カテゴリー: 外国人投資法

  • 外国人銀行によるフィリピン不動産競売参加の制限:最高裁判所の判決

    外国人銀行はフィリピンの不動産競売に参加できません:重要な教訓

    4E STEEL BUILDERS CORPORATION AND SPOUSES FILOMENO G. ECRAELA & VIRGINIA ECRAELA, PETITIONERS, VS. MAYBANK PHILIPPINES, INC., AND THE SHERIFF OF THE CITY OF CALOOCAN, RESPONDENTS. [G.R. No. 230013, March 13, 2023 ]

    導入

    外国企業がフィリピンで事業を行う場合、遵守すべき特定の制限があります。これらの制限を理解することは、法的紛争を回避するために不可欠です。最近の最高裁判所の判決は、外国人銀行がフィリピンの不動産競売に参加できないことを明確にしています。この判決は、外国人銀行がフィリピンで事業を行う方法に大きな影響を与える可能性があります。

    この訴訟では、4E Steel Builders CorporationとSpouses Filomeno and Virginia Ecraelaが、Maybank Philippines, Inc.による不動産競売の有効性に異議を唱えました。主な法的問題は、外国人銀行であるMaybankが、フィリピンの法律に基づいて競売に参加し、不動産を取得する権限を有するかどうかでした。

    法的背景

    フィリピンの憲法は、土地の所有権をフィリピン国民または少なくとも60%がフィリピン人によって所有されている企業に制限しています。この制限は、フィリピンの土地が外国人の支配下に置かれることを防ぐことを目的としています。

    共和国法第133号(RA 133)およびその修正版である共和国法第4882号(RA 4882)は、外国人銀行がフィリピンの不動産競売に参加する資格を得るための特定の条件を規定しています。これらの法律は、外国人銀行が担保権の実行を目的として不動産を所有することを許可していますが、競売に参加して不動産を取得することを制限しています。

    重要な条項は次のとおりです。

    SECTION 1. Any provision of law to the contrary notwithstanding, private real property may be mortgaged in favor of any individual, corporation, or association, but the mortgage or his successor in interest, if disqualified to acquire or hold lands of the public domain in the Philippines, shall not take possession of the mortgaged property during the existence of the mortgage and shall not take possession of mortgaged property except after default and for the sole purpose of foreclosure, receivership, enforcement or other proceedings and in no case for a period of more than five years from actual possession and shall not bid or take part in any sale of such real property in case of foreclosure: Provided, That said mortgagee or successor in interest may take possession of said property after default in accordance with the prescribed judicial procedures for foreclosure and receivership and in no case exceeding five years from actual possession.

    この条項は、外国人銀行が担保権の実行のために不動産を所有することを許可していますが、競売に参加して不動産を取得することを明確に禁止しています。

    訴訟の詳細

    4E Steel Builders Corporationは、Maybankから信用枠を取得しました。この信用枠を担保するために、Spouses Ecraelaは5つの土地を抵当に入れました。4E Steelが債務不履行に陥ったため、Maybankは抵当不動産の競売を開始しました。Maybankが最高入札者として競売に参加し、不動産を取得しました。

    4E SteelとSpouses Ecraelaは、Maybankが外国人銀行であるため、競売に参加する資格がないと主張し、競売の有効性に異議を唱えました。この訴訟は、地方裁判所(RTC)から控訴裁判所(CA)を経て、最終的に最高裁判所(SC)に上訴されました。

    訴訟の経過は次のとおりです。

    • 2003年、4E Steelは地方裁判所(RTC)に訴訟を提起し、支払いの再適用と会計処理を求めました。
    • Maybankは、抵当不動産の司法外競売を申請しました。
    • 4E Steelは訴状を修正し、競売の無効を宣言し、予備的差止命令を求めました。
    • RTCは4E Steelの予備的差止命令の申請を却下し、競売が実施されました。Maybankが最高入札者として落札しました。
    • 4E Steelは追加の訴状を提出し、Maybankが外国人によって所有および管理されているため、フィリピンの土地を取得する資格がないと主張しました。
    • RTCは4E Steelの訴状を却下しました。
    • 4E Steelは控訴裁判所(CA)に上訴しました。
    • CAは一部を認め、競売を無効とし、独立した会計士による未払い債務の算定を命じました。
    • Maybankと4E Steelの両方が最高裁判所に上訴しました。

    最高裁判所は、控訴裁判所の判決を支持し、Maybankが外国人銀行であるため、競売に参加する資格がないと判断しました。裁判所は、競売が実施された時点での適用法はRA 4882であり、外国人銀行が競売に参加することを禁止していると強調しました。

