誠意ある信念に基づく行為は、重大な不正行為とはみなされず、解雇の正当な理由とはならない
G.R. Nos. 208738-39, June 05, 2024
顧客情報の保護は、企業にとって重要な課題です。しかし、従業員が顧客情報を開示したとしても、その行為が常に解雇の正当な理由となるわけではありません。重要なのは、従業員の行為に「悪意」や「不正な意図」があったかどうかです。本稿では、フィリピン最高裁判所の判決に基づき、不当解雇事件における「誠意ある信念」の重要性について解説します。
法的背景:解雇の正当な理由と誠意ある信念
フィリピン労働法典第297条(旧第282条)は、解雇の正当な理由を列挙しています。その一つが「重大な不正行為または雇用主の正当な命令に対する従業員の意図的な不服従」です。しかし、単なる不正行為や不服従だけでは解雇は認められません。重要なのは、従業員の行為が「重大」であり、「意図的」であることです。
最高裁判所は、過去の判例において、「不正行為とは、不適切または誤った行為であり、確立された明確な行動規範の違反、禁止された行為、義務の放棄であり、意図的な性質を持ち、誤った意図を意味し、単なる判断の誤りではない」と定義しています。つまり、従業員の行為が解雇の正当な理由となるためには、その行為に「悪意」や「不正な意図」が伴っていなければなりません。
本件に関連する重要な条項は、以下のとおりです。
労働法典第297条(旧第282条):
(a) 重大な不正行為または雇用主の正当な命令に対する従業員の意図的な不服従。
従業員の行為が「誠意ある信念」に基づいていた場合、つまり、その行為が正当であると信じるに足る合理的な理由があった場合、その行為は「悪意」や「不正な意図」を欠き、解雇の正当な理由とはなりません。例えば、従業員が緊急事態に対処するために、会社の規則を一時的に逸脱した場合、その行為が誠意に基づいていると認められれば、解雇は不当となる可能性があります。
事件の概要:シティグループ対コルプス事件
本件は、シティグループの従業員であるコルプス氏が、顧客情報を第三者に開示したとして解雇された事件です。コルプス氏は、電話をかけてきた人物がシティグループの提携会社であるメットライフの担当者であると信じ、顧客の口座情報を開示しました。しかし、シティグループは、コルプス氏の行為が会社の情報セキュリティポリシーに違反するとして解雇しました。
本件は、労働仲裁人(LA)、国家労働関係委員会(NLRC)、控訴院(CA)を経て、最高裁判所に上訴されました。それぞれの裁判所の判断は異なりました。LAは解雇を有効と判断しましたが、NLRCは手続き上の瑕疵を認め、名目的な損害賠償を命じました。CAは、コルプス氏の解雇は不当であると判断し、復職と賃金の支払いを命じました。
最高裁判所は、CAの判断を支持し、コルプス氏の解雇は不当であると判断しました。最高裁判所は、コルプス氏が顧客情報を開示したのは、メットライフの担当者であると誠実に信じていたためであり、その行為に「悪意」や「不正な意図」はなかったと判断しました。
最高裁判所は、判決の中で次のように述べています。
コルプス氏が情報を開示したのは、債権回収のために顧客にサービスを提供するためであり、コルプス氏が情報を提供した人物がシティグループの提携会社であるメットライフの担当者であると誠実に信じていたという事実を考慮すると、コルプス氏の行為は「悪意」や「不正な意図」を伴うものではないと判断される。
最高裁判所はまた、コルプス氏の行為がシティグループに損害を与えたという証拠がないことも指摘しました。
実務上の影響:企業が留意すべき点
本判決は、企業が従業員を解雇する際に、従業員の行為に「悪意」や「不正な意図」があったかどうかを慎重に検討する必要があることを示しています。特に、従業員の行為が「誠意ある信念」に基づいていた場合、解雇は不当と判断される可能性があります。
企業は、従業員に対する教育や研修を通じて、会社の規則やポリシーを周知徹底する必要があります。また、従業員が規則やポリシーを逸脱した場合でも、その行為の背景や動機を十分に調査し、解雇以外の選択肢も検討する必要があります。
重要な教訓
- 従業員の行為に「悪意」や「不正な意図」がなければ、解雇は不当となる可能性がある
- 従業員の行為が「誠意ある信念」に基づいていた場合、解雇は不当となる可能性が高い
- 企業は、従業員に対する教育や研修を通じて、会社の規則やポリシーを周知徹底する必要がある
- 企業は、従業員の行為の背景や動機を十分に調査し、解雇以外の選択肢も検討する必要がある
例えば、ある銀行の従業員が、顧客からの緊急の要請を受け、通常の本人確認手続きを省略して送金手続きを行ったとします。その後、その送金が詐欺であることが判明した場合でも、従業員が顧客を助けるために誠意を持って行動したと認められれば、その従業員を解雇することは不当と判断される可能性があります。
よくある質問
Q:従業員の行為が「誠意ある信念」に基づいていたかどうかは、どのように判断されるのですか?
A:裁判所は、従業員の行為の背景や動機、従業員がその行為が正当であると信じるに足る合理的な理由があったかどうかなどを総合的に判断します。
Q:従業員が会社の規則やポリシーに違反した場合、常に解雇は不当となるのですか?
A:いいえ、そうではありません。重要なのは、従業員の行為に「悪意」や「不正な意図」があったかどうかです。従業員の行為が「誠意ある信念」に基づいていた場合、解雇は不当となる可能性が高くなります。
Q:企業は、従業員の解雇を検討する際に、どのような点に留意すべきですか?
A:企業は、従業員の行為の背景や動機を十分に調査し、解雇以外の選択肢も検討する必要があります。また、従業員に対する教育や研修を通じて、会社の規則やポリシーを周知徹底する必要があります。
Q:解雇が不当と判断された場合、従業員はどのような救済を受けることができますか?
A:従業員は、復職、賃金の支払い、損害賠償などの救済を受けることができます。
Q:本判決は、どのような企業に影響を与えますか?
A:本判決は、従業員を雇用するすべての企業に影響を与えます。特に、顧客情報を扱う企業や、厳格な規則やポリシーを設けている企業は、本判決の趣旨を理解し、従業員の解雇を検討する際に、より慎重な判断が求められます。
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