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  • フィリピン著作権法:レストランでのラジオ放送の著作権侵害に関する重要な判例

    レストランでのラジオ放送は著作権侵害にあたるか?フィリピン最高裁判所の判決

    G.R. No. 256091, April 12, 2023

    著作権侵害は、著作権者が持つ排他的権利を侵害する行為です。レストランでBGMとしてラジオ放送を流す行為は、著作権侵害にあたるのでしょうか?この判例は、その境界線を明確にしました。

    この判例では、レストランが著作権管理団体FILSCAPの許可なくラジオ放送を流したことが、著作権侵害にあたると判断されました。この判決は、著作権法における「公衆送信」と「公衆伝達」の区別、フェアユースの範囲、そして小規模事業者に対する例外規定の必要性について、重要な示唆を与えています。

    著作権侵害とは?フィリピン知的財産法における定義

    フィリピン知的財産法(IP Code)は、著作権者の権利を保護し、文化の発展を促進することを目的としています。著作権は、著作者が自身の創作物に対して持つ排他的な権利であり、複製、翻案、公衆送信、公衆伝達などが含まれます。

    著作権侵害は、著作権者の許可なくこれらの権利を侵害する行為を指します。具体的には、IP Code第177条に規定されている著作権者の経済的権利を侵害する行為が該当します。

    IP Code第177条の抜粋:

    SECTION 177. Copyright or Economic rights. – Subject to the provisions of Chapter VIII, copyright or economic rights shall consist of the exclusive right to carry out, authorize or prevent the following acts:

    177.1 Reproduction of the work or substantial portion of the work;

    177.6 Public performance of the work; and

    177.7. Other communication to the public of the work.

    この判例で問題となったのは、IP Code第177.6条の「公衆送信」と第177.7条の「公衆伝達」です。これらの権利は、著作権者が自身の作品を公に利用させるかどうかを決定する上で重要な役割を果たします。

    公衆送信(Public Performance):IP Code第171.6条によれば、音源を家族や親しい知人の範囲を超えて聴取可能な場所で再生する行為を指します。例えば、レストランでBGMとして音楽を流す行為は、通常、公衆送信にあたります。

    公衆伝達(Communication to the Public):IP Code第171.3条によれば、有線または無線通信によって作品を公に利用可能にする行為を指します。例えば、ラジオ放送やインターネット配信などが該当します。

    重要な点は、これらの権利は独立しており、著作権者はそれぞれ個別に管理・利用できるということです。つまり、レストランがラジオ放送を流す行為は、著作権者の公衆伝達権を侵害する可能性があるのです。

    ICEBERGS FOOD CONCEPTS, INC. VS. FILSCAP事件の詳細

    この事件は、レストランチェーンであるICEBERGS FOOD CONCEPTS, INC.(以下、ICEBERGS)が、著作権管理団体であるFILSCAP(Filipino Society of Composers, Authors, and Publishers, Inc.)の許可なく、複数の店舗でラジオ放送を流していたことが発端です。

    • FILSCAPは、ICEBERGSに対し、著作権使用料の支払いを求めましたが、ICEBERGSはこれに応じませんでした。
    • そのため、FILSCAPはICEBERGSに対し、著作権侵害訴訟を提起しました。
    • 地方裁判所は、ICEBERGSの行為が著作権侵害にあたると判断し、FILSCAPの請求を認めました。
    • ICEBERGSは、この判決を不服として控訴しましたが、控訴裁判所も地方裁判所の判決を支持しました。
    • ICEBERGSは、最高裁判所に上告しました。

    最高裁判所は、以下の点を考慮し、ICEBERGSの上告を棄却しました。

    • ICEBERGSは、FILSCAPの許可なくラジオ放送を流すことで、著作権者の公衆伝達権を侵害した。
    • ICEBERGSの行為は、フェアユースの範囲に含まれない。
    • ICEBERGSは、著作権侵害に対する損害賠償責任を負う。

