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  • フィリピンでのフェンシング罪:所有物の同一性と立証責任の重要性

    フィリピン最高裁判所の判決から学ぶ主要な教訓

    DANTE LOPEZ Y ATANACIO, PETITIONER, VS. PEOPLE OF THE PHILIPPINES, RESPONDENT. (G.R. No. 249196, April 28, 2021)

    フィリピンでビジネスを展開する日本企業や在フィリピン日本人にとって、法律に抵触するリスクは常に存在します。特に、盗難品の所持や売買に関するフェンシング罪は、厳格な立証責任と所有物の同一性の確認が求められるため、注意が必要です。Dante Lopez y Atanacioのケースでは、最高裁判所がフェンシング罪の成立に必要な要素を詳細に分析し、立証責任の重要性を強調しました。この判決は、フィリピンでのビジネス活動において、所有権と証拠の重要性を理解する上で非常に示唆に富んでいます。

    この事例では、Dante Lopezがフェンシング罪で有罪とされたものの、最高裁判所がその判決を覆し、彼を無罪とした理由を探ります。中心的な法的疑問は、フェンシング罪の成立に必要な立証責任が果たされたかどうかであり、所有物の同一性が確立されなかった場合、どのように判決が影響を受けるかという点にあります。

    法的背景

    フェンシング罪は、フィリピンの大統領令(Presidential Decree)1612号(Anti-Fencing Law of 1979)で定義されています。この法律は、盗難品や強盗の被害品を知りながら所持、購入、売却する行為を禁止しています。フェンシング罪の成立には以下の要素が必要です:

    • 強盗や盗難が既に発生していること
    • 被告人が強盗や盗難の主犯や共犯でないこと
    • 被告人が盗難品を所持、購入、売却していること
    • 被告人がその物品が盗難品であることを知っていたか、知るべきであったこと
    • 被告人が利益を得る意図を持っていたこと

    この法律では、盗難品の所持が「prima facie(推定)」の証拠とされ、フェンシング罪の成立を推定する根拠となります。しかし、この推定は反証可能であり、被告人が合法的に所有権を証明することができれば、推定は覆されます。また、prima facieとは、「第一印象での証拠」という意味で、反証がない限りその事実を認めるというものです。

    日常的な状況では、例えば中古品市場で購入した商品が盗難品であると疑われた場合、購入者はその商品の合法的な取得を証明する必要があります。これは、購入時の領収書や売買契約書などの証拠が重要となります。この事例では、Dante Lopezが自転車の合法的な購入を証明するために、バイクショップの社長と主任メカニックからの公証された証明書を提出しました。

    PD 1612号の第5条では、「盗難品や強盗の被害品を所持しているだけでもフェンシング罪の推定証拠となる」と規定されています。しかし、この推定が適用されるためには、所有物の同一性が確立されなければなりません。

    事例分析

    この事例は、Dante Lopezがフェンシング罪で有罪とされ、最高裁判所まで争われたものです。Lopezは、2014年2月に彼の自転車が盗難されたと主張するRafael Mendozaから自転車を奪ったとして告発されました。Mendozaは、自転車が彼のものであると主張し、警察に盗難を報告していました。

    地域裁判所(RTC)は、Mendozaの所有権を認め、Lopezをフェンシング罪で有罪としました。しかし、控訴裁判所(CA)は、Lopezの刑期を短縮しつつも有罪判決を維持しました。最高裁判所は、Lopezが自転車の合法的な購入を証明するために提出した証拠を評価し、所有物の同一性が確立されていないと判断しました。

    最高裁判所の推論の一部を引用します:「無罪の推定を享受する被告人のために、フェンシングの推定は適切な事実的根拠がない場合に覆されるべきである」(Zalameda, J.)。また、「検察は、フェンシングの推定の運用だけに依存してはならない」(Zalameda, J.)。

    この事例の重要な手続きステップは以下の通りです:

    • 地域裁判所(RTC)の有罪判決
    • 控訴裁判所(CA)での刑期の短縮と有罪判決の維持
    • 最高裁判所での無罪判決

    最高裁判所は、以下の理由でLopezを無罪とした:

    • 自転車の同一性が確立されていない
    • Lopezが自転車の合法的な購入を証明する証拠を提出した
    • 検察がフェンシング罪の要素を立証できなかった