    裁判所の判決からの重要な引用を以下に示します。

    「外国人銀行として、Maybankはフィリピンの銀行システムで事業を行う権限を与えられており、フィリピンの銀行と同じ権利と特権を有しています。」

    「外国人銀行は、RA No. 10641に基づいて抵当不動産を競売にかけ、取得することができますが、以下の制限があります。(a)占有は5年間に制限されます。(b)不動産の所有権は外国人銀行に移転されません。(c)外国人銀行は、5年以内にその権利を資格のあるフィリピン国民に移転する必要があります。」

    実用的な意味合い

    この判決は、フィリピンで事業を行う外国人銀行にとって重要な意味を持ちます。外国人銀行は、担保権の実行を目的として不動産を所有することを許可されていますが、競売に参加して不動産を取得することはできません。この制限を遵守しない場合、競売が無効になる可能性があります。

    この判決は、外国人投資家がフィリピンで不動産を取得する際に注意を払う必要性を強調しています。外国人投資家は、フィリピンの法律を理解し、不動産取引を行う前に法律専門家のアドバイスを求める必要があります。

    重要な教訓

    • 外国人銀行は、フィリピンの法律に基づいて不動産競売に参加する資格がありません。
    • 外国人投資家は、フィリピンで不動産を取得する際に注意を払う必要があります。
    • 不動産取引を行う前に、法律専門家のアドバイスを求めることが不可欠です。

    よくある質問

    Q:外国人銀行はフィリピンで不動産を所有できますか?

    A:外国人銀行は、担保権の実行を目的として不動産を所有することを許可されていますが、競売に参加して不動産を取得することはできません。

    Q:外国人銀行がフィリピンの不動産競売に参加した場合、どうなりますか?

    A:外国人銀行が競売に参加した場合、競売は無効になる可能性があります。

    Q:外国人投資家がフィリピンで不動産を取得する際に注意すべきことは何ですか?

    A:外国人投資家は、フィリピンの法律を理解し、不動産取引を行う前に法律専門家のアドバイスを求める必要があります。

    Q:RA 4882は外国人銀行の不動産競売参加にどのように影響しますか?

    A:RA 4882は、外国人銀行が担保権の実行のために不動産を所有することを許可していますが、競売に参加して不動産を取得することを明確に禁止しています。

    Q:RA 10641は外国人銀行の不動産競売参加にどのように影響しますか?

    A:RA 10641は、外国人銀行が抵当不動産を競売にかけ、取得することを許可していますが、特定の制限があります。占有は5年間に制限され、不動産の所有権は外国人銀行に移転されず、外国人銀行は5年以内にその権利を資格のあるフィリピン国民に移転する必要があります。

    ASG Lawでは、お客様のビジネスがフィリピンの複雑な法律を遵守できるよう支援することに尽力しています。不動産取引、銀行規制、外国人投資に関するご質問は、お問い合わせ またはメール konnichiwa@asglawpartners.com までご連絡ください。ご相談のご予約をお待ちしております。

  • フィリピンの公共事業における外国人資本規制:議決権株式の重要性

    外国人資本規制の核心:議決権株式とは何か?

    G.R. No. 176579, June 28, 2011

    フィリピンの経済発展において、外国人投資は重要な役割を果たしています。しかし、公共事業のような特定の分野では、国家の主権と国民の利益を守るため、外国人資本の比率が憲法によって厳しく制限されています。この制限の解釈をめぐり、長年にわたり議論が続いてきました。特に、「資本」という言葉が何を指すのか、その定義は曖昧でした。この曖昧さを解消し、明確な基準を示したのが、今回取り上げる最高裁判所の画期的な判決、ガンボア対テベス事件です。この判決は、公共事業における外国人資本規制の解釈に終止符を打ち、今後の投資環境に大きな影響を与えることになりました。企業、特に公共事業に関わる企業にとって、この判決の理解は不可欠です。なぜなら、事業の合法性、ひいては存続に関わる重大な問題だからです。本稿では、この重要な判決を詳細に分析し、その法的意義と実務上の影響を解説します。

    憲法が定める外国人資本規制:条文と背景

    フィリピン憲法第12条第11項は、公共事業における外国人資本の参入を制限する条項です。具体的には、「公共事業の運営に関するフランチャイズ、証明書、またはその他の形式の許可は、フィリピン市民、またはフィリピンの法律に基づいて設立された法人もしくは団体であって、その資本の60パーセント以上がそのような市民によって所有されているもの以外には付与されない」と規定しています。