    最高裁判所の判決の中で、特に重要な点は以下のとおりです。

    「ラジオ放送をスピーカーを通して流す行為は、それ自体が公衆送信にあたると考えられる。」

    「著作権侵害は、著作権者が持つ私的な領域への侵害であり、法によって保護される。」

    これらの言葉は、著作権の重要性と、著作権者の権利を尊重することの必要性を強調しています。

    企業が注意すべき点:この判決の教訓

    この判決は、企業が著作権を尊重し、適切なライセンスを取得することの重要性を示しています。特に、店舗や事業所で音楽を利用する場合は、著作権侵害のリスクを十分に認識し、適切な対策を講じる必要があります。

    具体的な対策

    • 音楽を利用する前に、著作権管理団体(FILSCAPなど)に連絡し、必要なライセンスを取得する。
    • BGMとして利用する音楽の著作権状況を確認する。
    • 従業員に対し、著作権に関する教育を行う。

    キーレッスン

    • 店舗で音楽を流す際は、著作権侵害のリスクを考慮する。
    • 著作権管理団体からライセンスを取得する。
    • フェアユースの範囲を誤解しない。

    事例

    事例1:カフェAは、ラジオ放送をBGMとして流していましたが、FILSCAPから著作権侵害の警告を受けました。カフェAは、FILSCAPからライセンスを取得し、著作権使用料を支払うことで問題を解決しました。

    事例2:小売店Bは、CDをBGMとして流していましたが、著作権侵害の疑いがあるとして訴訟を起こされました。小売店Bは、CDの著作権者から個別に許可を得ていなかったため、著作権侵害にあたると判断されました。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: レストランでラジオを流すことは、常に著作権侵害になりますか?

    A1: はい、通常は著作権侵害となります。ただし、著作権管理団体からライセンスを取得している場合は、例外となります。

    Q2: フェアユースとは何ですか?どのような場合にフェアユースが認められますか?

    A2: フェアユースとは、著作権者の許可なく著作物を利用できる例外的なケースを指します。報道、批評、教育などの目的で、著作物の利用が正当と認められる場合に適用されます。

    Q3: 小規模事業者は、著作権侵害の責任を免れることはできますか?

    A3: フィリピンの知的財産法には、小規模事業者に対する明確な例外規定はありません。ただし、裁判所は、個別の事情を考慮し、フェアユースの範囲を拡大解釈する可能性があります。現在、最高裁が小規模事業者の例外規定について国会に働きかけを推奨しています。

    Q4: 著作権侵害で訴えられた場合、どのような責任を負いますか?

    A4: 著作権侵害者は、差止請求、損害賠償請求、刑事罰などの責任を負う可能性があります。損害賠償額は、著作権侵害の程度や期間、侵害者の収益などを考慮して決定されます。

    Q5: 著作権侵害のリスクを回避するために、どのような対策を講じればよいですか?

    A5: 著作権管理団体からライセンスを取得する、BGMとして利用する音楽の著作権状況を確認する、従業員に対し著作権に関する教育を行うなどの対策が有効です。

    著作権に関するご質問やご相談は、ASG Lawまでお気軽にお問い合わせください。お問い合わせ または konnichiwa@asglawpartners.com 宛にメールにてご連絡ください。ご相談のご予約を承ります。

  • 商標侵害における差止命令の要件:『ドッカーズ』対『パドックス』事件

    本判決は、商標侵害訴訟において差止命令が適切に発令されるための要件を明確化しています。最高裁判所は、商標権者が差止命令を受けるためには、侵害されている明白な法的権利と、差し迫った修復不能な損害の必要性を示さなければならないと判断しました。今回の事例では、リーバイ・ストラウス社(以下、リーバイ・ストラウス)の商標「ドッカーズ」のデザインを、クリントン・アパレル社(以下、クリントン・アパレル)が「パドックス」のブランドで模倣していると主張されました。しかし、裁判所は、リーバイ・ストラウスが差止命令を発令するに足る十分な証拠を示せていないと判断し、原告の差止命令請求を却下しました。裁判所は、侵害の疑いのある行為によって原告が受ける損害は金銭で補償できるものであり、本案訴訟の結果を予断することになるような差止命令の発行は避けるべきであるとしました。本判決は、商標侵害訴訟における差止命令の適用範囲を明確にし、企業が商標権を保護するために満たす必要のある基準を確立しました。

