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  • フィリピン海事法:船舶チャーター契約における責任の範囲 – カルテックス対スルピシオライン事件

    船舶をチャーターした場合、海難事故の責任は誰にあるのか?最高裁判所の判決解説

    G.R. No. 131166, 1999年9月30日

    はじめに

    フィリピンにおける海運業界は、経済活動と人々の移動に不可欠な役割を果たしています。しかし、海難事故は常に潜在的なリスクを伴い、甚大な被害をもたらす可能性があります。1987年に発生したドニャ・パス号事件は、フィリピン史上最悪の海難事故として記憶されています。この悲劇的な事件を背景に、船舶のチャーター契約における責任の所在を明確にしたのが、カルテックス対スルピシオライン事件です。本稿では、この最高裁判所の判決を詳細に分析し、海事法における重要な教訓と実務上の影響について解説します。

    法的背景:傭船契約の種類と責任

    海事法において、船舶の利用形態は大きく分けて傭船契約(チャーター契約)と運送状(船荷証券)による運送契約に分類されます。傭船契約は、船舶の所有者(船主)が、船舶の一部または全部を傭船者(チャーター者)に貸し出す契約です。傭船契約には、主に以下の3つの種類があります。

    • 裸傭船(ベアボートチャーター):船舶のみを傭船し、運航に必要な船員や燃料の手配、船舶の管理責任は傭船者が負います。傭船者は、事実上、船舶の所有者と同様の立場となります。
    • 定期傭船(タイムチャーター):船舶と船員を一定期間傭船し、傭船者は運航指示権を持ちますが、船舶の管理責任は船主に残ります。
    • 航海傭船(ボヤージチャーター):特定の航海について船舶を傭船し、傭船者は貨物の運送を依頼するのみで、船舶の運航や管理責任は船主にあります。

    本件で問題となったのは、航海傭船契約における傭船者の責任です。フィリピン民法第2176条は、不法行為による損害賠償責任を規定しており、「過失または怠慢によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する義務を負う」と定めています。また、民法第20条は、「法律に違反し、故意または過失により他人に損害を与えた者は、その損害を賠償しなければならない」と規定しています。さらに、注意義務については、民法第1173条で「債務者の過失または怠慢は、その義務の性質上要求される注意義務を怠ることを意味する」と定義されています。

    関連条文:

    フィリピン民法第20条 – 何人も、法律に違反し、故意または過失により他人に損害を与えたときは、その損害を賠償しなければならない。

    フィリピン民法第2176条 – 過失または怠慢によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する義務を負う。当事者間に既存の契約関係がない場合の当該過失または怠慢は、準不法行為と呼ばれ、本章の規定に従うものとする。

    フィリピン民法第1173条 – 債務者の過失または怠慢は、その義務の性質上要求される注意義務を怠ることを意味し、人、時、場所の状況に対応するものでなければならない。過失が悪意を示す場合、第1171条および第2201条第2項の規定が適用される。

    法律が履行において遵守すべき注意義務を規定していない場合、善良な家長の注意義務が要求されるものとする。

    これらの条文を背景に、本判決は、航海傭船契約における傭船者の注意義務と、不法行為責任の範囲を判断しました。

    事件の経緯:ドニャ・パス号事件と訴訟

    1987年12月20日、石油製品を積載したタンカーMTベクター号(傭船者:カルテックス)と、乗客を乗せた旅客船ドニャ・パス号(所有者:スルピシオライン)が公海上で衝突しました。この衝突事故により、ドニャ・パス号の乗客乗員およびMTベクター号の乗組員を含む多数の犠牲者を出す大惨事となりました。生存者はわずか24名でした。

    事故後、海洋事故調査委員会(BMI)は調査の結果、MTベクター号の運航者であるベクター・シッピング・コーポレーションに事故の責任があると認定しました。これを受け、ドニャ・パス号の乗客の遺族がスルピシオラインに対し損害賠償請求訴訟を提起しました。スルピシオラインは、カルテックスもMTベクター号の欠陥を知りながら傭船した過失があるとして、第三者訴訟を提起しました。

    裁判所の判断の変遷:

    1. 第一審(地方裁判所):スルピシオラインのカルテックスに対する第三者訴訟を棄却。スルピシオラインのみに損害賠償責任を認めました。
    2. 控訴審(控訴裁判所):第一審判決を変更し、カルテックスにもMTベクター号の傭船者としての過失責任を認め、スルピシオラインと共に損害賠償責任を負うと判断しました。控訴裁判所は、カルテックスがMTベクター号の船舶検査証や沿岸航行免許の更新を確認しなかったこと、欠陥を知りながら貨物を積載したこと、偽造書類を知っていたことなどを過失としました。
    3. 上告審(最高裁判所):控訴審判決を覆し、カルテックスには責任がないと判断。

    最高裁判所は、傭船契約の種類、船舶の seaworthiness(耐航性)に関する原則、および傭船者の注意義務について詳細な検討を行い、最終的にカルテックスの責任を否定しました。

    最高裁判所の判断:航海傭船契約と傭船者の責任

    最高裁判所は、まず、カルテックスとベクター・シッピング・コーポレーション間の契約が航海傭船契約であることを確認しました。航海傭船契約においては、船舶の運航と管理責任は船主にあり、傭船者は貨物の運送を依頼する立場に過ぎません。したがって、原則として、傭船者は船舶の欠陥や運航上の過失によって生じた損害について責任を負わないと判断しました。

    裁判所は、以下の理由からカルテックスの過失責任を否定しました。

    • 傭船者の義務:傭船者は、貨物の運送を依頼する際に、船舶がすべての法的要件を満たしているかを確認する義務を負いません。そのような義務は、公共輸送サービスを提供する船舶運航者に課せられるものです。
    • Seaworthinessの保証:船舶運航者は、船舶の seaworthiness を保証する義務があります。貨物の荷送人は、船舶運航者との取引において、船舶の seaworthiness や免許の真正性、海事法規の遵守状況を調査する義務はありません。
    • カルテックスの注意義務:カルテックスは、MTベクター号が合法的に貨物を輸送できると信じるに足る合理的な理由がありました。カルテックスは、MTベクター号の運航管理者から船舶検査証の更新手続き中であるとの説明を受け、また、過去2年間の取引実績からもMTベクター号の運航に問題がないと判断していました。

    最高裁判所は、判決の中で、以下の重要な判例を引用し、航海傭船契約における傭船者の責任範囲を明確にしました。

    「傭船契約が船舶のみのチャーターである場合、公共運送人はその性格を維持する。傭船契約が船舶と乗組員の両方を含む裸傭船の場合にのみ、公共運送人は私的運送人に変わる。」(プランターズ・プロダクツ対控訴裁判所事件)

    「傭船契約が公共運送人を私的運送人に変えることはあっても、傭船契約においてはそうではない。」(コーストワイズ・ライターレージ・コーポレーション対控訴裁判所事件)

    これらの判例に基づき、最高裁判所は、航海傭船契約においては、傭船者は船舶の seaworthiness について保証責任を負わず、特段の過失がない限り、海難事故の責任を負わないと結論付けました。

    判決の要旨:

    「単なる航海傭船者であるカルテックスは、船舶が seaworthy であると推定する権利を有していた。フィリピン沿岸警備隊さえもその seaworthiness を確信していたのである。あらゆる点を考慮すると、当社は、請願者を損害賠償責任を負わせる法的根拠を見出すことができない。」

    最終的に、最高裁判所は控訴裁判所の判決を破棄し、カルテックスの第三者訴訟における責任を否定しました。ただし、ベクター・シッピング・コーポレーションの責任については、控訴裁判所の判断を維持しました。

    実務上の影響と教訓

    本判決は、フィリピン海事法における傭船契約の責任範囲に関する重要な判例となり、特に航海傭船契約においては、傭船者の責任が限定的であることを明確にしました。企業が船舶を傭船する際、以下の点に注意することで、不測の事態における責任を軽減することができます。

    • 傭船契約の種類:契約の種類を明確にし、航海傭船契約であることを確認する。
    • 船主の責任:契約書において、船舶の seaworthiness および運航に関する責任は船主にあることを明記する。
    • デューデリジェンス:船主の信頼性や過去の実績を確認し、合理的な範囲で船舶の seaworthiness に関する情報を収集する。ただし、過度な調査義務は課せられない。
    • 保険:責任範囲を明確にするため、適切な保険に加入することを検討する。

    主要な教訓:

    • 航海傭船契約においては、傭船者は原則として船舶の欠陥や運航上の過失による損害賠償責任を負わない。
    • 傭船者は、船舶の seaworthiness について保証責任を負わず、過度な調査義務も課せられない。
    • 船舶運航者は、船舶の seaworthiness を保証し、安全な運航を確保する義務を負う。

    よくある質問(FAQ)

    1. 質問1:航海傭船契約と定期傭船契約の違いは何ですか?

