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  • フィリピン法:精神疾患を理由とした殺人罪の免責の立証

    精神疾患を理由とした殺人罪の免責の立証責任

    G.R. No. 261972, August 23, 2023

    はじめに

    殺人事件において、被告が精神疾患を理由に免責を主張する場合、その立証責任は被告にあります。本件は、精神疾患を理由とした殺人罪の免責の立証責任について、フィリピン最高裁判所が判断を示した重要な事例です。

    事案の概要

    2015年10月15日午前11時頃、マーク・アンジェロ・コンセプション(以下「被告」)は、1歳7ヶ月の幼児AAA261972を、刃物(bolo)で頭部を切りつけ殺害しました。被告は、殺人罪で起訴され、裁判において精神疾患を理由に免責を主張しました。

    法的背景

    フィリピン刑法第12条1項は、精神薄弱者または精神病者は、刑事責任を免れると規定しています。ただし、精神病者が明晰な間隔で行動した場合はこの限りではありません。精神疾患を理由に免責を主張する者は、明確かつ説得力のある証拠によって、その事実を立証する責任を負います。

    精神疾患を理由とした免責は、自白と回避の性質を持ちます。つまり、被告は犯罪行為を認めるものの、精神疾患を理由に無罪を主張するのです。精神疾患を理由とした免責が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

    • 被告の精神疾患が、知性、理性、または識別力の完全な剥奪をもたらしていること
    • そのような精神疾患が、犯罪行為の時点、またはその直前に存在していたこと

    精神疾患の有無は、医学的に証明される必要があります。ただし、特異な状況下で、他に証拠がない場合はこの限りではありません。専門家による鑑定は、被告の精神状態を判断する上で、より高い証拠価値を持ちます。

    裁判所の判断

    地方裁判所(RTC)は、被告に殺人罪の有罪判決を下しました。控訴裁判所(CA)も、RTCの判決を支持しました。最高裁判所は、CAの判決を支持し、被告の控訴を棄却しました。最高裁判所は、被告が精神疾患を理由とした免責を立証できなかったと判断しました。

    裁判所は、被告が事件当時、精神疾患により知性、理性、または識別力を完全に剥奪されていたとは認めませんでした。裁判所は、被告が犯行時に「Ano, EEE261972, Ano, EEE261972!」と叫んでいたこと、犯行後、顔についた血痕を洗い流していたこと、警察官から逃走する際に凶器を投げ捨てていたことなどを考慮し、被告が自身の行動を認識していたと判断しました。

    裁判所はまた、被害者が1歳7ヶ月の幼児であり、自身を守る手段を持っていなかったことから、犯行には欺瞞性があったと判断しました。したがって、被告は殺人罪を犯したと認定されました。

    判決からの引用

    「精神疾患を理由とした免責を主張する者は、明確かつ説得力のある証拠によって、その事実を立証する責任を負う。」

    「精神疾患を理由とした免責が認められるためには、被告の精神疾患が、知性、理性、または識別力の完全な剥奪をもたらしていること、およびそのような精神疾患が、犯罪行為の時点、またはその直前に存在していたことが必要である。」

    「被害者が幼児である場合、その殺害には欺瞞性があるとみなされる。」

    実務上の影響

    本判決は、精神疾患を理由とした殺人罪の免責の立証責任に関する重要な先例となります。弁護士は、精神疾患を理由に免責を主張する際には、明確かつ説得力のある証拠を準備する必要があります。また、裁判所は、被告の行動や言動、および犯行時の状況を詳細に検討し、被告が自身の行動を認識していたかどうかを判断します。

    重要な教訓

    • 精神疾患を理由とした免責の立証責任は被告にある
    • 精神疾患を理由とした免責が認められるためには、知性、理性、または識別力の完全な剥奪が必要
    • 被害者が幼児である場合、その殺害には欺瞞性があるとみなされる

    よくある質問

    Q: 精神疾患を理由に免責を主張するには、どのような証拠が必要ですか?

    A: 精神科医の鑑定書、診断書、治療記録など、被告が精神疾患を患っていることを示す医学的な証拠が必要です。また、被告の行動や言動、および犯行時の状況に関する証拠も重要です。

    Q: 精神疾患を理由とした免責が認められるのは、どのような場合ですか?

