職場でのセクハラに対する企業の責任:建設的解雇と損害賠償
G.R. No. 268399, January 24, 2024
職場でのセクハラは、従業員の尊厳と権利を侵害する深刻な問題です。セクハラを放置することは、不快な職場環境を作り出すだけでなく、従業員のキャリアを破壊する建設的解雇につながる可能性があります。本稿では、フィリピン最高裁判所の判決に基づき、職場でのセクハラに対する企業の責任と、建設的解雇が認められた場合の損害賠償について解説します。
法的背景:セクハラ禁止法(共和国法第7877号)
フィリピンでは、1995年に制定されたセクハラ禁止法(共和国法第7877号)により、雇用、教育、訓練環境におけるセクハラが違法とされています。この法律は、セクハラを「雇用主、雇用主の代理人、または職場環境において他の者に対する権限を有する者が、性的要求を課すことによって、後者にとって威圧的、敵対的、または不快な環境を作り出すこと」と定義しています。
セクハラ禁止法第4条は、雇用主に対し、セクハラの防止および抑止のための措置を講じる義務を課しています。具体的には、以下の措置が求められます。
- セクハラを禁止する方針の策定と周知
- セクハラに関する苦情処理手続きの確立
- セクハラ調査委員会(Committee on Decorum and Investigation)の設置
- セクハラ被害者への保護措置の提供
セクハラが発生した場合、雇用主は速やかに調査を行い、適切な措置を講じる必要があります。セクハラ行為者に対しては、懲戒処分、解雇、または法的措置が取られる可能性があります。
セクハラ禁止法第5条は、雇用主がセクハラ行為を認識し、適切な措置を講じなかった場合、雇用主はセクハラ行為者と連帯して損害賠償責任を負うことを規定しています。これは、雇用主がセクハラを放置した場合、被害者に対する損害賠償責任を負う可能性があることを意味します。
例として、ある女性従業員が上司から繰り返しセクハラ行為を受け、会社に苦情を申し立てたにもかかわらず、会社が何の措置も講じなかった場合、会社は上司と連帯して損害賠償責任を負う可能性があります。
判例分析:FRANCHESKA ALEEN BALABA BUBAN対NILO DELA PEÑA事件
本事件は、Xerox Business Services Philippines Inc.(以下「Xerox Business」)の従業員であるFrancheska Aleen Balaba Buban(以下「Buban」)が、上司であるNilo Dela Peña(以下「Dela Peña」)からセクハラを受け、会社が適切な措置を講じなかったとして、損害賠償を求めたものです。
事件の経緯は以下の通りです。
- BubanはXerox Businessにカスタマーケア担当として雇用された。
- Dela PeñaはBubanに対し、性的な発言や身体的接触を伴うセクハラ行為を行った。
- Bubanは会社の人事部にセクハラ被害を訴えたが、会社は十分な調査を行わず、Dela Peñaに対する懲戒処分も行わなかった。
- Bubanは、セクハラ被害により精神的な苦痛を受け、会社での勤務が困難になった。
- Bubanは労働仲裁官に訴えを起こし、Xerox BusinessとDela Peñaに対し、損害賠償を求めた。
労働仲裁官は、Xerox Businessがセクハラ調査委員会を設置せず、適切な調査を行わなかったとして、Xerox BusinessとDela Peñaに連帯して損害賠償を支払うよう命じました。国家労働関係委員会(NLRC)もこの判断を支持しましたが、損害賠償額を増額しました。控訴院(CA)は、NLRCの判断を一部修正し、損害賠償額を減額しました。
最高裁判所は、CAの判断を支持し、Bubanに対する損害賠償を認めました。最高裁判所は、Xerox Businessがセクハラ防止のための措置を講じなかったこと、およびセクハラ被害に対する適切な対応を怠ったことを重視しました。
最高裁判所は、以下の点を指摘しました。
