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  • フィリピン会社法:定款の不提出は自動解散を招くか?最高裁判所の判例解説

    定款の不提出はフィリピン法人の自動解散理由にはならず:最高裁判所の判例解説

    G.R. No. 117188, August 07, 1997

    はじめに

    フィリピンで事業を営む皆様にとって、会社設立後の定款提出は重要な手続きの一つです。しかし、もし提出が遅れてしまった場合、会社が自動的に解散してしまうのではないかと不安に思われる方もいるかもしれません。本記事では、この疑問に対し、フィリピン最高裁判所の重要な判例である「ロヨラ・グランド・ヴィラズ・ホームオーナーズ(サウス)アソシエーション対控訴裁判所事件」を基に解説します。この判例は、定款の提出遅延が直ちに法人の自動解散に繋がらないことを明確に示しており、企業の皆様に安心と正しい法的理解を提供することを目的としています。

    背景

    ロヨラ・グランド・ヴィラズ・ホームオーナーズ・アソシエーション(LGVHAI)は、1983年に設立された住宅所有者協会でしたが、設立から1ヶ月以内に定款を提出しませんでした。その後、別の住宅所有者協会が設立され、LGVHAIの登録取消しを求めました。争点となったのは、会社法第46条が定める定款提出義務の不履行が、法人の自動解散を招くかどうかでした。

    法的背景:フィリピン会社法における定款の役割と不提出の場合の法的影響

    フィリピン会社法は、法人の設立と運営に関する基本的なルールを定めています。定款は、会社設立時に作成される基本規程であり、事業目的、資本構成、組織運営など、会社の根幹を定める重要な書類です。会社法第46条は、法人設立後1ヶ月以内の定款提出を義務付けていますが、その文言解釈を巡っては、提出遅延が法人の法的地位にどのような影響を与えるのか、様々な議論がありました。

    会社法第46条は以下のように規定しています。

    第46条 定款の採択。本法に基づいて設立されたすべての法人は、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)から法人設立証明書の交付の正式通知を受け取ってから1ヶ月以内に、本法と矛盾しない法人の統治のための定款を採択しなければならない。(以下省略)

    この条文の「しなければならない (must)」という文言から、定款提出が義務であり、期限内の提出が法人存続の絶対条件であるかのように解釈される可能性がありました。しかし、会社法自体には、定款不提出の場合の具体的な制裁規定が明確に定められていませんでした。そこで、関連法規である大統領令902-Aが重要な役割を果たします。

    大統領令902-Aは、証券取引委員会(SEC、現HIGC)の権限を定めており、その第6条(l)は、定款の不提出を法人登録の停止または取消理由の一つとして挙げています。しかし、重要なのは、同条が「適切な予告と聴聞の後 (after proper notice and hearing)」という手続きを要求している点です。これは、定款不提出があったとしても、直ちに登録が取り消されるのではなく、法人に弁明の機会が与えられることを意味します。

    この判例以前にも、定款不提出と法人解散の関係については議論がありましたが、最高裁判所は、Chung Ka Bio v. Intermediate Appellate Court判決において、定款不提出は自動解散理由ではなく、登録取消しの「理由の一つに過ぎない」との判断を示していました。今回のロヨラ・グランド・ヴィラズ事件は、この判例の立場を改めて明確にするものでした。

    事件の経緯:ロヨラ・グランド・ヴィラズ事件の詳細

    事件は、高級住宅地ロヨラ・グランド・ヴィラズ内で複数の住宅所有者協会が設立されたことに端を発します。元々存在したLGVHAIは、設立当初から定款を提出していませんでした。その後、別の協会(北部協会、南部協会)が設立され、HIGC(住宅保険・保証公社、旧HFC)に登録されました。LGVHAIは、自身の登録が有効であると主張し、北部協会と南部協会の登録取消しを求め、紛争が表面化しました。

    HIGCの審理官は、LGVHAIの訴えを認め、LGVHAIを唯一の適法な住宅所有者協会と認定し、北部協会と南部協会の登録を取り消す判決を下しました。南部協会はこれを不服としてHIGCの上訴委員会に上訴しましたが棄却され、さらに控訴裁判所へ上訴しました。控訴裁判所もHIGCの決定を支持し、南部協会の訴えを退けました。

