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  • 国際協定優先の原則:政府調達法と国際復興開発銀行(IBRD)融資契約

    本判決は、政府調達法(RA 9184)に基づく入札手続きが、国際復興開発銀行(IBRD)との融資契約に優先されるか否かを判断したものです。最高裁判所は、政府が締結した国際的な協定や条約は遵守されるべきであり、RA 9184よりも優先されると判示しました。この判決により、政府機関が国際融資を受けて事業を実施する際、融資条件として定められた入札手続きを遵守することが義務付けられ、国際的な契約履行の重要性が改めて確認されました。

    契約自由か、法律遵守か:IBRD融資プロジェクトの入札における政府調達法の適用

    事案の背景として、フィリピン土地銀行(Land Bank)と国際復興開発銀行(IBRD)は、IBRDの「戦略的地域開発投資支援プロジェクト(S2LDIP)」実施のため、融資契約を締結しました。この融資はフィリピン政府が保証し、イリガン市が子会社融資契約(SLA)を通じて参加することが条件とされていました。その後、土地銀行はイリガン市とSLAを締結し、市の給水システムの開発・拡張を融資しました。SLAでは、融資資金で調達される物品、工事、サービスは、IBRDの融資に関する調達ガイドラインに従って調達されることが明記されていました。

    アトランタ・インダストリーズ(Atlanta)は、この入札に参加しましたが、土地銀行の勧告により入札は不調となりました。その後、再入札が実施されましたが、アトランタは、入札書類が政府調達政策委員会(GPPB)が定めるフィリピン入札書類(PBDs)に準拠していないと主張し、入札の差し止めを求める訴訟を提起しました。マニラ地方裁判所(RTC)は、入札が無効であるとの判決を下しましたが、土地銀行はこれを不服として最高裁判所に上訴しました。訴訟における主な争点は、マニラRTCがこの訴訟を管轄するか否か、そして、土地銀行とイリガン市との間のSLAが、RA 9184の適用を免除されるような行政協定に該当するか否かでした。

    最高裁判所は、まず、マニラRTCにはイリガン市で行われる入札を差し止める管轄権がないと判断しました。地方裁判所の管轄は、その管轄区域内に限定されるため、マニラRTCがイリガン市の行為を差し止めることはできないからです。さらに、アトランタは、行政上の救済手段を尽くしていないため、訴訟は却下されるべきであると指摘しました。RA 9184では、入札のすべての段階におけるBACの決定に対して、異議を申し立てる手続きが定められていますが、アトランタはこの手続きを遵守していませんでした。次に、RA 9184の適用に関する実質的な問題について、裁判所は、同法第4条が条約、国際協定または行政協定に抵触する場合、これらの協定が優先されると規定している点を強調しました。

    アトランタは、イリガン市がIBRD融資契約の当事者ではないため、RA 9184の適用免除を主張できないと主張しましたが、最高裁判所は、IBRD融資契約は行政協定の一種であると判断しました。行政協定は、条約に類似するものの、立法府の同意を必要としない、より形式ばらない協定です。IBRDは、世界各国の政府によって組織された国際的な金融機関であり、政府保証を条件に融資を行うため、国際法上の主体として認められています。したがって、IBRDとの融資契約は、国際法に準拠する行政協定とみなされます。フィリピン政府は、国際法上の原則である契約遵守の原則(pacta sunt servanda)に基づき、この協定を誠実に履行する義務を負っています。そして、この原則は、フィリピン憲法第2条第2項により、国内法の一部となっています。

    土地銀行とイリガン市との間のSLAは、IBRD融資契約の条項を組み込んでおり、これと一体不可分の関係にあります。したがって、SLAは独立した契約ではなく、IBRD融資契約の附属契約とみなされます。附属契約は、主たる契約が存在しなければ成立し得ないため、その性質や効力は主たる契約に左右されます。最高裁判所は、IBRDの調達ガイドラインを遵守するよう求める融資契約の規定の有効性を、過去の判例で支持してきました。結論として、最高裁判所は、本件におけるRA 9184の適用を誤ったRTCの判決を覆し、IBRDガイドラインおよびスケジュール4の規定が適用されるべきであると判示しました。イリガン市の給水システム開発・拡張プロジェクトにおける物品調達は、RA 9184の適用範囲外であり、行政協定の明示的な規定に従うべきです。

