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  • フィリピンにおける国際航空輸送事業へのサービスに対するVATゼロ税率の適用:マニラ・ペニンシュラ・ホテル事件

    国際航空輸送事業へのサービス提供、VATゼロ税率適用の明確化

    G.R. No. 229338, April 17, 2024

    国際航空輸送事業へのサービス提供は、VAT(付加価値税)のゼロ税率が適用されるか? この疑問に対し、フィリピン最高裁判所は、マニラ・ペニンシュラ・ホテル事件において、重要な判断を下しました。ホテルが国際航空会社に提供する宿泊・飲食サービスが、VATゼロ税率の対象となるか否かが争点となりました。本稿では、この判決の概要、法的背景、実務への影響について解説します。

    法的背景:VATゼロ税率とは

    VATゼロ税率とは、課税対象となる取引であっても、VATが課税されない制度です。輸出取引や、特定の事業に対するサービス提供に適用されます。VATゼロ税率が適用される場合、事業者は仕入税額控除を受けることができ、VATの還付も可能です。

    関連法規

    本件に関連する主な法規は以下の通りです。

    • 1997年国内税法(改正後)第108条(B)(4)項:「フィリピン国内でVAT登録された者が行う、国際海上輸送または国際航空輸送事業に従事する者に対するサービス(その使用のための財産のリースを含む)」
    • 2005年歳入規則第16-2005号第4.108-5条:上記条項を施行するための規則

    これらの規定に基づき、国際航空輸送事業に従事する者に対するサービスは、VATゼロ税率の対象となります。ただし、そのサービスが国内輸送に関連する場合は、12%のVATが課税されます。

    VATゼロ税率適用の要件

    VATゼロ税率の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

    1. サービス提供者がVAT登録されていること
    2. サービスが国際海上輸送または国際航空輸送事業に従事する者に提供されること
    3. サービスが国際海上輸送または国際航空輸送事業に直接関連すること

    これらの要件を満たすことで、事業者はVATゼロ税率の適用を受け、VATの還付を受けることができます。

    マニラ・ペニンシュラ・ホテル事件の経緯

    マニラ・ペニンシュラ・ホテルは、2010年度にデルタ航空に対し、客室および飲食サービスを提供しました。ホテルは、これらのサービスがVATゼロ税率の対象となると考え、VATの還付を申請しました。しかし、歳入庁(BIR)は、これらのサービスが国際航空輸送事業に直接関連しないとして、還付を拒否しました。

    訴訟の展開

    • ホテルは、税務裁判所(CTA)に提訴
    • CTA第三部、ホテルの訴えを棄却
    • CTA本会議、第三部の決定を支持
    • ホテルは最高裁判所に上訴

    最高裁判所は、CTAの決定を覆し、ホテルの主張を認めました。裁判所は、ホテルが提供する宿泊・飲食サービスは、国際航空輸送事業に不可欠な乗務員の休息・回復を目的とするものであり、事業に直接関連すると判断しました。

    最高裁判所の判断

    最高裁判所は、以下の点を重視しました。

    • 乗務員の休息・回復は、安全な航空輸送に不可欠
    • 宿泊・飲食サービスは、乗務員の勤務時間規制を遵守するために必要
    • デルタ航空とホテルの契約は、乗務員の宿泊を目的とするもの

    裁判所は、「乗務員の休息・回復は、航空輸送事業の安全かつ効率的な遂行に不可欠である」と述べ、ホテルのサービスが事業に直接関連すると結論付けました。

    「パイロットと客室乗務員は航空輸送業務に不可欠であり、フィリピンでのフライトレイオーバー中にこれらの担当者に提供される宿泊および宿泊サービスは、デルタ航空に提供されたサービスと見なされ、デルタ航空の国際業務に直接使用または起因する。」

    また、歳入庁が主張する「サービスがフィリピン領土を越えて提供される必要がある」という要件は、法律に根拠がないと指摘しました。

    実務への影響と教訓

    本判決は、国際航空輸送事業に関連するサービスに対するVATゼロ税率の適用範囲を明確化しました。今後は、同様のケースにおいて、VAT還付が認められやすくなる可能性があります。

    ビジネスへのアドバイス

    • 国際航空輸送事業に関連するサービスを提供する事業者は、本判決を参考に、VATゼロ税率の適用要件を満たしているか確認する
    • VAT還付を申請する際は、サービスが事業に直接関連することを証明する資料を準備する
    • 税務専門家と相談し、VATに関する最新の情報を把握する

    キー・レッスン

    • 国際航空輸送事業へのサービス提供は、VATゼロ税率の対象となる可能性がある
    • VATゼロ税率の適用を受けるためには、サービスが事業に直接関連することを証明する必要がある
    • 税務専門家と連携し、VATに関する最新の情報を把握することが重要

    よくある質問(FAQ)

    Q: 国際航空会社に提供するサービスは、すべてVATゼロ税率の対象となりますか?

