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  • 未登録団体もフィリピン労働法上の雇用主となり得るか?最高裁判所の判決解説

    未登録団体も雇用主責任を負う:組織形態と労働法上の義務

    G.R. No. 129076, 1998年11月25日

    はじめに

    フィリピンの労働法において、雇用主と従業員の関係は、登録された法人格の有無にかかわらず成立する場合があります。この原則は、多くの企業や団体、特に正式な法人格を持たない中小企業や組合にとって重要な意味を持ちます。もし、団体が未登録であっても、従業員を雇用し、その労働を管理していれば、労働法上の雇用主としての責任を負う可能性があるからです。本稿では、未登録の農業協同組合が雇用主責任を負うと判断された最高裁判所の判決を基に、この問題について解説します。

    背景

    本件は、未登録の農業協同組合であるオーランド・ファーム・グロワーズ・アソシエーション(以下、「 petitioners 」という)と、そこで働く従業員(以下、「 respondents 」という)との間の労働紛争です。 respondents は不当解雇などを理由に petitioners を訴えましたが、 petitioners は自身が未登録団体であり、雇用主ではないと主張しました。しかし、労働仲裁官および国家労働関係委員会(NLRC)は、 petitioners が実質的な雇用主であると認定し、 respondents の訴えを認めました。

    法的背景:雇用主と従業員の関係

    フィリピン労働法において、雇用主と従業員の関係は、以下の4つの要素によって判断されます。

    1. 従業員の選考と雇用:誰が従業員を選び、雇用したか。
    2. 賃金の支払い:誰が従業員に賃金を支払っていたか。
    3. 解雇権:誰が従業員を解雇する権限を持っていたか。
    4. 指揮命令権:誰が従業員の仕事の遂行方法を指示・監督していたか。

    これらの要素の中でも、特に重要なのは4番目の「指揮命令権」です。雇用主が従業員の仕事の進め方や方法について具体的な指示や監督を行っていた場合、雇用主と従業員の関係が認められやすくなります。

    また、労働法第212条(e)は、雇用主を「直接的または間接的に雇用主の利益のために行動する者」と定義しています。この定義は非常に広く、必ずしも法人格を持つ登録された事業者に限定されていません。重要なのは、実質的に従業員の労働を利用し、事業を運営している者が誰であるかという点です。

    最高裁判所の判断

    最高裁判所は、 petitioners の上訴を棄却し、NLRCの判断を支持しました。判決理由の重要なポイントは以下の通りです。

    • 未登録団体も雇用主となり得る:労働法は、雇用主が登録されていることを要求していません。未登録団体であっても、実質的に雇用主としての役割を果たしていれば、労働法上の責任を負います。
    • 指揮命令権の存在: petitioners は、従業員に対して欠勤や職場での規則に関する通達や覚書を発行し、IDカードも発行していました。これは、 petitioners が従業員を指揮命令し、管理していた証拠となります。
    • 和解交渉の実施: petitioners は、一部の従業員との間で金銭請求に関する和解交渉を行っていました。もし petitioners が雇用主でなければ、なぜ自らが関係のない労働紛争に介入し、和解する必要があったのでしょうか。この点も、 petitioners が雇用主であることを強く示唆しています。

    最高裁判所は、これらの事実から、 petitioners が実質的に respondents の雇用主であり、労働法上の責任を負うと判断しました。そして、 petitioners による respondents の解雇は不当解雇であると認定し、 respondents の復職と未払い賃金等の支払いを命じました。

    最高裁判所は判決文中で以下のようにも述べています。

    「…未登録団体であり、スタンフィルコ社との共同交渉の媒体としてのみ設立された petitioner は、法的に存在せず、したがって雇用主とは見なされないという主張は、誤解を招くものである。この主張は、改正労働法第212条(e)を参照すれば容易に退けられる。同条は、雇用主を、直接的または間接的に雇用主の利益のために行動する者と定義している。同条項を注意深く検討した結果、当裁判所は、法律は、雇用主が労働法の範囲に入る前に登録されることを要求していないと結論づける。これは、法律が区別しない場合、我々は区別すべきではないという、確立された法解釈の原則と一致する。そうしないと、雇用主が未登録団体である場合、従業員は、苦情の救済だけでなく、より重要なことに、法律によって彼らに与えられた保護と利益を否定される状況が生じるであろう。」

    この判決は、組織の形態に関わらず、実質的な雇用関係があれば労働法が適用されることを明確にしました。

    実務上の影響

    この判決は、フィリピンで事業を行う企業や団体にとって、以下の点で重要な教訓となります。

    • 組織形態に捉われない雇用主責任:法人格の有無や登録の有無にかかわらず、従業員を雇用し、その労働を管理する団体は、労働法上の雇用主責任を負う可能性があります。未登録の組合、協会、個人事業主なども例外ではありません。
    • 実質的な雇用関係の重視:雇用主と従業員の関係は、契約書の形式だけでなく、実際の指揮命令関係や賃金の支払い状況など、実質的な要素によって判断されます。
    • 労働法遵守の重要性:雇用主は、労働法に基づき、従業員の権利を保護し、適切な労働条件を提供する必要があります。不当解雇は違法であり、復職命令や未払い賃金の支払い義務が生じます。