      回答:航海傭船契約は特定の航海について船舶を傭船する契約で、定期傭船契約は一定期間船舶を傭船する契約です。航海傭船契約では、船舶の運航・管理責任は船主にありますが、定期傭船契約では、傭船者が運航指示権を持ちます。

    2. 質問2:傭船者が責任を負うのはどのような場合ですか?

      回答:航海傭船契約においては、傭船者は原則として責任を負いませんが、傭船者自身の過失(例えば、危険な貨物の積載を指示した場合など)によって事故が発生した場合は、責任を問われる可能性があります。

    3. 質問3:船舶の seaworthiness とは何ですか?

      回答:Seaworthiness(耐航性)とは、船舶が航海に安全に耐えうる状態であることを意味します。具体的には、船体、機関、設備が適切に整備され、十分な資格を持つ船員が乗り組んでいることなどが含まれます。

    4. 質問4:本判決は今後の海事訴訟にどのような影響を与えますか?

      回答:本判決は、航海傭船契約における傭船者の責任範囲を明確にしたため、今後の同様の訴訟において、傭船者の責任がより限定的に解釈される可能性が高まります。

    5. 質問5:企業が船舶を傭船する際に注意すべき点は何ですか?

      回答:傭船契約の種類を明確にし、契約書において船主の責任範囲を明確にすることが重要です。また、船主の信頼性や船舶の seaworthiness に関する情報を収集することも有効です。


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    Source: Supreme Court E-Library

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  • 私的運送業者における貨物損害賠償責任:船舶の堪航能力と過失責任の明確化

    私的運送業者の貨物損害賠償責任:堪航能力と過失責任の要件

    G.R. No. 112287 & G.R. No. 112350, 1997年12月12日

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    貨物輸送における損害賠償責任は、運送契約の種類によって大きく異なります。特に、不特定多数の荷主を対象とする公共運送業者と、特定の荷主との契約に基づいて輸送を行う私的運送業者とでは、責任の範囲や立証責任が異なります。本稿では、フィリピン最高裁判所の国民製鉄公社対控訴院・Vlasons Shipping事件(G.R. No. 112287 & G.R. No. 112350、1997年12月12日判決)を基に、私的運送業者における貨物損害賠償責任の法的枠組み、特に船舶の堪航能力と運送業者の過失責任について解説します。

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    公共運送業者と私的運送業者の法的区別

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    フィリピン民法1732条は、公共運送業者を「陸上、海上、または航空で、有償で、旅客または物品またはその両方を運送する事業に従事し、その輸送サービスを一般公衆に提供する個人、法人、会社、または団体」と定義しています。公共運送業者は、そのサービスを広く一般に提供する義務を負い、貨物の安全輸送に対して高度な注意義務が課せられます。一方、私的運送業者は、特定の個人や企業との個別の契約(傭船契約など)に基づいて輸送サービスを提供する業者であり、公共運送業者ほどの厳格な責任は負いません。

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    本件のVlasons Shipping, Inc.(VSI)は、不特定多数の荷主に対してサービスを提供するのではなく、個別の傭船契約に基づいて輸送を行う私的運送業者でした。この点が、本件の法的判断において重要なポイントとなります。

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    私的運送契約における責任範囲

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    私的運送契約においては、当事者間の合意が責任範囲を決定する上で重要な役割を果たします。本件の傭船契約では、VSIの責任範囲は「船舶職員の故意または重大な過失が証明された場合に限定される」と明記されていました。また、NANYOZAI傭船契約約款(契約に組み込まれた国際的な標準約款)においても、船舶所有者は、船舶の堪航能力を確保するために相当な注意を払ったにもかかわらず発生した不堪航による貨物損害、または船長や乗組員の過失によるものではない損害については責任を負わない旨が規定されていました。

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    これらの契約条項に基づき、国民製鉄公社(NSC)は、VSIに貨物損害賠償責任を追及するためには、VSIまたはその船舶職員に故意または過失があったこと、そして損害がその故意または過失によって生じたことを立証する必要がありました。公共運送業者とは異なり、私的運送業者であるVSIには、貨物損害が発生した場合に過失がないことを立証する責任(立証責任の転換)は課せられません。

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    事件の経緯:国民製鉄公社対Vlasons Shipping事件

