供述の撤回は有罪判決後の新たな裁判理由とはならない:証拠の信頼性と司法制度の維持
[G.R. Nos. 120387-88, 1998年3月31日]
はじめに
裁判で厳粛に証言し、反対尋問を受けた証言は、後になって作成された形式的な供述書によって簡単に覆されるべきではありません。特に、貧困層、教育を受けていない人々、若く騙されやすい証人が裁判終了後、時間を経て供述書を作成した場合、その信憑性は一層疑われます。刑事裁判における真実の追求と裁判の信頼性は、証人の一方的な撤回や、公証人によって作成された一方的な供述書によって左右されるべきではありません。本稿では、フィリピン最高裁判所の判決を基に、供述の撤回が裁判に与える影響について解説します。
法的背景:供述の撤回と新たな裁判
フィリピンの法制度では、刑事訴訟規則121条2項に基づき、新たな裁判を求めることができる理由が定められています。その一つに、「被告に有利となる新たな重要証拠が発見され、かつ、被告が相当な注意を払っても裁判中に発見し、提出することができなかった場合で、その証拠が導入され認められたならば、判決が変更される可能性がある場合」が挙げられます。供述の撤回は、この「新たな重要証拠」に該当する可能性がありますが、裁判所は、供述の撤回が真実に基づくものであるか、または単なる事後的な撤回であるかを慎重に判断します。
最高裁判所は、過去の判例で、供述の撤回は一般的に信頼性が低く、裁判所によって好意的に見られないと指摘しています。なぜなら、供述の撤回は、金銭的な利益や脅迫によって容易に得られる可能性があり、裁判の信頼性を損なう恐れがあるからです。重要なのは、裁判中に法廷で証言された内容であり、供述の撤回は、その証言の信憑性を覆すほどの証拠力を持つものではないとされています。
刑事訴訟規則121条2項には以下の条文があります。
「第2条 新たな裁判の理由 – 裁判所は、以下のいずれかの理由により、新たな裁判を許可するものとする。
(a) 裁判中に、被告の重大な権利を害する法律上の誤りまたは不正行為があった場合。
(b) 新たな重要証拠が発見され、被告が相当な注意を払っても裁判中に発見し、提出することができなかった場合で、その証拠が導入され認められたならば、判決が変更される可能性がある場合。」
事件の概要:人民対エドゥアルド・ガルシア事件
本件は、エドゥアルド・ガルシアが娘のジョイリン・ガルシアに対して強姦罪を犯したとして起訴された事件です。地方裁判所は、ジョイリンの証言と医師の診断書に基づき、ガルシアに2件の強姦罪で有罪判決を下し、各罪状に対して終身刑を言い渡しました。ガルシアは判決を不服として上訴し、上訴審において、ジョイリンが供述を撤回する供述書を提出し、新たな裁判を求めました。
ジョイリンは、当初の裁判で、1992年10月中旬と11月第2週に父親から強姦されたと証言しました。彼女の証言は詳細かつ具体的であり、裁判所は、彼女の証言の信憑性を高く評価しました。一方、ガルシアは一貫して無罪を主張し、家族間の不和が虚偽告訴の原因であると主張しました。裁判後、ジョイリンは供述書の中で、父親から強姦されたという証言は虚偽であり、叔母と姉の指示によるものだったと述べ、父親に謝罪しました。
しかし、最高裁判所は、ジョイリンの供述撤回書を新たな裁判の理由とは認めませんでした。最高裁判所は、ジョイリンが裁判中に詳細かつ一貫した証言を行ったこと、また、供述撤回書が裁判終了後、1年9ヶ月後に作成されたことを重視しました。さらに、供述撤回書の内容が形式的であり、ジョイリン自身の言葉とは考えにくいと判断しました。
最高裁判所は、判決の中で以下の重要な点を指摘しました。
「裁判で厳粛に証言し、反対尋問を受けた証言は、後になって作成された形式的な供述書によって簡単に覆されるべきではありません。」
「供述の撤回は、一般的に信頼性が低く、裁判所によって好意的に見られません。なぜなら、供述の撤回は、金銭的な利益や脅迫によって容易に得られる可能性があり、裁判の信頼性を損なう恐れがあるからです。」
実務上の意義:供述の撤回と裁判への影響
本判決は、供述の撤回が新たな裁判の理由となるためには、単なる撤回ではなく、撤回の理由が具体的かつ客観的に証明される必要があることを明確にしました。特に、有罪判決後の供述の撤回は、裁判の信頼性を損なう可能性が高いため、裁判所は非常に慎重な姿勢で臨むことが求められます。
企業や個人が刑事事件に関与した場合、証人の証言の重要性を十分に認識し、裁判中に真実を明らかにすることが不可欠です。また、万が一、供述の撤回が行われた場合でも、裁判所は、当初の証言の信憑性を重視し、供述の撤回が真実に基づくものであるかを厳格に判断することを理解しておく必要があります。
重要な教訓
- 裁判での証言は非常に重要であり、後からの供述の撤回が裁判の結果を左右することは稀である。
- 供述の撤回が認められるためには、撤回の理由が具体的かつ客観的に証明される必要がある。
- 裁判所は、有罪判決後の供述の撤回に対して、より厳しい目で判断する。
- 刑事事件においては、初期段階から弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受けることが重要である。
よくある質問 (FAQ)
Q1: 供述の撤回は、どのような場合に新たな裁判の理由として認められますか?
A1: 供述の撤回が新たな裁判の理由として認められるためには、撤回の理由が真実であり、かつ、当初の証言が虚偽であったことが客観的に証明される必要があります。単なる心境の変化や、事後的な撤回では、新たな裁判は認められにくいです。
Q2: 有罪判決後に証人が供述を撤回した場合、裁判の結果は覆る可能性はありますか?
A2: 有罪判決後の供述の撤回で裁判の結果が覆る可能性は非常に低いと言えます。裁判所は、当初の裁判での証言の信憑性を重視し、供述の撤回が真実に基づくものであるかを厳格に判断するため、容易に判決が覆ることはありません。
Q3: 供述の撤回書を作成する際に注意すべき点はありますか?
A3: 供述の撤回書を作成する際には、撤回の理由を具体的に記載し、客観的な証拠を提示することが重要です。また、弁護士に相談し、法的なアドバイスを受けた上で作成することをお勧めします。
Q4: 刑事事件で証言する際、どのような点に注意すべきですか?
A4: 刑事事件で証言する際は、真実のみを証言することが最も重要です。また、証言内容に矛盾がないように、事前にしっかりと準備し、弁護士と相談しておくことが望ましいです。
Q5: 供述の撤回が行われた場合、弁護士はどのような対応をしますか?
A5: 弁護士は、供述の撤回が真実に基づくものであるかを慎重に調査し、裁判所に新たな裁判を求めるかどうかを判断します。また、供述の撤回が不正な圧力や脅迫によるものである場合は、その事実を明らかにし、裁判所に適切な措置を求めることもあります。
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