過剰防衛と欺罔の限界:警察官による殺人事件から学ぶ
G.R. No. 124978, 1998年5月19日
フィリピンの法制度において、正当防衛と欺罔は刑事責任を左右する重要な概念です。本日解説する最高裁判所のデモンテベルデ事件は、警察官が職務中に人を死なせてしまった事案を扱い、正当防衛の成立要件と、殺人を重罪とする欺罔の認定について、重要な判断を示しました。本稿では、この判例を詳細に分析し、実務上の教訓とFAQを通じて、皆様の法的理解を深めることを目指します。
法的背景:正当防衛と欺罔の要件
フィリピン刑法第11条は、正当防衛が成立するための3つの要件を定めています。それは、①不法な侵害、②侵害を阻止または撃退するための合理的な手段の必要性、③防御する側に十分な挑発がなかったことです。これらの要件がすべて満たされる場合に限り、行為は正当防衛と認められ、刑事責任を免れることができます。
一方、刑法第14条16項に規定される欺罔は、犯罪の実行において、攻撃者が被害者の防御を困難にし、自身のリスクを回避する手段、方法、または形式を用いる場合に成立します。欺罔が認められる場合、殺人はより重い罪である殺人罪として扱われます。欺罔の成立には、計画性と不意打ち性が重要であり、被害者に反撃や逃げる機会を与えないことが要件となります。
本判例において、被告人である警察官デモンテベルデは、泥酔した被害者グループとのトラブルの末、発砲し、一人を死亡させました。一審では欺罔による殺人罪で有罪となりましたが、最高裁判所は、正当防衛の成否と欺罔の有無について、改めて詳細な検討を行いました。
事件の経緯:酒場での発砲事件
1993年10月21日、イロイロ州サラの酒場で、被害者アンクーニャ・ジュニアとその仲間たちは飲酒していました。被告人である警察官デモンテベルデも私服で店内にいましたが、別のグループとテーブルを囲んでいました。被害者グループの一人が誤ってビール瓶を割ったことがきっかけで、デモンテベルデは彼らに注意しました。口論となり、デモンテベルデは所持していた銃を取り出し、被害者グループを威嚇。その後、被害者アンクーニャ・ジュニアと別の被害者パブリコに対して発砲し、アンクーニャ・ジュニアは死亡、パブリコも後に死亡しました。
一審の地方裁判所は、デモンテベルデの行為を欺罔による殺人罪と認定し、有罪判決を言い渡しました。デモンテベルデはこれを不服として上訴しました。上訴審では、正当防衛の成否と欺罔の有無が争点となりました。
最高裁判所は、事件の詳細な経緯を検証しました。証拠によれば、デモンテベルデは被害者グループに近づき、警察官であることを告げた上で、彼らを尋問しました。その後、口論がエスカレートし、発砲に至ったとされています。裁判所は、被害者側が凶器を所持していたという被告人の主張を退け、被害者からの不法な侵害はなかったと判断しました。また、発砲は過剰な防衛手段であり、合理的な必要性も認められないとしました。
しかし、裁判所は一審判決が認めた欺罔については否定しました。裁判所は、事件発生の経緯から、デモンテベルデが計画的にアンクーニャ・ジュニアを殺害しようとしたとは認められないと判断しました。事件は偶発的な要素が強く、欺罔の要件である計画性が欠如しているとされたのです。裁判所は判決文中で次のように述べています。
「欺罔は、犯罪者が被害者に防御の機会を与えずに、免責で殺害を確実にする意図的な攻撃方法を採用した場合に成立する。(中略)本件では、被告人が欺罔の意図をもって攻撃方法を計画的に採用したことを示す証拠はない。」
結果として、最高裁判所は、一審判決を一部変更し、デモンテベルデの罪状を欺罔による殺人罪から、単純な故殺罪に変更しました。量刑も減軽され、懲役刑の範囲が修正されました。
実務上の教訓:警察官と正当防衛、そして欺罔
本判例は、警察官が職務執行において武力を行使する際の法的限界を明確にしました。警察官といえども、正当防衛が認められるのは、不法な侵害が存在し、かつ防衛手段が合理的である場合に限られます。過剰な武力行使は、刑事責任を問われる可能性があります。
また、欺罔の認定には、計画性と不意打ち性が重要であり、偶発的な事件においては欺罔の成立は否定される傾向にあることが示されました。しかし、計画性が否定されたとしても、違法な行為が免責されるわけではありません。本件のように、正当防衛が否定されれば、故殺罪として処罰されることになります。
事業者の皆様においては、従業員への法的研修を通じて、正当防衛の要件と過剰防衛のリスクを周知徹底することが重要です。特に、警備員や保安要員など、武力を行使する可能性のある職種については、適切な訓練と法的知識の習得が不可欠です。
個人の皆様においては、不当な暴力や侵害を受けた場合でも、過剰な反撃は法的責任を招く可能性があることを理解しておく必要があります。正当防衛は、あくまで自己または他者の生命、身体、財産を守るための最終手段であり、冷静かつ合理的な判断が求められます。
重要なポイント
- 正当防衛の成立には、不法な侵害、合理的な防衛手段、挑発の不存在の3要件が必要。
- 警察官であっても、正当防衛の要件を満たさない武力行使は違法。
- 欺罔による殺人は、計画性と不意打ち性が要件。偶発的な事件では欺罔は否定される傾向。
- 過剰防衛は、故殺罪などの刑事責任を問われる可能性あり。
よくある質問(FAQ)
- Q: 正当防衛が認められる具体的なケースは?
A: 例えば、自宅に強盗が侵入し、生命の危険を感じて抵抗した場合や、路上で暴漢に襲われ、身を守るために反撃した場合などが考えられます。ただし、防衛手段は侵害の程度に見合ったものでなければなりません。 - Q: 過剰防衛とは?
A: 正当防衛の要件を満たすものの、防衛の程度が必要性を超えた場合を指します。例えば、軽微な暴行に対して、相手を殺してしまうような反撃は過剰防衛となる可能性があります。 - Q: 欺罔による殺人罪と、通常の殺人罪の違いは?
A: 欺罔による殺人は、計画的かつ不意打ち的な要素が加わるため、通常の殺人罪よりも重く処罰されます。刑法上の区別と量刑に違いがあります。 - Q: 警察官が職務中に誤って人を死なせてしまった場合、必ず罪に問われる?
A: いいえ、必ずしもそうとは限りません。正当な職務執行行為であれば、刑事責任を免れる場合があります。しかし、過剰な武力行使や、職務権限の濫用があった場合は、罪に問われる可能性があります。 - Q: 今回の判例から、企業としてどのような対策を講じるべき?
A: 従業員、特に警備員などに対して、正当防衛に関する法的研修を実施し、過剰防衛のリスクを周知徹底することが重要です。また、緊急時の対応マニュアルを整備し、適切な武力行使の基準を明確化することも有効です。
本稿では、デモンテベルデ事件を通じて、正当防衛と欺罔に関する重要な法的教訓を解説しました。より詳細なご相談や、個別の法的問題については、ASG Lawの専門家にご連絡ください。当事務所は、刑事事件、企業法務に関する豊富な経験を有しており、日本語と英語でリーガルサービスを提供しております。お気軽にお問い合わせください。
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Source: Supreme Court E-Library
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