    南部協会は、最高裁判所に対し、控訴裁判所の判決を不服として上告しました。南部協会の主な主張は、会社法第46条の「しなければならない (must)」という文言は義務規定であり、定款不提出はLGVHAIの自動解散を招く、というものでした。また、大統領令902-Aが定款不提出を登録取消理由としているのは、会社法の趣旨に反する無効な規定であるとも主張しました。

    最高裁判所は、南部協会の主張を退け、控訴裁判所の判決を支持しました。判決の中で、最高裁判所は以下の点を明確にしました。

    • 会社法第46条の「しなければならない (must)」は、必ずしも義務規定ではなく、文脈によっては訓示規定と解釈される場合がある。
    • 会社法第46条の条文全体を考慮すると、立法府は定款の期限内提出を絶対的な義務とは考えていない。
    • 大統領令902-Aは、定款不提出を登録取消理由としているが、これは適法な規定であり、会社法と矛盾しない。
    • 定款不提出は、自動解散理由ではなく、登録取消しの「理由の一つ」に過ぎず、取消しには適切な予告と聴聞の手続きが必要である。

    最高裁判所は、議事録も参照し、立法府が定款不提出による自動解散を意図していなかったことを確認しました。また、Chung Ka Bio v. Intermediate Appellate Court判決を引用し、定款不提出は法人解散の理由にはなるものの、自動解散には繋がらないという解釈を改めて示しました。

    判決の中で、最高裁判所は重要な理由として次のように述べています。

    「…大統領令902-A第6条(I)に基づき、SECは、とりわけ「所定の期間内に定款を提出しなかった」という理由で、「適切な予告と聴聞の後、法人の特許または登録証明書を停止または取り消す」権限を与えられている。この規定から明らかなように、まず第一に、理由の存在を判断するための聴聞が必要であり、第二に、そのような所見があったとしても、罰則は必ずしも取消しではなく、特許の一時停止に過ぎない場合もある。」

    さらに、

    「…重要なのは、事後的な条件への実質的な準拠は、法人格を完成させるのに十分であるということである。法人組織の設立と事業取引の開始は、事後的な条件であり、法人格取得の前提条件ではない。定款の採択と提出もまた、事後的な条件である。会社法第19条に基づき、法人は、証券取引委員会がその公印の下に法人設立証明書を発行した日から法人格を開始し、法人化されたとみなされる。これは、会社法第46条に基づき「法人設立証明書の交付の正式通知を受け取ってから1ヶ月以内」に採択しなければならない定款の提出前であっても可能である。」

    実務上の意義:本判決が企業に与える影響と教訓

    本判決は、フィリピンで事業を行う企業にとって、非常に重要な実務上の意義を持ちます。まず、定款の提出遅延が直ちに法人の自動解散に繋がらないことが明確になったことで、企業は不必要な不安から解放されます。定款提出は重要な手続きではありますが、期限を多少過ぎてしまった場合でも、適切な手続きを踏むことで法人格を維持できる道が開かれました。

    しかし、これは定款提出を軽視して良いという意味ではありません。定款は、会社運営の基本ルールを定める重要な書類であり、速やかに作成・提出することが望ましいです。定款不提出は、登録取消しの理由となり得るため、放置すれば事業継続に支障をきたす可能性があります。本判決は、自動解散を否定しましたが、定款提出義務自体を否定したわけではありません。

    企業は、定款提出期限を厳守し、万が一遅延してしまった場合は、速やかにHIGC(またはSEC)に連絡し、指示を仰ぐべきです。また、定款だけでなく、その他の会社法上の義務(年次報告書の提出、登録事項の変更届出など)も遵守することが重要です。これらの義務を怠ると、罰金や登録取消しなどの制裁を受ける可能性があります。

    主な教訓

    • 定款の提出遅延は自動解散を招かない:会社法第46条の定款提出義務は重要ですが、期限を過ぎても直ちに法人格が失われるわけではありません。
    • 登録取消しには手続きが必要:定款不提出を理由に登録を取り消す場合でも、HIGC(またはSEC)は適切な予告と聴聞の手続きを経る必要があります。
    • 定款提出義務は依然として重要:定款不提出は登録取消しの理由となり得るため、期限内の提出を心がけるべきです。
    • 法令遵守の重要性:定款だけでなく、会社法上の他の義務も遵守し、健全な企業運営を行うことが重要です。