    A: いいえ。VATゼロ税率の対象となるのは、国際航空輸送事業に直接関連するサービスのみです。例えば、乗務員の宿泊・飲食サービスは対象となりますが、本社スタッフの会議費などは対象外となる可能性があります。

    Q: VAT還付を申請する際に必要な書類は何ですか?

    A: VAT還付を申請する際には、以下の書類が必要となります。

    • VAT申告書
    • 請求書
    • 領収書
    • 契約書
    • 国際航空会社の事業許可証

    Q: サービスが国際航空輸送事業に直接関連するかどうかの判断基準は何ですか?

    A: サービスが国際航空輸送事業に直接関連するかどうかは、個々のケースによって判断されます。一般的には、サービスの目的、性質、必要性などを考慮し、事業への貢献度を評価します。

    Q: VATゼロ税率の適用を受けられない場合、どのような税金が課税されますか?

    A: VATゼロ税率の適用を受けられない場合、12%のVATが課税されます。

    Q: 本判決は、過去のVAT還付申請にも影響しますか?

    A: 本判決は、過去のVAT還付申請にも影響する可能性があります。過去の申請が拒否された場合でも、本判決を根拠に再申請を検討することができます。

    弁護士法人ASG(アンダーソン・サン・ゴメス)法律事務所では、税務に関するご相談も承っております。ご質問やご不明な点がございましたら、お問い合わせいただくか、konnichiwa@asglawpartners.comまでご連絡ください。コンサルテーションのご予約もお待ちしております。

  • 司法上の誤りを正す:VAT還付と輸出志向型企業への売上に関する最高裁判所の判決

    明白な誤りは司法判断において修正可能:VAT還付請求における重要な教訓

    G.R. No. 134467, 1999年11月17日

    フィリピンにおいて、付加価値税(VAT)は経済活動の重要な一部であり、企業にとってはVAT還付はキャッシュフローに直接影響を与える重要な要素です。しかし、VAT還付の手続きは複雑であり、税務当局との間で意見の相違が生じることも少なくありません。今回取り上げるアトラス・コンソリデーテッド・マイニング&デベロップメント・コーポレーション対内国歳入庁長官事件(2002年)は、VAT還付請求における重要な教訓を示唆しています。この事件は、企業が裁判所への提出書類において明白な誤りを犯した場合、その誤りが司法判断にどのような影響を与えるのか、そして輸出志向型企業への売上に対するVATゼロ税率の適用範囲について重要な判断を示しました。

    VAT還付とゼロ税率:フィリピンの税法における法的背景

    フィリピン内国歳入法(NIRC)は、VAT制度の根幹を成す法律です。VATは物品やサービスの消費に対して課税される税金であり、VAT登録事業者は売上VAT(output VAT)から仕入VAT(input VAT)を差し引いた金額を納税します。しかし、輸出取引や特定の国内取引については、VATゼロ税率が適用され、売上VATが免除される代わりに、仕入VATの還付を受けることができます。これは、輸出競争力を高め、特定の産業を育成することを目的とした制度設計です。

    NIRC第106条(A)(2)(a)(1)は、ゼロ税率が適用される取引の一つとして、輸出志向型企業への売上を規定しています。具体的には、「輸出売上が年間総生産量の70%を超える輸出志向型企業」に対する原材料または包装材料の売上がゼロ税率の対象となります。この規定は、輸出企業が使用する原材料のVAT負担を軽減し、国際市場での競争力を高めることを目的としています。

    また、VAT登録事業者は、NIRC第108条(A)に基づき、すべての売上について請求書または領収書を発行する義務があります。これらの請求書には、VAT登録番号、納税者識別番号(TIN)、VAT額などの法定記載事項が含まれていなければなりません。不備のある請求書は、仕入VAT控除の対象とならない場合があります。