    FAQs

    本件の争点は何でしたか? 国際復興開発銀行(IBRD)からの融資を受けた事業における入札手続きにおいて、政府調達法(RA 9184)とIBRDのガイドラインのどちらが適用されるべきかが争点でした。
    最高裁判所はどのような判断を下しましたか? 最高裁判所は、国際協定であるIBRD融資契約が政府調達法に優先すると判断し、IBRDのガイドラインに従って入札手続きを行うべきであると判示しました。
    行政協定とは何ですか? 行政協定とは、条約に類似するものの、立法府の同意を必要としない、より形式ばらない国際的な合意のことです。
    契約遵守の原則(pacta sunt servanda)とは何ですか? 契約遵守の原則とは、国際法上の原則であり、締約国は合意した契約を誠実に履行する義務を負うというものです。
    SLA(子会社融資契約)はどのような役割を果たしていますか? SLAは、土地銀行とイリガン市の間で締結された契約であり、IBRD融資契約に基づいて市の給水システム開発・拡張プロジェクトに融資を行うためのものです。
    RA 9184(政府調達法)はどのような場合に適用されますか? RA 9184は、政府機関が物品、工事、サービスを調達する際に適用される法律ですが、国際協定または行政協定に抵触する場合は、これらの協定が優先されます。
    なぜマニラRTC(地方裁判所)は管轄権がないと判断されたのですか? マニラRTCの管轄は、その管轄区域内に限定されるため、イリガン市で行われる入札を差し止める権限がないと判断されました。
    この判決の重要なポイントは何ですか? 政府が締結した国際的な協定や条約は国内法よりも優先されるという原則が改めて確認されたことです。

    この判決は、国際協定の履行における国の義務を強調し、政府機関が国際融資を受けて事業を実施する際には、融資条件として定められた入札手続きを遵守する必要があることを明確にしました。

    この判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Lawのお問い合わせまたはfrontdesk@asglawpartners.comまでご連絡ください。

    免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的助言については、資格のある弁護士にご相談ください。
    出典:LAND BANK OF THE PHILIPPINES VS. ATLANTA INDUSTRIES, INC., G.R. No. 193796, 2014年7月2日

  • 政府調達における国際協定の優先:フィリピン最高裁判所の判決

    政府調達における国際協定の優先:外国資金によるプロジェクトの取り扱い

    G.R. NO. 167919, February 14, 2007

    はじめに

    政府調達は、透明性、公平性、効率性が求められる重要なプロセスです。特に、外国からの資金援助を受けているプロジェクトの場合、国内法と国際協定の適用関係が複雑になることがあります。今回取り上げるフィリピン最高裁判所の判決は、まさにこの問題に焦点を当て、政府調達における国際協定の優先順位を明確にするものです。

    この判決は、中国路橋公司(China Road & Bridge Corporation)が関与したカタンドゥアネス環状道路改良プロジェクトの入札プロセスに関するもので、国内法である共和国法9184号(政府調達改革法)と、日本国際協力銀行(JBIC)との間の融資協定の適用関係が争われました。最高裁判所は、国際協定が国内法に優先するという原則を支持し、外国資金によるプロジェクトの調達においては、融資協定の条件が優先されることを明確にしました。

    法的背景

    フィリピンの政府調達は、長年にわたり様々な法律や行政命令によって規制されてきました。共和国法9184号(RA 9184)は、政府調達プロセスを近代化し、標準化することを目的として制定された法律であり、入札価格の上限設定や透明性の確保など、詳細な規定を設けています。しかし、RA 9184には、国際協定に関する例外規定が存在し、これが本件の争点となりました。