    この規定の目的は、公共事業という国民生活に不可欠なインフラを、外国人による支配から守り、フィリピン国民が主体的に経済をコントロールできるようにすることにあります。1935年憲法から一貫して受け継がれてきたこの精神は、フィリピンの経済ナショナリズムの根幹をなすものです。しかし、条文で用いられている「資本」という用語の定義は曖昧で、長年の間、解釈が分かれていました。この「資本」の定義こそが、本件の最大の争点となりました。

    「資本」とは何か?:2つの解釈と対立

    憲法が定める「資本」の定義をめぐっては、大きく分けて2つの解釈が存在しました。一つは、総資本、つまり発行済株式総数を指すという解釈です。この解釈によれば、議決権の有無にかかわらず、すべての株式が「資本」に含まれるため、外国人所有の割合は、発行済株式総数に基づいて計算されることになります。もう一つは、議決権株式、つまり会社の経営支配権を左右する議決権のある株式のみを指すという解釈です。この解釈によれば、外国人所有の割合は、議決権株式に基づいて計算されることになります。

    この2つの解釈の対立は、企業の外国人資本比率の計算方法に大きな違いをもたらします。例えば、議決権のない優先株式を多く発行している企業の場合、総資本解釈を採用すれば、外国人資本比率が低く抑えられ、規制をクリアしやすくなります。一方、議決権株式解釈を採用すれば、議決権のある株式の外国人所有割合が重視されるため、規制に抵触する可能性が高まります。ガンボア対テベス事件は、この長年の論争に決着をつける、重要な判決となりました。

    事件の経緯:PTIC株の売却と憲法違反の疑義

    事件の舞台となったのは、フィリピン最大の通信事業者であるフィリピン長期距離電話会社(PLDT)です。事の発端は、フィリピン政府が保有していたフィリピン通信投資公社(PTIC)の株式を売却しようとしたことにあります。PTICはPLDTの株式を保有しており、その売却はPLDTの外国人資本比率に影響を与える可能性がありました。原告のガンボア氏は、PLDTの株主であり、このPTIC株の売却によってPLDTの外国人資本比率が憲法で定められた40%を超過するとして、訴訟を提起しました。

    訴訟の過程で、政府側はPTIC株の売却は憲法に違反しないと主張しました。その根拠として、総資本解釈を採用し、PLDTの総資本に占める外国人資本の割合は40%以下であると主張しました。一方、ガンボア氏は議決権株式解釈を主張し、PLDTの議決権株式に占める外国人資本の割合は40%を超過していると反論しました。地方裁判所は政府側の主張を認めましたが、ガンボア氏はこれを不服として最高裁判所に上告しました。

    最高裁判所は、この事件を憲法解釈に関わる重要な案件と位置づけ、大法廷で審理することにしました。審理では、「資本」の定義、憲法制定時の意図、関連法規、過去の判例などが詳細に検討されました。そして、ついに、フィリピンの外国人資本規制の歴史を大きく変える判決が下されたのです。

    最高裁判所の判断:議決権株式こそが「資本」

    最高裁判所は、判決の中で、憲法第12条第11項の「資本」とは、議決権株式、すなわち取締役の選任議決権のある株式のみを指すと明確に判断しました。判決は、その理由として、以下の点を指摘しました。

    • 憲法制定時の意図: 憲法制定会議の議事録を詳細に分析した結果、「資本」とは、企業の支配権、すなわち経営へのコントロールを意味する議決権を伴う株式を指すという意図が明確に示されている。
    • 企業統治の原則: 企業の支配権は、取締役の選任を通じて行使される。取締役を選任できるのは、議決権株式を持つ株主のみである。したがって、企業の支配権を外国人から守るためには、議決権株式の外国人所有割合を制限する必要がある。
    • 外国人投資法の定義: 外国人投資法も、「フィリピン国民」の定義において、「議決権のある発行済株式資本の少なくとも60%をフィリピン国民が所有し、保有している法人」と規定しており、議決権株式を重視する立場を明確にしている。

    判決は、これらの理由から、総資本解釈は憲法の意図に反し、議決権株式解釈こそが正当であると結論付けました。そして、PLDTの議決権株式の外国人所有割合が40%を超過している可能性が高いことを指摘し、証券取引委員会(SEC)に対し、憲法の定義に基づいてPLDTの外国人資本比率を再計算し、違反が認められる場合は適切な制裁措置を講じるよう命じました。

