第三者の防衛は容易ではない:違法な攻撃の厳格な解釈
G.R. No. 120853, 1997年3月13日
はじめに
フィリピンでは、他者を守るために行った行為が犯罪とみなされない場合があります。しかし、その「第三者の防衛」が認められるためには、厳しい要件を満たす必要があります。もし、あなたが誰かを助けようとして、逆に法的責任を問われることになったらどうでしょうか?今回の最高裁判所の判例は、第三者の防衛が認められるための境界線を明確にし、安易な行動が思わぬ結果を招く可能性を示唆しています。本稿では、Pat. Rudy Almeda v. Court of Appeals and People of the Philippines事件を詳細に分析し、第三者の防衛の成立要件、特に「違法な攻撃」の解釈について深く掘り下げて解説します。
事件の概要
事件は、1988年11月29日、フィリピン、スリガオ・デル・スル州タンダッグの飲食店で発生しました。ルーディ・アルメダは、副知事の護衛官として勤務していました。飲食店内で、アルメダは警官レオ・ピラピル・サラバオを射殺したとして殺人罪で起訴されました。アルメダは、サラバオが副知事に危害を加えようとしたため、第三者の防衛として行動したと主張しました。しかし、一審、控訴審ともにアルメダの主張は認められず、 homicide(殺人罪より軽い罪)で有罪判決を受けました。最高裁判所も、控訴審の判決を支持し、アルメダの上訴を棄却しました。
法的背景:第三者の防衛とは
フィリピン刑法第11条第3項は、正当防衛、自己防衛、そして第三者の防衛を規定しています。第三者の防衛が認められるためには、以下の3つの要件がすべて満たされなければなりません。
「3. 他人の人または権利を擁護する者は、第1項に規定する第1および第2の要件が存在し、かつ、擁護する者が復讐、憤慨、その他の悪意によって動機付けられていない場合に限る。」
具体的には、
- 違法な攻撃:防衛されるべき第三者が違法な攻撃を受けていること。
- 防衛手段の合理的な必要性:違法な攻撃を防ぐ、または撃退するために用いた手段が合理的であること。
- 防衛者の動機:防衛者が復讐、憤慨、その他の悪意によって動機付けられていないこと。
今回の事件で特に争点となったのは、最初の要件である「違法な攻撃」の有無でした。「違法な攻撃」とは、単なる脅迫や威嚇ではなく、現に差し迫った生命または身体への危険を意味します。最高裁判所は、過去の判例を引用し、違法な攻撃は「現実的で、突発的で、予期せぬ攻撃、または人の生命や四肢に対する差し迫った危険を前提とする」と解釈しています。
重要なのは、攻撃が「違法」でなければならない点です。例えば、正当な逮捕や合法的な自己防衛行為は「違法な攻撃」には該当しません。また、言葉による挑発や侮辱も、それ自体は「違法な攻撃」とはみなされません。しかし、言葉による挑発がエスカレートし、物理的な攻撃に発展する可能性が現実的に差し迫っていると判断される場合は、違法な攻撃が認められる余地があります。
判決内容の詳細:最高裁判所の判断
最高裁判所は、控訴審の事実認定を尊重し、事件の状況を詳細に検討しました。控訴審が認定した事実は以下の通りです。
- 事件当日、被害者サラバオ警官は、友人と飲食店を訪れていた。
- 副知事とその仲間(アルメダを含む)も店内で飲酒していた。
- サラバオ警官と副知事の仲間の一人であるアモラとの間で、敬礼をめぐる口論が発生した。
- その後、サラバオ警官と副知事、そしてアルメダが同席することになった。
- 副知事と別の人物(ヘレラ)の間で口論が再燃した。
- 副知事が立ち上がった際、アルメダはサラバオ警官が持っていたライフル銃を掴んで押し下げ、同時に拳銃を取り出してサラバオ警官を射殺した。
最高裁判所は、サラバオ警官がライフル銃を構えた行為はあったものの、それが特定の人物を狙ったものではなく、副知事や他の人々の生命に差し迫った危険があったとは認められないと判断しました。
「被害者(サラバオ警官)がM-14ライフル銃をコッキングした行為は、特定の標的に銃を向けることなく、副知事、ヘレラ、あるいはアモラの生命が差し迫った危険にさらされていたと結論付けるには不十分である。」
さらに、たとえサラバオ警官の行為が差し迫った危険をもたらしていたとしても、アルメダはすでにライフル銃を制御下に置き、危険を中和していたと指摘しました。その上で、サラバオ警官を射殺する必要性は認められないと結論付けました。