    A: 被告が精神疾患により知性、理性、または識別力を完全に剥奪されており、その精神疾患が犯行時またはその直前に存在していた場合に、免責が認められる可能性があります。

    Q: 精神疾患を理由に免責を主張する場合、どのような弁護戦略が考えられますか?

    A: 精神科医の協力を得て、被告の精神状態を詳細に分析し、医学的な証拠を収集します。また、被告の行動や言動、および犯行時の状況に関する証拠を収集し、被告が自身の行動を認識していなかったことを立証します。

    Q: 被害者が幼児の場合、どのような影響がありますか?

    A: 被害者が幼児である場合、その殺害には欺瞞性があるとみなされるため、被告に不利な状況となります。

    Q: 精神疾患を理由とした免責が認められた場合、被告はどうなりますか?

    A: 裁判所は、被告を精神病院または精神障害者のための施設に収容することを命じます。被告は、裁判所の許可なしに施設を退所することはできません。

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  • 殺人罪から故殺罪へ:フィリピン最高裁判所判例解説 – 正当防衛と量刑の判断基準

    殺人罪から故殺罪へ:予見可能性と偶発性が鍵となる最高裁判所の判断

    [G.R. No. 117749, December 01, 2000] 人民対エスペロ

    フィリピンの刑事司法制度において、殺人罪と故殺罪の区別は、被告人の運命を大きく左右する重要な分岐点です。本稿では、最高裁判所が下した重要な判例、People v. Espero (G.R. No. 117749) を詳細に分析し、殺人罪から故殺罪へと量刑が変更された事例を通して、正当防衛、予見可能性、そして偶発性といった要素が、裁判所の判断にどのように影響を与えるのかを解説します。この判例は、単なる量刑の変更以上の意味を持ち、刑事事件における立証責任、証拠の重要性、そして法解釈の微妙なニュアンスを浮き彫りにします。

    殺人罪と故殺罪:フィリピン刑法の基礎

    フィリピン改正刑法第248条は殺人罪を、第249条は故殺罪を規定しています。殺人罪は、悪意あくい計画性けいかくせい残虐性ざんぎゃくせいなどの加重情状かじょうじょうじょうを伴う故意こい不法ふほうな殺人を指し、故殺罪は、これらの加重情状を欠く故意こい不法ふほうな殺人を指します。量刑は大きく異なり、殺人罪は終身刑しゅうしんけいまたは死刑、故殺罪は懲役刑ちょうえきけいとなります。

    本判例で重要な争点そうてんとなった「欺瞞ぎまん性(treachery)」は、殺人罪を構成こうせいする加重情状かじょうじょうじょうの一つであり、被害者が防御ぼうぎょできない状況下で、意図的いとてきかつ不意ふいに攻撃を加えることを意味します。最高裁判所は、過去の判例において、欺瞞ぎまん性を「攻撃が不意打ちであり、被害者が危険きけん予期よきまたは防御ぼうぎょする機会きかいがなかった場合に成立せいりつする」と定義しています。

    改正刑法第248条(殺人罪):

    「次のいずれかの状況じょうきょう下で人を殺害した者は、殺人罪をおかしたものとする。

    1. 欺瞞ぎまん重大じゅうだい侮辱ぶじょく放火ほうか洪水こうずい海賊行為かいぞくこうい、または猛毒もうどくの使用
    2. 明白めいはく計画性けいかくせい
    3. 尊厳そんげんいちじるしくそこなう残虐行為ざんぎゃくこうい、または苦痛くつう不必要ふひつよう増大ぞうだいさせる行為こうい

    殺人罪をおかした者は、終身刑しゅうしんけい(reclusion perpetua)から死刑の範囲はんい処罰しょばつされるものとする。」

    事件の経緯けいい:酒に酔った男の衝動しょうどう的な犯行か、計画的な殺人か

    1993年11月26日、被害者ホセ・タババンと目撃者もくげきしゃロデリック・ペレスは、通夜つやの席でカードゲームをしていたところ、被告人ナルド・エスペロが現れました。エスペロは酒に酔っており、特に理由もなくタババンをれ出しました。不審に思ったペレスが後を追うと、かりの少ないき地で、エスペロがタババンをきかかえ、ふところから刃物はものり出してむねを刺しました。タババンは病院びょういん搬送はんそうされましたが、まもなく死亡しました。

