フィリピン法:精神疾患を理由とした刑事責任の免除は認められるか?
G.R. No. 267795, April 15, 2024
はじめに
精神疾患を患っている人が犯罪を犯した場合、その人は刑事責任を問われるのでしょうか?今回の判例は、殺人罪で起訴された被告人が、精神疾患を理由に無罪を主張した事件です。この判例を通して、フィリピン法における精神疾患と刑事責任の関係について解説します。
事件の概要
ホセ・P・ラグド・ジュニア(以下「ラグド」)は、ゴー・グループ・オブ・カンパニーズの警備員でした。2014年3月21日午後4時頃、ラグドは同社の従業員であるナンシー・A・カカヨリン(以下「カカヨリン」)を刺殺したとして、殺人罪で起訴されました。また、ラグドは同社所有の銃を盗み、公共の場で発砲したとして、窃盗罪と騒乱罪でも起訴されました。
法律の背景
フィリピン刑法第12条は、以下のように規定しています。
第12条 責任を免除される状況
以下の者は、刑事責任を負わないものとする。
1. 精神疾患または精神障害者。ただし、明晰夢を見ている間に行為を行った場合はこの限りでない。
つまり、犯罪行為時に精神疾患を患っていた場合、刑事責任を免れる可能性があります。しかし、精神疾患を理由に刑事責任を免れるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 犯罪行為時に精神疾患を患っていたこと
- 精神疾患が犯罪行為の主要な原因であること
- 精神疾患の結果、行為の性質や質、または違法性を理解する能力がなかったこと
これらの要件は、明確かつ説得力のある証拠によって証明されなければなりません。
判例分析
ラグドは、事件当時、精神疾患を患っており、行為の性質や違法性を理解する能力がなかったとして、無罪を主張しました。ラグドは、国立精神保健センター(NCMH)の医師による鑑定結果を証拠として提出しました。NCMHの鑑定結果は、ラグドが統合失調症を患っており、事件当時、精神錯乱状態にあった可能性があると示唆していました。
しかし、地方裁判所(RTC)と控訴裁判所(CA)は、ラグドの主張を認めませんでした。裁判所は、以下の理由から、ラグドが事件当時、精神疾患を患っていたことを証明する十分な証拠がないと判断しました。
- NCMHの鑑定は、事件から1年以上経過した後に実施されたものであり、事件当時のラグドの精神状態を正確に反映しているとは限らない。
- NCMHの鑑定は、ラグド自身の証言に基づいており、客観的な証拠に裏付けられていない。
- 事件当時、ラグドの行動は正常であり、精神疾患の兆候は見られなかったという証言がある。
裁判所は、ラグドが事件当時、カカヨリンを刺殺し、銃を盗んだことを認識しており、行為の性質や違法性を理解していたと判断しました。したがって、ラグドは刑事責任を免れることはできません。
裁判所は、ラグドの行為は殺人罪に該当すると判断しました。しかし、ラグドの行為に計画性や残虐性が認められないとして、殺人罪から故殺罪に減刑しました。また、ラグドは窃盗罪でも有罪とされました。
最高裁判所(SC)は、控訴裁判所の判決を一部変更し、ラグドの故殺罪と窃盗罪での有罪判決を支持しました。
「精神疾患を理由に刑事責任を免れるためには、犯罪行為時に精神疾患を患っていたこと、精神疾患が犯罪行為の主要な原因であること、精神疾患の結果、行為の性質や質、または違法性を理解する能力がなかったことを証明する必要がある。」
「精神疾患を理由に刑事責任を免れるためには、明確かつ説得力のある証拠が必要である。」
実務上の影響
今回の判例は、精神疾患を理由に刑事責任を免れることがいかに難しいかを示しています。精神疾患を患っている人が犯罪を犯した場合、弁護士は、クライアントが事件当時、精神疾患を患っており、行為の性質や違法性を理解する能力がなかったことを証明するために、十分な証拠を収集する必要があります。
また、今回の判例は、精神疾患を患っている人が、犯罪を犯す可能性を減らすために、適切な治療を受けることが重要であることを示唆しています。
主な教訓
- 精神疾患を理由に刑事責任を免れるためには、厳しい要件を満たす必要がある。
- 精神疾患を患っている人が犯罪を犯した場合、弁護士は、クライアントが事件当時、精神疾患を患っており、行為の性質や違法性を理解する能力がなかったことを証明するために、十分な証拠を収集する必要がある。
- 精神疾患を患っている人は、犯罪を犯す可能性を減らすために、適切な治療を受けることが重要である。
よくある質問(FAQ)
Q: 精神疾患を患っている人は、どのような犯罪を犯しても刑事責任を免れることができますか?
A: いいえ。精神疾患を理由に刑事責任を免れるためには、犯罪行為時に精神疾患を患っていたこと、精神疾患が犯罪行為の主要な原因であること、精神疾患の結果、行為の性質や質、または違法性を理解する能力がなかったことを証明する必要があります。
Q: 精神疾患を理由に刑事責任を免れるためには、どのような証拠が必要ですか?
A: 精神疾患を理由に刑事責任を免れるためには、医師の診断書、鑑定書、証言など、明確かつ説得力のある証拠が必要です。
Q: 精神疾患を理由に刑事責任を免れた場合、その人はどうなりますか?
A: 精神疾患を理由に刑事責任を免れた場合、その人は精神病院に入院させられることがあります。入院期間は、その人の精神状態や犯罪の種類によって異なります。
Q: 精神疾患を患っている人が犯罪を犯した場合、被害者はどのように救済されますか?
A: 精神疾患を患っている人が犯罪を犯した場合でも、被害者は損害賠償を請求することができます。損害賠償の額は、被害者の損害の種類や程度によって異なります。
Q: 精神疾患を患っている人が犯罪を犯すことを防ぐためには、どうすればよいですか?
A: 精神疾患を患っている人が犯罪を犯すことを防ぐためには、早期発見と適切な治療が重要です。また、精神疾患を患っている人が社会的に孤立しないように、周囲の人がサポートすることも大切です。
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