    よくある質問 (FAQ)

    1. 質問1:定款提出期限はいつですか?
      回答:フィリピン会社法では、法人設立証明書の交付の正式通知を受け取ってから1ヶ月以内と定められています。
    2. 質問2:定款提出が遅れた場合、どうすれば良いですか?
      回答:速やかにHIGC(またはSEC)に連絡し、遅延理由を説明し、指示を仰いでください。可能な限り早急に定款を提出することが重要です。
    3. 質問3:定款不提出以外に、会社が解散する理由は何がありますか?
      回答:会社法には、定款不提出以外にも、事業目的の達成不能、事業の継続困難、株主総会の決議、裁判所の命令など、様々な解散理由が定められています。
    4. 質問4:HIGCとSECの違いは何ですか?
      回答:HIGCは、主に住宅所有者協会などの監督機関であり、SECは、より広範な企業全般を監督する機関です。本判例当時はHIGCが住宅所有者協会を管轄していましたが、管轄は変更される可能性があります。
    5. 質問5:定款作成や提出について専門家のサポートは必要ですか?
      回答:定款は法的に重要な書類ですので、弁護士などの専門家のサポートを受けることをお勧めします。特に、複雑な事業内容や組織構成の場合は、専門家のアドバイスが不可欠です。

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  • フィリピン会社法:定款に反する取締役の選任は無効 – グレース・クリスチャン・ハイスクール事件解説

    定款に反する取締役の選任は無効

    G.R. No. 108905, 平成9年10月23日 (October 23, 1997)

    フィリピンの企業統治において、取締役会の構成は企業の健全性と有効性に不可欠です。取締役が適切に選任されず、定款や法律に違反している場合、その企業の意思決定や運営に重大な影響を及ぼす可能性があります。グレース・クリスチャン・ハイスクール対控訴裁判所事件は、まさにそのような取締役の選任に関する重要な判例です。本件では、ある非営利団体の取締役会に、選挙を経ずに特定の団体の代表者を恒久的に参加させるという慣行の有効性が争われました。最高裁判所は、フィリピンの会社法に基づき、取締役は会員による選挙で選任される必要があり、定款に反する慣行は無効であるとの判断を示しました。この判決は、フィリピンにおける企業統治の基本原則を再確認し、定款と法律の遵守の重要性を強調しています。

    法的背景:取締役選任と定款の役割

    フィリピン会社法(旧法および現行法)は、企業の取締役会が株主または会員によって選任されることを明確に義務付けています。これは、企業の所有者である株主または会員が、企業の経営を担う取締役を選ぶ権利を持つという、民主的な企業統治の原則に基づいています。定款は、企業の組織、運営、および株主・会員の権利に関する基本的な規則を定めるものであり、法律に反しない範囲で企業の実情に合わせた規定を設けることができます。しかし、定款の内容が法律に抵触する場合、その部分は無効となります。取締役の選任方法についても、定款で詳細を定めることはできますが、選挙による選任という根本原則を覆すことはできません。

    旧会社法第28条および第29条、現行会社法第23条は、取締役の選任について以下のように規定しています。

    旧会社法 第28条: 「別段の定めがない限り、本法に基づいて設立されたすべての法人の企業権限は、株式を保有する者または株式がない場合は法人の会員の中から選出される5名以上11名以下の取締役会によって行使され、すべての事業は遂行され、そのような法人のすべての財産は管理および保有されるものとする。」

    旧会社法 第29条: 「最初の定款を採択するための会議、またはその後決定される会議において、取締役は1年間、および後任者が選出され資格を得るまでその職務を保持するために選出されるものとする。その後、法人の取締役は、株式会社の場合は株主によって、非営利法人の場合は会員によって毎年選出されるものとし、定款に選挙の時期に関する規定がない場合は、1月の第1月曜日の後の最初の火曜日に実施されるものとする。」

    現行会社法 第23条: 「取締役または理事会。本法に別段の定めがない限り、本法に基づいて設立されたすべての法人の企業権限は、株式を保有する者、または株式がない場合は法人の会員の中から選出される取締役または理事会によって行使され、すべての事業は遂行され、そのような法人のすべての財産は管理および保有されるものとし、取締役または理事は1年間、および後任者が選出され資格を得るまでその職務を保持するものとする。」

