建設業における継続的な再雇用はプロジェクト契約社員を正社員に変える
G.R. No. 184362, 2010年11月15日
建設業界で働く人々にとって、雇用形態は常に重要な関心事です。特にプロジェクト契約社員として雇用された場合、その雇用がいつまで続くのか、正社員への転換は可能なのかなど、多くの疑問が生じます。本稿では、フィリピン最高裁判所の判例、ミレニアム・エレクターズ・コーポレーション対ヴィルジリオ・マガリャネス事件(G.R. No. 184362)を基に、建設業におけるプロジェクト契約社員の正社員化について解説します。この判例は、継続的に再雇用されたプロジェクト契約社員は、その雇用形態が実質的に正社員と変わらないと見なされる場合があることを示唆しています。建設業界で働く労働者だけでなく、企業の人事担当者にとっても重要な示唆に富む判例と言えるでしょう。
プロジェクト契約社員と正社員:フィリピン労働法における区別
フィリピン労働法では、雇用形態は大きく分けて正社員(Regular Employee)とプロジェクト契約社員(Project Employee)に分類されます。プロジェクト契約社員とは、特定のプロジェクトのために雇用され、プロジェクトの完了とともに雇用契約が終了する従業員を指します。一方、正社員は、企業の通常の事業活動に必要不可欠な業務に従事し、期間の定めなく雇用される従業員です。正社員は、不当な解雇から保護される権利(Security of Tenure)を有しており、これはフィリピン労働法において非常に重要な原則です。
労働法第295条(旧労働法第280条)は、正社員を次のように定義しています。
「正社員とは、合理的に定期的な業務を遂行するために雇用された者をいう。ただし、確立された事業経営の通常の業務または事業活動に通常必要または望ましい業務を遂行するために1年以上勤務した臨時の雇用者は、その雇用契約を問わず、正社員と見なされるものとする。」
一方、プロジェクト契約社員については、法律で明確な定義はありませんが、判例法において、「雇用期間が特定のプロジェクトまたは事業のために固定されており、従業員の雇用時にその完了または終了が決定されている、または、実施される業務またはサービスが季節的性質のものであり、雇用期間が季節の期間である者」と定義されています(Saberola v. Suarez, G.R. No. 151227)。
この区別は、従業員の権利、特に解雇に関する権利に大きな影響を与えます。プロジェクト契約社員は、プロジェクトの完了時に雇用が終了することが予定されているため、原則としてプロジェクト完了による解雇は適法とされます。しかし、正社員は、正当な理由と適正な手続きなしには解雇できません。このため、雇用形態の区別は、労働紛争において頻繁に争点となります。
ミレニアム・エレクターズ・コーポレーション事件の経緯
本件の原告ヴィルジリオ・マガリャネスは、1988年からミレニアム・エレクターズ・コーポレーション(以下、 petitioner)の最高経営責任者であるローレンチト・ティウの下で utility man(雑用係)として働き始めました。当初はティウの個人、家族、関連会社ケネス・コンストラクションでも勤務していましたが、後にpetitionerの建設プロジェクトのみに従事するようになりました。マガリャネスは、首都圏内の様々な建設プロジェクトに派遣され、最後に派遣されたリビス(ケソン市)の建設プロジェクトで、2004年7月に高齢を理由に解雇を言い渡されました。これに対し、マガリャネスは不当解雇であるとして労働仲裁裁判所に訴えを起こしました。
Petitionerは、マガリャネスをリビスのプロジェクトのために2003年1月30日に雇用したプロジェクト契約社員であると主張しました。証拠として、マガリャネスとの間で締結した雇用契約書、プロジェクト完了間近を理由とした2004年8月3日付の解雇通知、およびマガリャネスに2,000ペソの経済援助を支給し、彼が免責事項と権利放棄書に署名したことを示す証拠を提出しました。また、労働雇用省(DOLE)に2004年8月17日付の解雇報告書を提出したことも明らかにしました。
Petitionerは、マガリャネスが1988年から勤務していたという主張に対し、petitionerが設立されたのは2000年2月であり、1989年に設立され2000年に解散したケネス・コンストラクションはpetitionerとは別法人であると反論しました。
労働仲裁裁判所は、マガリャネスがプロジェクト契約社員であることを認識していたこと、雇用契約書にプロジェクト名と期間が明記されていたこと、DOLEへの解雇報告書からプロジェクトが完了したことが確認できることなどを理由に、petitionerの主張を認め、マガリャネスの訴えを棄却しました。労働仲裁裁判所は、マガリャネスが複数の建設プロジェクトに派遣されたことを認めているにもかかわらず、解雇に関する詳細(誰に、いつ、どのような状況で解雇されたのか)を具体的に説明できていない点を指摘しました。
マガリャネスはこれを不服として国家労働関係委員会(NLRC)に控訴しました。NLRCは、雇用契約書に雇用開始日は記載されているものの、明確な終了日が記載されておらず、類似の契約の期間と範囲は明確に定められるべきという規則に反していると指摘しました。また、petitionerが提出した給与台帳から、マガリャネスが2003年ではなく2001年から雇用されていたことが判明し、マガリャネスが訴えを起こすまでの16年間petitionerに勤務していたという主張を裏付ける証拠となると判断しました。
