本判決は、弁護士が自己の依頼者に対して負うべき忠実義務の重要性を改めて確認するものです。弁護士が、依頼者の訴訟において相手方のための訴訟行為を行うことは、依頼者の利益を害し、信頼を損なう行為として、懲戒の対象となり得ます。依頼者は、弁護士が常に自己の利益を最優先に考えて行動することを期待する権利を有しています。
弁護士の二重行為:信頼義務違反の明確化
本件は、フィリピナス・O・セレドニオが弁護士ハイメ・F・エストラビロを懲戒請求した事件です。エストラビロ弁護士は、ある訴訟において原告(依頼者)の代理人を務める一方で、被告であるセレドニオのために訴状の提出期限延長の申立てを作成するなど、利益相反行為を行いました。最高裁判所は、弁護士のこうした行為が、弁護士倫理規範に違反すると判断し、懲戒処分を科しました。
エストラビロ弁護士は、依頼者であるマハ氏に対して、セレドニオ氏の夫が会社の資金を横領したとして刑事告訴を行いました。その後、セレドニオ氏は、夫に対する刑事訴訟の取り下げを求めて、エストラビロ弁護士と交渉を行いました。交渉の過程で、エストラビロ弁護士は、セレドニオ夫妻に対し、訴訟の和解の担保として、自宅の土地建物の売買契約書を作成するように助言しました。エストラビロ弁護士は、売買契約書は分割払いの担保としてのみ使用され、登記されないと保証しました。その後、セレドニオ氏の夫に対する刑事訴訟は取り下げられました。
しかし、その後、セレドニオ氏は、マハ夫妻から土地建物の引渡しを求める訴訟を提起されました。セレドニオ氏は、エストラビロ弁護士が、以前に作成した売買契約書を登記していたことを知りました。さらに、エストラビロ弁護士は、訴訟において、セレドニオ氏のために訴状の提出期限延長の申立てを作成し、提出するように指示しました。しかし、実際には、エストラビロ弁護士は、セレドニオ氏が欠席裁判で敗訴するように、期日出廷などの必要な情報を提供しませんでした。
最高裁判所は、エストラビロ弁護士の行為は、弁護士倫理規範の第15条第3項および第17条に違反すると判断しました。第15条第3項は、弁護士が関係者全員の書面による同意を得た上で、事実を十分に開示した上でなければ、利益相反する当事者を代理することを禁じています。第17条は、弁護士は依頼者のために忠実に尽力し、依頼者からの信頼を尊重しなければならないと定めています。エストラビロ弁護士は、依頼者であるマハ氏の訴訟において、相手方であるセレドニオ氏のために訴訟行為を行うことは、マハ氏の利益を害し、信頼を損なう行為にあたります。
裁判所は、弁護士と依頼者の関係は、最高の信頼と信用によって結ばれるべきであると指摘しました。弁護士は、依頼者の利益を保護するために、最大限の誠意と熱意をもって職務を遂行する義務を負っています。したがって、弁護士は、利益相反する当事者を代理することを避けなければなりません。弁護士の行為が、不誠実さや二重行為の疑いを招く場合、それは既に利益相反の状態にあるとみなされます。広義には、弁護士は、一方の依頼者のために尽力することが、別の依頼者に対する義務に反する場合、利益相反する当事者を代理していると見なされます。
最高裁判所は、エストラビロ弁護士の行為が、弁護士倫理規範に違反すると判断し、6ヶ月の業務停止処分を科しました。この判決は、弁護士が自己の依頼者に対して負うべき忠実義務の重要性を改めて確認するものです。依頼者は、弁護士が常に自己の利益を最優先に考えて行動することを期待する権利を有しています。
Rule 15.03 – A lawyer shall not represent conflicting interests except by written consent of all concerned given after a full disclosure of the facts.
CANON 17 – A LAWYER OWES FIDELITY TO THE CAUSE OF HIS CLIENT AND HE SHALL BE MINDFUL OF THE TRUST AND CONFIDENCE REPOSED IN HIM.
本件の主な争点は何ですか? | 弁護士が依頼者の訴訟において、相手方のために訴訟行為を行うことが、利益相反にあたるかどうかです。 |
弁護士倫理規範のどの条項が問題となりましたか? | 弁護士倫理規範の第15条第3項(利益相反の禁止)と第17条(依頼者への忠実義務)が問題となりました。 |
裁判所は、エストラビロ弁護士の行為をどのように評価しましたか? | 裁判所は、エストラビロ弁護士の行為は、弁護士倫理規範に違反すると判断しました。 |
エストラビロ弁護士には、どのような処分が科されましたか? | エストラビロ弁護士には、6ヶ月の業務停止処分が科されました。 |
本判決の教訓は何ですか? | 弁護士は、常に依頼者の利益を最優先に考え、利益相反する行為を避けなければなりません。 |
依頼者は、弁護士にどのようなことを期待できますか? | 依頼者は、弁護士が自己の利益を最優先に考えて行動し、忠実に職務を遂行することを期待できます。 |
利益相反とは具体的にどのような状況を指しますか? | 利益相反とは、弁護士が一方の依頼者の利益のために尽力することが、別の依頼者に対する義務に反する状況を指します。 |
弁護士が利益相反行為を行った場合、どのようなリスクがありますか? | 弁護士が利益相反行為を行った場合、懲戒処分を受ける可能性があります。 |
本判決は、弁護士倫理の基本を改めて確認するものです。弁護士は、高度な倫理観を持ち、常に依頼者の利益を最優先に行動することが求められます。この判決が、弁護士の職務に対する自覚を促し、より公正な社会の実現に貢献することを期待します。
本判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Lawまでお問い合わせいただくか、frontdesk@asglawpartners.comまでメールでご連絡ください。
免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的ガイダンスについては、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:FILIPINAS O. CELEDONIO VS. ATTY. JAIME F. ESTRABILLO, A.C. No. 10553, July 05, 2017