    これらの条項は、取締役が選挙によって選ばれるべきであることを明確に定めており、例外規定も限定的です。非営利法人であっても、取締役(理事)の選任は原則として選挙による必要があります。

    事件の経緯:慣行と定款、そして法的挑戦

    グレース・クリスチャン・ハイスクール事件は、グレース・ビレッジ・アソシエーションという非営利団体における取締役選任の慣行が発端となりました。この団体では、1975年以降、グレース・クリスチャン・ハイスクールの代表者が選挙を経ずに取締役会の「恒久的取締役」として参加することが慣例となっていました。しかし、1990年になり、団体の選挙委員会がこの慣行を見直し、学校代表者の恒久的取締役としての地位を再検討することを決定しました。これに対し、学校側は、長年の慣行に基づき、恒久的取締役としての既得権を主張し、選挙なしでの取締役会参加を求めました。

    訴訟は、まず住宅保険・保証公社(HIGC)に提起されましたが、HIGCは学校側の請求を棄却。その後、控訴裁判所もHIGCの決定を支持し、学校側は最高裁判所に上告しました。学校側の主な主張は以下の3点でした。

    • 学校は団体の取締役会の恒久的議席に対する既得権を取得している。
    • 1975年に委員会によって作成された定款修正案は有効かつ拘束力を持つ。
    • 選挙を経ずに学校代表者を恒久的取締役に含める慣行は法的に許容される。

    一方、団体側は、登録された1968年の定款では取締役は会員の選挙によって選任されるべきであり、1975年の修正案は会員の承認を得ていないため無効であると反論しました。また、証券取引委員会(SEC)も、選挙を経ない取締役の選任は会社法に違反するという見解を示しました。

    最高裁判所は、下級審の判断を支持し、学校側の上告を棄却しました。判決の中で、最高裁は以下の点を強調しました。

    「問題となっている規定が法律に反している以上、たとえ15年間異議が唱えられず、むしろ協会の会員によって実施されてきたように見えても、その有効性に対する後の異議申し立てを阻止することはできない。また、同意によって有効になることもない。法律に反する場合、協会員がその無効性を放棄する権限を超えるからである。その点で、協会員は問題となっている規定を正式に採択したかもしれないが、定款のいかなる規定も法律に反する場合は採択しても無駄であろう。」

    最高裁は、1975年の定款修正案が正式な手続きを経て会員の承認を得ていないため、有効な定款修正とは認められないと判断しました。また、長年の慣行も、法律に反する規定を有効にするものではないとしました。重要なのは、定款の内容が会社法に適合しているかどうかであり、慣行や会員の黙認は、法律違反を正当化する理由にはならないということです。

    実務上の意義:定款と取締役選任の適法性

    本判決は、フィリピンで事業を行う企業、特に非営利団体にとって、非常に重要な教訓を示しています。まず、企業の定款は、会社法をはじめとする関連法規を遵守して作成・運用されなければならないということです。定款の内容が法律に抵触する場合、その規定は無効となり、長年の慣行によっても有効になることはありません。取締役の選任についても、会社法が定める選挙による選任という原則を遵守する必要があります。特定の団体や個人に恒久的取締役の地位を自動的に与えるような規定や慣行は、原則として認められません。

    企業は、定期的に定款を見直し、現行法規との整合性を確認することが重要です。特に、取締役の選任方法、任期、資格など、企業統治に関わる規定については、細心の注意を払う必要があります。定款の修正が必要な場合は、会社法が定める手続き(会員または株主総会での承認、SECへの届出など)を厳格に遵守しなければなりません。違法な定款規定や取締役選任の慣行は、後々法的紛争の原因となるだけでなく、企業の健全な運営を損なう可能性もあります。

    主な教訓

    • 定款の合法性:定款は常に会社法などの関連法規に適合している必要があり、法律に反する規定は無効です。
    • 選挙による取締役選任:取締役は原則として株主または会員による選挙で選任される必要があり、特定の団体や個人への恒久的取締役地位の自動付与は認められません。
    • 慣行の限界:長年の慣行も、法律に反する定款規定や取締役選任を正当化するものではありません。
    • 定款修正手続きの重要性:定款を修正する場合は、会社法が定める手続きを厳格に遵守する必要があります。

    よくある質問(FAQ)

