公務員の善意は、違法支出の返還義務を免除する
G.R. No. 245894, July 11, 2023
地方自治体の会計担当者や財務担当者は、公的資金の支出において重要な役割を担っています。しかし、違法な支出が発覚した場合、彼らは個人的に責任を負うのでしょうか?今回の最高裁判所の判決は、公務員の善意と責任範囲を明確にし、今後の会計監査に大きな影響を与える可能性があります。
会計監査と公務員の責任:フィリピン法における重要な原則
公的資金の支出は、厳格な法的規制の下に置かれています。これは、国民の税金が適切に使用されることを保証するためです。しかし、法律や規制の解釈は複雑であり、公務員が意図せず違法な支出に関与してしまうこともあります。そこで重要となるのが、公務員の「善意」という概念です。
フィリピンでは、公務員は職務遂行において善意で行動することが期待されています。善意とは、不正な意図がなく、誠実に行動することを意味します。しかし、善意だけでは責任を免れることはできません。公務員は、職務遂行において適切な注意を払い、法律や規制を遵守する義務があります。
大統領令第1445号(政府監査法)の第102条および第103条は、政府資金および財産を委託された公務員の責任を規定しています。また、1987年行政法典の第38条および第39条は、上級職員および下級職員の責任について規定し、善意の原則が適用される場合とそうでない場合を区別しています。
最高裁判所は、過去の判例において、公務員の責任範囲を明確にしてきました。例えば、Madera v. Commission on Auditでは、会計監査委員会(COA)によって違法とされた金額の返還義務に関する規則が示されました。これらの規則は、公務員の善意、職務の性質、および違法支出への関与の程度を考慮に入れています。
今回の判決は、これらの原則を再確認し、公務員の責任範囲をさらに明確にするものです。
事件の経緯:ラアク市の不正支出とCOAの判断
今回の事件は、コンポステラバレー州ラアク市における2011年のインテリジェンスおよび機密活動のための現金前渡金に関連しています。ラアク市は、平和と秩序プログラムのために18,093,705ペソの予算を割り当てました。しかし、市長は4,100,000ペソの現金前渡金を受け取りました。COAは、このうち2,600,000ペソがDILG覚書回覧第99-65号に違反しているとして、違法な支出であると判断しました。
DILG覚書回覧第99-65号は、地方自治体のインテリジェンスおよび機密活動に割り当てられる資金の上限を規定しています。この上限は、平和と秩序努力に割り当てられた年間総額の30%、または年間総予算の3%のいずれか低い方とされています。
COAは、ラアク市のインテリジェンスおよび機密活動の予算上限を1,500,000ペソと算定しました。これは、平和と秩序プログラムの予算から、人権擁護および地域開発・監視プログラムの予算を差し引いた結果に基づいています。COAは、人権擁護および地域開発・監視プログラムがDILG覚書回覧第99-65号に定義される平和と秩序プログラムに含まれないと判断しました。
この決定に対し、ラアク市の会計担当者であるラケル・C・メロリアと財務担当者であるエドゥアルダ・A・カサドールは、COAに上訴しましたが、却下されました。そのため、彼らは最高裁判所に上訴しました。
最高裁判所の判断:善意の公務員は責任を免れる
最高裁判所は、COAの判断を一部支持しつつも、メロリアとカサドールの責任を免除しました。最高裁判所は、COAがDILG覚書回覧第99-65号を適切に解釈し、人権擁護および地域開発・監視プログラムを平和と秩序プログラムから除外したことを認めました。
しかし、最高裁判所は、メロリアとカサドールが単なる認証担当者であり、支出の合法性または違法性に関与していなかったと判断しました。彼らは、資金の利用可能性や書類の妥当性を認証する義務を履行したに過ぎず、支出の決定に関与していませんでした。
最高裁判所は、Madera v. Commission on Auditの規則2(a)を引用し、善意で職務を遂行した認証担当者は、違法支出の返還義務を負わないと述べました。最高裁判所は、メロリアとカサドールが善意で行動し、職務を遂行したと判断しました。
「認証担当者としての機能を通じて、彼らがインテリジェンスおよび機密資金の上限を決定したり、どの活動がインテリジェンスおよび機密資金に請求されるかを決定したりする権限を持っていたとは考えられません。また、彼らの機能を通じて、地方自治体の首長として地方予算の執行責任を主に負う市長が引き出した現金前渡金を阻止できたとは考えられません。」
実務上の影響:公務員の責任と保護
今回の判決は、公務員の責任範囲を明確にし、善意で職務を遂行した公務員を保護するものです。これにより、公務員は、違法な支出に関与した場合でも、個人的な責任を負うリスクを軽減することができます。
しかし、公務員は、今回の判決を免罪符として利用することはできません。公務員は、職務遂行において常に適切な注意を払い、法律や規制を遵守する義務があります。また、公務員は、不正な支出に関与している疑いがある場合は、直ちに上司に報告する義務があります。
今回の判決は、公務員の責任と保護のバランスを適切に調整するものであり、今後の会計監査に大きな影響を与える可能性があります。
重要な教訓
- 善意で職務を遂行した公務員は、違法支出の返還義務を免れることができます。
- 公務員は、職務遂行において常に適切な注意を払い、法律や規制を遵守する義務があります。
- 公務員は、不正な支出に関与している疑いがある場合は、直ちに上司に報告する義務があります。
よくある質問
Q: 善意とは具体的に何を意味しますか?
A: 善意とは、不正な意図がなく、誠実に行動することを意味します。また、状況に応じて適切な注意を払い、法律や規制を遵守することも含まれます。
Q: 認証担当者はどのような責任を負いますか?
A: 認証担当者は、資金の利用可能性や書類の妥当性を認証する責任を負います。しかし、支出の決定に関与していない場合、違法支出の返還義務を負わないことがあります。
Q: COAの判断に不服がある場合、どのように対応すればよいですか?
A: COAの判断に不服がある場合、最高裁判所に上訴することができます。ただし、上訴には期限があり、適切な法的根拠が必要です。
Q: 今回の判決は、すべての公務員に適用されますか?
A: 今回の判決は、善意で職務を遂行した認証担当者に適用されます。ただし、支出の決定に関与していたり、不正な意図があったりする場合は、責任を免れることはできません。
Q: 地方自治体は、インテリジェンスおよび機密活動の予算をどのように管理すべきですか?
A: 地方自治体は、DILG覚書回覧第99-65号を遵守し、インテリジェンスおよび機密活動の予算を適切に管理する必要があります。また、支出の透明性を確保し、監査に備える必要があります。
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