    最高裁判所は判決の中で、次のように述べています。「憲法第12条第11項の『資本』という用語は、取締役の選任議決権のある株式のみを指し、したがって本件では普通株式のみを指し、発行済株式総数(普通株式と無議決権優先株式の合計)を指さないと判示する。」

    判決の実務的影響:企業が取るべき対応

    ガンボア対テベス事件判決は、フィリピンの公共事業における外国人資本規制の解釈を大きく変えるものであり、企業、特に公共事業に関わる企業は、この判決を十分に理解し、適切な対応を取る必要があります。具体的には、以下の点に注意する必要があります。

    • 資本構成の見直し: 自社の資本構成、特に議決権株式の外国人所有割合を再確認し、憲法および関連法規に適合しているか検証する必要があります。
    • SECへの報告義務: SECは、判決に基づき、公共事業企業の外国人資本比率の監督を強化する可能性があります。SECへの報告義務や情報開示要求に適切に対応できるよう、準備しておく必要があります。
    • コンプライアンス体制の強化: 外国人資本規制に関するコンプライアンス体制を強化し、違反リスクを未然に防ぐことが重要です。法務部門や専門家と連携し、適切な体制構築を進める必要があります。

    主要な教訓

    1. 「資本」の定義は議決権株式: フィリピン憲法における公共事業の外国人資本規制において、「資本」とは議決権株式を指す。発行済株式総数ではない。
    2. 支配権の維持が目的: この規制の目的は、公共事業の支配権をフィリピン国民が維持することにある。議決権を通じて経営をコントロールできるかが重要となる。
    3. SECの監視強化: SECは今後、議決権株式ベースでの外国人資本比率を厳しく監視する可能性が高い。企業はコンプライアンス体制を強化する必要がある。
    4. 実務への影響大: この判決は、公共事業への投資戦略、資本構成、M&Aなどに大きな影響を与える。企業は法的専門家と相談し、適切に対応すべきである。

    よくある質問 (FAQ)

    1. 質問1: なぜ今、この判決が重要なのでしょうか?

      回答: この判決は、長年曖昧だった「資本」の定義を明確にし、外国人資本規制の運用基準を確立しました。これにより、今後の公共事業への投資、M&A、企業経営に大きな影響を与えるため、企業にとって非常に重要です。

    2. 質問2: 議決権のない優先株式は発行しても問題ないですか?

      回答: 議決権のない優先株式は、議決権株式の外国人所有割合の計算には影響しません。しかし、総資本には含まれるため、企業の資本構成全体を考慮した上で発行戦略を検討する必要があります。

    3. 質問3: この判決はPLDT以外の企業にも適用されますか?

      回答: はい、この判決は、すべての公共事業企業に適用されます。電気通信事業だけでなく、電力、水道、交通など、公共性の高い事業を行う企業は、この判決を遵守する必要があります。

    4. 質問4: 外国人資本比率の計算方法がよくわかりません。

      回答: 議決権株式の外国人所有割合を計算する必要があります。具体的には、普通株式の発行済株式数のうち、外国人が所有する株式数の割合を算出します。詳細な計算方法やご不明な点については、法務専門家にご相談ください。

    5. 質問5: 今後、フィリピンの公共事業への投資は難しくなりますか?

      回答: 投資が不可能になるわけではありません。しかし、議決権株式ベースでの外国人資本規制が明確になったことで、より慎重な投資計画と資本構成戦略が求められるようになります。法規制を遵守し、適切な事業計画を立てれば、投資機会は依然として存在します。

    ASG Lawは、フィリピン法務、特に外国人投資規制に関する豊富な経験と専門知識を有しています。本判決に関するご相談、またはフィリピンでの事業展開における法務アドバイスが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。

    お問い合わせは、konnichiwa@asglawpartners.com または お問い合わせページ から。

  • 外国人からフィリピン国民への土地譲渡:憲法上の制限と有効性 – ハリリ対控訴裁判所事件の解説

    外国人からフィリピン国民への土地譲渡は有効:遡及的に憲法上の瑕疵が治癒される最高裁判決

    [G.R. No. 113539, March 12, 1998] CELSO R. HALILI AND ARTHUR R. HALILI, PETITIONERS, VS. COURT OF APPEALS, HELEN MEYERS GUZMAN, DAVID REY GUZMAN AND EMILIANO CATANIAG, RESPONDENTS.

