雇用関係の有無:家事労働者と企業の責任の境界線
G.R. No. 239385, April 17, 2024
フィリピンでは、雇用関係の有無が労働者の権利を大きく左右します。特に、家事労働者と企業の関係は曖昧になりがちで、労働紛争の原因となることがあります。本稿では、最近の最高裁判所の判決(FLORDIVINA M. GASPAR VS. M.I.Y. REAL ESTATE CORP.)を基に、雇用関係の判断基準と、家事労働者の権利、企業の責任について解説します。
はじめに
ある日、フロルディビナ・ガスパルさんはいつものように職場であるゴールドリッチマンションに出勤しようとしましたが、上司から「もう仕事に来る必要はない」と告げられました。ガスパルさんは、自分が不当に解雇されたと考え、M.I.Y.リアルエステート社とメリッサ・イラガン・ユー氏を相手取り、訴訟を起こしました。しかし、裁判所はガスパルさんがM.I.Y.社の従業員ではなく、ユー氏の家事労働者であると判断しました。この判決は、雇用関係の判断がいかに重要であるか、そして、家事労働者の権利がどのように保護されるべきかを示唆しています。
法的背景
フィリピンの労働法では、雇用関係は以下の4つの要素で判断されます(四要素テスト)。
- 雇用主による従業員の選考と雇用
- 賃金の支払い
- 解雇権
- 従業員の行動を管理する権限
これらの要素がすべて揃っている場合、雇用関係が存在するとみなされます。特に重要なのは、従業員の行動を管理する権限です。雇用主が、従業員の仕事の成果だけでなく、その方法や手段まで指示・管理できる場合、雇用関係が強く認められます。
また、労働法第82条では、残業手当、休日手当、プレミアム手当、サービスインセンティブ休暇などの規定は、家事労働者には適用されないことが明記されています。これは、家事労働者の労働条件が、一般の労働者とは異なることを意味します。
家事労働者(kasambahay)は、共和国法第10361号(家事労働者法)で定義されています。家事労働とは、家庭内で行われる仕事であり、家事労働者とは、雇用関係の中で家事労働に従事する人を指します。これには、一般的な家事手伝い、乳母、料理人、庭師、洗濯人などが含まれます。
共和国法第10361号第4条(c):「家事労働とは、家庭または複数の家庭において行われる仕事と定義される。」
共和国法第10361号第4条(d):「家事労働者または「kasambahay」とは、雇用関係の中で家事労働に従事する者を意味し、これには、一般的な家事手伝い、乳母または「yaya」、料理人、庭師、洗濯人などが含まれるが、時折または散発的に家事労働を行う者、および職業として家事労働を行う者は含まれない。」
本件の経緯
ガスパルさんは、M.I.Y.社とユー氏に対し、不当解雇による訴訟を起こしました。ガスパルさんは、自分がM.I.Y.社の施設維持管理(FM&S)担当者として、ゴールドリッチマンション内の様々な施設の清掃や管理を行っていたと主張しました。また、6ヶ月ごとに契約を終了させるという不当な慣行があったとも訴えました。
一方、M.I.Y.社は、ガスパルさんは従業員ではなく、ユー氏の家事労働者であると反論しました。ユー氏も、ガスパルさんを家事労働者として雇用し、当初はパシッグ市の自宅で、後にマカティ市のペントハウスで家事を行わせていたと主張しました。
- 2014年8月14日、ガスパルさんがM.I.Y.社とユー氏に対して訴訟を提起
- ガスパルさんは、M.I.Y.社の正社員であり、施設維持管理担当者として勤務していたと主張
- M.I.Y.社は、ガスパルさんは従業員ではなく、ユー氏の家事労働者であると反論
- 労働仲裁人、国家労働関係委員会(NLRC)、控訴院は、ガスパルさんがM.I.Y.社の従業員ではないと判断
労働仲裁人、NLRC、控訴院は、いずれもガスパルさんがM.I.Y.社の従業員ではないと判断しました。裁判所は、ガスパルさんがM.I.Y.社によって選考・雇用されたという証拠がなく、M.I.Y.社から賃金が支払われていたという証拠もないと指摘しました。また、M.I.Y.社がガスパルさんを解雇する権限を持っていたという証拠もなく、M.I.Y.社がガスパルさんの行動を管理していたという証拠もないと判断しました。
「記録において争いのない事実は、ガスパル氏がユー氏によって家事手伝いとして雇用され、当初はパシッグ市の自宅に配属された後、M.I.Y.社が事務所を構える同じ建物にある[ユー氏のマカティ市の自宅]に移されたことである。これらの事実的証拠は、ガスパル氏がM.I.Y.社の従業員ではないという主張を裏付けている。雇用者と従業員の関係が証明されなかったため、不当解雇について議論する余地はない。したがって、ガスパル氏は解雇手当、未払い賃金、損害賠償を受ける権利はない。」
実務上の影響
本判決は、企業が家事労働者を雇用する場合、雇用関係の有無を明確にすることが重要であることを示唆しています。もし、企業が家事労働者を従業員として雇用している場合、企業は労働法に基づく責任を負うことになります。一方、企業が家事労働者を個人として雇用している場合、企業は労働法に基づく責任を負いません。しかし、家事労働者の権利は、家事労働者法によって保護されます。
重要な教訓
- 企業は、家事労働者を雇用する際、雇用関係の有無を明確にすること
- 企業は、家事労働者を従業員として雇用する場合、労働法に基づく責任を負うこと
- 家事労働者の権利は、家事労働者法によって保護されること
よくある質問
Q: 雇用関係の有無は、どのように判断されますか?
A: フィリピンでは、雇用関係は、雇用主による従業員の選考と雇用、賃金の支払い、解雇権、従業員の行動を管理する権限という4つの要素で判断されます。
Q: 家事労働者は、どのような権利を持っていますか?
A: 家事労働者は、家事労働者法によって保護されており、最低賃金、労働時間、休憩時間、休日、有給休暇、社会保障などの権利を持っています。
Q: 企業が家事労働者を雇用する場合、どのような責任を負いますか?
A: 企業が家事労働者を従業員として雇用する場合、労働法に基づく責任を負います。これには、最低賃金の支払い、労働時間の管理、休憩時間の確保、休日や有給休暇の付与、社会保障への加入などが含まれます。
Q: 家事労働者が不当に解雇された場合、どうすればよいですか?
A: 家事労働者が不当に解雇された場合、労働省(DOLE)に訴えを起こすことができます。DOLEは、家事労働者の権利を保護し、不当解雇に対する救済措置を提供します。
Q: 家事労働者法は、どのような内容ですか?
A: 家事労働者法は、家事労働者の権利を保護するための法律であり、最低賃金、労働時間、休憩時間、休日、有給休暇、社会保障などの規定を設けています。また、家事労働者の雇用契約、労働条件、紛争解決についても規定しています。
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