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    1974年、NSCはVSIとの間で傭船契約を締結し、VSI所有のMV Vlasons Iを用いてイリガン市からマニラ港へ鋼材製品を輸送することになりました。貨物は無事にマニラ港に到着しましたが、荷揚げ作業中に雨天に見舞われ、NSCが手配した港湾労働者の不手際により、貨物が雨水に濡れて錆びてしまうという損害が発生しました。NSCはVSIに対し、貨物損害賠償を請求しましたが、VSIは契約上の免責条項を主張し、賠償を拒否しました。そこで、NSCはVSIを相手取り、損害賠償請求訴訟を提起しました。

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    第一審の地方裁判所は、MV Vlasons Iが堪航能力を有していたこと、損害は港湾労働者の過失によるものであること、そしてVSIに故意または過失は認められないとして、NSCの請求を棄却しました。NSCは控訴院に控訴しましたが、控訴院も第一審判決を支持し、NSCの請求を退けました。NSCはさらに最高裁判所に上訴しましたが、最高裁判所も下級審の判断を支持し、NSCの上訴を棄却しました。

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    最高裁判所は、判決理由の中で、以下の点を明確にしました。

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    • VSIは私的運送業者であり、公共運送業者のような厳格な責任は負わない。
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    • 傭船契約において、VSIの責任範囲は限定的に定められている。
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    • NSCは、VSIまたはその船舶職員に故意または過失があったこと、そして損害がその故意または過失によって生じたことを立証する必要があるが、立証できていない。
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    • MV Vlasons Iは堪航能力を有しており、VSIは船舶の堪航能力を確保するために相当な注意を払った。
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    • 貨物損害は、NSCが手配した港湾労働者の過失によって引き起こされたものであり、VSIの責任ではない。
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    最高裁判所は、下級審の事実認定を尊重し、VSIに貨物損害賠償責任はないとの結論に至りました。

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    実務上の教訓と法的アドバイス

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    本判決は、私的運送契約における貨物損害賠償責任の範囲を明確にした重要な判例です。企業が私的運送業者に貨物輸送を委託する際には、以下の点に注意する必要があります。

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    • 契約内容の確認:傭船契約などの運送契約において、運送業者の責任範囲、免責条項、立証責任の所在などを詳細に確認し、自社に不利な条項がないか検討する必要があります。
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    • 貨物保険の加入:運送中の貨物損害リスクに備え、適切な貨物保険に加入することが重要です。本件でも、契約上NSCに貨物保険加入義務がありましたが、実際には加入していませんでした。
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    • 港湾労働者の管理:荷揚げ・荷下ろし作業を委託する港湾労働者の選定と監督を適切に行い、貨物損害のリスクを最小限に抑える必要があります。
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    • 証拠の保全:万が一、貨物損害が発生した場合に備え、損害発生状況、原因、程度などを記録し、写真やビデオなどの証拠を保全しておくことが重要です。
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    重要なポイント

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    • 私的運送業者は公共運送業者ほどの厳格な責任を負わない。
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    • 私的運送契約では、契約内容が責任範囲を大きく左右する。
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    • 貨物損害賠償責任を追及するには、運送業者の故意または過失の立証が必要。
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    • 貨物保険への加入はリスクヘッジとして不可欠。
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    よくある質問(FAQ)

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    Q1: 公共運送業者と私的運送業者の責任の違いは何ですか?

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    A1: 公共運送業者は、貨物の安全輸送に対して高度な注意義務を負い、損害が発生した場合、原則として過失があったものと推定されます(立証責任の転換)。一方、私的運送業者は、契約で定められた範囲でのみ責任を負い、損害賠償責任を追及するには、荷主側が運送業者の故意または過失を立証する必要があります。

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    Q2: 傭船契約で免責条項があれば、運送業者は一切責任を負わないのですか?

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    A2: 免責条項は有効ですが、運送業者の故意または重大な過失まで免責するものではありません。また、契約内容や適用法によっては、免責条項が無効となる場合もあります。弁護士にご相談ください。

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    Q3: 貨物保険には必ず加入すべきですか?

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    A3: はい、貨物保険は運送中の貨物損害リスクをカバーするための重要な保険です。特に高額な貨物や損害リスクが高い貨物を輸送する場合は、必ず加入すべきです。

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    Q4: 港湾労働者の過失による貨物損害は誰の責任になりますか?

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    A4: 港湾労働者が荷主の指示・監督下で作業を行っていた場合、原則として荷主の責任となります。運送業者の指示・監督下で作業を行っていた場合は、運送業者の責任となる可能性があります。契約内容や事実関係によって判断が異なります。

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    Q5: 本判決は日本企業にも関係ありますか?

