病気を理由とした解雇は厳格な手続き要件を満たす必要があり、満たさない場合は不当解雇となる
G.R. No. 114333, January 24, 1996
多くの労働者は、病気を理由とした解雇がどのような場合に有効となるか、また、解雇された場合にどのような権利があるのかを理解していません。本判例は、病気を理由とした解雇の有効要件と、不当解雇と判断された場合の救済措置について重要な指針を示しています。
本件は、バス会社の従業員が病気を理由に解雇されたことの適法性が争われた事例です。最高裁判所は、雇用者が病気を理由に従業員を解雇する場合、労働法で定められた厳格な要件を満たす必要があると判示しました。具体的には、公的医療機関による治癒不能の診断が必要となります。この要件を満たさない場合、解雇は不当解雇とみなされ、従業員は救済措置を受ける権利があります。
法的背景:労働法における解雇の正当事由と手続き
フィリピンの労働法(労働法典第282条)は、雇用者が従業員を解雇できる正当な理由を定めています。これには、重大な不正行為、職務怠慢、雇用者への背信行為、犯罪行為などが含まれます。また、労働法典第283条および第284条は、事業縮小や病気を理由とした解雇についても規定しています。
労働法典第284条は、病気を理由とした解雇について次のように定めています。
「従業員が病気に罹患し、その継続雇用が法律で禁止されているか、または従業員の健康または他の従業員の健康を害する場合、雇用者は、公的医療機関が、適切な治療を受けても6ヶ月以内に治癒不能であると証明しない限り、その雇用を終了してはならない。病気がその期間内に治癒できる場合、雇用者は従業員を解雇してはならず、休職を求めるものとする。雇用者は、従業員が回復次第、直ちに元の職位に復帰させなければならない。」
この条項は、雇用者が病気を理由に従業員を解雇する際に満たすべき厳格な手続き要件を定めています。重要なのは、解雇の前に、公的医療機関による治癒不能の診断が必要となる点です。この診断がなければ、解雇は不当解雇とみなされる可能性があります。
例えば、ある会社員が結核に罹患し、会社から解雇を言い渡されたとします。この場合、会社は、解雇の前に、公的医療機関から、その社員の結核が6ヶ月以内に治癒不能であるという診断書を取得する必要があります。もし会社がこの診断書を取得せずに解雇した場合、その解雇は不当解雇となる可能性があります。
本件の経緯:事実、手続き、裁判所の判断
本件の事実関係は以下の通りです。
- 1956年:私的被雇用者であるレイナルド・ルエダ氏がバス会社の車掌として採用される。
- 1978年:会社が経営難に陥り、ルエダ氏を含む一部の従業員が解雇される。ルエダ氏は解雇手当を受け取る。
- 1981年:ルエダ氏がライン検査官として再雇用される。
- 1987年:ルエダ氏が同僚のバス運転手を刺傷する事件を起こす。
- 1988年:会社はルエダ氏を解雇する代わりに、病気を理由とした退職を承認する。
- 1990年:ルエダ氏が会社を相手取り、不当解雇、復職、バックペイ、損害賠償、弁護士費用を求めて訴訟を提起する。
本件は、まず労働仲裁人に提訴されました。労働仲裁人は、ルエダ氏の訴えを退けましたが、人道的配慮から、再雇用された1981年から病気休暇を取得した1989年までの勤務期間に基づいて退職金を支払うよう会社に命じました。
ルエダ氏は、この決定を不服として国家労働関係委員会(NLRC)に上訴しました。NLRCは、労働仲裁人の決定を覆し、ルエダ氏の解雇は不当であると判断しました。NLRCは、復職の代わりに、1956年の最初の雇用から1988年の解雇までの勤務期間に基づいて算定された解雇手当とバックペイを支払うよう会社に命じました。
会社は、NLRCの決定を不服として最高裁判所に上訴しました。
最高裁判所は、NLRCの決定を一部修正し、ルエダ氏の解雇は不当であると判断しました。しかし、最高裁判所は、解雇手当の算定期間は、1956年の最初の雇用からではなく、1981年の再雇用から1989年の病気休暇の終了日までとすべきであると判断しました。最高裁判所は、会社がルエダ氏を解雇する際に、公的医療機関による治癒不能の診断書を取得していなかったことを重視しました。
最高裁判所は、次のように述べています。
「解雇は、従業員に科せられる究極の罰である。したがって、明確な根拠に基づいていなければならない。雇用者が従業員の雇用を終了する際に依拠する根拠があいまいである場合、従業員は解雇の合法性を争う権利を十分に与えられていないことになる。公平さは、そのようなあいまいさを容認することはできない。」
実務上の教訓:企業が留意すべき点
本判例は、企業が病気を理由に従業員を解雇する際に留意すべき重要な教訓を示しています。
- 病気を理由に従業員を解雇する場合、労働法で定められた厳格な手続き要件を満たす必要がある。
- 具体的には、解雇の前に、公的医療機関による治癒不能の診断書を取得する必要がある。
- 診断書がない場合、解雇は不当解雇とみなされる可能性がある。
- 不当解雇と判断された場合、企業は従業員に対して、復職、バックペイ、解雇手当、損害賠償、弁護士費用などを支払う義務を負う可能性がある。
企業は、従業員の解雇を検討する際には、労働法の専門家である弁護士に相談し、適切な手続きを遵守するように努めるべきです。また、従業員の健康状態に配慮し、可能な限り、休職や配置転換などの代替措置を検討することが望ましいです。
キーレッスン
- 病気を理由とした解雇は、厳格な要件を満たす必要がある。
- 公的医療機関による治癒不能の診断が不可欠である。
- 不当解雇の場合、企業は従業員に多額の賠償金を支払う可能性がある。
よくある質問(FAQ)
Q: 病気を理由とした解雇は、どのような場合に有効となりますか?
A: 病気を理由とした解雇が有効となるためには、公的医療機関による治癒不能の診断が必要です。また、会社は、解雇の前に、従業員に対して十分な説明と弁明の機会を与える必要があります。
Q: 会社から病気を理由に解雇された場合、どのような権利がありますか?
A: 病気を理由とした解雇が不当解雇と判断された場合、従業員は、復職、バックペイ、解雇手当、損害賠償、弁護士費用などを請求することができます。
Q: 解雇手当は、どのように計算されますか?
A: 解雇手当の計算方法は、労働法および会社の就業規則によって異なります。一般的には、勤続年数に基づいて計算されます。
Q: 会社が倒産した場合でも、解雇手当を請求できますか?
A: 会社が倒産した場合でも、解雇手当を請求できる場合があります。ただし、他の債権者に優先して支払われるとは限りません。
Q: 不当解雇された場合、どこに相談すればよいですか?
A: 不当解雇された場合は、労働法の専門家である弁護士または労働組合に相談することをお勧めします。
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