本判決では、不当解雇された従業員は原則として復職の権利を有することを確認し、分離手当の支払いは例外的な場合にのみ認められると判示しました。使用者は、労使関係が極度に悪化しており、復職が適切でないことを具体的に立証する責任があります。単なる主観的な印象や訴訟の存在だけでは、復職を拒否する理由として認められません。本判決は、不当解雇された労働者の権利を保護し、正当な理由なく復職の機会を奪うことを防ぐ重要な判断です。
復職か分離手当か:和解の見通しは?
本件は、マニラ電力会社(MERALCO)を不当解雇された従業員、リノ・A・フェルナンデス・ジュニア氏の復職をめぐる紛争です。フェルナンデス氏は違法なストライキに参加したとして解雇されましたが、裁判所は不当解雇と判断しました。復職命令が出されたものの、MERALCOは分離手当の支払いを申し出て、紛争は長期化しました。争点は、フェルナンデス氏が復職を希望しているにもかかわらず、分離手当の支払いで解決できるか否かという点でした。
裁判所は、不当解雇された従業員は復職の権利を有することを改めて確認しました。分離手当の支払いは、復職が現実的に不可能であるか、使用者にとって不利益となる場合に限られる例外的な措置です。本件では、MERALCOはフェルナンデス氏との間に「ストレイン・リレーション(険悪な関係)」が存在すると主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。ストレイン・リレーションの原則は、安易に適用されるべきではなく、客観的な証拠に基づいて判断されるべきです。
裁判所は、MERALCOがフェルナンデス氏の職務が信頼を必要とするものではないことを立証できなかったこと、また、フェルナンデス氏自身が早期から復職を希望していたことを重視しました。裁判所は、ストレイン・リレーションは、単に訴訟によって生じた敵意だけでは十分ではなく、使用者と従業員の関係が、復職が不可能なほどに悪化していることを示す実質的な証拠が必要であると指摘しました。また、裁判所は、以下の点にも言及しました。
「ストレイン・リレーションは事実として証明されなければなりません。ストレイン・リレーションの原則は、不当解雇された従業員の生活手段を奪い、復職を否定するために、無分別に、または漫然と適用されるべきではありません。」
裁判所は、フェルナンデス氏が本来受け取るべきであった賃金、給与、ボーナス、昇給、退職金などの算定についても、詳細な指針を示しました。解雇日から定年までの期間の賃金を算定し、法定利率を適用すること、また、退職金についても、不当解雇がなければ受け取れたはずの金額を支払うべきであるとしました。本件では、MERALCOがフェルナンデス氏の分離手当の支払いを申し出た時点(2009年1月)で、フェルナンデス氏が定年まで3ヶ月を切っていたことも考慮されました。このことは、MERALCOの主張の信憑性を疑わせる要素となりました。
しかし、裁判所は弁護士費用については、CAの判決で認められなかったことが確定しているため、これを覆すことはできないと判断しました。判決の一部が確定した場合、たとえそれが不当であっても、もはや変更することはできないという確定判決の原則が適用されます。フェルナンデス氏がCA判決を不服として上訴しなかったことが、この判断を左右しました。
最後に、裁判所は、フェルナンデス氏が主張するその他の給付(勤続手当、14ヶ月および15ヶ月給与、その他の手当)については、適用される労働協約、雇用契約、会社の規則や慣行に基づいて個別に判断されるべきであるとしました。このことは、個別的な事実関係の審理が必要であることを意味します。
本判決は、労働者の権利保護の観点から重要な意義を有しています。裁判所は、安易なストレイン・リレーションの原則の適用を戒め、労働者が不当に復職の機会を奪われることのないように、厳格な証拠に基づいた判断を求めました。
FAQs
本件の重要な争点は何でしたか? | 不当解雇された従業員が復職を求めた場合、使用者は「ストレイン・リレーション」を理由に復職を拒否できるか否か、また、その場合にどのような証拠が必要とされるかという点です。 |
ストレイン・リレーションの原則とは何ですか? | 労使間の信頼関係が著しく損なわれ、復職が困難であると判断される場合に、復職の代わりに分離手当の支払いを認めるという考え方です。 |
本件において、MERALCOはどのような主張をしましたか? | MERALCOは、フェルナンデス氏が違法なストライキに参加したこと、および長期にわたる訴訟によって労使関係が損なわれたことを理由に、ストレイン・リレーションを主張しました。 |
裁判所はMERALCOの主張をどのように判断しましたか? | 裁判所は、MERALCOの主張を裏付ける客観的な証拠がないとして、ストレイン・リレーションの成立を認めませんでした。 |
復職が認められない例外的なケースとはどのような場合ですか? | 復職が不可能であるか、使用者にとって不利益となる場合、または労使間の信頼関係が著しく損なわれている場合などです。 |
本件でフェルナンデス氏が受け取るべき金額はどのように算定されますか? | 解雇日から定年までの賃金、給与、ボーナス、昇給、および退職金などを算定し、法定利率を適用します。 |
本判決の労働者にとっての意義は何ですか? | 不当解雇された場合、原則として復職の権利が保障され、使用者はストレイン・リレーションを安易に主張できないことが明確化されました。 |
弁護士費用は誰が負担しますか? | 本件では、以前の裁判所の判決で弁護士費用が認められなかったため、フェルナンデス氏自身が負担することになります。 |
本判決は、労働者の権利保護を強化するものであり、企業は、従業員の不当解雇や復職拒否について、より慎重な判断が求められるようになるでしょう。個別事例への本判決の適用に関するお問い合わせは、ASG Law(お問い合わせ)またはメール(frontdesk@asglawpartners.com)にてご連絡ください。
免責事項:本分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。ご自身の状況に合わせた具体的な法的指導については、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:LINO A. FERNANDEZ, JR.対MANILA ELECTRIC COMPANY (MERALCO), G.R. No. 226002, 2018年6月25日