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    A5: 本判決はフィリピンの判例ですが、私的運送契約における責任範囲や立証責任の考え方は、国際的な商取引においても共通する部分があります。日本企業がフィリピン企業との間で運送契約を締結する際や、フィリピン法が準拠法となる契約を締結する際には、参考になるでしょう。

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  • フィリピン最高裁が解説:共同運送人の貨物損害賠償責任と注意義務

    共同運送人の貨物に対する高度な注意義務:最高裁判例解説

    G.R. No. 119197, 1997年5月16日

    はじめに

    商品を輸送中に損害が発生した場合、誰が責任を負うのでしょうか?特にフィリピンにおいて、運送契約の種類と運送業者の注意義務は複雑な問題です。本稿では、最高裁判所の判例を基に、共同運送人の貨物に対する責任と、荷受人側の過失が賠償責任にどう影響するかを解説します。この事例は、運送業者、荷主、保険会社にとって重要な教訓を含んでいます。

    本件は、穀物輸送中の貨物損害を巡り、保険会社が運送業者に損害賠償を求めた訴訟です。最高裁判所は、運送業者が共同運送人であることを改めて確認し、貨物に対する高度な注意義務を怠ったとして、損害賠償責任を認めました。ただし、荷受人側にも遅延による損害拡大の責任があるとして、過失相殺を適用しています。

    法的背景:共同運送人と注意義務

    フィリピン民法1732条は、共同運送人を「報酬を得て、不特定多数の者に対し、物品または旅客の運送を業とする者」と定義しています。重要なのは、運送サービスが「公の職業」として提供されている点です。傭船契約(チャーター契約)を結んだ場合でも、運送業者が不特定多数の顧客を対象にサービスを提供している限り、共同運送人としての地位は変わりません。

    共同運送人は、民法1733条に基づき、貨物の安全輸送に対して「並外れた注意義務」を負います。これは、単なる過失責任よりも重い責任であり、貨物の滅失、損傷、または遅延に対して原則として責任を負います。ただし、民法1734条に定める免責事由(天災、戦争、荷主の行為、貨物の性質、公的権限の命令)を証明できれば、責任を免れることができます。

    民法1735条は、免責事由に該当しない限り、貨物の損害は運送業者の過失によるものと推定すると定めています。つまり、運送業者は、自らの無過失と高度な注意義務を尽くしたことを立証する責任を負います。この「並外れた注意義務」には、貨物の性質を理解し、適切な保管・管理を行うことも含まれます。

    最高裁判所は、過去の判例(Compania Maritima v. Court of Appeals)で、「貨物が良好な状態で運送業者に引き渡され、目的地に到着した際に損傷していた場合、運送業者は損害賠償責任を負う」との原則を示しています。運送業者は、損害が不可抗力や免責事由によるものであることを証明しなければなりません。

    事件の概要と裁判所の判断

    本件では、タバカレラ保険会社らが、ノースフロント海運に対し、貨物(トウモロコシ)の損害賠償を求めました。事の発端は1990年8月、ノースフロント海運が所有する船舶「ノースフロント777」で、20,234袋のトウモロコシが輸送されたことに遡ります。貨物はリパブリック・フラワーミルズ社(RFM社)宛てで、保険会社によって保険が付保されていました。

    経緯:

    1. 積込み前検査: 船舶は積込み前に検査され、貨物輸送に適していると判断されました。
    2. 航海と到着: 船舶は無事にマニラに到着しましたが、荷降ろし作業は天候やその他の理由で遅延しました。
    3. 貨物の損傷: 荷降ろし後、貨物に数量不足と品質劣化(カビ、腐敗)が判明しました。
    4. 原因調査: 分析の結果、貨物の水分含有量が高く、海水による濡れが原因であることが判明しました。
    5. RFM社の損害賠償請求: RFM社はノースフロント海運に損害賠償を請求しましたが、拒否されました。
    6. 保険金支払いと代位求償: 保険会社はRFM社に保険金を支払い、RFM社の権利を代位取得し、ノースフロント海運を提訴しました。

    裁判所の判断:

    第一審および控訴審は、ノースフロント海運の過失を認めず、保険会社側の請求を棄却しました。しかし、最高裁判所はこれらの判断を覆し、以下の理由からノースフロント海運の責任を認めました。