    実務上のアドバイス

    企業や団体は、以下の点に留意し、労働法を遵守した労務管理を行うことが重要です。

    • 雇用契約の明確化:従業員との間で雇用契約書を作成し、労働条件(賃金、労働時間、休日、業務内容など)を明確に定める。
    • 就業規則の整備:就業規則を作成し、従業員に周知する。
    • 適切な指揮命令・監督:従業員に対して業務指示や指導を行う場合は、適切な範囲内で行い、違法な指示やハラスメントに該当する行為は避ける。
    • 解雇手続きの遵守:従業員を解雇する場合は、労働法で定められた正当な理由が必要であり、解雇予告や弁明の機会付与など、適切な手続きを踏む。
    • 労働問題への適切な対応:従業員から労働問題に関する相談や苦情があった場合は、誠実に対応し、必要に応じて専門家(弁護士、労働コンサルタントなど)に相談する。

    キーレッスン

    • フィリピン労働法において、未登録団体も雇用主となり得る。
    • 雇用主責任は、組織の形態ではなく、実質的な雇用関係によって判断される。
    • 企業や団体は、法人格の有無にかかわらず、労働法を遵守した労務管理を行う必要がある。

    よくある質問 (FAQ)

    Q1: 未登録の組合ですが、従業員を雇用できますか?

    A1: はい、未登録の組合でも従業員を雇用することは可能です。ただし、雇用主として労働法上の責任を負うことになります。

    Q2: 雇用契約書は必ず作成する必要がありますか?

    A2: はい、雇用契約書を作成し、労働条件を明確にすることをお勧めします。書面での契約は、後々のトラブルを防止する上で非常に重要です。

    Q3: 従業員を解雇する場合、どのような手続きが必要ですか?

    A3: 従業員を解雇するには、正当な理由が必要です。また、解雇予告通知を従業員に送付し、弁明の機会を与える必要があります。解雇理由や手続きが不当である場合、不当解雇と判断される可能性があります。

    Q4: 労働問題を弁護士に相談するメリットは?

    A4: 労働問題は法的な専門知識が必要となる場合が多いため、弁護士に相談することで、適切なアドバイスやサポートを受けることができます。法的リスクを最小限に抑え、円満な解決を図ることが期待できます。

    Q5: 労働法に関する最新情報を得るにはどうすれば良いですか?

    A5: フィリピン労働雇用省(DOLE)のウェブサイトや、労働法専門の弁護士事務所のウェブサイトなどで最新情報を確認することができます。また、労働法に関するセミナーや研修に参加するのも有効です。

    ASG Lawは、フィリピンの労働法務に精通した法律事務所です。本稿で解説した未登録団体の雇用主責任に関する問題を含め、労務管理に関する様々なご相談に対応しております。貴社の事業運営を法的にサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。

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  • 未登録団体における紛争:フィリピン最高裁判所が管轄権の範囲を明確化

    未登録団体内の紛争は、SECではなく通常裁判所の管轄

    G.R. No. 125221, 1997年6月19日

    事業を始めたばかりの組合や団体にとって、内部紛争は避けられない問題です。しかし、団体が正式に登録されていない場合、紛争解決の場はどこになるのでしょうか?今回の最高裁判所の判決は、そのような未登録団体における紛争の管轄権について、重要な指針を示しています。もし管轄を間違えてしまうと、訴訟が却下されるだけでなく、時間と費用も無駄になってしまいます。本稿では、この判例を詳細に分析し、未登録団体が直面する可能性のある紛争と、その適切な解決策について解説します。

    SECの管轄権の範囲:法律と判例

    フィリピン証券取引委員会(SEC)は、PD 902-A第5条に基づき、登録された法人、パートナーシップ、または団体に関する特定の問題について、原管轄権および専属管轄権を有しています。具体的には、以下の事項がSECの管轄に属します。

    • 取締役、役員、またはパートナーによる詐欺や不正行為
    • 株主、会員、またはアソシエイト間の内部紛争
    • 役員または管理者の選任に関する紛争
    • 支払停止の請願

    重要なのは、SECの管轄権が、当事者の関係性と紛争の本質という2つの要素によって決定されることです。第一に、紛争は法人内またはパートナーシップ関係から生じている必要があります。第二に、紛争は法人の規制または内部事務に本質的に関連している必要があります。これらの要件は、SECが企業、パートナーシップ、および団体の監督と管理を主な機能としていることに由来します。これは、これらの組織への投資を促進し、経済発展を促進することを目的としています。

    しかし、SECの管轄権は無制限ではありません。今回の判例が示すように、未登録の団体、または登録が完了していない団体に関する紛争は、原則としてSECの管轄外となります。