    Q1. 取締役は必ず選任が必要ですか?
    はい、フィリピン会社法では、株式会社および非営利法人を問わず、取締役は株主または会員による選挙で選任されることが原則です。
    Q2. 定款と法律が矛盾する場合、どちらが優先されますか?
    法律が常に優先されます。定款は法律の範囲内で効力を持ちます。定款の規定が法律に反する場合、その規定は無効となります。
    Q3. 過去の慣行は違法な定款規定を有効にできますか?
    いいえ、過去の慣行が長期間継続していたとしても、法律に反する定款規定を有効にすることはできません。法律違反は解消されません。
    Q4. 定款を変更する際の手続きは?
    定款を変更するには、原則として会員または株主総会での承認が必要です。その後、変更された定款を証券取引委員会(SEC)に届け出る必要があります。手続きの詳細は会社法および定款に定められています。
    Q5. 非営利法人の取締役選任も同じですか?
    はい、非営利法人(非株式法人)の理事(取締役)の選任も、原則として会員による選挙が必要です。会社法は、営利法人と非営利法人で取締役選任に関する基本的な原則を区別していません。
    Q6. 取締役の任期は?
    会社法では、取締役の任期は1年とされていますが、定款で異なる期間を定めることも可能です。ただし、任期が長すぎる場合や、任期に関する規定が不明確な場合は、法的問題が生じる可能性があります。
    Q7. 定款違反のリスクは?
    定款に違反した場合、法的措置を受ける可能性があります。例えば、取締役の選任方法が定款に違反している場合、その選任の有効性が争われ、訴訟に発展する可能性があります。また、定款違反が企業の運営に重大な影響を与える場合、規制当局からの指導や処分を受けることもあります。

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    Source: Supreme Court E-Library

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  • 株式譲渡紛争:フィリピン最高裁判所の判決から学ぶ企業法務の重要ポイント

    株式譲渡と取締役選任:法的手続き遵守の重要性

    G.R. No. 120138, 1997年9月5日

    はじめに

    企業経営において、株式譲渡や取締役の選任は根幹をなす行為であり、その手続きの適否は企業の安定と成長に直結します。しかし、手続きの不備は、企業紛争、経営権争い、そして法的責任に発展する可能性があります。本稿では、フィリピン最高裁判所の判決(G.R. No. 120138)を基に、株式譲渡と取締役選任における法的手続きの重要性、特に家族企業における落とし穴と対策について解説します。この判決は、一見些細な手続き上のミスが、重大な法的問題を引き起こし、最終的に企業の運営を大きく左右する事例を示しています。企業の株主、経営者、法務担当者にとって、本判例は、コンプライアンス経営の重要性を再認識し、実務に活かすための貴重な教訓となるでしょう。

    法的背景:フィリピン企業法における株式譲渡と取締役選任

    フィリピンの企業法(改正会社法)は、株式譲渡と取締役選任に関して明確な規定を設けています。これらの規定は、企業の透明性と公正性を確保し、株主の権利を保護するために不可欠です。

    株式譲渡: 株式の譲渡は、原則として株主の自由ですが、法的な効力を生じさせるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。フィリピン改正会社法第72条は、株式譲渡の登録について規定しており、「株式譲渡は、会社の記録に登録され、譲渡先の名前、住所、譲渡された株式数、譲渡日を記載し、会社の役員が署名した場合にのみ有効となる。」と定めています。この条文は、株式譲渡が単なる当事者間の合意ではなく、会社による正式な登録を経て初めて第三者に対抗できる効力を持つことを意味します。登録がない場合、会社は譲渡を認識せず、譲渡人は株主としての権利を行使できない可能性があります。

    取締役選任: 取締役の選任は、株主総会における投票によって行われます。取締役は会社の経営を担う重要な役割を果たすため、選任手続きは厳格に定められています。取締役の資格要件、選任方法、任期などは、会社法および会社の定款・ bylaws に規定されています。例えば、取締役になるためには、通常、会社の株式を保有している必要があります(qualifying shares)。また、株主総会の招集通知、議決権行使の方法、定足数なども法的に定められており、これらの手続きに瑕疵があると、取締役選任決議が無効となる可能性があります。

    これらの法的原則は、企業規模や種類に関わらず、全てのフィリピン企業に適用されます。特に家族企業においては、親族間の慣習や非公式な手続きが優先されがちですが、法的要件を遵守しない場合、後々深刻な紛争に発展するリスクがあります。