NLRCは、マガリャネスのutility manとしての業務は、建設会社であるpetitionerの通常の事業活動に不可欠ではないかもしれないが、16年間継続して同じ業務を遂行してきたことは、当初は一時的な雇用であったとしても、正社員としての雇用に転換されたと結論付けました。したがって、正当な理由または許可された理由なくマガリャネスを解雇したことは不当解雇にあたると判断しました。
Petitionerは、NLRCの決定を不服として再考を求めましたが、NLRCはこれを棄却しました。Petitionerは控訴裁判所に上訴しましたが、控訴裁判所もNLRCの決定を支持しました。再考の申し立てが棄却されたため、petitionerは最高裁判所に上告しました。
最高裁判所の判断:手続き上の柔軟性と実質的正義の実現
Petitionerは、マガリャネスが期限内に控訴手続きを完了できなかったため、労働仲裁裁判所の決定が確定しており、NLRCの決定は無効であると主張しました。しかし、最高裁判所は、労働事件においては、手続き規則は厳格かつ技術的に適用されるべきではないという原則を強調しました。手続き規則は、正義の実現を促進するための手段であり、厳格な適用が実質的な正義を阻害する場合には、技術的な規則に固執すべきではないとしました。最高裁判所は、手続き上の些細な欠陥(申立書の検証の欠如、相手方への送達証明の欠如など)があったとしても、NLRCがマガリャネスの再審請求を控訴として扱ったことは正当であると判断しました。
最高裁判所は、Pacquing v. Coca-Cola Philippines, Inc.事件(G.R. No. 157966)を引用し、申立書の検証は形式的な要件であり、管轄権の問題ではないと指摘しました。検証は、申立書の内容が真実かつ正確であり、虚偽または憶測に基づくものではないことを保証するためのものであり、申立書が誠実に提出されたことを確認するためのものです。裁判所または審判所は、検証が欠落している場合には申立書の修正を命じることができますが、正義の実現のためには、規則の厳格な遵守を免除することができる場合もあります。
また、送達証明の要件についても、労働事件の控訴においては、相手方への控訴状または控訴理由書の送達の欠如は、控訴の却下を招く管轄権の欠陥ではないとしました(Remerco Garments Manufacturing v. Minister of Labor and Employment, G.R. Nos. L-56176-77)。
最高裁判所は、手続き上の問題点を克服した上で、本案について検討し、マガリャネスがプロジェクト契約社員ではなく、正社員であったと判断しました。最高裁判所は、Saberola v. Suarez事件の判例を引用し、プロジェクト契約社員の定義を再確認しました。また、Equipment Technical Services v. Court of Appeals事件(G.R. No. 157680)を引用し、プロジェクト契約社員の雇用期間はプロジェクトと連動し、プロジェクトの完了とともに終了するのに対し、正社員は雇用保障を享受し、労働法で認められた解雇事由がない限り、職を保持する権利を有すると強調しました。
Petitionerが提出した2001年からの給与台帳は、マガリャネスがpetitionerに雇用されていたことを示しており、控訴裁判所が指摘したように、petitionerの主張を裏付けるものではなく、むしろマガリャネスが16年間とは言わないまでも、解雇される少なくとも2年前から様々なプロジェクトに従事していたという主張を裏付ける証拠となるとしました。
最高裁判所は、仮にマガリャネスが当初プロジェクトごとに雇用されていたとしても、給与台帳が示す継続的な再雇用によって、その地位は正社員に転換されたと判断しました。Cocomangas Beach Hotel Resort v. Visca事件(G.R. No. 167045)の判例に倣い、マガリャネスのサービスの継続的な必要性は、petitionerの事業にとって彼のサービスが必要不可欠であることの十分な証拠であり、正社員であるマガリャネスは、正当な理由または許可された理由なしには解雇できないとしました。Petitionerは、マガリャネスの解雇に正当な理由と適正な手続きがあったことを証明できなかったため、最高裁判所は控訴裁判所の決定を支持し、petitionerの上告を棄却しました。
実務上の教訓と今後の展望
本判例から得られる最も重要な教訓は、建設業界におけるプロジェクト契約社員の雇用管理の難しさです。企業は、プロジェクト契約社員として雇用した従業員であっても、継続的に再雇用する場合、その雇用形態が実質的に正社員と変わらないと見なされるリスクがあることを認識する必要があります。特に、utility manのような職種は、特定のプロジェクトに限定されず、企業の継続的な事業活動に必要とされる場合が多く、継続的な再雇用によって正社員化のリスクが高まります。
企業は、プロジェクト契約社員の雇用契約を締結する際、プロジェクトの範囲、期間、完了時期などを明確に定める必要があります。また、プロジェクトが完了した際には、雇用契約を適切に終了し、次のプロジェクトで再雇用する場合には、新たな雇用契約を締結する必要があります。安易な再雇用は、従業員の正社員化を招き、不当解雇訴訟のリスクを高める可能性があります。
一方、労働者にとっては、本判例は、継続的に再雇用されているにもかかわらず、プロジェクト契約社員として扱われている場合、正社員としての地位を主張できる可能性を示唆しています。自身の雇用形態がプロジェクト契約社員として適切なのか、正社員に転換されるべきではないかなど、疑問がある場合は、専門家(弁護士、労働組合など)に相談することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q1. プロジェクト契約社員とは何ですか?
