本判決は、船員の障害給付に関する重要な先例となります。最高裁判所は、会社指定医と船員が選任した医師の意見が異なる場合、POEA-SEC(フィリピン海外雇用庁の標準雇用契約)に基づき、第三者の医師による評価を受ける必要があると判示しました。この手続きを怠った場合、船員の障害給付請求は却下される可能性があります。本判決は、船員が障害給付を請求する際の適切な手続きを明確にし、雇用主と船員の間の紛争解決メカニズムの重要性を強調しています。
第三者評価の重要性:船員の障害給付請求における医師の意見対立
本件は、船員のジョン・フレデリック・T・ティキオ(以下「ティキオ」)が、甲状腺機能亢進症に罹患し、その障害給付を求めた訴訟です。ティキオは、キャリア・フィリピン・シップマネジメント株式会社(以下「キャリア社」)を通じてCMAシップスUKリミテッドに雇用され、船員として勤務していました。航海中に体調を崩し、甲状腺機能亢進症と診断され、本国に送還されました。会社指定医は、ティキオの病気は業務に起因するものではないと診断しましたが、ティキオが選任した医師は、業務に関連する可能性があると診断しました。この医師の意見の相違が、本件の争点となりました。
本件の核心は、POEA-SECに定められた紛争解決手続きの遵守です。POEA-SECは、船員が業務に関連する傷病を負った場合、その補償と給付に関する手続きを定めています。具体的には、会社指定医の評価に船員が選任した医師が同意しない場合、雇用主と船員が共同で第三者の医師を選任し、その評価を最終的なものとする必要があります。この手続きは、紛争解決のメカニズムとして、当事者間の意見の相違を公平に解決するために設けられています。
最高裁判所は、ティキオがこの第三者評価の手続きを怠ったことを重視しました。ティキオは、会社指定医の診断に不満を持ちながらも、直ちに訴訟を提起しました。最高裁判所は、この行為がPOEA-SECに違反すると判断し、ティキオの障害給付請求を認めませんでした。最高裁判所は、POEA-SECの紛争解決手続きは、単なる形式的なものではなく、当事者を拘束する重要な義務であると強調しました。最高裁判所は、過去の判例であるGargallo v. Dohle Seafront Crewing (Manila), Inc.を引用し、船員がPOEA-SECに基づく紛争解決手続きを遵守しなかった場合、会社指定医の診断が最終的なものとなると判示しました。
最高裁判所は、本件において、会社指定医がティキオの病気は業務に起因するものではないと明確に診断している点を指摘しました。さらに、ティキオが会社指定医の診断を覆すための十分な証拠を提出していない点も重視しました。最高裁判所は、ティキオが選任した医師の診断は、専門的な根拠に乏しく、また、ティキオの病気の原因となり得る他の要因(遺伝的要因や生活習慣など)を考慮していないと判断しました。また、最高裁判所は、POEA-SEC第32-A条に定める補償要件をティキオが満たしていないことを指摘しました。同条は、業務に起因する疾病として補償されるためには、①船員の業務が所定のリスクを伴うものであること、②疾病がリスクへの暴露の結果として発症したこと、③疾病が暴露期間内に発症したこと、④船員に著しい過失がないこと、という4つの要件を満たす必要があると規定しています。
本判決は、船員の障害給付請求における立証責任の所在を明確にしました。最高裁判所は、船員は、自身の病気が業務に関連するものであることを立証する責任を負うと判示しました。会社指定医の診断を覆すためには、医学的な根拠に基づいた客観的な証拠を提出する必要があります。また、POEA-SECに定められた紛争解決手続きを遵守することも重要な義務となります。本判決は、船員が障害給付を請求する際には、専門家(医師や弁護士)の助言を受け、適切な手続きを踏むことの重要性を強調しています。
FAQs
この訴訟の主な争点は何でしたか? | この訴訟の主な争点は、船員が甲状腺機能亢進症に罹患した場合、その障害給付が認められるかどうかでした。特に、会社指定医と船員が選任した医師の意見が異なる場合に、POEA-SECに定められた紛争解決手続きを遵守する必要があるかどうかが争われました。 |
POEA-SECとは何ですか? | POEA-SECは、フィリピン海外雇用庁が定める標準雇用契約であり、海外で働くフィリピン人船員の労働条件や権利を保護するために設けられています。この契約には、障害給付に関する規定や、紛争解決のための手続きが定められています。 |
第三者評価とは何ですか? | 第三者評価とは、会社指定医と船員が選任した医師の意見が異なる場合に、雇用主と船員が共同で選任した第三者の医師による評価を受ける手続きです。この第三者の医師の評価は、最終的なものとして、当事者を拘束します。 |
なぜ第三者評価が重要なのですか? | 第三者評価は、当事者間の意見の相違を公平に解決するために設けられた手続きです。この手続きを遵守することで、一方的な判断を避け、客観的な医学的根拠に基づいた判断が可能となります。 |
本判決は、船員にどのような影響を与えますか? | 本判決は、船員が障害給付を請求する際には、POEA-SECに定められた紛争解決手続きを遵守する必要があることを明確にしました。これにより、船員は、会社指定医の診断に不満がある場合でも、直ちに訴訟を提起するのではなく、まずは第三者評価を受ける必要があります。 |
会社指定医とは誰ですか? | 会社指定医とは、船員を雇用する会社が指定する医師であり、船員の健康状態の評価や治療を担当します。通常、船員は、入社時や健康上の問題が発生した場合に、会社指定医の診察を受けることになります。 |
船員は、会社指定医の診断に不満がある場合、どうすればよいですか? | 船員は、会社指定医の診断に不満がある場合、自身で医師を選任し、その診断を受けることができます。ただし、その診断結果が会社指定医の診断と異なる場合、POEA-SECに定められた手続きに従い、第三者評価を受ける必要があります。 |
本判決は、雇用主にどのような影響を与えますか? | 本判決は、雇用主に対して、POEA-SECに定められた紛争解決手続きを遵守する義務があることを明確にしました。これにより、雇用主は、船員からの障害給付請求があった場合、会社指定医の診断だけでなく、船員が選任した医師の意見も考慮し、必要に応じて第三者評価を行う必要があります。 |
補償要件とは何ですか? | 補償要件とは、業務に起因する疾病として補償されるために満たす必要のある条件のことです。POEA-SEC第32-A条は、①船員の業務が所定のリスクを伴うものであること、②疾病がリスクへの暴露の結果として発症したこと、③疾病が暴露期間内に発症したこと、④船員に著しい過失がないこと、という4つの要件を定めています。 |
本判決は、船員の権利保護と雇用主の責任のバランスを考慮したものであり、POEA-SECの適切な運用を促すものと考えられます。船員と雇用主は、本判決の趣旨を理解し、紛争を未然に防ぐための努力をすることが重要です。
本判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、お問い合わせまたはfrontdesk@asglawpartners.comまでASG Lawにご連絡ください。
免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的指導については、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:CAREER PHILS. SHIPMANAGEMENT, INC. VS. JOHN FREDERICK T. TIQUIO, G.R No. 241857, 2019年6月17日