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  • 社長が取締役会の承認なしに締結した契約でも、会社を拘束する場合があります!フィリピン法における表見代理の原則

    社長が取締役会の承認なしに締結した契約でも、会社を拘束する場合があります!表見代理の原則

    G.R. No. 117847, October 07, 1998

    会社経営者の皆様、そして法務担当者の皆様、契約締結の際、社長の権限について十分に注意を払っていますか?

    フィリピン最高裁判所の判例は、取締役会の明確な承認がない場合でも、社長が締結した契約が会社を拘束する可能性があることを示唆しています。今回の判例解説では、People’s Aircargo and Warehousing Co. Inc. v. Court of Appeals事件(G.R. No. 117847)を詳細に分析し、「表見代理」の原則に焦点を当て、企業が契約上のリスクを管理するための重要な教訓を抽出します。

    この判例は、社長の「表見代理」が認められる場合と、企業が契約から逃れられない状況を明確に示しています。企業の代表者権限、契約の有効性、そして取締役会の役割について、深く理解するための必読の内容です。

    契約締結の経緯:二つの契約と紛争の発生

    1986年、People’s Aircargo and Warehousing Co. Inc.(以下「People’s Aircargo」)は、税関保税倉庫事業の免許取得を目指していました。社長のアントニオ・プンサラン・ジュニア氏は、ステファニ・サーニョ氏に事業 feasibility study の提案を依頼し、最初の契約(「第一次契約」)が締結されました。サーニョ氏の提案は当初、他の企業よりも高額であったため、主要株主のチェン・ヨン氏は反対しましたが、プンサラン社長はサーニョ氏の税関との繋がりを重視し、契約を進めました。

    第一次契約は履行され、サーニョ氏は報酬を受け取りました。その後、プンサラン社長は再びサーニョ氏に業務マニュアル作成と従業員向けセミナーの提案を依頼し、二度目の契約(「第二次契約」)が締結されました。しかし、第二次契約に基づくサービスが提供されたにもかかわらず、People’s Aircargoはサーニョ氏への支払いを拒否。サーニョ氏は訴訟を提起し、裁判所での争いに発展しました。

    裁判所の判断:表見代理の成立と契約の有効性

    一審の地方裁判所は、第二次契約は無効または擬似契約であると判断しましたが、サーニョ氏が実際にサービスを提供したことを認め、不当利得の原則に基づき60,000ペソの支払いを命じました。しかし、控訴審の控訴裁判所は、第一次契約の存在と、社長が過去に取締役会の承認なしに契約を締結していた事実から、プンサラン社長には第二次契約を締結する「表見代理」があったと認定。契約は有効であり、People’s Aircargoは契約金額全額の400,000ペソを支払うべきであると判断しました。

    最高裁判所も控訴裁判所の判断を支持し、People’s Aircargoの上告を棄却しました。最高裁は、以下の点を重視しました。

    1. 表見代理の成立:会社が社長に対し、契約締結の権限があると信じさせるような行為があったこと(第一次契約の締結と履行)。
    2. 契約の黙示的追認:会社が業務マニュアルを受け取り、利用し、セミナーを実施させたこと。
    3. 社長の権限の範囲:社長は日常業務において、一定の範囲内で会社を代表する権限を持つと解釈されること。

    最高裁は、会社が過去の行為や黙認によって社長に「表見代理」を与えたと判断し、第二次契約は会社を拘束すると結論付けました。

    表見代理とは?会社法と判例から読み解く

    「表見代理」とは、実際には代理権がないにもかかわらず、あたかも代理権があるかのように見える外観を作り出し、その外観を信頼した第三者を保護する法理です。フィリピン会社法(Corporation Code of the Philippines)第23条は、取締役会が会社の権限を行使することを原則としていますが、判例は、取締役会がその権限を役員や代理人に委任できることを認めています。そして、この委任は明示的なものだけでなく、慣習や黙認によって黙示的に行われる場合も含まれます。

    本判例で引用された最高裁判決、Yao Ka Sin Trading v. Court of Appeals (209 SCRA 763) では、表見代理の成立要件として以下の点が示されています。

    「会社の役員または代理人は、第三者との取引において、その権限が付与された範囲内で会社を代表し、拘束することができます。これには、意図的に付与された権限、特定の事業の通常の過程で付随的または黙示的に付与される権限、慣習および慣行によって追加される権限、ならびに会社が役員または代理人と取引する者に付与されたと信じさせるような外観上の権限が含まれます。」

