タグ: 囲繞地通行権

  • 通行権の強制的設定:囲繞地通行権の要件と立証責任

    本判決は、通行権の設定を求める者が、その要件を満たすことを立証する責任を負うことを明確にしました。通行権は、他の土地に囲まれ、公道への適切な出口がない土地のために認められます。本判決は、土地所有者が囲繞地通行権を主張する場合、他のすべての土地へのアクセス状況を明確に立証する必要があることを示しています。この立証責任を果たせない場合、通行権は認められません。

    公道への唯一の道か?囲繞地通行権を巡る争い

    夫婦が所有する土地が公道に面しておらず、隣接する分譲地内の道路を通ってのみ公道に出られると主張し、通行権の設定を求めました。しかし、裁判所は、通行権を求める夫婦が、通行権設定の要件を満たしていることを十分に証明できなかったと判断しました。この判断は、土地所有者が自分の土地へのアクセスを主張する際に、隣接する他の土地へのアクセス状況を詳細に立証する責任があることを強調しています。囲繞地通行権の設定には厳格な要件があり、それを満たすためには十分な証拠が必要です。

    民法第649条および第650条によれば、囲繞地通行権の設定には以下の要件があります。

    1. 通行権によって便益を受ける不動産(囲繞地)が、他の不動産に囲まれており、公道への適切な出口がないこと。

    2. 囲繞地の所有者、使用者、または占有者が、通行権が設定される不動産(承役地)の所有者に適切な補償を支払うこと。

    3. 囲繞地の孤立が、その所有者、使用者、または占有者自身の行為の結果ではないこと。

    4. 主張される通行権が、承役地に最も損害が少ない地点に設定されること。そして、この原則と矛盾しない範囲で、囲繞地から公道までの距離が最短であること。

    裁判所は、通行権を主張する者がこれらの要件をすべて満たす必要があると強調しました。本件では、夫婦は土地が他の不動産に囲まれていることは証明しましたが、公道への適切な出口がないことを証明できませんでした。裁判所は、通行権の設定は絶対に必要な場合にのみ認められるべきであり、他の適切な出口が存在する場合、通行権は認められるべきではないと指摘しました。例えば、既存の出口が不便であっても、別の通行権を設定する正当な理由にはなりません。

    囲繞地が公道への適切な出口がないことを証明するためには、請求者は、孤立した土地を囲むすべての不動産のアクセス状況を主張し、証明する必要があります。本件において、夫婦は、通行権を求めている土地の周囲にある他の3つの土地の物理的および地理的状況に関する証拠を提出しませんでした。このため、裁判所は、夫婦が公道への最短かつ最も損害の少ないルートを証明できなかったと判断しました。裁判所は、他の土地の状況に関する証拠がないため、主張されているルートが本当に最も適切なルートであるかどうかを判断することができませんでした。裁判所は、囲繞地通行権の要件を満たすためには、比較評価が必要であると指摘しました。

    本件は、不動産が他の不動産に囲まれているというだけでは、通行権が自動的に認められるわけではないことを明確に示しています。裁判所は、通行権の設定は慎重に行われるべきであり、すべての法的要件が満たされている場合にのみ認められるべきであると強調しました。本件の教訓は、通行権を求める者は、主張を裏付けるための十分な証拠を準備する必要があるということです。

