フィリピンの海員の障害給付に関する重要な教訓
Charlo P. Idul v. Alster Int’l Shipping Services, Inc., Johann Mkblumenthal GMBBH Reederei and Santiago D. Almodiel, G.R. No. 209907, June 23, 2021
フィリピンの海員が職場で負傷した場合、その後の生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に、障害給付の評価と請求に関わるプロセスは、海員の生活を左右する重要な要素です。Charlo P. Idulのケースは、会社指定医師の評価と第三者医師の役割がどのように障害給付の決定に影響を与えるかを示す典型的な例です。このケースでは、海員が受けるべき障害給付の評価が争点となり、フィリピンの法律と雇用契約の規定が適用されました。
このケースでは、Charlo P. Idulが船上で事故に遭い、左足を骨折した後、会社指定医師と彼自身の選んだ医師の間で障害の評価が異なったことが問題となりました。Idulは完全な障害給付を求めましたが、会社指定医師の評価に基づいて部分的な給付しか認められませんでした。この問題は労働仲裁者、国家労働関係委員会(NLRC)、そして控訴裁判所(CA)を経て最終的に最高裁判所まで争われました。
法的背景
フィリピンでは、海員の障害給付に関する規定はフィリピン海外雇用庁標準雇用契約(POEA SEC)に基づいています。この契約は、海員が職場で負傷した場合の権利と義務を詳細に規定しています。特に重要なのは、会社指定医師が海員の障害評価を担当し、その評価が原則として最終的なものとされる点です。しかし、海員が自ら選んだ医師の評価が異なる場合、第三者医師の意見を求めることが可能であり、その意見が最終的な決定に影響を与えることがあります。
POEA SECのセクション20(A)(3)は、海員が自らの医師の評価と会社指定医師の評価が異なる場合、雇用者と海員が共同で第三者医師を選定し、その意見が最終的に拘束力を持つと規定しています。この規定は、海員が適切な評価を受ける権利を保証するための重要な手段です。
日常的な例として、海員が船上で負傷し、会社指定医師が部分的な障害と評価した場合、海員は自らの医師に再度評価を依頼することができます。もしその評価が完全な障害と異なる場合、第三者医師の意見を求めることで、より公正な評価を得ることが可能です。このプロセスは、海員の生活と将来の雇用能力に直接影響を与えるため、非常に重要です。
事例分析
Charlo P. Idulは、Alster Int’l Shipping Services, Inc.の下で12ヶ月の契約で雇用され、2008年4月14日からM/V IDAに乗船し、ボスンとして働き始めました。2008年12月4日、Idulは作業中にラッシングワイヤーが切れ、左足を骨折する事故に遭いました。彼はフランスの病院で手術を受け、その後フィリピンに帰国してさらに治療を受けました。
2008年12月11日、Idulは会社指定のメトロポリタン医療センター(MMC)に紹介され、整形外科医のDr. Robert LimとDr. William Chuasuan Jr.の治療を受けました。彼らはIdulに薬を処方し、リハビリテーション療法を指示しました。2009年7月6日、Dr. ChuasuanはIdulの障害をGrade 10と評価しました。これは「足関節の異常な位置での不動」と診断されたものです。
一方、Idulは2009年3月16日に自らの医師であるDr. Venancio P. Garduce Jr.に診察を受け、完全かつ永久的な障害と評価されました。この評価に基づき、Idulは完全な障害給付を求めましたが、Alster ShippingはGrade 10の評価に基づいて10,750ドルの給付を提案しました。Idulはこれを拒否し、2009年6月3日に労働省(DOLE)に訴えを起こしました。
労働仲裁者は、Dr. LimとDr. Chuasuanの評価を支持し、Idulに10,075ドルの部分的な障害給付を命じました。Idulはこれを不服として国家労働関係委員会(NLRC)に控訴し、NLRCはIdulの訴えを認め、完全な障害給付を命じました。しかし、Alster Shippingは控訴裁判所(CA)に上訴し、CAは労働仲裁者の決定を支持しました。CAは、会社指定医師の評価が240日以内に行われたため、Idulの障害は永久的なものとは認められないと判断しました。
最高裁判所は、Idulが適切な手続きを踏んでいなかったため、CAの決定を支持しました。具体的には、Idulが第三者医師の意見を求める手続きを取らなかったことが問題となりました。以下は最高裁判所の重要な推論からの直接引用です:
「…the employee seeking disability benefits carries the responsibility to secure the opinion of a third doctor. In fact, the employee must actively or expressly request for it. The referral to a third doctor has been recognized by this Court to be a mandatory procedure.」
「…a temporary total disability only becomes permanent when 1) the company-designated physician declares it to be so within the 240-day period; or 2) when after the lapse of the 240-day period, the company-designated physician fails to make such declaration.」
実用的な影響
この判決は、今後の類似のケースに大きな影響を与える可能性があります。特に、海員が障害給付を求める際には、会社指定医師の評価だけでなく、第三者医師の意見を求める手続きを適切に行うことが重要であることを強調しています。企業や雇用者は、POEA SECの規定を遵守し、海員の権利を尊重する必要があります。
海員やその家族に対しては、障害給付の評価プロセスを理解し、必要に応じて第三者医師の意見を求めることが重要です。また、法律的なサポートを受けることで、適切な給付を得ることが可能になります。
主要な教訓
- 会社指定医師の評価は重要だが、海員は自らの医師の評価を求める権利がある。
- 第三者医師の意見を求める手続きは必須であり、これを怠ると会社指定医師の評価が最終的なものとなる。
- POEA SECの規定を理解し、適切な手続きを踏むことで、海員は適切な障害給付を得ることができる。
よくある質問
Q: 会社指定医師の評価と私の医師の評価が異なる場合、どうすればいいですか?
A: POEA SECの規定に基づき、雇用者と海員が共同で第三者医師を選定し、その意見を求めることができます。その意見が最終的な決定に影響を与えます。
Q: 障害給付の評価プロセスはどのくらい時間がかかりますか?
A: 会社指定医師の評価は通常、海員が船から降りてから120日以内に行われます。必要に応じて、この期間は最大240日まで延長されることがあります。
Q: 障害給付の申請を拒否された場合、どのような手段がありますか?
A: 労働仲裁者、NLRC、そして控訴裁判所に訴えを起こすことができます。適切な手続きを踏むことで、再評価や追加の給付を得ることが可能です。
Q: フィリピンで事業を展開する日本企業は、海員の障害給付に関する規定をどのように理解すべきですか?
A: 日本企業はPOEA SECの規定を理解し、海員の権利を尊重する必要があります。特に、第三者医師の意見を求める手続きを適切に行うことが重要です。
Q: 在フィリピン日本人海員は、障害給付に関する問題でどのようなサポートを受けることができますか?
A: ASG Lawは、フィリピンで事業を展開する日本企業および在フィリピン日本人に特化した法律サービスを提供しています。海員の障害給付に関する問題や、日本企業が直面する特有の課題について、バイリンガルの法律専門家がサポートします。今すぐ相談予約またはkonnichiwa@asglawpartners.comまでお問い合わせください。