    判例の概要:トーレス対控訴裁判所事件

    本判例(G.R. No. 120138)は、家族経営の不動産開発会社 Tormil Realty & Development Corporation (以下、Tormil社) における株式譲渡と取締役選任を巡る紛争です。

    事件の経緯:

    1. 故マヌエル・A・トーレス・ジュニア(以下、トーレス・ジュニア)は、Tormil社の筆頭株主であり、弟の子である原告らは少数株主でした。
    2. トーレス・ジュニアは、相続税対策として、自身の不動産や株式をTormil社に譲渡し、その対価としてTormil社の新株を取得する「資産計画」を実行しました。
    3. しかし、発行可能な新株数が不足したため、トーレス・ジュニアは一部不動産の譲渡契約を一方的に取り消しました。
    4. 原告らは、この取り消しを不服として、証券取引委員会(SEC)に提訴しました(SEC Case No. 3153)。
    5. 一方、トーレス・ジュニアは、自身の取締役選任数を増やすため、自身の保有株の一部を被告訴訟人らに譲渡し、「資格株」として取締役候補にしました。
    6. 1987年の株主総会において、被告訴訟人らが取締役として選任されましたが、原告らはこの選任も無効であるとして、SECに提訴しました(SEC Case No. 3161)。
    7. SECは、2つの訴訟を併合審理し、原告らの訴えを認め、不動産譲渡契約の取り消し無効、取締役選任無効の判決を下しました。
    8. 被告らは、SECの決定を不服として控訴裁判所に上訴しましたが、控訴裁判所もSECの決定を支持しました。
    9. 被告らは、最高裁判所に上告しました。

    最高裁判所の判断:

    最高裁判所は、控訴裁判所の判決を支持し、被告らの上告を棄却しました。判決の主な理由は以下の通りです。

    • 手続きの適正性: 控訴裁判所は、SECの記録に基づいて適切に審理を行っており、手続き上の違法性はない。
    • 当事者の死亡と訴訟手続き: 主要当事者であるトーレス・ジュニアがSECの審理中に死亡したが、相続人による訴訟承継は必須ではない。本件では、相続人となりうる者が訴訟に実質的に参加しており、デュープロセスは侵害されていない。裁判所は、「正式な相続人による訴訟承継は、相続人自身が任意に訴訟に参加し、故人の弁護のために証拠を提出した場合、必ずしも必要ではない。」と判示しました。
    • 不動産譲渡契約の取り消し: 新株発行数の不足は、不動産譲渡契約の取り消し理由としては不十分であり、契約の目的を根本的に損なうほどの重大な違反とは言えない。裁判所は、「些細な、または軽微な違反ではなく、契約当事者の目的を損なうような重大かつ根本的な違反のみが、契約の解除を正当化する。」と判示しました。
    • 取締役選任の有効性: 「資格株」の譲渡は、株主名簿に正式に登録されておらず、会社法第74条に違反する。したがって、被告訴訟人らは適法な株主とは認められず、取締役選任は無効である。裁判所は、「会社法第74条の明確な義務違反を助長するだけでなく、誰が株主名簿を管理し、誰が会社の真の株主であるかについて、会社に混乱の扉を開くことになる。」と判示しました。

    実務への影響と教訓

    本判例は、企業、特に家族企業にとって、以下の重要な教訓を示唆しています。

    • 法的手続きの厳守: 株式譲渡、取締役選任などの重要事項は、会社法および定款・bylaws に定められた手続きを厳格に遵守する必要がある。些細な手続き上のミスが、後々重大な法的紛争に発展する可能性がある。
    • 株主名簿の重要性: 株主名簿は、株主の権利を確定するための最も重要な記録である。株式譲渡は、株主名簿に正式に登録されて初めて法的な効力を持つ。株主名簿の管理は、会社事務局(Corporate Secretary)の責任であり、適切に管理・保管する必要がある。
    • デュープロセスの確保: 訴訟手続きにおいては、全ての当事者にデュープロセス(適正手続き)が保障されなければならない。当事者が死亡した場合でも、相続人などの関係者が訴訟に実質的に参加していれば、必ずしも形式的な訴訟承継手続きが必須ではない場合がある。
    • 家族企業特有のリスク: 家族企業においては、親族間の慣習や非公式なやり方が優先されがちだが、法的な観点からはリスクが高い。家族企業であっても、一般企業と同様に、法的手続きを遵守し、透明性の高い企業運営を心がける必要がある。