    はじめに

    フィリピンでは、憲法により外国人の土地所有が制限されています。しかし、違憲な外国人への土地譲渡が行われた後、その土地がフィリピン国民に再譲渡された場合、最初の譲渡の違憲性はどのように扱われるのでしょうか?この問題は、不動産取引の現場で頻繁に発生し、多くの関係者に影響を与える可能性があります。本稿では、最高裁判所がこの問題に明確な答えを示した重要な判例、ハリリ対控訴裁判所事件(G.R. No. 113539, 1998年3月12日)を詳細に解説します。

    この判例は、違憲な外国人への土地譲渡後のフィリピン国民への再譲渡が、最初の取引の瑕疵を遡及的に治癒し、最終的な所有権を有効にするという重要な原則を確立しました。この原則を理解することは、不動産取引に関わるすべての人々にとって不可欠です。特に、外国人との不動産取引を検討している場合、または過去に外国人から土地を取得した経験がある場合、この判例の知識は、将来のリスクを軽減し、法的安定性を確保するために非常に重要となります。

    法的背景:外国人による土地所有の制限と憲法

    フィリピン憲法第12条第7項は、「世襲相続の場合を除き、私有地は、公有地を取得または保有する資格のある個人、法人、または団体以外には譲渡または移転されないものとする」と規定しています。これは、フィリピンの国家主権と資源保護の観点から、外国人による土地所有を制限する重要な規定です。この規定の目的は、フィリピンの土地がフィリピン国民の手にあるように保つことにあります。

    最高裁判所は、クリベンコ対登記官事件(Krivenko vs. Register of Deeds, 79 Phil 461)において、この憲法規定を詳細に解釈し、外国人による私有地の取得は、世襲相続の場合を除き、原則として違憲であると判示しました。クリベンコ判決は、フィリピンにおける外国人土地所有に関する基本的な判例として、今日に至るまで重要な法的根拠となっています。

    憲法上の制限は、私有地だけでなく、公有地にも適用されます。公有地の処分、開発、利用への参加は、フィリピン国民またはフィリピン資本が60%以上を所有する法人に限定されています。外国人個人や外国法人は、公有地を取得する資格がないため、私有地についても同様に取得が制限されると解釈されています。

    ただし、最高裁判所は、違憲な外国人への土地譲渡であっても、その後の状況変化によって瑕疵が治癒される場合があることを認めています。その代表的な例が、本稿で解説するハリリ対控訴裁判所事件で示された、フィリピン国民への再譲渡による瑕疵治癒の原則です。

    事件の経緯:ハリリ対控訴裁判所事件

    ハリリ対控訴裁判所事件は、外国人からフィリピン国民への土地譲渡の有効性が争われた事例です。事件の経緯は以下の通りです。

    1. 1968年、アメリカ市民であるシメオン・デ・グスマンがフィリピン国内の不動産を残して死亡。
    2. 相続人は、同じくアメリカ市民である妻ヘレン・マイヤーズ・グスマンと息子デイビッド・レイ・グスマン。
    3. 1989年、ヘレンは、相続した6区画の土地に対する権利を息子デイビッドに放棄する権利放棄証書を作成。
    4. 問題となった土地は、ブラカン州サンタマリアの6,695平方メートルの土地(登記簿謄本番号T-170514)。
    5. 権利放棄証書が登記され、デイビッド名義で新たな登記簿謄本(TCT No. T-120259)が発行。
    6. 1991年、デイビッドは問題の土地をフィリピン国民であるエミリアーノ・カターニャグに売却。
    7. カターニャグ名義で新たな登記簿謄本(TCT No. T-130721(M))が発行。
    8. 隣接地の所有者であるハリリ兄弟は、ヘレンからデイビッドへの譲渡と、デイビッドからカターニャグへの譲渡の憲法上の有効性を争い、民法1621条に基づく隣接地の所有者の買戻権を主張して訴訟を提起。
    9. 地方裁判所は、土地が都市部にあると判断し、買戻権を否定し、原告の訴えを棄却。
    10. 控訴裁判所も地方裁判所の判決を支持し、原告の控訴を棄却。
    11. ハリリ兄弟は、最高裁判所に上訴。

