本判決は、海外雇用船員における障害給付請求に関する重要な判断を示しました。最高裁判所は、船員が会社指定医の評価に異議を唱える場合、POEA-SEC(フィリピン海外雇用庁標準雇用契約)に基づき、第三者医師による評価を求めることが義務付けられていることを改めて確認しました。この義務を怠ると、会社指定医の評価が最終的な判断となり、船員の給付請求に影響を及ぼす可能性があります。裁判所は、会社指定医の評価を全面的に否定した控訴裁判所の判断を一部覆し、本件船員には、会社指定医の評価に基づいた障害等級に応じた給付金が支払われるべきであると判断しました。
海外での怪我:障害給付の紛争、第三者医師の役割とは?
本件は、フィリピン人船員ジェミニアーノ・S・ムリーリョ氏が、ノルウェーのクルー管理会社との雇用契約に基づき乗船中、負傷したことに端を発します。ムリーリョ氏は、船会社指定の医師による評価に不満を持ち、自らが選んだ医師の診断に基づいて障害給付を請求しました。この過程で、POEA-SECが定める第三者医師による評価という手続きが履行されなかったことが、裁判の争点となりました。
POEA-SECは、船員の海外雇用における労働条件を規定する重要な基準です。本件に関連する条項として、特に注目すべきは、障害または疾病に対する補償および給付に関する規定です。具体的には、会社指定医による評価が、給付の程度を決定する上で重要な役割を果たす一方、船員がその評価に同意しない場合には、第三者医師の評価を求めることができると定められています。
最高裁判所は、過去の判例(Andrada vs. Agemar Manning Agency, Inc., 698 Phil. 170, 181 (2012))を引用し、POEA-SECの規定に基づき、第三者医師の評価が義務付けられていることを強調しました。裁判所は、Philippine Hammonia Ship Agency, Inc. vs. Dumagdag, 712 Phil. 507 (2013)の判例にも言及し、船員が会社指定医の評価に異議を唱える場合、自らの医師の意見を主張するだけでなく、第三者医師による最終的な判断を仰ぐべきであるとしました。
今回の判決では、ムリーリョ氏が第三者医師の評価を求める手続きを怠ったことが、会社指定医の評価を最終的なものとする根拠となりました。ただし、最高裁判所は、控訴裁判所がムリーリョ氏の請求を全面的に棄却したことは不適切であると判断しました。会社指定医はムリーリョ氏の障害を認めており、その評価に基づいて給付金を支払うべきであると結論付けました。
本判決の重要なポイントは、以下の通りです。
- 会社指定医の評価は、POEA-SECに基づき、障害給付の程度を決定する上で重要な役割を果たす。
- 船員が会社指定医の評価に同意しない場合、第三者医師の評価を求めることができる。
- 第三者医師の評価を求める手続きは義務であり、怠ると会社指定医の評価が最終的なものとなる。
今回の最高裁の判断は、控訴裁の判断を一部修正するものであり、手続きの重要性と、船員が一定の補償を受ける権利とのバランスを取ることを意図しています。控訴裁判所は、NLRCの決定を取り消し、訴えを全面的に却下しましたが、最高裁判所は、会社指定医による障害等級の評価を考慮すべきであると判断しました。
裁判所は、POEA-SECのセクション32に準拠して障害手当の金額を算出しました。会社指定医は、ムリーリョ氏が膝の靭帯を損傷したことにより、「Grade 10 x 2 – stretching leg or ligaments of a knee」に該当すると診断しました。POEA-SECの「障害手当表」によれば、Grade 10の障害は、50,000米ドルの20.15%に相当します。ムリーリョ氏の場合、両膝が影響を受けているため、合計20,150米ドルを受け取る権利があります。本判決により、海外で働く船員は、万が一の怪我に際して、POEA-SECに基づく適切な手続きを踏むことの重要性を改めて認識する必要があります。
FAQs
本件の主要な争点は何ですか? | 本件の主要な争点は、船員が会社指定医の診断に異議を唱える際に、第三者医師の評価を求める手続きが義務であるかどうかです。また、その手続きを怠った場合、会社指定医の診断が最終的な判断となるかどうかが問われました。 |
POEA-SECとは何ですか? | POEA-SECとは、Philippine Overseas Employment Administration Standard Employment Contractの略で、フィリピン海外雇用庁が定める標準雇用契約のことです。海外で働くフィリピン人船員の労働条件や権利を保護するための重要な基準となります。 |
会社指定医の役割は何ですか? | 会社指定医は、船員の健康状態や障害の程度を評価する役割を担います。その評価は、船員の障害給付の請求において重要な根拠となります。 |
第三者医師の役割は何ですか? | 第三者医師は、会社指定医と船員の医師の意見が異なる場合に、中立的な立場で評価を行い、最終的な判断を下す役割を担います。 |
船員は会社指定医の評価に必ず従わなければならないのですか? | いいえ、船員は会社指定医の評価に同意しない場合、自らが選んだ医師の診断を受けることができます。ただし、その場合、第三者医師の評価を求める手続きが必要となります。 |
第三者医師の評価を求める手続きを怠るとどうなりますか? | 第三者医師の評価を求める手続きを怠ると、会社指定医の評価が最終的なものとなり、船員の給付請求に影響を及ぼす可能性があります。 |
本判決のポイントは何ですか? | 本判決のポイントは、海外で働く船員が、万が一の怪我に際して、POEA-SECに基づく適切な手続きを踏むことの重要性を改めて確認した点にあります。 |
本判決は、船員の権利をどのように保護していますか? | 本判決は、船員が会社指定医の評価に異議を唱える権利を認めつつ、第三者医師の評価を求める手続きを義務付けることで、客観的かつ公正な判断を確保し、船員の権利を保護しています。 |
本判決は、フィリピン人船員が海外で雇用される際の労働条件や権利に関する重要な解釈を示しました。今後、同様の紛争が生じた場合、本判決が重要な判例となることが予想されます。
For inquiries regarding the application of this ruling to specific circumstances, please contact ASG Law through contact or via email at frontdesk@asglawpartners.com.
Disclaimer: This analysis is provided for informational purposes only and does not constitute legal advice. For specific legal guidance tailored to your situation, please consult with a qualified attorney.
Source: GEMINIANO S. MURILLO VS. PHILIPPINE TRANSMARINE CARRIERS, INC., G.R. No. 221199, August 15, 2018