    FAQs

    この訴訟の重要な争点は何でしたか? この訴訟の重要な争点は、夫婦が所有する土地のために囲繞地通行権を設定できるかどうかでした。裁判所は、夫婦がその土地に公道への適切な出口がないことを証明できなかったため、通行権を認めませんでした。
    囲繞地通行権とは何ですか? 囲繞地通行権とは、他の不動産に囲まれており、公道への適切な出口がない土地の所有者が、隣接する不動産を通って公道に出る権利のことです。これは、民法によって認められた権利であり、囲繞地の所有者の利益のために設定されます。
    囲繞地通行権の設定要件は何ですか? 囲繞地通行権の設定要件は、(1) 土地が他の不動産に囲まれていること、(2) 公道への適切な出口がないこと、(3) 囲繞地の孤立が所有者自身の行為の結果ではないこと、(4) 通行権が承役地に最も損害が少ない地点に設定されることです。
    通行権を求める者は何を証明する必要がありますか? 通行権を求める者は、囲繞地通行権の設定要件をすべて満たしていることを証明する必要があります。これには、土地が他の不動産に囲まれていること、公道への適切な出口がないこと、そして提案されているルートが最も損害の少ないルートであることが含まれます。
    裁判所は、なぜ夫婦の通行権の請求を認めなかったのですか? 裁判所は、夫婦がその土地に公道への適切な出口がないことを証明できなかったため、通行権の請求を認めませんでした。裁判所は、夫婦が土地の周囲にある他の土地の状況に関する証拠を提出しなかったため、代替ルートが存在しないことを証明できなかったと指摘しました。
    他のルートが存在する場合、通行権は認められますか? いいえ、裁判所は、他の適切なルートが存在する場合、通行権は認めないと判断しました。既存のルートが不便であっても、代替ルートがある限り、通行権は認められません。
    本判決の重要な教訓は何ですか? 本判決の重要な教訓は、通行権を求める者は、囲繞地通行権の設定要件をすべて満たしていることを証明する必要があるということです。裁判所は、他の土地の状況に関する証拠を提出するなど、十分な証拠を準備する必要があると強調しました。
    本判決は、分譲地内の不動産にどのように影響しますか? 本判決は、分譲地内の不動産に影響を与える可能性があります。分譲地内の不動産の所有者が、分譲地の外にある土地へのアクセスを求めている場合、他の出口がないことを証明する必要があります。また、分譲地の制限事項を遵守する必要があります。

    本判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Lawのお問い合わせまたは電子メール(frontdesk@asglawpartners.com)までご連絡ください。

    免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的ガイダンスについては、資格のある弁護士にご相談ください。
    出典:SPOUSES MARCIAL VARGAS AND ELIZABETH VARGAS, PETITIONERS, VS. STA. LUCIA REALTY AND DEVELOPMENT, INC., RESPONDENT., G.R No. 191997, July 27, 2022

  • 通行権の法的根拠:合意なき土地利用の可否を問う最高裁判決

    土地利用を巡る争いにおいて、通行権は重要な法的論点となります。土地所有者がその土地へのアクセスを制限された場合、通行権が認められるかどうかは、その土地の利用方法や経済的価値に大きな影響を与えるからです。本件は、私道における通行権の成立要件と、それが認められる場合の補償について、最高裁判所が詳細な判断を示した事例です。特に、合意がない状況下での通行権の主張が認められるかどうかが争点となり、土地利用における権利と義務のバランスが改めて明確化されました。今回の最高裁判決は、土地の利用を巡る紛争解決において重要な指針となると考えられます。

    土地の利用を巡る紛争:通行権はどのように決定されるのか?

    本件は、ビコル・アグロ工業生産者協同組合(BAPCI)が、土地所有者であるレスポンデントらに対し、私道である「紛争道路」の通行を妨害されたとして、通行権の確認と通行妨害の禁止を求めた訴訟です。BAPCIは、紛争道路が以前の所有者であるビコル砂糖開発公社(BISUDECO)によって建設され、長年にわたり砂糖の運搬に利用されてきたと主張しました。しかし、レスポンデントらは、BISUDECOとの間で通行に関する合意はなく、一時的に通行を黙認していたに過ぎないと反論。地方裁判所はBAPCIの通行権を認めましたが、控訴院はこれを一部変更しました。最高裁判所は、この控訴院の決定を支持し、通行権の成立要件と補償の範囲について判断を示しました。

    裁判所は、BAPCIがBISUDECOとの間で紛争道路の建設と利用に関する明確な合意を証明できなかった点を重視しました。通行権は、原則として、当事者間の合意または法律の規定に基づいてのみ成立し、黙示的な了解や長年の利用だけでは認められないからです。この点に関して、民法第622条は、**「継続的でない地役権は、それが明白であるか否かにかかわらず、権原によってのみ取得することができる」**と規定しています。この規定は、土地所有者の権利を保護し、明確な法的根拠がない限り、土地の利用を制限するような負担を課すべきではないという考えに基づいています。