    模倣デザインか、差別化されたブランドか?「ドッカーズ」商標を巡る攻防

    リーバイ・ストラウスは、「ドッカーズ」ブランドで知られる国際的なアパレル企業です。クリントン・アパレルは、「パドックス」というブランドで衣料品を製造・販売する企業です。リーバイ・ストラウスは、クリントン・アパレルが自社の登録商標である「ドッカーズ・アンド・デザイン」に類似したデザインを使用しているとして、商標侵害訴訟を提起し、裁判所に対して、クリントン・アパレルによる「パドックス」ブランドの衣料品の製造・販売の差し止めを求めました。当初、地裁はリーバイ・ストラウスの差止命令を認めましたが、控訴院は、差止命令の発行に法的手続き上の不備があったこと、そしてリーバイ・ストラウスが差止命令を受けるに足る十分な法的権利を確立していないことを理由に、この決定を覆しました。本件の核心は、クリントン・アパレルの「パドックス」ブランドが、リーバイ・ストラウスの登録商標を侵害しているか否かという点にあります。

    本件では、裁判所が差止命令の発行を判断する際に、商標権侵害の可能性、原告が被る可能性のある損害の性質、そして公益の保護を総合的に考慮しました。裁判所は、**差止命令**が「衡平法の強力な武器」であることを認識しつつ、その行使には慎重さが必要であると強調しました。その理由として、差止命令は、当事者の権利に影響を与える可能性があり、裁判所がその必要性を確信した場合にのみ行使されるべきであるからです。

    **民事訴訟規則第58条第3項**では、差止命令の発行が認められる根拠を以下のように列挙しています。

    第3条 差止命令の発行根拠:差止命令は、以下の場合に認められる。

    (a) 申請人が要求する救済を受ける権利を有し、当該救済の全部または一部が、訴えられた行為の実行または継続を差し止めること、または期間を限定するか永久に、行為または行為の実行を要求することからなる場合

    (b) 訴訟中に、訴えられた行為の実行、継続、または不履行が、申請人にとって不当な行為となる可能性が高い場合

    (c) 当事者、裁判所、機関、または人が、申請人の権利を侵害する可能性のある行為を行っている、脅迫している、または試みている、または取得している、または受けている場合

    この規定に基づき、司法による保護を求める明確で積極的な権利を示す必要があります。抽象的な権利を保護するものではありません。重要なのは、保護されるべき権利が実際に存在することです。そして、差止命令の対象となる行為が、当該権利を侵害しているという明白な証拠が必要となります。

    登録商標は、その登録の有効性、登録者の商標所有権、および証明書に明記された商品またはサービスに関連してそれを使用する独占的権利の**prima facie**(一応の)証拠となります。また、登録商標の所有者は、所有者の同意なしに、商標登録されている商品やサービスと同一または類似の商品やサービスに関して、同一または類似の標識を業として使用することを阻止する独占的権利を有します。

    本件において争点となったのは、リーバイ・ストラウスの登録商標である「ドッカーズ・アンド・デザイン」が、クリントン・アパレルの「パドックス」ブランドのデザインとどの程度類似しているかという点でした。リーバイ・ストラウスの商標は、「ドッカーズ」の文字と翼型のデザインから構成されていますが、クリントン・アパレルは翼型のデザインのみを使用し、「パドックス」の文字を組み合わせています。裁判所は、リーバイ・ストラウスが差止命令を求めるためには、自社の商標全体ではなく、その一部の使用を阻止する権利が明確に確立されている必要があるとしました。