    実用的な影響

    この判決は、フィリピンでの類似の事例に大きな影響を与える可能性があります。特に、盗難品の所持や売買に関わるビジネスを行う企業や個人は、所有物の同一性を確立するための証拠を保持することが重要です。また、検察側が立証責任を果たすためには、単に推定に頼るのではなく、具体的な証拠を提示する必要があります。

    企業や不動産所有者、個人がこの判決から学ぶべき点は以下の通りです:

    • 盗難品を扱う可能性がある場合、所有物の合法的な取得を証明する証拠を保持する
    • 立証責任を果たすための具体的な証拠を準備する
    • 所有物の同一性を確立するための詳細な記録を保持する

    主要な教訓は、フェンシング罪の成立には厳格な立証責任が求められ、所有物の同一性が確立されなければ無罪となる可能性が高いということです。

    よくある質問

    Q: フェンシング罪とは何ですか?
    A: フェンシング罪は、盗難品や強盗の被害品を知りながら所持、購入、売却する行為を禁止するフィリピンの法律です。大統領令1612号で規定されています。

    Q: フェンシング罪の成立に必要な要素は何ですか?
    A: フェンシング罪の成立には、強盗や盗難が発生していること、被告人が主犯や共犯でないこと、盗難品を所持、購入、売却していること、その物品が盗難品であることを知っていたか知るべきであったこと、利益を得る意図があったことが必要です。

    Q: 所有物の同一性が確立されないとどうなりますか?
    A: 所有物の同一性が確立されない場合、フェンシング罪の推定は適用されず、被告人は無罪となる可能性が高くなります。

    Q: フィリピンでのビジネス活動において、フェンシング罪を防ぐためには何が必要ですか?
    A: 盗難品を扱う可能性がある場合、所有物の合法的な取得を証明する証拠を保持することが重要です。領収書や売買契約書などの証拠が有効です。

    Q: 日本企業がフィリピンでフェンシング罪のリスクを回避するために何ができるでしょうか?
    A: 日本企業は、フィリピンでのビジネス活動において、取引のすべてに適切な書類を保持し、盗難品を扱う可能性がある場合は特に注意することが重要です。また、バイリンガルの法律専門家に相談することも有効です。

    ASG Lawは、フィリピンで事業を展開する日本企業および在フィリピン日本人に特化した法律サービスを提供しています。フェンシング罪や盗難品の取引に関する問題に対処するための専門的なサポートを提供します。バイリンガルの法律専門家がチームにおり、言語の壁なく複雑な法的問題を解決します。今すぐ相談予約またはkonnichiwa@asglawpartners.comまでお問い合わせください。

  • 盗品購入で無罪となるための重要なポイント:善意の購入者を保護するフィリピン最高裁判所の判決

    知らなかったでは済まされない?盗品購入と善意の抗弁:ラモン・C・タン対フィリピン国事件

    G.R. No. 134298, August 26, 1999

    近年、オンラインマーケットプレイスや中古品取引の普及に伴い、個人が容易に物品を売買できるようになりました。しかし、その手軽さの裏側には、盗品を購入してしまうリスクも潜んでいます。フィリピンでは、盗品と知りながら、または知ることができたはずなのに購入する行為は「フェンシング」という犯罪として処罰されます。今回の最高裁判所の判決は、このフェンシング罪の成立要件と、善意の購入者がどのように保護されるべきかについて重要な指針を示しています。ビジネスを行う上で、また個人として中古品を購入する際に、この判例が示す教訓は非常に重要です。不注意による法的責任を回避し、安心して取引を行うために、この判例を詳しく見ていきましょう。

    フェンシング罪とは?成立要件と関連法規

    フェンシング罪は、大統領令1612号(盗品等故買取締法)によって定義されています。同法2条によれば、フェンシングとは「自己または他人の利益を図る意図をもって、強盗または窃盗によって得られた物品、品物、物体、または価値あるものを、知りながら、または知るべきであったにもかかわらず、購入、受領、所持、保管、取得、隠匿、販売、処分、あるいは購入および販売、または何らかの方法で取り扱う行為」を指します。

    ここで重要なのは、「知りながら、または知るべきであったにもかかわらず」という点です。つまり、盗品であることを認識していた場合はもちろん、そうでなくても、通常の注意を払えば盗品であると気づけたはずの場合も、フェンシング罪が成立する可能性があるということです。

