無許可の外国企業でも、一定の条件下でフィリピンの裁判所に訴訟を提起できる
G.R. No. 152228, September 23, 2005
はじめに
フィリピンで事業を行う外国企業にとって、訴訟を起こせるかどうかは重要な問題です。許可を得ずに事業を行っている場合でも、訴訟を提起できるのでしょうか?本判決は、無許可の外国企業がフィリピンの裁判所を利用できるかという長年の疑問に答えるものです。木材取引を巡る訴訟を基に、外国企業の訴訟能力について詳しく解説します。
法律の背景
フィリピン会社法(Corporation Code of the Philippines)第133条は、フィリピンで事業を行う外国企業に対し、事業を行うためのライセンスを取得することを義務付けています。しかし、ライセンスを持たない外国企業が、常にフィリピンの裁判所で訴訟を提起できないわけではありません。重要なのは、「事業を行っているか」どうかです。単発的な取引(isolated transaction)であれば、ライセンスは不要とされています。
「事業を行う(doing business)」とは、外国企業がフィリピン国内で継続的に商業活動を行うことを意味します。単なる投資や、商品の輸入・輸出といった行為だけでは「事業を行う」とはみなされません。最高裁判所は、Mentholatum Co., Inc. v. Anacleto Mangalimanの判例で、「事業を行う」とは、外国企業がその企業目的を達成するために、継続的に商業活動を行うことを意味すると定義しています。
本件に関連する条文は以下の通りです。
フィリピン会社法第133条:外国法人は、本法に基づいてライセンスを取得するまで、フィリピンにおいて訴訟を提起し、維持し、または介入することはできない。ただし、単一または孤立した取引を行う外国法人はこの制限を受けない。
事件の経緯
本件は、パプアニューギニア(PNG)の企業であるリンブンガン・ヒジャウ・グループ(Rimbunan Hijau Group of Companies、以下「リンブンガン」)とその子会社であるニューギニ・ランバー・マーチャンツ(Niugini Lumber Merchants Pty., Ltd.、以下「ニューギニ」)が、フィリピンのオリエンタル・ウッド・プロセッシング(Oriental Wood Processing Corporation、以下「オリエンタル」)に対し、木材の未払い代金を求めて訴訟を提起したものです。
- 1998年、リンブンガンとニューギニは、オリエンタルに対し、PNG産の木材を販売・輸出しました。
- オリエンタルは、代金の一部を支払いましたが、残額343,741.52米ドルが未払いでした。
- リンブンガンらは、オリエンタルに対し、未払い代金の支払いを求め訴訟を提起しました。
- オリエンタルは、リンブンガンらがフィリピンで事業を行うためのライセンスを持っていないため、訴訟を提起する資格がないと主張しました。
地方裁判所は、リンブンガンらの訴えを認めましたが、控訴院はこれを覆し、リンブンガンらはフィリピンで事業を行っているため、訴訟を提起する資格がないと判断しました。そこで、リンブンガンらは最高裁判所に上訴しました。
最高裁判所は、控訴院の判決を破棄し、地方裁判所の判決を復活させました。その主な理由は以下の通りです。
- 控訴院は、リンブンガンらがフィリピンで事業を行っているという事実を十分に立証していません。
- オリエンタルは、リンブンガンらとの取引を認めており、一部代金も支払っているため、リンブンガンらの訴訟能力を争うことは禁反言の原則に反します。
最高裁判所は、判決の中で以下の点を強調しました。
「裁判所は、当事者が訴訟を起こす資格がないという、不完全な結論に基づいて訴訟を却下することはできません。この問題は、立証された事実に基づいて判断される必要があり、根拠のない主張に基づいて判断されるべきではありません。」
「契約を結び、その取引から利益を得た後、相手方のフィリピンで事業を行うためのライセンスの欠如を問題視することは、フェアプレーの観点から許されるべきではありません。」
実務上の教訓
本判決から得られる教訓は、以下の通りです。
- 外国企業がフィリピンで訴訟を提起できるかどうかは、事業を行っているかどうかで判断されます。
- 単発的な取引であれば、ライセンスは不要です。
- フィリピン企業は、外国企業との取引を認めており、一部代金も支払っている場合、後から外国企業の訴訟能力を争うことはできません。
重要なポイント:
- 外国企業は、フィリピンで事業を行う前に、ライセンスを取得する必要があります。
- フィリピン企業は、外国企業との取引を行う際、相手方の訴訟能力を確認する必要があります。
- 訴訟能力に疑義がある場合、弁護士に相談することが重要です。
よくある質問
Q:外国企業がフィリピンで「事業を行う」とはどういう意味ですか?
A:外国企業がフィリピン国内で継続的に商業活動を行うことを意味します。単なる投資や、商品の輸入・輸出といった行為だけでは「事業を行う」とはみなされません。
Q:ライセンスを持たない外国企業は、フィリピンで訴訟を提起できますか?
A:単発的な取引であれば、訴訟を提起できます。しかし、継続的に事業を行っている場合は、ライセンスが必要です。
Q:フィリピン企業は、外国企業の訴訟能力をいつ争うことができますか?
A:外国企業との取引を行う前であれば、訴訟能力を争うことができます。しかし、取引を認めており、一部代金も支払っている場合、後から訴訟能力を争うことは禁反言の原則に反します。
Q:訴訟能力に疑義がある場合、どうすればよいですか?
A:弁護士に相談し、法的助言を求めることが重要です。
Q:外国企業がフィリピンで訴訟を提起する際に注意すべき点は何ですか?
A:訴訟を提起する前に、自社がフィリピンで事業を行っているかどうかを確認し、必要であればライセンスを取得する必要があります。
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