    しかし、裁判所は、BAPCIが別のルートを確保することが著しく困難であるという状況を考慮し、**「囲繞地通行権」**、すなわち、公道へのアクセスが困難な土地所有者のために、隣接する土地の通行を認める権利を検討しました。民法第649条は、**「自己の土地が他人の土地に囲まれ、公道に通じる適切な出口がない場合、適切な補償を支払った上で、隣接する土地を通行する権利を要求することができる」**と規定しています。裁判所は、BAPCIがこの要件を満たすと判断し、紛争道路の通行権を認めましたが、これは、BAPCIがレスポンデントらに対して適切な補償を支払うことを条件としています。

    裁判所は、補償額の算定方法についても重要な判断を示しました。BAPCIは、補償額は道路が建設された1974年当時の土地の価値に基づいて算定されるべきだと主張しましたが、裁判所はこれを否定。補償額は、土地の現在の価値と、通行権の設定によって土地所有者が被る損害を考慮して決定されるべきだとしました。裁判所は、この点に関して地方裁判所と控訴院の判断を支持し、具体的な補償額を確定しました。裁判所のこの判断は、**通行権が認められる場合でも、土地所有者の財産権が尊重されるべき**であることを明確にするものです。

    さらに、BAPCIは、レスポンデントらが長年にわたり紛争道路の利用を黙認してきたことから、**「禁反言の法理」**または**「ラッチズ(権利不行使)」**が適用されるべきだと主張しました。禁反言の法理とは、過去の言動に反する主張をすることが許されないという原則であり、ラッチズとは、権利を行使しないまま長期間が経過した場合に、その権利の行使が認められなくなるという原則です。しかし、裁判所は、これらの原則は本件には適用されないと判断。通行権は、原則として合意または法律の規定に基づいてのみ成立し、長年の黙認だけでは認められないという立場を改めて強調しました。

    FAQs

    この訴訟の主要な争点は何でしたか? 主要な争点は、私道における通行権が、合意なしに長年の利用によって成立するかどうかでした。また、通行権が認められる場合の適切な補償額の算定方法も争点となりました。
    裁判所は、通行権の成立要件をどのように判断しましたか? 裁判所は、通行権は原則として当事者間の合意または法律の規定に基づいてのみ成立し、黙示的な了解や長年の利用だけでは認められないと判断しました。ただし、公道へのアクセスが困難な土地所有者のために、囲繞地通行権を認めることができるとしました。
    囲繞地通行権とは何ですか? 囲繞地通行権とは、自己の土地が他人の土地に囲まれ、公道に通じる適切な出口がない場合に、適切な補償を支払った上で、隣接する土地を通行する権利のことです。
    通行権が認められる場合の補償額は、どのように算定されますか? 補償額は、土地の現在の価値と、通行権の設定によって土地所有者が被る損害を考慮して決定されます。道路が建設された当時の土地の価値に基づいて算定されるわけではありません。
    禁反言の法理とは何ですか? 禁反言の法理とは、過去の言動に反する主張をすることが許されないという原則です。
    ラッチズ(権利不行使)とは何ですか? ラッチズとは、権利を行使しないまま長期間が経過した場合に、その権利の行使が認められなくなるという原則です。
    本件において、禁反言の法理またはラッチズは適用されましたか? いいえ、裁判所は、これらの原則は本件には適用されないと判断しました。
    本判決は、土地所有者にとってどのような意味を持ちますか? 本判決は、通行権の成立要件を明確にし、土地所有者の財産権を保護するものです。土地の利用を制限するような負担を課すためには、明確な法的根拠が必要であることを示しています。

    本判決は、通行権に関する法的原則を再確認し、土地利用における権利と義務のバランスを明確にするものです。土地所有者は、本判決を参考に、自己の土地の利用に関する権利を適切に行使することが重要です。また、土地の利用を巡る紛争が発生した場合には、専門家である弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受けることをお勧めします。

    本判決の具体的な状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Law へお問い合わせいただくか、電子メール(frontdesk@asglawpartners.com)にてご連絡ください。

    免責事項:本分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的助言については、資格のある弁護士にご相談ください。
    出典: BICOL AGRO-INDUSTRIAL PRODUCERS COOPERATIVE, INC. VS. EDMUNDO O. OBIAS, G.R. No. 172077, 2009年10月9日

  • 道路通行権の法的根拠:不動産権原の喪失と差止命令の効力

    不動産権原の喪失は、差止命令の法的根拠を失わせる

    n

    G.R. NO. 152440, December 06, 2006

    nn不動産を所有しているからといって、その不動産へのアクセスが常に保証されるとは限りません。本件は、最終判決により不動産の権原が無効になった場合、以前に認められた差止命令がどのように効力を失うかを明確に示しています。nn