    また、リーバイ・ストラウスは、自社の商標が希釈化されることによる損害を主張しましたが、裁判所は、**商標の希釈化**に対する保護を受けるためには、(1)保護を求める商標が有名かつ特徴的であること、(2)被申立人による標章の使用が、申請人の標章が有名になった後に開始されたこと、(3)その後の使用が申請人の標章を毀損していることを立証する必要があると指摘しました。裁判所は、リーバイ・ストラウスが、自社の商標が十分に特徴的であること、そして他の2つの要素が存在することを立証していないと判断しました。

    裁判所はまた、地裁の差止命令が、その理由を十分に詳細に説明していないと指摘しました。裁判所は、差止命令が原告に有利な判決を下すことになり、**挙証責任**の原則に反する可能性があるとしました。その理由は、差止命令は、事実関係の確定および関連法規の適用を含む、裁判所の慎重な検討の後にのみ発行されるべきだからです。また、損害賠償で十分に補償できる損害に対しては、差止命令を発行すべきではありません。差止命令は、金銭的評価が困難な損害が発生する可能性が高い場合にのみ適切であると裁判所は説明しました。

    差止命令の発行には、訴訟の迅速な解決だけでなく、当事者の権利と利益の公平なバランスが不可欠です。商標侵害訴訟における差止命令の適用は、個別事案の具体的な状況、関連する法的根拠、および確立された判例に基づいて慎重に判断される必要があります。企業は、商標権を主張する際には、その法的根拠を明確に提示し、侵害行為によって実際に発生する損害の性質を詳細に説明する必要があります。

    FAQs

    本件の主な争点は何でしたか? リーバイ・ストラウスが、クリントン・アパレルによる「パドックス」ブランドの衣料品の製造・販売を差し止める差止命令を得るための法的根拠が十分であったかどうかという点です。裁判所は、リーバイ・ストラウスが侵害されている明白な法的権利と差し迫った修復不能な損害の必要性を示さなかったと判断しました。
    「ドッカーズ」の商標はどのように登録されていましたか? 「ドッカーズ」の文字と翼型のデザインが組み合わされた商標として、一体的に登録されていました。クリントン・アパレルは、翼型のデザインのみを使用し、「パドックス」の文字と組み合わせていました。
    裁判所は差止命令を認めなかった理由は何ですか? 裁判所は、リーバイ・ストラウスが自社の商標権が侵害されていること、または「パドックス」ブランドの存在によって回復不能な損害が生じていることを十分に証明できなかったと判断しました。また、損害賠償で十分に補償できる損害に対しては、差止命令を発行すべきではないと判断しました。
    本件で議論された「商標の希釈化」とは何ですか? 商標の希釈化とは、著名な商標が商品やサービスを識別し、区別する能力が低下することを指します。この概念は、商標所有者とその他の当事者との間の競争の有無、または混同、誤認、欺瞞の可能性に関係なく適用されます。
    商標の希釈化に対する保護を受けるためには、どのような条件を満たす必要がありますか? 商標が有名かつ特徴的であること、被申立人による標章の使用が申請人の標章が有名になった後に開始されたこと、そしてその後の使用が申請人の標章を毀損していることを立証する必要があります。
    裁判所が重視した証拠は何でしたか? 裁判所は、リーバイ・ストラウスが提出した証拠、特にクリントン・アパレルの行為によって損害が生じていることを示す証拠が不十分であると判断しました。
    本判決の企業への影響は何ですか? 本判決は、商標権を主張する企業が、自社の法的権利が侵害されていること、および侵害行為によって回復不能な損害が生じていることを明確に証明する必要があることを明確にしています。また、差止命令は、他の救済手段では十分に対応できない場合にのみ行使されるべきであることを強調しています。
    本判決の重要性は何ですか? 本判決は、商標侵害訴訟における差止命令の適用範囲を明確にし、企業が商標権を保護するために満たす必要のある基準を確立しました。

    本判決は、商標侵害訴訟における差止命令の要件に関する重要な法的解釈を提供しています。企業は、商標権の行使において、その法的根拠を明確に提示し、侵害行為によって実際に発生する損害の性質を詳細に説明する必要があります。商標権を保護するための戦略を策定する際には、専門家の法的助言を受けることが不可欠です。

    For inquiries regarding the application of this ruling to specific circumstances, please contact ASG Law through contact or via email at frontdesk@asglawpartners.com.