    企業が取るべき対策:

    • 法務アドバイザーの活用: 株式譲渡、取締役選任などの重要事項を行う際には、事前に弁護士などの法務アドバイザーに相談し、法的なアドバイスを受けることが重要である。
    • 社内規程の整備: 会社法および定款・bylaws に基づき、株式譲渡、取締役選任などの手続きに関する社内規程を整備し、従業員に周知徹底する。
    • コンプライアンス研修の実施: 役員および従業員に対して、定期的にコンプライアンス研修を実施し、法的手続き遵守の意識を高める。
    • 記録管理の徹底: 株主名簿、取締役会議事録、株主総会議事録などの重要書類は、適切に作成・保管し、いつでも確認できるようにしておく。

    主要な教訓:

    • 企業法務においては、手続きの正確性が極めて重要である。
    • 株主名簿は、株主の権利を証明する重要な法的根拠となる。
    • 家族企業であっても、法的手続きの遵守は不可欠である。

    よくある質問(FAQ)

    1. Q: 株式譲渡契約書を作成すれば、株式譲渡は有効になりますか?
      A: いいえ、株式譲渡契約書の作成だけでは不十分です。フィリピン法では、株式譲渡は株主名簿に登録されて初めて会社および第三者に対して有効となります。契約書作成後、会社に登録手続きを行う必要があります。
    2. Q: 取締役になるための「資格株」は、名義株でも問題ありませんか?
      A: 名義株が有効かどうかは、会社の定款・bylaws の規定によります。しかし、本判例のように、株主名簿に正式に登録されていない名義株は、取締役の資格要件を満たさないと判断されるリスクがあります。
    3. Q: 家族企業なので、株主総会を省略しても問題ないですか?
      A: いいえ、株主総会の省略は原則として認められません。家族企業であっても、会社法および定款・bylaws に基づき、株主総会を適法に開催する必要があります。
    4. Q: 株主名簿は、会社のどこに保管する必要がありますか?
      A: 会社法第74条は、株主名簿を会社の主たる事務所に保管することを義務付けています。
    5. Q: 訴訟中に当事者が死亡した場合、訴訟手続きはどうなりますか?
      A: 原則として、相続人による訴訟承継手続きが必要です。ただし、本判例のように、相続人となりうる者が訴訟に実質的に参加しており、デュープロセスが確保されていると認められる場合は、形式的な訴訟承継手続きが省略されることもあります。
    6. Q: 株式譲渡の手続きを怠ると、どのようなリスクがありますか?
      A: 株式譲渡が無効となる、株主としての権利(議決権、配当請求権など)を行使できなくなる、後々株主間の紛争に発展するなどのリスクがあります。
    7. Q: 取締役選任の手続きに不備があった場合、どのような問題が起こりますか?
      A: 取締役選任が無効となり、取締役会決議の有効性が争われる、経営の混乱を招く、法的責任を追及されるなどの問題が起こる可能性があります。

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  • 外国企業がフィリピンで訴訟を起こすための条件とは?無許可営業と訴訟提起能力

    フィリピンで無許可営業を行う外国企業は、契約上の権利を主張できない?

    G.R. No. 102223, August 22, 1996

    フィリピンでビジネスを行う外国企業にとって、営業許可の取得は非常に重要な問題です。許可を得ずに事業活動を行った場合、法的な保護を受けられなくなる可能性があるからです。本判例は、外国企業がフィリピンで訴訟を提起する際の要件、特に営業許可の有無が訴訟能力に与える影響について重要な判断を示しています。

    フィリピンにおける外国企業の営業許可と訴訟能力

    フィリピン会社法第133条は、フィリピンで事業を行う外国企業に対し、営業許可の取得を義務付けています。この規定は、無許可で事業を行う外国企業が、フィリピンの裁判所や行政機関で訴訟を提起したり、訴訟に参加したりすることを禁じています。しかし、無許可企業であっても、フィリピンの法律に基づいて訴えられることは可能です。

