本判決は、船員の労働災害における恒久的・完全な障害給付の請求において、120日を超えて労働不能であっても、必ずしも給付が認められるわけではないことを明確にしました。本件では、船員が職務復帰可能と診断されたにも関わらず、より長期間の療養を主張して給付を求めています。最高裁判所は、会社の指定医が240日以内の延長期間内に職務復帰可能と判断した場合、給付は認められないと判断しました。
会社指定医の診断は絶対か?船員の労働災害補償をめぐる攻防
フィリピン人船員のルペルト・S・パサンバ氏は、Jebsens Maritime, Inc. と Hapag-Lloyd Aktiengesellschaft に Able Seaman(甲板員)として雇用されました。乗船後まもなく体調を崩し、日本で治療を受けた後、本国に送還されました。その後、会社の指定医による治療を受けましたが、職務復帰可能と診断されました。しかし、パサンバ氏は、恒久的・完全な障害給付を求めて訴訟を起こしました。本件は、船員の労働災害における補償の範囲と、会社指定医の診断の重要性をめぐる重要な争点となりました。
本件の核心は、パサンバ氏が恒久的・完全な障害給付を受ける資格があるかどうか、という点にあります。労働法、雇用契約、医学的所見に基づいて、最高裁判所は慎重な判断を下しました。本件は、労働法典の第191条から第193条、および労働法典施行規則第X条第2項に関連します。労働法典第192条(C)(1)は、一時的な完全障害が継続して120日を超える場合、例外規定がない限り、完全かつ恒久的な障害とみなされると規定しています。また、2000年POEA-SECの第20条(B)(3)にも同様の規定があり、船員が労働災害により負傷または病気になった場合、雇用主は船員が職務復帰可能と診断されるか、恒久的障害の程度が会社の指定医によって評価されるまで、基本給に相当する傷病手当を支払う義務を負うと規定されています。
重要な点として、本件において最高裁判所は、会社指定医が診断を行うにあたり、十分な理由があったことを認めました。パサンバ氏は両耳の手術を受け、術後の経過観察が必要であったため、120日を超える期間を要しました。最高裁判所は、会社指定医による診断が154日目に行われたことは、240日間の延長期間内であり、適切であると判断しました。裁判所は、単に120日間就労できなかったというだけでは、恒久的・完全な障害給付を受ける資格があるとは限らないことを明確にしました。むしろ、会社指定医が合理的な理由をもって診断を延長した場合、240日間の期間が適用されると判断しました。
さらに、最高裁判所は、パサンバ氏が会社の指定医の診断結果に異議を唱えるための手続きを遵守しなかったことを指摘しました。POEA-SEC第20条(B)(3)に基づき、船員は会社指定医の診断結果に異議がある場合、自らが選んだ医師に診察を求めることができます。両者の意見が異なる場合、第三者の医師に判断を委ねる必要があります。パサンバ氏は、この手続きを怠り、2年後に別の医師の診断を受けたに過ぎません。最高裁判所は、この遅延した診断を認めず、会社指定医の診断を尊重しました。本判決は、会社指定医による診断の重要性を改めて強調するものであり、船員が異議を唱える場合には、適切な手続きを踏む必要があることを示唆しています。
以上の理由から、最高裁判所は、パサンバ氏の恒久的・完全な障害給付の請求を認めませんでした。ただし、傷病手当については、療養期間全体(2010年2月5日から7月9日まで)に対して支給されるべきであると判断しました。この判決は、POEA-SECと労働法典の規定を調和させるものであり、会社指定医による適切な医学的評価に基づいた、合理的な補償の枠組みを確立するものです。また、弁護士費用についても、下級審の判断を支持し、これを認めました。
FAQs
本件の主要な争点は何でしたか? | 本件の主要な争点は、船員が恒久的・完全な障害給付を受ける資格があるかどうかでした。特に、120日を超えて労働不能であった場合でも、必ずしも給付が認められるわけではない点が争われました。 |
会社指定医の診断は、なぜ重要視されるのですか? | 会社指定医は、船員の治療経過を継続的に観察し、専門的な医学的知見を有しているため、その診断は重要視されます。また、POEA-SECに基づき、船員の健康状態を評価する第一義的な責任を負っています。 |
船員が会社指定医の診断に異議がある場合、どうすればよいですか? | POEA-SEC第20条(B)(3)に基づき、船員は自らが選んだ医師に診察を求め、診断結果を比較することができます。両者の意見が異なる場合、第三者の医師に判断を委ねる必要があります。 |
本判決は、今後の船員の労働災害補償請求にどのような影響を与えますか? | 本判決は、船員が恒久的・完全な障害給付を請求する際に、会社指定医の診断が重要な要素となることを改めて強調するものです。また、120日を超える療養期間を経た場合でも、必ずしも給付が認められるわけではないことを明確にしました。 |
「Vergara対Hammonia Maritime Services, Inc.事件」とは何ですか? | Vergara対Hammonia Maritime Services, Inc.事件は、船員の労働災害補償における240日間の延長期間を認めた先例となる判決です。本件では、会社指定医がさらなる治療が必要であると判断した場合、診断期間を延長できることが確認されました。 |
船員は、どのような場合に傷病手当を受け取ることができますか? | POEA-SECに基づき、船員は労働災害により負傷または病気になった場合、職務復帰可能と診断されるか、恒久的障害の程度が評価されるまで、基本給に相当する傷病手当を受け取ることができます。 |
なぜ今回の裁判で弁護士費用が認められたのですか? | 民法第2208条(8)に基づき、労働者災害補償および雇用者の責任に関する法律に基づく補償請求において、弁護士費用が認められています。 |
本件の判決で、特に注意すべき点は何ですか? | 本件で注意すべき点は、会社の指定医が妥当な理由をもって診断期間を延長した場合、240日間の延長期間が適用されるということです。この期間内に職務復帰可能と診断された場合、恒久的・完全な障害給付は認められない可能性があります。 |
本判決は、船員の労働災害補償における恒久的・完全な障害給付の認定基準を明確化し、会社指定医の診断の重要性を強調するものです。今後、同様の事案が発生した場合、本判決が重要な判断基準となることが予想されます。
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Disclaimer: This analysis is provided for informational purposes only and does not constitute legal advice. For specific legal guidance tailored to your situation, please consult with a qualified attorney.
Source: Jebsens Maritime, Inc. 対 Pasamba事件, G.R No. 220904, 2019年9月25日