本判決は、船員の労働災害認定に関する重要な判断を示しました。最高裁判所は、船員が訴えた腰痛について、会社指定医師による適切な診察機会が与えられなかったこと、業務との関連性が立証されていないことを理由に、労働災害とは認められないと判断しました。しかし、睾丸の痛みについては、業務との関連性が認められ、傷病手当の支払いを命じました。この判決は、船員の労働災害認定における立証責任と、会社指定医師の診察の重要性を明確にするものです。
船員はどのようにして腰痛を訴えたのか?その訴えは業務と関係があるのか?
本件は、フィリピン人船員アンヘリート・B・パンガシアン氏(以下、「被雇用者」)が、雇用主であるファルコン・マリタイム・アンド・アライド・サービシーズ社ら(以下、「雇用主」)に対し、腰痛などを理由とする労働災害給付を求めたものです。被雇用者は、M/V New Hayatsuki号という冷凍船で調理長として勤務していました。彼は、航海中に重い荷物を持ち上げた際に腰を痛めたと主張しました。帰国後、会社指定の医師の診察を受けましたが、睾丸の痛みが主な診察対象となり、腰痛については十分に診察されませんでした。
被雇用者はその後、腰痛が悪化したため、私的にMRI検査を受けました。その結果、腰椎椎間板ヘルニアと診断されました。被雇用者は、会社に対し、労働災害給付を請求しましたが、会社は、腰痛は業務とは関係がないとして、支払いを拒否しました。そこで、被雇用者は、労働仲裁委員会に仲裁を申し立てました。
労働仲裁委員会は、被雇用者の主張を認め、会社に対し、労働災害給付の支払いを命じました。会社はこれを不服として、控訴裁判所に控訴しました。控訴裁判所も、労働仲裁委員会の判断を支持しました。会社は、さらに最高裁判所に上告しました。最高裁判所は、本件における争点を、以下の点に整理しました。①被雇用者の腰痛は、業務に起因するものか、②被雇用者は、労働災害給付を受ける資格があるか、③被雇用者は、傷病手当や医療費の払い戻しを受ける資格があるか、④被雇用者は、損害賠償や弁護士費用を請求できるか。
最高裁判所は、まず、被雇用者の腰痛は、業務に起因するものではないと判断しました。その理由は、被雇用者が、会社指定の医師の診察を受けた際に、腰痛について十分に申告しなかったこと、腰痛と業務との間の因果関係を立証する十分な証拠がないことでした。最高裁判所は、被雇用者が会社指定の医師に腰痛を伝えなかったという事実は、彼の主張の信憑性を著しく損なうと判断しました。被雇用者が最初に腰痛を訴えたのは帰国後であり、これは労働契約期間中ではなかったため、業務との関連性を認めることは難しいとしました。
最高裁判所は、ただし、被雇用者が睾丸の痛みについては、業務との関連性を認め、傷病手当の支払いを命じました。その理由は、被雇用者が、航海中に睾丸の痛みを訴え、会社指定の医師の診察を受けたこと、睾丸の痛みと業務との間の関連性がある程度認められることでした。しかし、医療費の払い戻し、損害賠償、弁護士費用の請求は認めませんでした。
最高裁判所は判決理由の中で、船員の労働災害については、POEA-SEC(フィリピン海外雇用庁標準雇用契約)に基づいて判断されるべきであると述べました。POEA-SECは、船員の権利を保護するために設けられたものであり、その規定は、船員に有利に解釈されるべきであるとしました。しかし、POEA-SECの規定を適用するにあたっては、船員の立証責任も考慮されるべきであり、船員は、自らの主張を裏付ける十分な証拠を提出しなければならないとしました。
本件判決は、船員の労働災害認定における重要な先例となります。船員が労働災害給付を請求するにあたっては、POEA-SECの規定を遵守するとともに、自らの主張を裏付ける十分な証拠を提出する必要があります。また、会社指定の医師の診察を十分に受け、自らの症状を正確に伝えることが重要です。
FAQs
この訴訟の争点は何でしたか? | 船員の腰痛が業務に起因するか否か、また、労働災害給付を受ける資格があるかどうかが主な争点でした。さらに、傷病手当、医療費払い戻し、損害賠償、弁護士費用の請求の可否も争われました。 |
裁判所は、なぜ船員の腰痛を業務起因と認めなかったのですか? | 船員が会社指定の医師の診察時に腰痛を申告しなかったこと、および腰痛と業務の間の因果関係を立証する証拠が不十分であったため、裁判所は業務起因性を認めませんでした。 |
会社指定の医師による診察が重要なのはなぜですか? | POEA-SEC(フィリピン海外雇用庁標準雇用契約)に基づき、会社指定の医師による診察は、船員の健康状態の評価と業務起因性の判断において重要な役割を果たします。適切な診察を受けない場合、給付金の請求が認められない可能性があります。 |
船員が労働災害給付を請求するために必要なことは何ですか? | 船員はPOEA-SECの規定を遵守し、自らの主張を裏付ける証拠を提出する必要があります。また、会社指定の医師の診察を十分に受け、症状を正確に伝えることが重要です。 |
この判決は、他の船員の労働災害請求にどのような影響を与えますか? | この判決は、船員が労働災害給付を請求する際の立証責任と、会社指定の医師の診察の重要性を明確にするものです。今後の同様のケースにおいて、重要な先例となる可能性があります。 |
傷病手当はどのように計算されますか? | 傷病手当は、船員が乗船を終えた時点から、就労可能と判断されるまでの期間、または会社指定医師が障害の程度を評価するまでの期間に基づいて計算されます。ただし、120日を超えることはありません。 |
この訴訟で、船員に傷病手当は支払われましたか? | はい、睾丸の痛みについては業務との関連性が認められたため、船員には傷病手当が支払われました。 |
船員が会社指定の医師の診断に同意しない場合はどうなりますか? | POEA-SECは、船員が自身の医師の診断を求める権利を認めています。意見が異なる場合、雇用主と船員が合意した第三の医師の判断が最終的なものとなります。 |
本判決は、船員という特殊な職業における労働災害の認定基準を示すものです。個々のケースに応じて、専門家への相談が不可欠となります。
本判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Lawのお問い合わせフォームまたはfrontdesk@asglawpartners.comまでご連絡ください。
免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的ガイダンスについては、資格のある弁護士にご相談ください。
出典: Falcon Maritime and Allied Services, Inc., et al. v. Angelito B. Pangasian, G.R. No. 223295, 2019年3月13日