「さらに、被害者のそのような行為が差し迫った危険をもたらしていたと仮定しても、請願者は電光石火の速さで、被害者のライフル銃を保持して下向きに指し、同時に被害者の頭に45口径銃を突きつけたときに、そのような危険を阻止し、中和することができた。」
また、最高裁判所は、被害者の傷の数、部位、そして重さを考慮し、アルメダの行為は第三者の防衛ではなく、殺意の表れであると判断しました。被害者は頭部、肺、心臓、胸部、首など、体の重要な部位を複数回撃たれており、これは単なる防衛行為とは言えません。
結果として、最高裁判所は、第一審および控訴審の判決を支持し、アルメダの第三者の防衛の主張を認めず、homicide(殺人罪より軽い罪)での有罪判決を確定させました。また、アルメダが自首した、または挑発があったという情状酌量の主張も退けられました。
実務上の教訓:第三者の防衛を主張する際の注意点
この判例から、第三者の防衛が認められるためには、非常に厳しいハードルがあることがわかります。特に、「違法な攻撃」の要件は厳格に解釈され、単なる危険の可能性や脅威だけでは不十分です。第三者の防衛を主張する際には、以下の点に特に注意する必要があります。
- 違法な攻撃の明白な証拠:防衛されるべき第三者が、現に違法な攻撃を受けている、または差し迫った危険にさらされていることを明確に証明する必要があります。単なる推測や憶測では認められません。
- 防衛手段の相当性:用いた防衛手段は、違法な攻撃を阻止するために合理的に必要であったと認められる必要があります。過剰な防衛行為は、正当防衛として認められません。
- 動機の純粋性:防衛行為が、復讐や個人的な恨みなど、不純な動機に基づくものではないことを示す必要があります。
今回の判例は、善意による行動であっても、法的責任を免れるとは限らないことを示唆しています。特に、第三者の防衛を主張する場合には、客観的な状況証拠に基づき、慎重な判断と行動が求められます。
重要なポイント
- 第三者の防衛は、フィリピン刑法で認められた正当化事由の一つ。
- 成立要件として、「違法な攻撃」、「防衛手段の合理的な必要性」、「動機の純粋性」の3つが存在する。
- 「違法な攻撃」は、現に差し迫った生命または身体への危険を意味し、単なる脅迫や威嚇では不十分。
- 防衛者は、違法な攻撃の存在、防衛手段の相当性、そして自身の動機の純粋性を立証する責任を負う。
- 今回の判例は、第三者の防衛の要件、特に「違法な攻撃」の解釈を厳格に適用した事例であり、安易な第三者の防衛の主張を認めない姿勢を示している。
よくある質問(FAQ)
- Q: 第三者の防衛が認められるのは、どのような場合ですか?
A: 第三者の防衛が認められるのは、第三者が違法な攻撃を受けており、それを防ぐために合理的な手段を用いた場合です。ただし、防衛者は復讐心など、不純な動機で行動してはなりません。 - Q: 「違法な攻撃」とは具体的にどのような行為を指しますか?
A: 「違法な攻撃」とは、人の生命や身体に対する、現に差し迫った違法な侵害行為を指します。単なる口論や脅迫だけでは「違法な攻撃」とは言えません。物理的な攻撃が開始されたか、またはまさに開始されようとしている状況が必要です。 - Q: 他人を助ける際に、どこまでが許される防衛行為ですか?
A: 防衛行為として許される範囲は、違法な攻撃を阻止するために合理的に必要な範囲に限られます。過剰な防衛行為は、違法となる可能性があります。状況に応じて、逃げる、警察に通報する、などの手段も検討すべきです。 - Q: 今回の判例から、私たちは何を学ぶべきですか?
A: 今回の判例から、第三者の防衛は安易に認められるものではなく、非常に厳しい要件を満たす必要があることを学ぶべきです。特に「違法な攻撃」の解釈は厳格であり、客観的な証拠に基づいて慎重に行動する必要があります。 - Q: もし、第三者の防衛が認められなかった場合、どのような罪に問われますか?
A: 第三者の防衛が認められない場合、行為の内容に応じて、殺人罪、傷害罪などの罪に問われる可能性があります。今回の事件では、homicide(殺人罪より軽い罪)で有罪判決が確定しました。
第三者の防衛は複雑な法的問題であり、状況に応じた専門的な判断が必要です。ご不明な点やご不安なことがございましたら、ASG Lawにご相談ください。当事務所は、刑事事件に精通した弁護士が、お客様の状況を丁寧にヒアリングし、最適な法的アドバイスを提供いたします。
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