    Disclaimer: This analysis is provided for informational purposes only and does not constitute legal advice. For specific legal guidance tailored to your situation, please consult with a qualified attorney.
    Source: LEVI STRAUSS & CO., & LEVI STRAUSS (PHILS.),INC., VS. CLINTON APPARELLE, INC., G.R. No. 138900, September 20, 2005

  • 書籍の著作権侵害:類似性と実質的コピーの境界線 – ハバナ対ロブレス事件の解説

    著作権侵害の成否:書籍の類似性が問題となる事例 – ハバナ対ロブレス事件

    [G.R. No. 131522, July 19, 1999] 最高裁判所第一部

    著作権侵害は、知的財産権の中でも特に身近な問題です。書籍、音楽、映像など、著作物は私たちの生活にあふれています。しかし、著作権侵害の線引きは曖昧で、どこからが違法となるのか、一般の方には分かりにくいのが現状です。

    今回取り上げる最高裁判決、ハバナ対ロブレス事件は、まさに書籍の著作権侵害を巡る事例です。原告のハバナらは、自身らが著作権を持つ英語の教科書「CET」の内容が、被告ロブレスの教科書「DEP」に盗用されていると訴えました。争点は、DEPがCETの著作権を侵害するほど類似しているか、そしてフェアユース(公正利用)の範囲内と言えるかでした。

    最高裁は、類似性だけでなく「実質的なコピー」があったかどうかを重視し、著作権侵害を認めました。この判決は、単なるアイデアの類似ではなく、具体的な表現の盗用が著作権侵害にあたることを明確に示しています。知的財産権、特に著作権について理解を深める上で、非常に重要な判例と言えるでしょう。

    著作権法とは?書籍における保護範囲

    著作権法は、著作者の権利を保護し、文化の発展に寄与することを目的としています。フィリピンでは、知的財産法(共和国法第8293号)が著作権に関する基本法です。

    知的財産法第177条は、著作権者の経済的権利として、以下の権利を規定しています。

    「第177.1 作品または作品の重要な部分の複製」

    書籍の場合、著作権は文章だけでなく、構成、図表、イラストなど、様々な要素に及びます。ただし、著作権法はアイデアそのものを保護するものではありません。例えば、「英語学習」というアイデアは誰でも自由に利用できますが、特定の英語学習書の「表現」を無断でコピーすれば、著作権侵害となる可能性があります。

    また、著作権法第184条は、著作権の制限として「フェアユース」を認めています。教育目的での引用や、批評、報道など、一定の条件下では著作物を無断で利用できる場合があります。しかし、フェアユースの範囲は限定的であり、商業目的での広範なコピーは認められません。

    ハバナ対ロブレス事件:裁判の経緯

    原告のハバナらは、英語教科書「College English for Today」(CET)の著者であり著作権者です。被告のロブレスは、「Developing English Proficiency」(DEP)という教科書の著者兼出版社、被告グッドウィル・トレーディング社はDEPの販売業者です。

    ハバナらは、書店でDEPを偶然見つけ、CETと内容、構成、例題などが酷似していることに気づきました。詳細な比較検討の結果、DEPにはCETからの盗用が多数認められると判断し、ロブレスらに著作権侵害を警告、損害賠償を請求しました。

    しかし、ロブレスらは警告を無視したため、ハバナらは1988年7月7日、マカティ地方裁判所に著作権侵害訴訟を提起しました。

    地方裁判所の判断

    地方裁判所は、DEPはロブレスの独自の研究に基づいたものであり、CETからのコピーではないと判断し、原告の訴えを棄却しました。裁判所は、類似性は教科書というジャンルの特性上避けられないものであり、フェアユースの範囲内であると解釈しました。

