交際関係があっても強制性交は強姦罪:関係性免責条項は存在しない
[G.R. No. 114383, 1997年3月3日] フィリピン国 対 ジョエル・コリア別名 “ディゴイ”
強姦事件においては、被害者と被告人が交際関係にあったとしても、合意があったとはみなされず、暴行や脅迫を用いた性行為は強姦罪として成立する。本判例は、交際関係が強姦罪の成否に影響を与えないことを明確に示した重要な判例である。性犯罪における同意の概念、立証責任、および裁判所の証拠評価のあり方について、深く掘り下げて解説する。
はじめに:恋人関係でも強姦は成立するのか?
「恋人同士だったのだから、同意があったのではないか?」性犯罪の裁判でしばしば見られる弁護側の主張です。しかし、フィリピンの法律では、たとえ恋人関係であっても、暴行や脅迫を用いて性行為が行われた場合、それは明確な強姦罪となります。本件、人民対コリア事件は、この点について最高裁判所が改めて明確な判断を示した重要な判例です。本稿では、この判例を詳細に分析し、その意義と実務への影響について解説します。
事件の背景は、被告人コリアが、交際していたとされる少女AAAに対し、暴行と脅迫を用いて性行為に及んだとして強姦罪に問われたものです。コリアは一審で有罪判決を受け、これを不服として上訴しました。最高裁判所は、一審判決を支持し、コリアの上訴を棄却。交際関係があったとしても、暴行・脅迫を用いた性行為は強姦罪に該当するという原則を改めて確認しました。
法的背景:フィリピン刑法における強姦罪の構成要件
フィリピン刑法第335条は、強姦罪を「女性の貞操を侵害する犯罪」と定義し、以下のいずれかの方法で性行為を行った場合に成立すると規定しています。
- 暴力または脅迫を用いる場合
- 意識不明または抵抗不能な状態に乗じる場合
- 12歳未満の女性と性行為を行う場合
本件で問題となったのは、「暴力または脅迫を用いる場合」です。強姦罪の成立には、単に性行為があっただけでなく、行為者が被害者の意に反して性行為を行うために、暴力や脅迫を用いたという事実が立証される必要があります。ここで重要なのは、「同意」の有無です。被害者が自由意思に基づいて性行為に同意した場合、強姦罪は成立しません。しかし、同意が暴行や脅迫によって強制されたものである場合、それは有効な同意とは認められず、強姦罪が成立します。
過去の判例においても、最高裁判所は一貫して、強姦罪における「暴力または脅迫」を広く解釈してきました。物理的な暴力だけでなく、心理的な脅迫も含まれると解釈されており、被害者が抵抗を断念せざるを得ない状況に追い込まれた場合も、強姦罪が成立するとされています。(人民対カビラオ事件、G.R. No. 92713, 1992年6月25日など)
判例分析:人民対コリア事件の審理経過と最高裁判決
事件は、1992年1月4日、結婚式のヴェールスポンサーを務めた被告人コリアと被害者AAAの間で発生しました。検察側の主張によれば、コリアはAAAを自宅近くの祖母の家に連れ込み、そこで暴行を加えて強姦しました。一方、被告人コリアは、AAAは恋人であり、合意の上で性行為を行ったと主張しました。
地方裁判所の判決:地方裁判所は、被害者AAAの証言の信用性を高く評価し、被告人コリアの主張を退け、強姦罪で有罪判決を言い渡しました。裁判所は、AAAが事件直後に病院で診察を受け、外傷が確認されたこと、事件の詳細な状況を供述していることなどを重視しました。
最高裁判所の判決:最高裁判所は、地方裁判所の判決を支持しました。判決理由の中で、最高裁は以下の点を強調しました。
- 被害者証言の信用性:最高裁は、第一審裁判所が証人の信用性を評価する上で優位な立場にあることを認め、AAAの証言は具体的で一貫しており、信用できると判断しました。
- 暴行・脅迫の存在:AAAの証言と医師の診断書から、性行為がAAAの意に反して、暴行と脅迫によって行われたと認定しました。
