の範囲は関与度に応じて異なる場合があります。
Q: 企業は公務員との取引でどのような注意が必要ですか?
A: 企業は、不正な支出が発生しないよう、公務員との取引において適切な監査とリスク管理を行う必要があります。
Q: この判決は日系企業にどのような影響を与えますか?
A: 日系企業は、フィリピンでの事業活動において公務員との取引に際し、不正な支出のリスクを理解し、適切な対策を講じる必要があります。
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