    はじめに

    nn私たちは日々の生活で、自分の財産にアクセスできることを当然のことと考えています。しかし、そのアクセス権が不動産権原に基づいている場合、その権原が争われるとどうなるでしょうか?フェリシタシオン・B・ボルバホ対ヒドゥン・ビュー・ホームオーナーズ事件は、まさにこの問題を取り上げ、権原喪失が差止命令に与える影響について重要な法的教訓を示しています。本件の核心は、ボルバホ夫人が所有権を主張する道路敷地へのアクセスを妨害されたことに対する差止命令の請求でした。nn

    法的背景

    nnフィリピン法において、不動産権は民法によって保護されています。民法第428条は、所有者に対し、法律および他者の権利によって制限される範囲内で、財産を享受および処分する権利を与えています。これには、財産へのアクセス権も含まれます。しかし、この権利は絶対的なものではなく、例えば、他者の通行権や、政府による収用権など、様々な制限を受ける可能性があります。nn本件に関連する重要な法令として、大統領令(P.D.)第957号があります。これは、細分化の規制を目的としており、道路敷地などの公共利用のための敷地の売却を制限する規定が含まれています。しかし、最高裁判所は、トルエンス権原(Torrens title)は、付随的な攻撃(collateral attack)から保護されるという原則を繰り返し述べています。つまり、権原の有効性は、そのために提起された直接訴訟でのみ争うことができるということです。nn民法第649条は、囲繞地所有者の通行権を規定しており、自分の不動産から公共道路への適切なアクセスがない場合、隣接する不動産を通過する権利を請求することができます。ただし、この権利は、通行を請求する者が、通行権を必要としていることを証明する必要があります。nn

    事件の経緯

    nn本件は、フェリシタシオン・B・ボルバホ夫人が、ヒドゥン・ビュー・サブディビジョン内の3つの道路敷地の通行を妨害されたことから始まりました。ボルバホ夫人は、これらの道路敷地の権原を所有しており、その所有権に基づいて差止命令を求めました。第一審裁判所は、ボルバホ夫人に有利な仮差止命令を発行しました。しかし、控訴裁判所はこれを覆し、道路敷地は売却できないとの判断を示しました。最高裁判所は、控訴裁判所の決定を覆し、ボルバホ夫人の所有権を認め、差止命令を恒久的なものとしました。ただし、最高裁判所は、道路敷地の権原の無効を求める別の訴訟が係争中であることを指摘し、その訴訟の結果次第で、差止命令の効力が左右される可能性があるとしました。nn* **第一審裁判所(地方裁判所):** ボルバホ夫人に有利な仮差止命令を発行
    * **控訴裁判所:** 第一審裁判所の決定を覆す
    * **最高裁判所:** 控訴裁判所の決定を覆し、差止命令を恒久的なものとする(ただし、係争中の訴訟の結果次第)nnしかし、その後の地方裁判所の判決により、ボルバホ夫人の道路敷地の権原は無効とされました。この判決は確定し、執行されました。その結果、道路敷地の権原は、ヒドゥン・ビュー・サブディビジョン・ホームオーナーズ協会に移転されました。nn> 「ボルバホ夫人の権原が無効とされた場合、道路敷地に対する彼女の権利、および当該権原に基づく通行権も消滅する。」nn> 「これらの3つの道路敷地を対象とする権原証明書が無効と宣告されない限り、その権原は尊重され、その使用および享受の侵害の場合には、その登録所有者は法の保護を受ける権利を有する。」nn

    実務上の教訓

    nn本件から得られる重要な教訓は、差止命令の法的根拠が、その後の判決によって覆される可能性があるということです。特に、不動産権が争われている場合、差止命令は一時的な救済に過ぎない可能性があります。したがって、不動産所有者は、常に自分の権原の有効性を確認し、必要に応じて法的措置を講じる必要があります。nn**重要な教訓**nn* **権原の確認:** 不動産権の有効性を定期的に確認する
    * **係争中の訴訟:** 権原を争う訴訟がある場合、その結果が差止命令に影響を与える可能性があることを認識する
    * **法的アドバイス:** 不動産に関する紛争が発生した場合は、弁護士に相談するnn