    事件の経緯:未登録の統合組合を巡る紛争

    本件は、未登録の統合ジプニー運転手・事業者組合(UMAJODA)の設立を巡る紛争です。原告ロザーノ氏は、KAMAJDAの会長であり、被告アンダ氏はSAMAJODAの会長でした。両団体は、マバラカット市のサンギウニアン・バヤン(町議会)の要請に基づき、統合してUMAJODAを設立し、運営を一本化することで合意しました。しかし、選挙の結果を巡り、アンダ氏が不正を主張し、合意を履行せず、組合費の徴収を続けたため、ロザーノ氏は損害賠償請求訴訟を地方裁判所(MCTC)に提起しました。

    アンダ氏は、SECに管轄権があるとして訴訟の却下を求めましたが、MCTCはこれを否認しました。アンダ氏は地方裁判所(RTC)に訴えましたが、RTCはSECに管轄権があると判断し、MCTCに訴訟の却下を命じました。これに対し、ロザーノ氏が最高裁判所に上訴したのが本件です。

    最高裁判所は、RTCの判断を覆し、MCTCに審理を継続するよう命じました。その理由として、最高裁判所は以下の点を指摘しました。

    • UMAJODAはSECに登録されておらず、法人格を取得していない。
    • 原告と被告は、未だ登録されていないUMAJODAの会員ではなく、それぞれ別の登録済み団体の会員である。
    • 紛争は、法人内紛争ではなく、単なる契約上の紛争である。

    最高裁判所は、「法人類似の原則」という被告の主張も退けました。法人類似の原則は、衡平の原則に基づいており、第三者との取引関係において法人として行動した場合に適用されます。本件では、第三者が関与しておらず、紛争は未登録の法人を形成しようとした当事者間でのみ生じているため、法人類似の原則は適用されません。

    最高裁判所は、管轄権は法律によって定められており、当事者の合意によって変更できないという原則を改めて強調しました。管轄権は、当事者の行為や不作為によって取得または放棄されることはなく、裁判所の黙認によって与えられることもありません。

    実務上の教訓:未登録団体の紛争予防と解決

    この判例から、未登録団体における紛争は、原則としてSECではなく、通常裁判所の管轄に属することが明確になりました。これは、特に中小規模の組合や団体にとって重要な意味を持ちます。団体を設立する際には、早期にSECへの登録を済ませることが、将来の紛争予防につながります。

    未登録の団体が紛争に巻き込まれた場合、以下の点に注意する必要があります。

    • 紛争の種類を正確に把握する(法人内紛争か、契約上の紛争かなど)。
    • 管轄権を慎重に検討し、適切な裁判所に訴訟を提起する。
    • 法人登録の有無が管轄権に大きな影響を与えることを理解する。

    特に、団体間の統合や合併を計画している場合は、SECへの登録手続きを確実に行うことが不可欠です。登録が完了するまでは、紛争が通常裁判所の管轄となる可能性があることを念頭に置いておく必要があります。

    主要な教訓

    • 未登録団体における会員間の紛争は、原則としてSECの管轄外であり、通常裁判所の管轄となる。
    • 法人類似の原則は、第三者が関与する取引関係においてのみ適用され、未登録団体内部の紛争には適用されない。
    • SECの管轄権は法律で定められており、当事者の合意や裁判所の黙認によって変更することはできない。
    • 団体設立時には、早期にSECへの登録を済ませることが、将来の紛争予防に繋がる。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: 未登録の組合ですが、会員間でトラブルが起きました。どこに相談すれば良いですか?

    A1: まずは弁護士にご相談ください。今回の最高裁判所の判例に基づき、未登録団体における会員間の紛争は、通常裁判所の管轄となる可能性が高いです。弁護士は、紛争の内容を詳しく伺い、適切な法的アドバイスを提供します。

    Q2: SECに登録すれば、どんな紛争でもSECが解決してくれるのですか?

    A2: いいえ、SECの管轄権は限定的です。SECは、主に法人内紛争や役員の不正行為など、法律で定められた特定の事項についてのみ管轄権を持ちます。契約上の紛争など、SECの管轄外となる紛争も存在します。

    Q3: 法人類似の原則とは何ですか?どのような場合に適用されますか?

    A3: 法人類似の原則とは、法人格がないにもかかわらず、法人であるかのように振る舞った場合に、法人と同様の責任を負うという考え方です。この原則は、主に第三者との取引関係において、取引の安全を保護するために適用されます。未登録団体内部の紛争には、原則として適用されません。

    Q4: 組合をSECに登録するメリットは何ですか?

    A4: SECに登録することで、法人格を取得し、法的保護を受けることができます。また、法人としての権利義務が明確になり、組織運営が円滑になります。さらに、今回の判例のように、紛争が発生した場合の管轄権も明確になるため、迅速な紛争解決が期待できます。

    Q5: 団体を設立する際、SEC登録以外に必要な手続きはありますか?

    A5: SEC登録以外にも、事業の種類や規模に応じて、地方自治体への事業許可申請や、税務署への登録など、様々な手続きが必要となる場合があります。弁護士や専門家にご相談いただくことをお勧めします。

    未登録団体における紛争でお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。当事務所は、フィリピン法に精通した弁護士が、お客様の状況を丁寧にヒアリングし、最適な法的解決策をご提案いたします。
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