    裁判手続きにおいては、当事者間の合意事項である「事実の合意書(Joint Stipulation of Facts)」が重要な役割を果たします。これは、訴訟における争点を明確にし、証拠調べの手間を省くために用いられる書面です。原則として、事実の合意書に記載された事項は当事者を拘束し、裁判所もこれを尊重します。しかし、フィリピン証拠法規則第129条第4項は、「明白な誤り」があった場合には、合意事項の修正を認めています。これは、形式的な合意に捉われず、実質的な正義を実現するための例外規定と言えるでしょう。

    本件は、VAT還付請求、ゼロ税率、そして事実の合意書における明白な誤りという、VAT制度と訴訟手続きの両面における重要な法的問題を包含しています。

    アトラス事件の経緯:事実認定の誤りとゼロ税率の適用

    アトラス・コンソリデーテッド・マイニング社(以下、「アトラス社」)は、鉱業、鉱物製品の生産・販売を事業とする企業です。同社は、フィリピン精錬精製公社(PASAR)とフィリピン燐酸公社(PHILPHOS)という、輸出加工区庁(EPZA)に登録された輸出志向型企業に銅精鉱や黄鉄鉱を販売していました。また、中央銀行(現フィリピン中央銀行)には金を販売していました。アトラス社はこれらの売上をVATゼロ税率対象として申告し、1990年第1四半期の仕入VAT還付を請求しました。

    内国歳入庁(BIR)は、アトラス社のVAT還付請求の一部を否認しました。BIRは、アトラス社のVAT登録日が1990年8月15日であり、還付請求期間である1990年第1四半期にはVAT登録されていなかったと主張しました。また、PASARとPHILPHOSへの売上については、両社の輸出実績に比例した部分のみがゼロ税率の対象となると判断しました。アトラス社はBIRの決定を不服として税務裁判所(CTA)に提訴しましたが、CTAはBIRの主張を一部支持しました。

    アトラス社はCTAの決定を不服として控訴裁判所(CA)に上訴しました。CAは、事実の合意書においてアトラス社のVAT登録日が1990年8月15日と記載されていることを重視し、CTAの判断を支持しました。CAは、事実の合意書は当事者を拘束するものであり、明白な誤りがあったとは認められないと判断しました。また、ゼロ税率の適用範囲についても、BIRの解釈を支持し、輸出実績に比例した部分のみがゼロ税率の対象となるとしました。

    しかし、最高裁判所はCAの判断を覆しました。最高裁は、事実の合意書に記載されたVAT登録日には「明白な誤り」があったと認定しました。最高裁は、アトラス社が提出した証拠から、同社のVAT登録日が実際には1988年1月1日であり、還付請求期間である1990年第1四半期にもVAT登録されていたことを認めました。最高裁は、事実の合意書における誤りは、単なる事務的なミスであり、実質的な正義に反すると判断しました。最高裁は判決の中で、「訴訟は技術論のゲームでも、知恵や法律論の戦いでもない。むしろ、真実、公平、正義を求める不断の探求である。」と述べ、形式的な合意に捉われず、実質的な正義を追求する姿勢を示しました。

    また、最高裁はゼロ税率の適用範囲についても、CAの判断を覆しました。最高裁は、輸出志向型企業への売上に対するゼロ税率は、売上全体の数量に対して適用されるべきであり、輸出実績に比例して限定されるべきではないと判断しました。最高裁は、関連する歳入規則がゼロ税率の適用を輸出実績に比例させることを要求していないことを指摘し、BIRの解釈は法律の文言と趣旨に反するとしました。

    最高裁判所の判決により、アトラス社のVAT還付請求は一部認められ、VAT登録日とゼロ税率の適用範囲に関する重要な法的解釈が確立されました。

    実務上の教訓:企業がVAT還付請求で留意すべき点

    アトラス事件の最高裁判決は、VAT還付請求を行う企業にとって、いくつかの重要な教訓を与えてくれます。

    まず、事実の合意書を作成する際には、記載内容を十分に精査し、誤りがないかを確認することが不可欠です。特に、VAT登録日や売上金額などの重要な事項については、証拠書類と照らし合わせ、正確性を期する必要があります。もし誤りがあった場合には、速やかに相手方当事者と協議し、修正を求めるべきです。裁判所も「明白な誤り」については修正を認める姿勢を示していますが、そのためには誤りを立証する明確な証拠を提出する必要があります。