    よくある質問

    nn**Q: 差止命令とは何ですか?**nA: 差止命令とは、裁判所が特定の人または団体に対し、特定の行為を行うこと、または特定の行為を継続することを禁止する命令です。nn**Q: トルエンス権原とは何ですか?**nA: トルエンス権原とは、フィリピンの土地登録制度において、政府が発行する所有権の証明書です。この権原は、付随的な攻撃から保護されており、その有効性は、そのために提起された直接訴訟でのみ争うことができます。nn**Q: 囲繞地通行権とは何ですか?**nA: 囲繞地通行権とは、自分の不動産から公共道路への適切なアクセスがない場合、隣接する不動産を通過する権利です。この権利は、民法第649条に規定されています。nn**Q: 差止命令はいつ効力を失いますか?**nA: 差止命令は、その法的根拠が失われた場合、または裁判所が命令を取り消した場合に効力を失います。本件のように、権原が無効とされた場合、差止命令は効力を失います。nn**Q: 不動産権原を保護するために、どのような措置を講じるべきですか?**nA: 不動産権原を保護するために、次の措置を講じるべきです。nn* 権原の有効性を定期的に確認するn* 不動産税を適切に支払うn* 不動産に関する紛争が発生した場合は、弁護士に相談するnn本件のような不動産に関する紛争でお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。私たちは、不動産法に関する豊富な知識と経験を有しており、お客様の権利を最大限に保護するために尽力いたします。まずはお気軽にkonnichiwa@asglawpartners.comまたはお問い合わせページからご連絡ください。ASG Lawは、マカティとBGCに拠点を置く、フィリピン有数の法律事務所です。私たちがお手伝いできることを楽しみにしております。nn

  • フィリピンにおける囲繞地通行権:損害賠償請求の可否と権利濫用

    囲繞地通行権が認められた場合でも、権利濫用がない限り損害賠償請求は認められない

    G.R. No. 116100, February 09, 1996 SPOUSES CRISTINO AND BRIGIDA CUSTODIO AND SPOUSES LITO AND MARIA CRISTINA SANTOS, PETITIONERS, VS. COURT OF APPEALS, HEIRS OF PACIFICO C. MABASA AND REGIONAL TRIAL COURT OF PASIG, METRO MANILA, BRANCH 181, RESPONDENTS.

    はじめに

    土地に囲まれて公道に通じない土地(囲繞地)の所有者は、公道に出るために他人の土地を通行する権利(囲繞地通行権)を有します。しかし、通行権が認められたとしても、常に損害賠償請求が認められるわけではありません。本判例は、囲繞地の所有者が通行権を求めたケースにおいて、損害賠償請求が認められるための要件と、権利濫用の原則について重要な判断を示しています。

    本件では、原告(マバサ氏の相続人)が所有する土地が被告(クストディオ夫妻、サントス夫妻)の土地に囲まれており、公道への通行のために被告の土地を通行する必要がありました。原告は通行権を求めて訴訟を提起しましたが、被告が通行路を閉鎖したことにより賃借人が退去し、賃料収入が減少したとして損害賠償も請求しました。裁判所は通行権を認めたものの、損害賠償請求は棄却しました。

    法的背景

    フィリピン民法は、囲繞地通行権について以下の規定を設けています。

    第649条:土地が他の不動産に囲まれ、公道への適切な出口がない場合、囲繞地の所有者は、周囲の土地を通過する通行権を請求する権利を有する。ただし、適切な補償を支払うものとする。

    この規定により、囲繞地の所有者は、生活に必要な範囲で他人の土地を通行する権利が認められています。しかし、通行権は無制限に認められるわけではなく、必要最小限の範囲に限定され、通行地の所有者への補償も必要とされます。

    また、権利濫用の原則(民法第21条)も重要な法的概念です。これは、権利の行使が社会通念に照らして許容される範囲を超え、他人に損害を与える場合には、権利の濫用として違法となるという原則です。権利濫用の成立には、以下の3つの要件が必要です。

    • 権利者が道徳、善良な風俗、または公序良俗に反する方法で行動したこと
    • 権利者の行為が故意であったこと
    • 原告に損害または傷害が発生したこと

