フィリピン企業の役員報酬に関する主要な教訓
Land Bank of the Philippines, et al. v. Commission on Audit, G.R. No. 213409, October 05, 2021
フィリピンで事業を展開する企業にとって、役員の報酬に関する法律の遵守は重要な課題です。特に、親会社とその子会社の間での役員の役割と報酬の管理は、法的な境界を超えないように慎重に行う必要があります。この問題は、フィリピンの最高裁判所が取り扱ったLand Bank of the Philippines対Commission on Auditの事例で明確に示されています。この事例では、親会社の役員が子会社の役員として追加の報酬を受け取ることが問題となりました。
この事例では、Land Bank of the Philippines(LBP)の役員が、同行の子会社であるLand Bank Insurance Brokerage, Inc.やLand Bank Realty Development Corporationなどで役員として働き、追加の報酬を受け取っていたことが問題となりました。最高裁判所は、これらの報酬が法律に基づいていないと判断し、返還を命じました。この判決は、企業ガバナンスと法律遵守の重要性を強調しています。
法的背景
フィリピンでは、企業の役員報酬に関する規定は、Corporation Code of the Philippines(フィリピン会社法)に定められています。この法律の第30条では、役員の報酬について、定款に特別な規定がない限り、合理的な日当以外の報酬は認められないとされています。さらに、株主総会での過半数の承認が必要です。この規定は、役員が自身の報酬を決定する際の利益相反を防ぐために設けられています。
また、フィリピン憲法第8条第9項Bでは、公務員が二重報酬を受けることを禁じています。これは、政府機関や政府所有の企業の役員が、他の役職からの報酬を受け取ることを制限しています。この規定は、公共の資金の適正な使用を確保するためのものです。
具体的な例として、ある企業が子会社の役員に追加の報酬を与える場合、その報酬は株主総会で承認されなければならないという点が挙げられます。もしこの手続きを怠ると、報酬は無効とされ、返還を求められる可能性があります。これは、企業が適切な手続きを踏まずに役員に報酬を与えると、法律違反となることを示しています。
事例分析
この事例は、LBPの役員が子会社で役員として働き、追加の報酬を受け取ったことから始まります。LBPは政府所有の金融機関であり、その子会社もLBPによって完全に所有されていました。問題となったのは、2002年から2003年にかけての期間で、LBPの役員が子会社から受け取った報酬が合計5,133,830.02ペソに上ったことです。
最初に、COA(監査委員会)は2003年のLBPの年次監査報告書で、この報酬の支払いを指摘しました。その後、子会社は2004年8月24日にCOAに返答し、一部の報酬は既に支払いを停止していると説明しました。しかし、COAは2008年8月11日に、法律に基づいていないとして報酬の支払いを不許可としました。
LBPと子会社はこの決定に異議を唱え、COAの決定を覆すために提訴しました。しかし、COAはその決定を維持し、最高裁判所もこれを支持しました。最高裁判所は、以下のように述べています:「役員の報酬に関する決議は、株主の承認がない限り無効である」(Land Bank of the Philippines, et al. v. Commission on Audit, G.R. No. 213409, October 05, 2021)。また、「役員が自身の報酬を決定する際の利益相反を防ぐため、株主の承認が不可欠である」(同上)と強調しました。
この事例の手続きは以下の通りです:
- 2003年:COAがLBPの年次監査報告書で報酬の支払いを指摘
- 2004年:子会社がCOAに返答し、一部の報酬の支払いを停止
- 2008年:COAが報酬の支払いを不許可とする
- 2012年:COAが決定を維持
- 2021年:最高裁判所がCOAの決定を支持
実用的な影響
この判決は、フィリピンで事業を展開する企業、特に親会社と子会社の間での役員報酬に関する問題に大きな影響を与えます。企業は、役員の報酬に関する法律を遵守し、適切な手続きを踏むことが求められます。特に、役員が親会社と子会社の両方で役割を持つ場合、報酬の支払いが二重報酬に該当しないように注意する必要があります。
企業に対する実用的なアドバイスとしては、以下の点が挙げられます:
- 役員報酬に関する決議は、株主総会での過半数の承認を得ること
- 役員が親会社と子会社の両方で役割を持つ場合、報酬の支払いが法律に基づいているか確認すること
- COAの監査に備えて、すべての報酬の支払いが適切に記録されていることを確認すること
主要な教訓
この事例から学ぶべき主要な教訓は、企業ガバナンスと法律遵守の重要性です。役員報酬に関する決議は、株主の承認がなければ無効であり、企業は適切な手続きを踏む必要があります。また、役員が親会社と子会社の両方で役割を持つ場合、報酬の支払いが二重報酬に該当しないように注意する必要があります。
よくある質問
Q: フィリピンで役員報酬を決定する際、どのような手続きが必要ですか?
A: フィリピンでは、役員報酬は株主総会での過半数の承認を得なければなりません。定款に特別な規定がない限り、役員は合理的な日当以外の報酬を受け取ることはできません。
Q: 親会社と子会社の役員報酬は別々に扱われるべきですか?
A: はい、親会社と子会社の役員報酬は別々に扱われるべきです。役員が両方の会社で役割を持つ場合、報酬の支払いが二重報酬に該当しないように注意する必要があります。
Q: COAの監査を受ける前に、企業は何を準備すべきですか?
A: COAの監査に備えて、企業はすべての報酬の支払いが適切に記録されていることを確認する必要があります。また、役員報酬に関する決議が株主総会で承認されていることを確認することも重要です。
Q: フィリピンで事業を展開する日系企業は、役員報酬に関するどのような問題に直面する可能性がありますか?
A: 日系企業は、フィリピンの法律と日本の法律の違いを理解する必要があります。特に、役員報酬に関する規定や手続きが異なるため、適切な法律顧問を選ぶことが重要です。
Q: この判決は、フィリピンで事業を展開する企業にどのような影響を与えますか?
A: この判決は、企業が役員報酬に関する法律を遵守し、適切な手続きを踏むことを強制します。特に、親会社と子会社の間での役員報酬に関する問題に注意する必要があります。
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