    窃盗罪については、フィリピン刑法308条に規定されています。窃盗とは、「他人の財産を、暴行または脅迫を用いず、また物に対する有形力を用いずに、利得の意図をもって取得する」行為です。強盗罪(刑法293条)との違いは、暴行や脅迫、有形力の行使の有無にあります。フェンシング罪は、窃盗または強盗罪が先行して存在することが前提となりますが、フェンシング行為者自身が窃盗や強盗の実行犯や共犯である必要はありません。

    大統領令1612号が制定される以前は、盗品故買者は刑法上の窃盗または強盗罪の事後従犯としてのみ処罰され、その刑罰も軽いものでした。しかし、同法は「強盗および窃盗の犯罪の結果から利益を得る者に対し、重い刑罰を科す」ことを目的として制定され、フェンシング行為を独立した犯罪として、より重く処罰することとしたのです。フェンシング罪は、窃盗や強盗罪とは別個の犯罪であり、国家は刑法または大統領令1612号のいずれに基づいて起訴するかを選択できます。ただし、フェンシング罪は違法行為そのものである*malum prohibitum*であり、同法はフェンシングの推定規定や、財物の価値に応じたより重い刑罰を定めているため、同法に基づく起訴が優先される傾向にあります。

    本判決で引用された*Dizon-Pamintuan対フィリピン国事件*では、フェンシング罪の成立要件が以下の4つと明確にされました。

    1. 窃盗または強盗罪が既に発生していること。
    2. 被告人が窃盗または強盗罪の実行犯または共犯ではなく、当該犯罪によって得られた物品、品物、物体、または価値あるものを、購入、受領、所持、保管、取得、隠匿、販売、処分、あるいは購入および販売、または何らかの方法で取り扱っていること。
    3. 被告人が、当該物品、品物、物体、または価値あるものが、窃盗または強盗罪によって得られたものであることを知っていた、または知るべきであったこと。
    4. 被告人に、自己または他人の利益を図る意図があったこと。

    これらの要件全てが合理的な疑いを容れない程度に証明されなければ、フェンシング罪で有罪判決を下すことはできません。刑事裁判においては、「何人も、合理的な疑いを容れない証明がない限り、犯罪で有罪とされない」という原則が確立されています。

    事件の経緯:立証責任と合理的な疑い

    本件では、原告ロジータ・リムが経営する金属加工会社から、従業員であったマヌエリート・メンデスらがボート部品を盗み、それを被告ラモン・C・タンに販売したとして、タンがフェンシング罪で起訴されました。事件の経緯を詳しく見ていきましょう。

    ロジータ・リムは、従業員マヌエリー・メンデスが退職後、会社の倉庫からボートのプロペラやスペアパーツが紛失していることに気づき、棚卸しを行った結果、約48,000ペソ相当の部品が紛失していることが判明しました。リムはメンデスの叔父であるビクター・シーにこの件を伝えました。その後、メンデスはビサヤ地方で逮捕され、ガウデンシオ・ダヨップとともに部品を盗んだことを認めました。メンデスはリムに謝罪し、盗んだ部品をタンに13,000ペソで売却したと供述しました。リムはメンデスとダヨップを告訴しませんでした。

    マニラ市検察官補は、リムの告訴に基づき、タンをフェンシング罪で起訴しました。第一審のマニラ地方裁判所は、検察側の証拠(リム、シー、メンデスの証言)に基づき、タンを有罪としました。タンは控訴しましたが、控訴裁判所も第一審判決を支持しました。そこで、タンは最高裁判所に上告しました。

    最高裁判所は、フェンシング罪の成立要件、特に窃盗罪の発生と被告の認識について、検察側の立証が不十分であると判断しました。リムは部品の紛失を警察に届け出ておらず、メンデスから盗難の自白を得た後も彼を訴追しませんでした。窃盗罪は親告罪ではありませんが、被害者の存在は不可欠です。リムが被害届を提出していない以上、窃盗罪の発生を確定的に認定することはできないと裁判所は指摘しました。

    メンデスの供述は、彼自身の罪を認める自白として証拠となり得ますが、弁護人の援助なしに行われた供述は、供述者本人に対する証拠能力も否定される可能性があります。本件では、メンデスの供述は弁護人の援助なしに行われたものであり、被告タンに対する証拠とはなり得ません。また、有罪認定を維持するためには、犯罪事実(*corpus delicti*)を裏付ける証拠が必要です。窃盗罪における犯罪事実とは、①所有者が財産を失ったこと、②それが不法な取得によって失われたこと、の2つの要素から構成されます。本件では、リムが当局に被害を訴えなかったため、窃盗罪の犯罪事実が立証されているとは言えません。

