本判決は、海外勤務の船員が業務中に発症した疾患に対する雇用主の補償責任を明確化するものです。最高裁判所は、会社指定医が所定期間内に最終的な医学的評価を怠った場合、船員の障害は法的に「完全かつ永続的」とみなされると判断しました。さらに、労働協約(CBA)の条項が適用され、適切な障害給付金と手当が船員に支払われるべきであるとしました。この判決は、会社指定医の評価義務を強調し、CBAに基づく船員の権利を保護する上で重要な意味を持ちます。
業務中に発症した疾患:会社指定医の義務と補償責任の明確化
本件は、UNITRA MARITIME MANILA, INC.が雇用する船員、Giovannie B. Campanero氏が、乗船中に下肢の脱力感と腰痛を発症し、帰国後に血管奇形と診断されたことに端を発します。会社指定医は、Campanero氏の疾患が業務に起因しないと診断しましたが、CA(控訴院)は、業務中の作業が疾患を悪化させた可能性があると判断し、雇用主に対して障害補償の支払いを命じました。UNITRA社はこれを不服として最高裁判所に上訴しました。本件の核心は、船員の疾患が業務に起因するか否か、そして労働協約(CBA)に基づく補償が適用されるか否かという点にあります。
本判決において、最高裁判所は、会社指定医が所定の期間内に船員の最終的な医学的評価を完了させなかった場合、船員の障害は法的に「完全かつ永続的」とみなされると判示しました。POEA-SEC(海外雇用契約の標準契約条項)に基づき、船員は帰国後3日以内に会社指定医の診察を受け、会社指定医は120日以内(必要に応じて240日まで延長可能)に最終的な評価を下す必要があります。この期間内に最終的な評価がなされない場合、船員の障害は法的に完全かつ永続的とみなされます。Campanero氏の場合、会社指定医は最終的な評価を下さなかったため、その障害は完全かつ永続的とみなされました。
最高裁判所は、Campanero氏の疾患が業務に起因する可能性を認めました。会社指定医は、血管奇形が業務に起因しないと診断しましたが、Campanero氏の業務内容(重量物の持ち上げなど)が、既存の疾患を悪化させた可能性があると判断しました。また、POEA-SEC第20条(A)(4)に基づき、同条項に列挙されていない疾患は業務起因性と推定されるため、雇用主側が反証する必要があります。本件では、UNITRA社が反証できなかったため、Campanero氏の疾患は業務に起因するものとみなされました。
さらに、最高裁判所は、CBAの条項がCampanero氏に適用されると判断しました。CBAには、船員が業務中の事故または疾病により障害を負った場合、障害補償が支払われる旨が規定されています。Campanero氏の障害は完全かつ永続的とみなされたため、CBAに基づき、127,932米ドルの障害給付金と、4,181.67米ドルの傷病手当が支払われるべきであるとしました。また、Campanero氏の請求が雇用者の責任を問う訴訟であることから、弁護士費用も支払われるべきであるとしました。
このように、本判決は、船員の権利を保護し、雇用主の責任を明確化する上で重要な意義を持ちます。会社指定医の評価義務を怠った場合、船員の障害は自動的に完全かつ永続的とみなされ、CBAに基づく補償が適用されることになります。また、船員の疾患が業務に起因する可能性についても、より広く認める判断を示しました。最高裁判所は、合理的根拠に基づき業務と疾患の関連性を示せば、業務起因性を認める姿勢を示しています。
FAQs
本件の主な争点は何でしたか? | 本件の主な争点は、船員の疾患が業務に起因するか否か、そして労働協約(CBA)に基づく補償が適用されるか否かという点でした。 |
会社指定医の義務は何ですか? | 会社指定医は、船員が帰国後3日以内に診察し、120日以内(必要に応じて240日まで延長可能)に最終的な医学的評価を下す必要があります。 |
会社指定医が義務を怠った場合、どうなりますか? | 会社指定医が所定期間内に最終的な医学的評価を怠った場合、船員の障害は法的に「完全かつ永続的」とみなされます。 |
POEA-SECとは何ですか? | POEA-SECとは、海外雇用契約の標準契約条項であり、船員と雇用主の権利と義務を規定しています。 |
労働協約(CBA)とは何ですか? | 労働協約(CBA)とは、労働組合と雇用主の間で締結される契約であり、労働条件、賃金、福利厚生などを規定しています。 |
業務起因性とは何ですか? | 業務起因性とは、船員の疾患が業務に起因または悪化したことを意味します。 |
本判決の重要なポイントは何ですか? | 本判決の重要なポイントは、会社指定医の評価義務を明確化し、CBAに基づく船員の権利を保護することです。 |
本判決は今後の船員雇用にどのような影響を与えますか? | 本判決は、船員の権利を保護する上で重要な前進であり、雇用主は会社指定医の評価義務を遵守する必要性が高まります。 |
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免責事項:本分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的ガイダンスについては、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:UNITRA MARITIME MANILA, INC.対GIOVANNIE B. CAMPANERO, G.R. No. 238545, 2022年9月7日