    この法律の目的は、フィリピン国内で事業を行う外国企業をフィリピンの裁判管轄に服させることにあります。外国企業が、国内企業との間で契約を締結し、その契約から利益を得ている場合、後になって相手方が営業許可がないことを理由に契約を無効にすることを防ぐことも目的としています。

    重要なのは、「事業を行う」という行為の定義です。包括的投資法第44条は、「事業を行う」行為を、注文の勧誘、事務所の開設、駐在員や販売代理人の任命など、商業的な取引や取り決めを継続的に行うことを意味すると定義しています。単発的な取引や偶発的な取引は、この定義には含まれません。

    事案の概要と裁判所の判断

    本件では、ITECというアメリカの企業が、ASPACというフィリピンの企業に対し、契約違反および不正競争行為を理由に訴訟を提起しました。ASPACは、ITECがフィリピンで営業許可を取得していないことを理由に、ITECの訴訟能力を争いました。

    裁判所は、ITECがフィリピンで事業を行っていたと認定しましたが、ASPACがITECとの間で契約を締結し、その契約から利益を得ていたことから、ASPACはITECの訴訟能力を争うことはできないと判断しました。裁判所は、エストッペルの原則(自己の行為または表明に矛盾する主張をすることが許されないという法原則)を適用し、ASPACの主張を退けました。

    裁判所の判決のポイントは以下の通りです。

    • 外国企業がフィリピンで事業を行うには、営業許可が必要である。
    • 無許可で事業を行う外国企業は、原則としてフィリピンの裁判所で訴訟を提起できない。
    • しかし、相手方が外国企業との間で契約を締結し、その契約から利益を得ていた場合、相手方は外国企業の訴訟能力を争うことはできない(エストッペルの原則)。

    裁判所は、次のように述べています。「当事者は、契約を締結する時点、および契約が有効になる時点で、既存の法律を知っている責任がある。(中略)本件では、少なくとも、原告は、契約が締結された時点、およびその後常に、共和国法第5455号の適用可能性について実際に知っていたという事実によって、この結論は強制される。」

    実務上の教訓

    本判例から得られる実務上の教訓は以下の通りです。

    • フィリピンで事業を行う外国企業は、必ず営業許可を取得すること。
    • フィリピン企業は、外国企業との間で契約を締結する前に、相手方が営業許可を取得しているかどうかを確認すること。
    • 外国企業との間で契約を締結し、その契約から利益を得た場合、後になって相手方の訴訟能力を争うことは難しい。

    重要なポイント:フィリピンでビジネスを行う外国企業は、営業許可の取得を怠ると、法的な保護を受けられなくなる可能性があります。契約を締結する際には、相手方の法的地位を十分に確認することが重要です。

    よくある質問

    1. Q: フィリピンで「事業を行う」とは具体的にどのような行為を指しますか?
      A: 注文の勧誘、事務所の開設、駐在員や販売代理人の任命など、商業的な取引や取り決めを継続的に行うことを指します。単発的な取引や偶発的な取引は含まれません。
    2. Q: 無許可で事業を行う外国企業が訴えられた場合、どのような対応を取るべきですか?
      A: まずは弁護士に相談し、訴訟に対応するための戦略を立てるべきです。無許可営業の事実を認める場合でも、和解交渉などにより、損害賠償額を減額できる可能性があります。
    3. Q: フィリピン企業が、外国企業との間で契約を締結する際に注意すべき点は何ですか?
      A: 相手方が営業許可を取得しているかどうかを確認することが重要です。また、契約書に準拠法や紛争解決条項を明記することも重要です。
    4. Q: エストッペルの原則とはどのようなものですか?
      A: 自己の行為または表明に矛盾する主張をすることが許されないという法原則です。本件では、ASPACがITECとの間で契約を締結し、その契約から利益を得ていたことから、後になってITECの訴訟能力を争うことは許されないと判断されました。
    5. Q: ITECはフィリピンでビジネスを行っていたと認定されましたが、なぜ訴訟を提起できたのですか?
      A: ASPACがITECとの間で契約を結び、利益を得ていたため、ASPACは後になってITECの訴訟能力を争うことはできないというエストッペルの原則が適用されたからです。

    ASG Lawは、本件のような外国企業のフィリピンにおけるビジネス展開に関する法的問題について、豊富な経験と専門知識を有しています。お気軽にご相談ください。

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