    控訴裁判所の判断

    ハバナらは控訴しましたが、控訴裁判所も地方裁判所の判断を支持し、原告の訴えを退けました。控訴裁判所は、類似性は両書籍が同じ主題を扱っていることや、共通の参考文献に依拠していることに起因する可能性が高いと指摘しました。

    最高裁判所の判断:著作権侵害を認める

    ハバナらは最高裁判所に上告しました。最高裁は、下級審の判断を覆し、原告の訴えを認め、著作権侵害を認定しました。

    最高裁は、DEPとCETを詳細に比較検討し、以下の点を重視しました。

    • DEPには、CETと酷似した文章、構成、例題が多数含まれている。
    • 類似性は、単なる偶然や教科書というジャンルの特性では説明できないほど高い。
    • ロブレスは、CETからの引用元を明示していない。
    • ロブレスは、訴訟提起後にDEPの販売を一時停止し、改訂版で問題箇所を削除している。

    最高裁は判決文中で、著作権侵害について以下のように述べています。

    「著作権侵害を構成するためには、著作権で保護された作品全体、またはその大部分がコピーされる必要はありません。オリジナル作品の価値が著しく損なわれるほど多くが盗用された場合、著作権侵害となります。」

    この判決は、類似性だけでなく「実質的なコピー」があったかどうかを重視するものであり、著作権侵害の判断基準を明確にしました。

    実務への影響と教訓:著作権侵害を避けるために

    ハバナ対ロブレス事件の最高裁判決は、書籍出版業界に大きな影響を与えました。この判決により、出版社や著者は、著作権侵害に対する意識をより一層高める必要性が生じました。

    この判決から得られる教訓は、以下の通りです。

    1. 他者の著作物を参考にすることは可能だが、表現をそのままコピーすることは著作権侵害となる。
    2. 教科書のような教育目的の書籍であっても、著作権法による保護は及ぶ。
    3. フェアユースの範囲は限定的であり、商業目的での広範なコピーは認められない。
    4. 引用を行う場合は、出典を明記することが不可欠である。

    実務上の注意点

    出版社や著者は、書籍を出版する際、以下の点に注意する必要があります。

    • 類似した書籍がないか、事前に十分な調査を行う。
    • 他者の著作物を引用する場合は、必ず出典を明記する。
    • 不安な場合は、弁護士などの専門家に相談する。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: 著作権侵害とは具体的にどのような行為ですか?

    A1: 著作権者の許可なく、著作物を複製、翻案、公衆送信、譲渡、貸与などを行う行為です。書籍の場合、無断でのコピー、翻訳、要約などが該当します。

    Q2: アイデアを参考にしただけでも著作権侵害になりますか?

    A2: いいえ、アイデアは著作権法で保護されません。著作権が保護するのは、アイデアの具体的な「表現」です。ただし、アイデアと表現が不可分な場合や、表現を詳細にコピーした場合は、著作権侵害となる可能性があります。

    Q3: 教育目的であれば、著作物を自由に利用できますか?

    A3: いいえ、教育目的であっても、著作権法上のフェアユースの範囲内での利用に限られます。広範なコピーや商業目的での利用は、著作権侵害となる可能性があります。

    Q4: 著作権侵害を避けるためにはどうすれば良いですか?

    A4: 他者の著作物を参考にする場合は、表現をそのままコピーせず、自分の言葉で書き換えることが重要です。引用を行う場合は、出典を明記し、必要に応じて著作権者の許諾を得るようにしましょう。

    Q5: もし著作権侵害をしてしまった場合、どのような責任を負いますか?

    A5: 著作権侵害は民事上の損害賠償責任や差止請求の対象となるだけでなく、刑事罰が科せられる場合もあります。著作権侵害は重大な違法行為であることを認識する必要があります。

    ご自身の著作権、または著作権侵害に関するご相談は、知的財産権に強いASG Lawにご連絡ください。当事務所は、著作権に関する豊富な知識と経験を持つ弁護士が、お客様の правовую защиту をサポートいたします。

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    Source: Supreme Court E-Library
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