フィリピン法における児童に対するわいせつ行為の定義と処罰:具体的な事例から学ぶ
G.R. No. 258257, August 09, 2023
フィリピンでは、児童に対する性的虐待は厳しく禁じられています。しかし、具体的な行為がどの法律に該当し、どのような処罰が科されるのかは、必ずしも明確ではありません。本記事では、最高裁判所の判例を基に、児童に対するわいせつ行為の法的解釈と、実務への影響について解説します。
はじめに
児童に対する性的虐待は、社会全体で根絶すべき犯罪です。しかし、法律の適用は具体的な事実関係に左右されるため、判例を通して理解を深めることが重要です。本記事では、ペドロ・”ペペ”・タリサイ対フィリピン国事件(G.R. No. 258257)を基に、R.A. No. 7610(児童虐待、搾取、差別からの特別保護法)におけるわいせつ行為の定義、立証責任、処罰について解説します。
法律の背景
R.A. No. 7610は、児童を虐待、搾取、差別から保護することを目的とした法律です。特に、第5条(b)は、児童に対する性的虐待を禁じており、違反者には重い刑罰が科されます。
R.A. No. 7610 第5条(b)の条文は以下の通りです。
Section 5. Child Prostitution and Other Sexual Abuse. — Children, whether male or female, who for money, profit, or any other consideration or due to the coercion or influence of any adult, syndicate or group, indulge in sexual intercourse or lascivious conduct, are deemed to be children exploited in prostitution and other sexual abuse.
The penalty of reclusion temporal in its medium period to reclusion perpetua shall be imposed upon the following:
x x x x
(b) Those who commit the act of sexual intercourse or lascivious conduct with a child exploited in prostitution or [subjected] to other sexual abuse; Provided, That when the [victim] is under twelve (12) years of age, the perpetrators shall be prosecuted under Article 335, paragraph 3, for rape and Article 336 of Act No. 3815, as amended, the Revised Penal Code, for rape or lascivious conduct, as the case may be: Provided, That the penalty for lascivious conduct when the victim is under twelve (12) years of age shall be reclusion temporal in its medium period[.]
この条文は、児童に対する性的虐待を広く禁じており、わいせつ行為もその対象に含まれます。重要なのは、児童が18歳未満であること、そして、行為者が児童に対してわいせつな行為を行ったという事実を立証することです。
わいせつ行為の定義は、R.A. No. 7610の施行規則(IRR)第2条(h)に定められています。これによると、わいせつ行為とは、性器、肛門、鼠径部、乳房、内腿、臀部への意図的な接触、または、あらゆる物体を性器、肛門、口に挿入する行為を指します。これらの行為は、虐待、屈辱、嫌がらせ、品位を貶める、または、性的欲求をそそる意図をもって行われる必要があります。
事件の概要
ペドロ・”ペペ”・タリサイは、15歳の少女AAAに対し、わいせつな行為を行ったとしてR.A. No. 7610の第5条(b)違反で起訴されました。検察側の主張によると、タリサイはAAAを豚小屋に連れ込み、頬にキスをし、服を脱がせ、性器をAAAの性器の上に置きました。AAAは抵抗しましたが、タリサイは行為を続けました。
タリサイは、事件当日、妻と息子と共に自宅にいたと主張し、アリバイを主張しました。また、AAAに200ペソを渡したのは、AAAがてんかんの発作を起こした後、食べ物を求めたためだと説明しました。
地裁は、AAAの証言を信用し、タリサイを有罪と判断しました。控訴院も地裁の判決を支持しましたが、罪名を「わいせつ行為」に変更し、損害賠償額を増額しました。
- 地裁の判決: タリサイはR.A. 7610に関連するわいせつ行為で有罪。懲役14年8ヶ月から20年、および、AAAへの損害賠償として20,000ペソの慰謝料、15,000ペソの精神的損害賠償、15,000ペソの罰金が命じられました。
- 控訴院の判決: 地裁の判決を修正して支持。罪名をR.A. 7610第5条(b)に基づくわいせつ行為に変更。AAAへの損害賠償額を増額し、慰謝料50,000ペソ、精神的損害賠償50,000ペソ、懲罰的損害賠償50,000ペソを命じました。
最高裁判所は、タリサイの訴えを退け、控訴院の判決を一部修正しました。最高裁は、AAAの証言が具体的で一貫しており、信用できると判断しました。また、タリサイの行為は、R.A. No. 7610におけるわいせつ行為に該当すると判断しました。ただし、量刑については、不確定刑法を適用し、より適切な刑罰を言い渡しました。
最高裁判所は、以下の点を強調しました。
AAAの証言は、具体的で一貫しており、信用できる。
タリサイの行為は、R.A. No. 7610におけるわいせつ行為に該当する。
実務への影響
本判決は、児童に対するわいせつ行為の定義と立証責任について、重要な指針を示しています。特に、以下の点が重要です。
- 被害者の証言の重要性: 裁判所は、被害者の証言を重視し、具体的で一貫性があれば、信用できると判断します。
- わいせつ行為の広義な解釈: R.A. No. 7610は、わいせつ行為を広く定義しており、性器への直接的な接触だけでなく、性的な意図をもって行われるあらゆる行為が対象となります。
- 加害者のアリバイの立証責任: 加害者は、事件当時、別の場所にいたことを具体的に立証する必要があります。単なるアリバイの主張だけでは、有罪を免れることはできません。
重要な教訓
- 児童に対する性的虐待は、厳しく禁じられています。
- 被害者の証言は、重要な証拠となります。
- 加害者は、アリバイを具体的に立証する必要があります。
よくある質問
Q: R.A. No. 7610における「わいせつ行為」とは、具体的にどのような行為を指しますか?
A: R.A. No. 7610の施行規則(IRR)第2条(h)によると、わいせつ行為とは、性器、肛門、鼠径部、乳房、内腿、臀部への意図的な接触、または、あらゆる物体を性器、肛門、口に挿入する行為を指します。これらの行為は、虐待、屈辱、嫌がらせ、品位を貶める、または、性的欲求をそそる意図をもって行われる必要があります。
Q: 被害者の証言だけで、加害者を有罪にできますか?
A: はい、被害者の証言が具体的で一貫しており、信用できると判断されれば、それだけで加害者を有罪にすることができます。ただし、裁判所は、他の証拠も考慮し、総合的に判断します。
Q: 加害者がアリバイを主張した場合、裁判所はどのように判断しますか?
A: 加害者は、事件当時、別の場所にいたことを具体的に立証する必要があります。単なるアリバイの主張だけでは、有罪を免れることはできません。裁判所は、アリバイの信憑性を慎重に判断します。
Q: R.A. No. 7610に違反した場合、どのような刑罰が科されますか?
A: R.A. No. 7610の第5条(b)に違反した場合、reclusion temporal(懲役12年1日~20年)の中間期間からreclusion perpetua(終身刑)の刑罰が科されます。具体的な刑罰は、事件の状況や加害者の前科などによって異なります。
Q: 児童に対する性的虐待事件で弁護士に相談するメリットは何ですか?
A: 弁護士は、事件の法的側面を理解し、権利を保護するためのアドバイスを提供できます。また、証拠の収集、裁判所への出廷、交渉など、法的手続きを支援できます。
児童に対する性的虐待事件でお困りの際は、お問い合わせいただくか、konnichiwa@asglawpartners.comまでメールでご連絡ください。ご相談のご予約を承ります。