- Xerox Businessは、セクハラ調査委員会を設置せず、Bubanの訴えに対し適切な調査を行わなかった。
- Xerox Businessは、Bubanに対し、セクハラ行為者であるDela Peñaと同じ職場で勤務することを強要し、Bubanに精神的な苦痛を与えた。
- これらの行為は、Bubanにとって耐えがたい職場環境を作り出し、Bubanを建設的に解雇したとみなされる。
最高裁判所は、セクハラ行為者であるDela Peñaだけでなく、セクハラ防止のための措置を怠ったXerox Businessにも損害賠償責任があることを明確にしました。
最高裁判所は判決の中で、以下のように述べています。
「セクハラ事件において、雇用主は、セクハラ行為を防止し、被害者を保護するための適切な措置を講じる義務を負う。雇用主がこの義務を怠った場合、雇用主はセクハラ行為者と連帯して損害賠償責任を負う。」
「建設的解雇とは、雇用主の行為によって、従業員が自らの意思で退職せざるを得ない状況を指す。セクハラ被害を受けた従業員が、会社が適切な措置を講じなかったために、会社での勤務が困難になった場合、その従業員は建設的に解雇されたとみなされる。」
実務上の影響
本判決は、フィリピンの企業に対し、セクハラ防止のための措置を徹底し、セクハラ被害に対する適切な対応を行うことの重要性を改めて示しました。企業は、セクハラ防止に関する方針を明確化し、従業員への研修を実施するだけでなく、セクハラ被害が発生した場合、速やかに調査を行い、被害者を保護するための措置を講じる必要があります。
企業がセクハラ防止のための措置を怠った場合、セクハラ被害者から損害賠償を請求されるだけでなく、企業の評判を損なう可能性があります。また、セクハラ被害者が建設的解雇を主張した場合、企業は解雇手当や損害賠償を支払う必要が生じる可能性があります。
重要な教訓
- 企業は、セクハラ防止のための明確な方針を策定し、従業員に周知徹底すること。
- 企業は、セクハラに関する苦情処理手続きを確立し、従業員が安心して苦情を申し立てられる環境を整備すること。
- 企業は、セクハラ調査委員会を設置し、セクハラ被害が発生した場合、速やかに調査を行い、適切な措置を講じること。
- 企業は、セクハラ被害者に対し、精神的なサポートや保護措置を提供すること。
よくある質問(FAQ)
Q1:セクハラとは具体的にどのような行為を指しますか?
A1:セクハラとは、性的な性質を持つ嫌がらせ行為全般を指します。具体的には、性的な冗談、わいせつな画像やビデオの共有、不必要な身体的接触、性的な要求などが含まれます。
Q2:セクハラ被害を受けた場合、どのような対応を取るべきですか?
A2:セクハラ被害を受けた場合は、まず証拠を保全することが重要です。セクハラ行為の詳細な記録を作成し、目撃者がいる場合は証言を確保しましょう。その後、会社の人事部や上司に苦情を申し立て、適切な措置を求めることができます。必要に応じて、弁護士に相談し、法的手段を検討することも可能です。
Q3:会社がセクハラ被害を訴えても何も対応してくれない場合、どうすれば良いですか?
A3:会社がセクハラ被害に対応してくれない場合は、労働省(DOLE)に相談することができます。DOLEは、セクハラに関する苦情を受け付け、調査を行う権限を持っています。また、弁護士に相談し、法的手段を検討することも可能です。
Q4:セクハラ被害により退職した場合、解雇手当を請求できますか?
A4:セクハラ被害が原因で退職せざるを得なかった場合、建設的解雇とみなされ、解雇手当を請求できる可能性があります。ただし、そのためには、セクハラ被害と退職との因果関係を証明する必要があります。
Q5:セクハラ行為者に対する損害賠償請求は可能ですか?
A5:はい、セクハラ行為者に対して、精神的な苦痛に対する慰謝料や、セクハラ行為によって被った損害の賠償を請求することができます。
フィリピン法に関するご質問は、ASG Lawまでお気軽にお問い合わせください。お問い合わせ または konnichiwa@asglawpartners.com までご連絡ください。