    たとえば、自分の土地に高い塀を建てて隣家の採光を妨げる行為は、権利の行使として一見正当に見えますが、その目的が単に隣人に嫌がらせをするためである場合、権利濫用として違法となる可能性があります。

    判例の分析

    本件の経緯は以下の通りです。

    1. 原告(マバサ氏)は、被告(クストディオ夫妻、サントス夫妻)の土地に囲まれた土地を購入。
    2. 被告は、原告の土地に通じる通路に塀を建設し、通路を閉鎖。
    3. 原告の土地の賃借人が退去し、賃料収入が減少。
    4. 原告は、被告に対して通行権の設定と損害賠償を請求する訴訟を提起。
    5. 第一審裁判所は通行権を認めたが、損害賠償請求は棄却。
    6. 控訴裁判所は、損害賠償請求を一部認め、被告に損害賠償を命じた。

    最高裁判所は、控訴裁判所の判決を破棄し、第一審裁判所の判決を支持しました。その理由として、以下の点を挙げています。

    「損害賠償の回復を保証するためには、被告によって引き起こされた法的違法行為に対する訴訟権と、それによって原告に生じた損害の両方が存在しなければならない。違法行為のない損害、または損害のない違法行為は、訴訟原因を構成しない。なぜなら、損害賠償は、違反または違法行為によって引き起こされた損害に対する救済の一部にすぎないからである。」

    「被告が自分の土地に塀を建設した行為は、所有者としての権利の正当な行使であり、道徳、善良な風俗、または公序良俗に反するものではない。法律は、所有者に対して、法律によって定められた制限以外に、物を享受し処分する権利を認めている。」

    最高裁判所は、被告が通路を閉鎖した時点では、原告はまだ通行権を有しておらず、被告の行為は所有権の正当な行使であったと判断しました。したがって、原告に損害が発生したとしても、それは「damnum absque injuria」(違法行為を伴わない損害)であり、損害賠償請求は認められないと結論付けました。

    実務への影響

    本判例は、囲繞地通行権が認められた場合でも、損害賠償請求が認められるためには、権利濫用などの違法行為が必要であることを明確にしました。土地所有者は、自分の土地を自由に利用する権利を有しますが、その権利行使が他人に不当な損害を与える場合には、法的責任を問われる可能性があることを認識しておく必要があります。

    本判例から得られる教訓は以下の通りです。

    • 囲繞地の所有者は、通行権を求める前に、まずは隣接地の所有者と協議し、円満な解決を目指すべきである。
    • 土地所有者は、自分の土地を利用する権利を正当に行使する限り、他人に損害を与えたとしても法的責任を問われることはない。
    • しかし、権利の行使が社会通念に照らして許容される範囲を超え、他人に損害を与える場合には、権利濫用として違法となる可能性がある。

    よくある質問

    Q1: 囲繞地通行権はどのような場合に認められますか?

    A1: 自分の土地が他の土地に囲まれており、公道への適切な出口がない場合に認められます。ただし、通行の必要性と、通行地の所有者への損害を考慮して、通行場所や方法が決定されます。

    Q2: 通行権が認められた場合、通行地の所有者にどのような補償を支払う必要がありますか?

    A2: 通行地の使用による損害を補償するための金額を支払う必要があります。具体的な金額は、当事者間の協議または裁判所の決定によって決定されます。

    Q3: 自分の土地に囲繞地通行権が設定された場合、自由に土地を利用できなくなりますか?

    A3: 通行権の設定によって、土地の利用が一部制限される可能性があります。しかし、通行権の範囲内で、土地を自由に利用する権利は依然として有しています。

    Q4: 隣人が通行路を不当に妨害した場合、どうすればよいですか?

    A4: まずは隣人と協議し、妨害行為の中止を求めるべきです。それでも解決しない場合は、裁判所に妨害排除の訴えを提起することができます。

    Q5: 権利濫用と判断される具体的なケースはありますか?

    A5: 例えば、自分の土地に必要以上に高い塀を建てて隣家の採光を著しく妨げる、騒音を故意に発生させて隣人の生活を妨害する、などが権利濫用と判断される可能性があります。

    本件に関するご質問や、フィリピン法に関するご相談は、ASG Lawにお気軽にお問い合わせください。当事務所は、フィリピン法務のエキスパートとして、お客様のニーズに合わせた最適なリーガルサービスを提供いたします。

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