労働のみ契約:フィリピン最高裁判所が雇用主責任を明確化
G.R. No. 243349, February 26, 2024
近年、企業は労働コストの削減と事業運営の柔軟性を高めるために、外部の請負業者を利用する傾向が強まっています。しかし、請負業者を利用する際には、労働法を遵守し、従業員の権利を保護することが不可欠です。フィリピンの最高裁判所は、PHILIPPINE PIZZA, INC., PETITIONER, VS. ROMEO GREGORIO OLADIVE, JR., ET AL., RESPONDENTSの判決において、労働のみ契約(labor-only contracting)に関する雇用主の責任を明確化しました。この判決は、企業が請負業者を利用する際に注意すべき重要なポイントを示唆しています。
労働のみ契約とは?:フィリピン労働法における定義
労働のみ契約とは、請負業者が従業員を雇用主に供給するだけで、自らは従業員の業務遂行を監督・管理せず、事業遂行に必要な資本や設備を持たない契約形態を指します。フィリピン労働法第106条は、労働のみ契約を禁止しており、このような契約形態の場合、請負業者は単なる雇用主の代理人とみなされ、雇用主は従業員に対して直接雇用した場合と同様の責任を負うことになります。
労働法第106条は、以下のように規定しています。
ARTICLE 106. Contractor or Subcontractor. — Whenever an employer enters into a contract with another person for the performance of the former’s work, the employees of the contractor and of the latter’s subcontractor, if any, shall be paid in accordance with the provisions of this Code.
In the event that the contractor or subcontractor fails to pay the wages of his employees in accordance with this Code, the employer shall be jointly and severally liable with his contractor or subcontractor to such employees to the extent of the work performed under the contract, in the same manner and extent that he is liable to employees directly employed by him.
The Secretary of Labor and Employment may, by appropriate regulations, restrict or prohibit the contracting-out of labor to protect the rights of workers established under this Code. In so prohibiting or restricting, he may make appropriate distinctions between labor-only contracting and job contracting as well as differentiations within these types of contracting and determine who among the parties involved shall be considered the employer for purposes of this Code, to prevent any violation or circumvention of any provision of this Code.
There is “labor-only” contracting where the person supplying workers to an employer does not have substantial capital or investment in the form of tools, equipment, machineries, work premises, among others, and the workers recruited and placed by such person are performing activities which are directly related to the principal business of such employer. In such cases, the person or intermediary shall be considered merely as an agent of the employer who shall be responsible to the workers in the same manner and extent as if the latter were directly employed by him. (Emphasis supplied)
例えば、あるレストランが、自社の配達員を外部の請負業者に委託し、配達業務を行わせているとします。しかし、請負業者は配達員を監督・管理せず、配達に必要なバイクや燃料も提供していません。この場合、レストランは労働のみ契約を行っているとみなされ、配達員に対して直接雇用した場合と同様の責任を負うことになります。
事件の経緯:ピザハットの配達員をめぐる争い
この事件は、フィリピンのピザハット(Philippine Pizza, Inc.)が、配達員をConsolidated Building Maintenance, Inc.(CBMI)という請負業者に委託していたことから始まりました。配達員たちは、CBMIに雇用される前にピザハットで直接雇用されており、CBMIに委託された後も、ピザハットの監督下で同じ業務を続けていました。配達員たちは、ピザハットに対して正規雇用を求めて訴訟を起こしましたが、訴訟中に解雇されたため、不当解雇を訴えました。
労働仲裁人(Labor Arbiter)は、CBMIが労働のみ契約を行っていると判断し、ピザハットが配達員の雇用主であると認定しました。しかし、国家労働関係委員会(NLRC)は、CBMIが正規の請負業者であると判断し、労働仲裁人の決定を覆しました。その後、控訴裁判所(CA)は、NLRCの決定を覆し、労働仲裁人の決定を支持しました。そして、最高裁判所は、控訴裁判所の決定を支持し、ピザハットが配達員の雇用主であると最終的に判断しました。
最高裁判所は、以下の点を重視しました。
- 配達員たちは、CBMIに雇用される前にピザハットで直接雇用されていたこと
- CBMIに委託された後も、ピザハットの監督下で同じ業務を続けていたこと
- CBMIが配達員の業務遂行を監督・管理していなかったこと
最高裁判所は、次のように述べています。「契約労働者が不当な労働契約から保護され、労働者の権利と基準の遵守を回避するために設計され、契約された状況でもまともで安全な雇用を維持することを目的としています。」
実務上の影響:企業が留意すべき点
この判決は、企業が請負業者を利用する際に、労働法を遵守し、従業員の権利を保護することが不可欠であることを改めて強調しています。企業は、請負業者との契約内容を慎重に検討し、労働のみ契約とみなされることのないように注意する必要があります。特に、以下の点に留意する必要があります。
- 請負業者が従業員の業務遂行を監督・管理していること
- 請負業者が事業遂行に必要な資本や設備を持っていること
- 請負業者が従業員に対して適切な賃金や福利厚生を提供していること
重要な教訓
- 請負業者との契約内容を慎重に検討し、労働のみ契約とみなされることのないように注意する
- 請負業者が従業員の業務遂行を監督・管理していることを確認する
- 請負業者が事業遂行に必要な資本や設備を持っていることを確認する
- 請負業者が従業員に対して適切な賃金や福利厚生を提供していることを確認する
例えば、ある企業が、自社の清掃業務を外部の請負業者に委託しようとしているとします。企業は、請負業者との契約内容を慎重に検討し、請負業者が清掃員の業務遂行を監督・管理し、清掃に必要な設備や洗剤を提供していることを確認する必要があります。また、請負業者が清掃員に対して適切な賃金や福利厚生を提供していることを確認する必要があります。
よくある質問
Q:労働のみ契約と正規の請負契約の違いは何ですか?
A:労働のみ契約では、請負業者は単に従業員を供給するだけで、従業員の業務遂行を監督・管理せず、事業遂行に必要な資本や設備を持たないのに対し、正規の請負契約では、請負業者が従業員の業務遂行を監督・管理し、事業遂行に必要な資本や設備を持っています。
Q:労働のみ契約と判断された場合、企業はどのような責任を負いますか?
A:労働のみ契約と判断された場合、企業は従業員に対して直接雇用した場合と同様の責任を負います。具体的には、賃金、福利厚生、社会保険料の支払い、不当解雇に対する補償などが挙げられます。
Q:請負業者を利用する際に、労働のみ契約とみなされないようにするためには、どのような点に注意すべきですか?
A:請負業者が従業員の業務遂行を監督・管理し、事業遂行に必要な資本や設備を持っていることを確認する必要があります。また、請負業者が従業員に対して適切な賃金や福利厚生を提供していることを確認する必要があります。
Q:労働紛争が発生した場合、弁護士に相談するメリットは何ですか?
A:労働紛争は、法律や判例に関する専門的な知識が必要となるため、弁護士に相談することで、適切な法的アドバイスや支援を受けることができます。また、訴訟になった場合、弁護士はあなたの代理人として法廷で主張を行うことができます。
Q:この判決は、中小企業にも影響がありますか?
A:はい、この判決は、規模に関わらず、すべての企業に適用されます。中小企業も、請負業者を利用する際には、労働法を遵守し、従業員の権利を保護することが不可欠です。
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