    さらに、被告タンが購入した物品が盗品であることを知っていた、または知るべきであったという点についても、十分な立証がありませんでした。裁判所は、「ある事実を知っているとみなされるのは、その事実を認識、意識している場合、または何かの存在を認識している場合、あるいは事実を知っている場合、または確実かつ明確に心に捉えている場合である。特定の事実の存在を知っていることが犯罪の要件である場合、そのような知識は、人がその存在の高い蓋然性を認識しており、かつそれが存在しないと実際に信じていない場合に確立される。他方、『知るべきである』という言葉は、合理的な慎重さと知性を持つ人が、他者に対する義務の履行において事実を確認するか、またはそのような事実が存在するという前提に基づいて行動することを意味する。知識とは、事実に関する精神的な認識状態を指す。裁判所は被告の心の中に入り込み、そこに何が含まれているかを確実に述べることができないため、その知識をその者の明白な行為から慎重に判断しなければならない。そして、認知または精神的認識の同等にありうる2つの状態が与えられた場合、裁判所は憲法上の無罪推定を支持する状態を選択すべきである。」と判示しました。

    最高裁判所は、検察側がフェンシング罪の成立要件を合理的な疑いを容れない程度に立証できなかったとして、控訴裁判所の判決を破棄し、被告タンを無罪としました。

    実務上の教訓:企業と個人が取るべき対策

    本判決は、フェンシング罪の成立要件を厳格に解釈し、善意の購入者を保護する姿勢を示した点で重要です。企業や個人は、本判決の教訓を踏まえ、以下の点に注意する必要があります。

    • 中古品購入時のデューデリジェンス:特に個人から物品を購入する場合は、その来歴や入手経路を十分に確認することが重要です。領収書や保証書の提示を求めたり、売主の身元を確認したりするなどの対策を講じましょう。不審な点があれば、購入を控えるべきです。
    • 盗難被害発生時の迅速な対応:企業は、盗難被害が発生した場合、速やかに警察に被害届を提出し、捜査に協力する必要があります。被害届の提出は、フェンシング罪の立証における重要な要素となります。
    • 従業員教育の徹底:企業は、従業員に対し、盗難防止対策や、不審な取引への対応について教育を徹底する必要があります。
    • 内部通報制度の整備:企業は、従業員が不正行為を内部通報できる制度を整備し、早期発見・早期対応に努めるべきです。

    主な教訓

    1. フェンシング罪の立証責任は検察にある:検察は、フェンシング罪の成立要件全てを合理的な疑いを容れない程度に立証する必要があります。
    2. 窃盗罪の成立がフェンシング罪の前提:フェンシング罪が成立するためには、先行する窃盗または強盗罪の発生が立証されなければなりません。
    3. 被告の認識の立証が重要:被告が購入した物品が盗品であることを知っていた、または知るべきであったという認識を立証する必要があります。
    4. 善意の購入者は保護される:合理的な注意を払って購入したにもかかわらず盗品であった場合、善意の購入者はフェンシング罪で処罰されることはありません。

    よくある質問(FAQ)

    1. Q: 中古品を安く買いたいのですが、注意すべき点はありますか?
      A: あまりにも安い価格には注意が必要です。相場価格からかけ離れて安い場合は、盗品の可能性を疑うべきです。売主に商品の来歴や入手経路を確認し、領収書や保証書の提示を求めるなど、デューデリジェンスを徹底しましょう。
    2. Q: 個人から中古品を購入する際、どのような書類を確認すればよいですか?
      A: 可能であれば、売主の身分証明書、商品の領収書や保証書、譲渡証明書などを確認しましょう。売主が商品の出所を明確に説明できない場合や、書類の提示を拒む場合は、購入を見送るべきです。
    3. Q: 盗品と知らずに購入してしまった場合、どうすればよいですか?
      A: 速やかに警察に届け出て、指示を仰ぎましょう。善意の購入者であれば、フェンシング罪に問われることはありませんが、盗品は所有者に返還する必要があります。
    4. Q: 会社で盗難被害が発生した場合、まず何をすべきですか?
      A: まずは被害状況を把握し、警察に被害届を提出してください。社内で調査を行い、原因究明と再発防止策を講じることも重要です。
    5. Q: フェンシング罪で有罪になると、どのような刑罰が科せられますか?
      A: フェンシング罪の刑罰は、盗品の価値によって異なります。大統領令1612号3条には、盗品の価値に応じた懲役刑と罰金刑が規定されています。

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