    次に、輸出志向型企業への売上に対するVATゼロ税率の適用範囲について、本判決は重要な指針を示しました。輸出志向型企業への原材料等の売上は、原則として売上数量全体に対してゼロ税率が適用されるべきであり、輸出実績に比例して限定されるべきではありません。ただし、ゼロ税率の適用を受けるためには、輸出志向型企業がBOIやEPZAに登録されていること、輸出売上が年間総生産量の70%を超えていることなど、法定の要件を満たす必要があります。これらの要件を満たすことを証明する書類を適切に保管し、税務当局に提示できるように準備しておくことが重要です。

    最後に、VAT還付請求の手続きは複雑であり、税務当局との間で解釈の相違が生じることも少なくありません。VAT還付請求を行う際には、税務専門家である税理士や弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。専門家のサポートを受けることで、VAT還付請求の手続きを円滑に進め、税務リスクを最小限に抑えることができます。

    重要なポイント

    • 明白な誤りの修正: 事実の合意書に明白な誤りがある場合でも、証拠によって誤りが立証されれば、裁判所は合意事項を修正し、実質的な正義を実現する。
    • ゼロ税率の適用範囲: 輸出志向型企業への売上に対するゼロ税率は、売上数量全体に適用されるべきであり、輸出実績に比例して限定されるべきではない。
    • 正確な書類作成の重要性: VAT還付請求においては、VAT登録日、売上金額、輸出実績などを正確に記載した書類を作成し、保管することが極めて重要である。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: VATゼロ税率とは何ですか?

    A1: VATゼロ税率とは、特定の物品やサービスの売上に対してVATが課税されない制度です。ゼロ税率が適用される売上については、売上VATは発生しませんが、仕入VATの還付を受けることができます。輸出取引や輸出志向型企業への売上などがゼロ税率の対象となります。

    Q2: 輸出志向型企業とはどのような企業ですか?

    A2: 輸出志向型企業とは、年間総生産量の70%を超える製品を輸出する企業として、投資委員会(BOI)または輸出加工区庁(EPZA)に登録された企業を指します。これらの企業は、VATゼロ税率やその他の税制上の優遇措置を受けることができます。

    Q3: 仕入VAT控除とは何ですか?

    A3: 仕入VAT控除とは、VAT登録事業者が仕入や経費の支払いの際に支払ったVAT(仕入VAT)を、売上から徴収したVAT(売上VAT)から差し引くことができる制度です。これにより、VATの二重課税を防ぎ、VAT負担を軽減することができます。仕入VAT控除を受けるためには、適格なVAT請求書を保管する必要があります。

    Q4: 司法上の承認(judicial admission)と明白な誤り(palpable mistake)とは何ですか?

    A4: 司法上の承認とは、訴訟手続きにおいて当事者が行った事実に関する自認です。事実の合意書に記載された事項は、原則として司法上の承認とみなされ、当事者を拘束します。しかし、「明白な誤り」があった場合には、司法上の承認であっても修正が認められる場合があります。明白な誤りとは、誰が見ても明らかな誤りのことであり、証拠によって立証する必要があります。

    Q5: VAT請求書の記載要件は何ですか?

    A5: VAT請求書には、VAT登録番号、納税者識別番号(TIN)、発行日、売手と買手の名称・住所・事業の種類、課税対象金額、VAT額、合計金額などの法定記載事項が含まれていなければなりません。記載事項に不備がある場合、仕入VAT控除が認められないことがあります。

    Q6: VATコンプライアンスと還付を確実にするために企業は何をすべきですか?

    A6: 企業は、VATに関する法令を正確に理解し、VAT登録、請求書の発行・保管、VAT申告・納付などの義務を遵守する必要があります。また、VAT還付請求を行う際には、関連する証拠書類を適切に準備し、税務専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。定期的な税務監査を実施し、VATコンプライアンス体制を維持することも重要です。

    アトラス事件のようなVATに関するご相談は、フィリピン法務のエキスパート、ASG Lawにお任せください。konnichiwa@asglawpartners.com または お問い合わせページ からお気軽にご連絡ください。ASG Lawは、マカティ、BGCに拠点を置く、日系企業を強力にサポートする法律事務所です。