    重要なのは、会社が役員に対し、あたかも権限があるかのような外観を作り出しているかどうかです。この外観を信頼して取引を行った第三者は保護されるべきであり、会社は後から「社長には権限がなかった」と主張することは許されません。

    本判例が企業に与える実務的な教訓

    今回の最高裁判決は、フィリピンで事業を行う企業にとって、非常に重要な教訓を含んでいます。特に、以下の点に注意する必要があります。

    1. 社長の権限の明確化:社長の権限範囲を就業規則や取締役会決議で明確に定めることが重要です。特に、高額な契約や重要な契約については、取締役会の承認を必須とするルールを設けるべきです。
    2. 内部統制の強化:契約締結プロセスを明確化し、社長による独断専行を防ぐための内部統制システムを構築する必要があります。契約書のチェック体制や、承認フローを整備することが有効です。
    3. 取締役会の監督責任:取締役会は、社長の業務執行を適切に監督する責任があります。社長が権限を逸脱した行為を行っていないか、定期的にチェックする必要があります。
    4. 契約締結時の注意:取引先が会社と契約を締結する際、相手方の代表者の権限を十分に確認することが重要です。特に、社長以外の役員や従業員と契約する場合は、委任状などの書面で権限を確認すべきです。

    今回の判例は、形式的な取締役会決議だけでなく、会社の過去の行為や慣習も「表見代理」の判断に影響を与えることを示しています。企業は、社内の権限管理体制を再点検し、契約リスクを低減するための対策を講じる必要があります。

    企業法務担当者向け:契約リスク管理のポイント

    企業法務担当者としては、今回の判例を踏まえ、以下の点に留意して契約リスク管理を行うべきです。

    • 契約締結権限規程の整備・見直し:社長、役員、従業員の契約締結権限を明確に定める規程を整備し、定期的に見直す。
    • 契約承認フローの確立:契約金額や重要度に応じて、取締役会、経営会議、法務部門などの承認を得るフローを確立する。
    • 契約書審査体制の強化:法務部門による契約書審査を義務付け、契約内容の法的リスクを事前に評価する。
    • 従業員への研修:契約締結権限、契約リスクに関する従業員向け研修を実施し、意識向上を図る。
    • 法的アドバイスの活用:重要な契約や法的リスクが高い契約については、外部の法律事務所に相談し、専門的なアドバイスを得る。

    これらの対策を講じることで、企業は契約リスクを効果的に管理し、不測の損害を回避することができます。

    よくある質問 (FAQ)

    Q1: 取締役会の承認がない契約は、すべて無効になるのですか?

    A1: いいえ、必ずしもそうではありません。本判例のように、「表見代理」が認められる場合や、会社が契約を追認したとみなされる場合は、取締役会の承認がなくても契約が有効になることがあります。

    Q2: 社長が締結できる契約の範囲はどこまでですか?

    A2: 社長の権限範囲は、会社の定款、就業規則、取締役会決議などによって定められます。一般的には、日常業務に関する契約については、社長にある程度の裁量が認められると考えられますが、高額な契約や重要な契約については、取締役会の承認が必要となる場合が多いです。

    Q3: 「表見代理」が成立する具体的なケースは?

    A3: 過去に取締役会の承認なしに社長が契約を締結し、会社がそれを黙認していた場合や、社長が長年にわたり契約締結業務を単独で行ってきた場合などが考えられます。会社の規模や業種、過去の取引慣行なども考慮されます。

    Q4: 契約の有効性を確認するためには、どのような点に注意すべきですか?

    A4: 契約相手方の代表者の権限を確認することが重要です。取締役会議事録、委任状、定款などを確認し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    Q5: 表見代理のリスクを回避するためには、どうすればよいですか?

    A5: 社内の権限管理体制を明確化し、契約締結プロセスを厳格に運用することが重要です。また、従業員への研修を通じて、契約リスクに関する意識を高めることも有効です。

    契約締結における社長の権限、そして「表見代理」の原則は、企業法務において非常に重要なテーマです。今回の判例解説が、皆様の契約実務の一助となれば幸いです。

    ご不明な点や、契約に関するご相談がございましたら、企業法務に強いASG Lawまでお気軽にお問い合わせください。当事務所は、マカティ、BGCに拠点を構え、フィリピン全土の企業法務をサポートしております。経験豊富な弁護士が、貴社のビジネスを法的に защищаетいたします。

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    Source: Supreme Court E-Library

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