    RA 9184の第4条は、適用範囲について規定しており、資金源の如何にかかわらず、政府機関によるインフラプロジェクト、物品、コンサルティングサービスの調達に適用されることを原則としています。ただし、同条は、「フィリピン政府が署名した条約、国際協定、または行政協定で、本法の主題に影響を与えるものがある場合は、これを遵守しなければならない」と規定しています。

    この規定は、国際法上の原則である「条約は遵守されなければならない(pacta sunt servanda)」を反映しており、フィリピン政府が締結した国際協定は、国内法よりも優先されることを意味します。この原則は、国家間の信頼関係を維持し、国際的な協力関係を促進するために不可欠です。

    事案の経緯

    カタンドゥアネス環状道路改良プロジェクトは、日本国際協力銀行(JBIC)からの融資を受けて実施されたもので、複数の工区に分割されていました。本件は、そのうちの1つであるCP I工区の入札プロセスに関するものです。

    入札の結果、中国路橋公司(China Road & Bridge Corporation)の入札価格が、政府の承認予算(ABC)を上回っていたため、他の入札参加者から異議が申し立てられました。異議を申し立てたのは、プラリデル・M・アバヤ氏、プラリデル・C・ガルシア氏、およびPMA’59財団で、彼らは、中国路橋公司の入札価格がRA 9184に違反していると主張しました。

    最高裁判所は、本件について以下の点を考慮しました。

    • CP I工区の入札プロセスは、RA 9184が施行される前に開始されたこと
    • JBICとの融資協定には、入札価格の上限設定を禁止する条項が含まれていること
    • 国際協定は国内法に優先するという原則

    最高裁判所は、これらの点を総合的に判断し、中国路橋公司への契約付与を支持する決定を下しました。最高裁判所は、判決の中で以下の点を強調しました。

    1. 「RA 9184は、遡及適用されない」
    2. 「JBICとの融資協定は、行政協定(executive agreement)である」
    3. 「国際法上の原則であるpacta sunt servanda(条約は遵守されなければならない)は、国内法にも適用される」

    最高裁判所は、これらの理由から、中国路橋公司への契約付与は適法であると判断し、原告の訴えを棄却しました。

    実務への影響

    この判決は、フィリピンにおける政府調達の実務に大きな影響を与えるものです。特に、外国からの資金援助を受けているプロジェクトの場合、国内法だけでなく、融資協定の内容も十分に考慮する必要があることを明確にしました。

    企業がフィリピンの政府調達に参加する際には、以下の点に注意する必要があります。

    • プロジェクトの資金源を確認し、適用される法律や規則を正確に把握する
    • 融資協定の内容を精査し、入札プロセスにおける特別な要件を遵守する
    • 国内法と国際協定の間に矛盾がある場合は、専門家のアドバイスを求める

    重要な教訓

    • 外国資金によるプロジェクトの調達においては、融資協定の条件が優先される
    • 国際協定は国内法に優先するという原則を理解する
    • 政府調達に参加する際には、適用される法律や規則を正確に把握する

    よくある質問(FAQ)

    Q1: RA 9184は、すべての政府調達に適用されますか?

    A1: 原則として適用されますが、国際協定がある場合は、そちらが優先されます。

    Q2: 行政協定(executive agreement)とは何ですか?

    A2: 大統領が外国政府との間で締結する協定で、議会の承認を必要としません。条約に準ずる効力を持ちます。

    Q3: JBICとの融資協定は、どのような法的効力を持っていますか?

    A3: フィリピン政府とJBICとの間で締結された契約であり、両当事者を法的に拘束します。

    Q4: 入札価格が政府の承認予算(ABC)を上回った場合、必ず失格となりますか?

    A4: RA 9184の下では原則として失格となりますが、国際協定がある場合は、その協定の条件に従います。

    Q5: 外国資金によるプロジェクトの調達において、企業は何に注意すべきですか?

    A5: 適用される法律や規則を正確に把握し、融資協定の内容を精査し、入札プロセスにおける特別な要件を遵守する必要があります。

    本件に関するご相談は、政府調達に精通したASG Lawにお気軽にお問い合わせください。専門的な知識と経験に基づき、お客様のビジネスをサポートいたします。

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