    第一審の地方裁判所ちほうさいばんしょは、目撃者もくげきしゃペレスの証言しょうげん信用しんようし、エスペロに殺人罪の有罪判決ゆうざいはんけつくだしました。しかし、最高裁判所は、欺瞞ぎまん性の立証りっしょう不十分ふじゅうぶんであるとして、判決はんけつ破棄はきし、故殺罪での有罪ゆうざいみとめました。最高裁判所は、エスペロとタババンの間に格闘かくとうがあったこと、タババンが完全かんぜん無防備むぼうびではなかったことを重視じゅうししました。

    最高裁判所の判断はんだん

    「記録された証拠しょうこは、被害者ホセ・タババンが、被告人エスペロの攻撃を認識にんしきしていなかった、または完全かんぜん無防備むぼうびであったことを証明しょうめいするにはいたらない。むしろ、ロデリック・ペレスの証言しょうげんによれば、被告人はホセ・タババンを約20メートルき地まできずり、2人は刃物はもの格闘かくとうをした後、被告人が被害者のむね一度いちど刺した。」

    この証言しょうげんから、最高裁判所は、欺瞞ぎまん性がなかったと判断はんだんし、殺人罪の成立せいりつ否定ひていしました。そして、故殺罪を適用てきようし、量刑を減軽げんけいしました。

    実務上の教訓きょうくん:刑事事件における立証責任りっしょうせきにん証拠しょうこ重要性じゅうようせい

    People v. Espero の判決はんけつは、刑事事件、特に殺人事件において、検察官が欺瞞ぎまん性などの加重情状かじょうじょうじょうを合理的なうたがいをえて立証りっしょうする責任せきにんを負っていることを再確認さいかくにんさせます。また、目撃者もくげきしゃ証言しょうげん詳細しょうさいさ、客観的きゃっかんてき証拠しょうこ検視けんし報告書ほうこくしょなど)との整合性せいごうせいが、裁判所の判断はんだんおおきく影響えいきょうすることを示唆しさしています。

    本判例からられる教訓きょうくんは、以下の通りです。

    • 立証責任りっしょうせきにん重要性じゅうようせい 殺人罪の成立せいりつには、欺瞞ぎまん性などの加重情状かじょうじょうじょう厳格げんかく立証りっしょう不可欠ふかけつです。
    • 証拠しょうこしつりょう 目撃者もくげきしゃ証言しょうげんだけでなく、客観的きゃっかんてき証拠しょうこ収集しゅうしゅうし、提示ていじすることが重要じゅうようです。
    • 弁護戦略べんごせんりゃく 弁護側は、欺瞞ぎまん性などの加重情状かじょうじょうじょう不存在ふそんざい主張しゅちょうし、量刑の減軽げんけい目指めざすことができます。

    よくある質問しつもん(FAQ)

    1. 殺人罪と故殺罪の最大さいだいちがいは何ですか?
      殺人罪は加重情状かじょうじょうじょうを伴う故意こいの殺人、故殺罪は加重情状かじょうじょうじょうを欠く故意こいの殺人です。量刑が大きく異なります。
    2. 欺瞞ぎまん性とは具体的にどのような状況じょうきょうしますか?
      被害者が防御ぼうぎょできない状態じょうたいで、意図的いとてきかつ不意ふいに攻撃を加える状況じょうきょうです。
    3. 本判例で、なぜ殺人罪から故殺罪に変更へんこうされたのですか?
      最高裁判所は、欺瞞ぎまん性の立証りっしょう不十分ふじゅうぶんであり、被害者が完全かんぜん無防備むぼうびではなかったと判断はんだんしたためです。
    4. 正当防衛せいとうぼうぎょみとめられましたか?
      本判例では正当防衛せいとうぼうぎょ争点そうてんとなっていません。被告人は犯行はんこう否認ひにんしており、正当防衛せいとうぼうぎょ主張しゅちょうしていません。
    5. 量刑りょうけいはどのようにわりましたか?
      殺人罪の終身刑しゅうしんけいから、故殺罪の懲役ちょうえき12年から17年4ヶ月の不定ふてい期刑きけい減軽げんけいされました。

    ASG Lawは、フィリピンの刑事法に精通せいつうしており、複雑な刑事事件においても、クライアントの権利けんり最大限さいだいげん擁護ようごします。刑事事件に関するご相談そうだんは、konnichiwa@asglawpartners.comまでお気軽きがるにおわせください。お問い合わせページからもご連絡れんらくいただけます。



    Source: Supreme Court E-Library
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