A1. 特定のプロジェクトのために雇用され、プロジェクトの完了とともに雇用契約が終了する従業員です。
Q2. 正社員とは何ですか?
A2. 企業の通常の事業活動に必要不可欠な業務に従事し、期間の定めなく雇用される従業員です。不当解雇から保護される権利を有します。
Q3. 継続的な再雇用は、プロジェクト契約社員の地位にどのような影響を与えますか?
A3. 継続的に再雇用された場合、当初はプロジェクト契約社員として雇用された従業員であっても、実質的に正社員と見なされる可能性があります。特に、業務内容が特定のプロジェクトに限定されず、企業の継続的な事業活動に必要な場合、正社員化のリスクが高まります。
Q4. 企業は、プロジェクト契約社員の正社員化を防ぐために、どのような対策を講じるべきですか?
A4. プロジェクト契約社員の雇用契約書に、プロジェクトの範囲、期間、完了時期を明確に定めること、プロジェクト完了時に雇用契約を適切に終了し、再雇用する場合には新たな雇用契約を締結することなどが重要です。
Q5. 不当解雇されたと感じた場合、労働者はどうすればよいですか?
A5. まずは、解雇理由を企業に確認し、雇用契約書や給与明細などの証拠を収集してください。その後、労働組合や弁護士などの専門家に相談し、法的アドバイスを受けることをお勧めします。フィリピンでは、労働仲裁裁判所(NLRC)に不当解雇の訴えを提起することができます。
Q6. 経済援助(financial assistance)と退職金(separation pay)の違いは何ですか?
A6. 経済援助は、企業が従業員に任意で支給する金銭であり、法的義務はありません。一方、退職金は、法律または労働協約に基づいて、特定の条件を満たす従業員に支払われるべき金銭です。不当解雇の場合、正社員は退職金に加えて、給与相当額の損害賠償などを請求できる場合があります。
Q7. 労働事件における手続き規則の柔軟性とは何ですか?
A7. 労働事件では、手続き規則は厳格に適用されるのではなく、実質的な正義の実現が優先されます。したがって、申立書の検証の欠如や送達証明の欠如などの手続き上の些細な欠陥があっても、訴えが却下されることはありません。労働審判所やNLRCは、手続き上の欠陥を修正する機会を与えたり、実質的な正義のために手続き規則の適用を緩和したりすることができます。
Q8. 控訴における検証(verification)と送達証明(proof of service)とは何ですか?
A8. 検証とは、申立書の内容が真実かつ正確であることを宣誓することです。送達証明とは、相手方に申立書の写しを送付したことを証明する書類です。これらは通常、訴訟手続きにおける形式的な要件ですが、労働事件では、手続き規則の柔軟性の原則に基づき、これらの要件が緩和される場合があります。
Q9. 免責事項と権利放棄書(quitclaim and waiver)は常に有効ですか?
A9. いいえ。免責事項と権利放棄書は、従業員が完全に理解した上で、自由意思に基づいて署名した場合にのみ有効とされます。従業員が欺罔、強迫、または不当な圧力の下で署名した場合、または権利放棄の内容が明らかに不公平である場合、無効とされることがあります。特に、不当解雇の場合、従業員が受け取る金額が本来受け取るべき金額よりも著しく低い場合、権利放棄は無効とされる可能性が高まります。
Q10. utility manのような職種の従業員は、建設会社で正社員になれますか?
A10. はい、なれます。utility manの業務が、特定のプロジェクトに限定されず、建設会社の継続的な事業活動に必要な場合、継続的な再雇用によって正社員と見なされる可能性があります。本判例でも、utility manとして長年勤務していたマガリャネスが正社員と認められました。
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