    • 共同運送人であること: ノースフロント海運は、不特定多数の顧客に運送サービスを提供する共同運送人である。傭船契約の存在は、その地位を私的運送人に変えるものではない。
    • 高度な注意義務違反: 共同運送人は貨物に対して高度な注意義務を負うが、ノースフロント海運はこれを怠った。特に、船倉の錆びや防水シートの不備など、船舶の欠陥が損害の原因となった可能性が高い。
    • 過失の推定: 貨物の損傷は、運送業者の過失によるものと推定される。ノースフロント海運は、免責事由を立証できなかった。

    最高裁判所は判決で、「運送のために提供された物品に対する並外れた注意義務は、共同運送人に対し、安全な運送と配送のために必要な予防措置を知り、従うことを要求する。それは、共同運送人が最大のスキルと先見性をもってサービスを提供し、『運送のために提供された物品の性質と特性をすべて合理的な手段を用いて確認し、その性質が要求する方法を含む、取り扱いと積み込みにおいて適切な注意を払う』ことを要求する」と述べています。

    ただし、最高裁判所は、RFM社にも過失があったと判断しました。RFM社は船舶の到着通知を速やかに受け取ったにもかかわらず、荷降ろし作業を直ちに開始せず、6日間の遅延がありました。分析によれば、カビの発生は初期段階であり、乾燥させれば食用の適性を維持できた可能性がありました。この遅延が損害を拡大させたとして、RFM社の過失割合を40%と認定し、過失相殺を適用しました。

    実務上の教訓

    本判例から、運送業者と荷主は以下の点を学ぶことができます。

    運送業者:

    • 共同運送人は、貨物に対して非常に高い注意義務を負うことを認識する必要があります。
    • 船舶の点検・整備を徹底し、貨物の性質に応じた適切な輸送環境を確保する必要があります。
    • 貨物の状態を正確に記録し、清潔な船荷証券を発行する際には、特記事項を明記する必要があります。
    • 損害が発生した場合、免責事由の立証責任を負うことを理解し、証拠を保全する必要があります。

    荷主:

    • 貨物の性質を運送業者に正確に伝え、輸送上の注意点を確認する必要があります。
    • 貨物の到着後は、速やかに荷受作業を開始し、損害の拡大を防ぐ努力をする必要があります。
    • 保険付保を検討し、万が一の損害に備えることが重要です。

    キーポイント

    • 共同運送人は、傭船契約の有無にかかわらず、高度な注意義務を負う。
    • 貨物の損害は、原則として運送業者の過失によるものと推定される。
    • 荷受人側の過失も、損害賠償額に影響を与える可能性がある(過失相殺)。
    • 運送業者、荷主ともに、損害を未然に防ぐための予防措置と、損害発生時の適切な対応が重要。

    よくある質問(FAQ)

    1. Q: 傭船契約を結べば、運送業者は共同運送人ではなくなるのですか?
      A: いいえ、傭船契約を結んだ場合でも、運送業者が不特定多数の顧客にサービスを提供している限り、共同運送人としての地位は変わりません。重要なのは、サービスの提供形態が「公の職業」として行われているかどうかです。
    2. Q: 共同運送人の「並外れた注意義務」とは具体的にどのようなものですか?
      A: 「並外れた注意義務」とは、通常の注意義務よりも高いレベルの注意義務であり、貨物の安全輸送のために可能な限りの措置を講じることを要求されます。これには、船舶の適切な整備、貨物の性質に応じた保管・管理、輸送ルートの選定などが含まれます。
    3. Q: 貨物が損傷した場合、常に運送業者が全額賠償しなければならないのですか?
      A: 原則としてそうですが、免責事由(天災など)が証明された場合や、荷受人側にも過失があった場合は、賠償責任が減額または免除されることがあります。本判例のように、過失相殺が適用されるケースもあります。
    4. Q: 損害賠償請求の時効は何年ですか?
      A: 運送契約に基づく損害賠償請求の時効は、フィリピン法では契約の種類や請求内容によって異なります。具体的な時効期間については、弁護士にご相談ください。
    5. Q: 運送契約に関するトラブルが発生した場合、どこに相談すればよいですか?
      A: 運送契約に関するトラブルは、弁護士にご相談いただくのが最も確実です。専門的な知識を持つ弁護士が、お客様の状況に応じた適切なアドバイスとサポートを提供します。

    海運貨物輸送に関する問題でお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。当事務所は、海事法務に精通しており、お客様の権利保護と紛争解決をサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。

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