- 交際関係の有無と同意:被告人コリアが交際関係があったと主張しても、それは強制性交の免罪符にはならないと指摘しました。最高裁は、たとえ恋人関係であっても、女性は性行為に同意する義務はなく、暴行や脅迫を用いた性行為は依然として強姦罪に該当すると判示しました。
判決の中で、最高裁は人民対カビラオ事件(210 SCRA 326)を引用し、「交際関係は、貞操を大切にするすべての貞淑な女性が大切にしているものを探求し、侵略し、彼女の名誉と尊厳を踏みにじる許可を与えるものではない。恋人は、自分の意志に反して性交を強制されることはない。事実、内縁関係の存在の証明でさえ、暴力または脅迫による性交の明確かつ積極的な証拠には勝てない」と述べています。
最高裁は、一審判決を一部修正し、被害者AAAに対する慰謝料を4万ペソから5万ペソに増額しましたが、有罪判決自体は維持しました。
実務への影響と教訓:企業、不動産所有者、個人へのアドバイス
本判例は、性犯罪、特に強姦罪における「同意」の概念について、重要な教訓を示しています。企業、不動産所有者、そして個人は、以下の点を理解し、適切な対策を講じる必要があります。
- 同意の重要性:性行為においては、相手の自由意思に基づく明確な同意が不可欠です。交際関係があるからといって、当然に同意があったとはみなされません。
- ハラスメント防止対策の強化:職場やコミュニティにおける性的なハラスメントを防止するための対策を強化する必要があります。従業員や関係者に対する教育・研修、相談窓口の設置、被害者保護体制の整備などが重要です。
- 性犯罪被害者支援の重要性:性犯罪被害者は、身体的・精神的に深刻なダメージを受けます。被害者を適切に支援するための体制を整備し、偏見や二次被害を防ぐための啓発活動を行う必要があります。
本判例から得られる主な教訓(キーポイント):
- 交際関係は、強姦罪の免罪符にはならない。
- 性行為においては、自由意思に基づく明確な同意が不可欠。
- 同意は、暴行や脅迫によって強制されたものであってはならない。
- 性犯罪被害者の証言は、慎重かつ公正に評価されるべきである。
よくある質問(FAQ)
- Q: 恋人関係があれば、どんな性行為も合意があったとみなされるのですか?
A: いいえ、恋人関係があっても、暴行や脅迫を用いた性行為は強姦罪となります。合意があったとみなされるためには、自由意思に基づく明確な同意が必要です。 - Q: どのような行為が「暴力または脅迫」とみなされるのですか?
A: 物理的な暴力だけでなく、心理的な脅迫も含まれます。例えば、言葉による脅し、性的関係を強要するような態度、職場での地位を利用した圧力なども該当する可能性があります。 - Q: 被害者が抵抗しなかった場合、強姦罪は成立しないのですか?
A: いいえ、被害者が抵抗しなかったからといって、必ずしも合意があったとはみなされません。恐怖やショックで抵抗できなかった場合や、抵抗することが危険な状況であった場合など、抵抗しなかった理由が考慮されます。 - Q: 性犯罪の被害に遭ってしまった場合、どうすれば良いですか?
A: まずは安全な場所に避難し、警察に相談してください。医療機関での診察も重要です。また、信頼できる人に相談し、精神的なケアを受けることも大切です。 - Q: 企業として、性犯罪・ハラスメント対策として何ができるでしょうか?
A: 社内規定の整備、従業員への研修、相談窓口の設置、被害者保護体制の構築などが考えられます。定期的な見直しと改善も重要です。
ASG Lawは、フィリピン法における性犯罪、ハラスメント問題に関する豊富な経験と専門知識を有しています。もし、本判例に関するご質問や、性犯罪・ハラスメント対策についてお悩み事がございましたら、お気軽にご相談ください。私たちは、皆様の法的課題解決を全力でサポートいたします。