違法支出の承認者:連帯責任の範囲は「純粋な不許可額」に限定
G.R. No. 272898, October 08, 2024
違法な支出を承認・認証した役員の連帯責任は、必ずしも支出総額と同額ではありません。むしろ、その役員の連帯責任は「純粋な不許可額」に限定されるべきです。この原則を明確にした最高裁判所の判決を、本記事では詳細に解説します。
はじめに
政府資金の支出は、厳格な法律と規制に基づいて行われなければなりません。しかし、誤った解釈や手続きの不備により、違法な支出が発生することがあります。その際、誰が責任を負い、どの範囲で責任を負うのかが重要な問題となります。今回の最高裁判所の判決は、この問題について重要な指針を示しています。
本件は、海外養子縁組委員会(ICAB、現在は児童養護庁またはNACC)の元事務局長であるベルナデット・ルルド・B・アベホ氏が、監査委員会(COA)の決定を不服として起こした訴訟です。COAは、ICABおよび海外養子縁組委員会メンバーへの団体交渉協定(CNA)インセンティブおよびクリスマス・トークンの支払いを違法と判断し、アベホ氏にその返還を命じました。アベホ氏は、この決定を不服として最高裁判所に上訴しました。
法的背景
フィリピン憲法第IX(D)条第2項(2)は、監査委員会(COA)に、政府資金および財産の不規則、不必要、過剰、浪費的、または良識に反する支出または使用の防止および不許可のための会計および監査規則を公布する独占的権限を与えています。COAは、この権限に基づき、不規則な支出を不許可の対象となる支出と定義しています。不規則な支出とは、「法律で認められた確立された規則、規制、手続き上のガイドライン、方針、原則、または慣行を遵守せずに発生した支出」を指します。
大統領令第1177号第49条(1977年予算改革令)は、違法な支出を承認したすべての公務員は、支払われた全額について政府に対して責任を負うと規定しています。同様に、大統領令第1445号第102条および第103条は、政府機関の長は、違法な支出について個人的に責任を負うと規定しています。行政法典第1巻第9章第38条は、承認権限を持つ上級公務員の民事責任について規定しており、公務員は、悪意、不正行為、または重大な過失が明確に示されない限り、公務の遂行において行った行為について民事責任を負わないとしています。しかし、行政法典第VI巻第5章第43条は、年間の一般またはその他の歳出法における規定に違反して行われた支払いを承認した公務員は、支払われた全額について政府に対して責任を負うと規定しています。
最高裁判所は、Madera v. Commission on Audit事件において、不許可額の返還と関係者の責任に関する規則(Madera Rules on Return)を定めました。この規則では、誠実に行動し、公務を通常通り遂行し、善良な家長の注意義務を果たした承認および認証担当者は、1987年行政法典第38条に従い、返還する民事責任を負わないとしています。しかし、悪意、不正行為、または重大な過失が明確に示された承認および認証担当者は、1987年行政法典第43条に従い、純粋な不許可額のみを連帯して返還する責任を負います。受領者は、承認または認証担当者であるか単なる受動的な受領者であるかにかかわらず、受け取った金額が実際に提供されたサービスの対価として与えられたことを示すことができない限り、それぞれ受け取った不許可額を返還する責任を負います。
例:ある政府機関が、法律で認められていないボーナスを職員に支給した場合、そのボーナスを承認した役員は、原則として、その金額を返還する責任を負います。しかし、その役員が誠実に行動し、関連する法律や規則を遵守しようと努めていた場合、その責任は軽減される可能性があります。
事件の概要
この事件は、ICABの元事務局長であるアベホ氏が、ICABおよび海外養子縁組委員会メンバーへの団体交渉協定(CNA)インセンティブおよびクリスマス・トークンの支払いを違法と判断したCOAの決定を不服として起こしたものです。COAは、これらの支払いが法律上の根拠を欠き、大統領の承認も得ていないと判断しました。アベホ氏は、これらの支払いがICABの目標達成に対する報酬であり、誠実な行動であったと主張しました。
COAは、アベホ氏の主張を認めず、支払いを不許可とし、アベホ氏にその返還を命じました。アベホ氏は、COAの決定を不服として最高裁判所に上訴しました。最高裁判所は、COAの決定を一部認めましたが、アベホ氏の責任範囲を「純粋な不許可額」に限定しました。
最高裁判所は、以下の点を重視しました。
- クリスマス・トークンの支払いは、法律上の根拠を欠いている。
- アベホ氏は、支払いを承認する際に、関連する法律や規則を遵守していなかった。
- しかし、支払いの受領者は、この訴訟の当事者ではなく、支払われた金額を返還する義務を負っていない。
最高裁判所は、Juan v. Commission on Audit事件を引用し、「純粋な不許可額」とは、「総不許可額」から「受領者が保持することを許可された金額」を差し引いたものであると説明しました。最高裁判所は、支払いの受領者が返還義務を免除された場合、承認および認証担当者の民事責任もそれに応じて減少すべきであると判断しました。
「違法な支出に対する責任が適切に理解されれば、不当な支払いを受けた受領者は、善意であるかどうかにかかわらず、受け取った金額の返還責任を負います。特に、役員が1987年行政法典第38条の対象となる場合、または善意で、通常の公務遂行において、善良な家長の注意義務を果たしたことを証明した場合、受領者は、裁判所が返還を免除しない限り、不許可額の責任を負います。同様に、受領者が保持することを許可された金額は、悪意、不正行為、または重大な過失があったことが明確に示された役員の連帯責任を軽減します。」
本件において、支払いの受領者は訴訟の当事者ではなく、返還義務を負っていないため、アベホ氏の責任範囲はゼロとなりました。
実務上の意義
この判決は、政府資金の支出に関わるすべての人々にとって重要な意味を持ちます。特に、支出を承認する権限を持つ役員は、以下の点に注意する必要があります。
- 支出を承認する前に、関連する法律や規則を十分に理解し、遵守すること。
- 支出の目的や必要性を明確にし、正当な根拠を示すこと。
- 支出の承認プロセスを適切に記録し、透明性を確保すること。
この判決は、違法な支出に対する責任範囲を明確化し、承認者の責任を過度に重くしないように配慮したものです。しかし、これは、承認者が責任を免れることを意味するものではありません。承認者は、引き続き、関連する法律や規則を遵守し、誠実に行動する義務を負います。
重要な教訓
- 違法な支出を承認した役員の連帯責任は、「純粋な不許可額」に限定される。
- 支払いの受領者が返還義務を免除された場合、承認者の責任もそれに応じて減少する。
- 支出を承認する権限を持つ役員は、関連する法律や規則を十分に理解し、遵守する必要がある。
よくある質問
Q: 違法な支出とは、具体的にどのようなものを指しますか?
A: 違法な支出とは、法律や規制に違反して行われた支出を指します。例えば、予算を超過した支出、承認されていない目的で使用された支出、必要な手続きを経ていない支出などが該当します。
Q: 支出を承認した役員は、どのような場合に責任を問われますか?
A: 支出を承認した役員は、悪意、不正行為、または重大な過失があった場合に責任を問われます。ただし、誠実に行動し、関連する法律や規則を遵守しようと努めていた場合、その責任は軽減される可能性があります。
Q: 「純粋な不許可額」とは、どのような意味ですか?
A: 「純粋な不許可額」とは、「総不許可額」から「受領者が保持することを許可された金額」を差し引いたものです。例えば、違法なボーナスが支給された場合、そのボーナスの総額が「総不許可額」となり、受領者が返還義務を免除された金額が「受領者が保持することを許可された金額」となります。
Q: 支払いの受領者は、どのような場合に返還義務を免除されますか?
A: 支払いの受領者は、その支払いが実際に提供されたサービスの対価として与えられたことを示すことができた場合、または裁判所が特別な事情を考慮して返還を免除した場合に、返還義務を免除されます。
Q: この判決は、今後の政府資金の支出にどのような影響を与えますか?
A: この判決は、違法な支出に対する責任範囲を明確化し、承認者の責任を過度に重くしないように配慮したものです。これにより、政府機関の役員は、より安心して職務を遂行できるようになる可能性があります。しかし、承認者は、引き続き、関連する法律や規則を遵守し、誠実に行動する義務を負います。
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