    最高裁判所の判断:外国人譲渡の瑕疵治癒とフィリピン国民への譲渡

    最高裁判所は、控訴裁判所の判決を支持し、ハリリ兄弟の上訴を棄却しました。最高裁判所は、主に以下の2つの理由から、原告の主張を退けました。

    1. 土地の性質:都市部
      最高裁判所は、問題の土地が都市部にあるという下級審の事実認定を尊重しました。民法1621条の隣接地の買戻権は、農村部の土地に限定されるため、都市部の土地には適用されません。裁判所は、現地の状況調査に基づき、土地周辺が商業・工業地帯として発展している事実を重視しました。
    2. 外国人譲渡の瑕疵治癒:フィリピン国民への譲渡
      最高裁判所は、ヘレンからデイビッドへの譲渡が憲法に違反する可能性を認めつつも、その後のデイビッドからフィリピン国民カターニャグへの譲渡によって、最初の違憲譲渡の瑕疵が治癒されたと判断しました。裁判所は、「土地が違法に外国人に譲渡された後、その外国人が市民権を取得するか、または市民に譲渡した場合、最初の取引の瑕疵は治癒されたとみなされ、譲受人の権利は有効になる」という既存の判例法理を適用しました。

    最高裁判所は、判決の中で、以下の重要な判決理由を引用しています。

    「…もし、クリベンコ事件でこの裁判所が解釈したように、農業地だけでなく都市部の土地についても外国人による取得を禁止することが、将来のフィリピン世代のために国の土地を保存するためであるならば、その目的または意図は、帰化によってフィリピン市民となった外国人が不動産を取得することを合法とすることによって、妨げられるのではなく、達成されるであろう。」

    この判決理由は、憲法上の外国人土地所有制限の目的が、フィリピンの土地をフィリピン国民の手にあるように保つことにあることを明確に示しています。したがって、最終的に土地がフィリピン国民の手に渡れば、たとえその過程に違憲な外国人譲渡があったとしても、憲法の目的は達成されると解釈されるのです。

    実務上の影響:外国人との不動産取引における注意点と教訓

    ハリリ対控訴裁判所事件の判決は、外国人との不動産取引、特に外国人から土地を取得した場合に、以下の重要な実務上の影響と教訓を与えます。

    • 外国人からの土地取得は慎重に
      外国人から土地を取得する場合、その外国人が適法に土地を所有していたか、取得経緯に憲法上の問題がないかを十分に調査する必要があります。特に、外国人からの相続や贈与による取得の場合は、専門家による法的助言を得ることが不可欠です。
    • フィリピン国民への再譲渡による瑕疵治癒
      過去に外国人から違憲な譲渡により土地を取得した場合でも、その土地をフィリピン国民に譲渡することで、違憲状態が解消され、所有権が有効になる可能性があります。ただし、すべてのケースで瑕疵治癒が認められるわけではないため、個別の状況に応じて法的検討が必要です。
    • 土地の性質の重要性
      隣接地の買戻権は、農村部の土地に限定されます。都市部の土地には適用されないため、土地の性質(都市部か農村部か)が重要な判断要素となります。土地の性質は、現地の状況や土地利用計画に基づいて判断されるため、専門家による調査が推奨されます。
    • 遡及的有効性の原則
      フィリピン国民への再譲渡による瑕疵治癒は、最初の違憲譲渡に遡及的に適用されます。つまり、再譲渡が有効と認められれば、最初の外国人譲渡の時点に遡って、所有権の有効性が認められることになります。

    主要な教訓

    • 外国人からの土地取得は、憲法上の制限に注意し、慎重に行うこと。
    • 違憲な外国人譲渡後のフィリピン国民への再譲渡は、瑕疵を治癒し、所有権を有効にする可能性があること。
    • 土地の性質(都市部か農村部か)が、法的権利の判断に影響を与えること。
    • 不動産取引においては、専門家(弁護士、不動産鑑定士など)の助言を得ることが重要であること。

    よくある質問(FAQ)

    1. 質問1:外国人がフィリピンで土地を所有することは完全に違法ですか?
      回答:原則として違法ですが、世襲相続の場合は例外的に認められます。また、コンドミニアムの区分所有権は外国人も取得可能です。
    2. 質問2:外国人から購入した土地が違憲譲渡だった場合、どうすればいいですか?
      回答:フィリピン国民に再譲渡することを検討してください。ハリリ判決によれば、再譲渡によって瑕疵が治癒される可能性があります。
    3. 質問3:都市部と農村部の区別はどのように判断されますか?
      回答:土地の位置、周辺の状況、土地利用計画などを総合的に考慮して判断されます。地方自治体の証明書や専門家の鑑定が参考になります。
    4. 質問4:隣接地の買戻権はどのような場合に認められますか?
      回答:農村部にある1ヘクタール以下の土地が第三者に譲渡された場合に、隣接地の所有者に買戻権が認められます。都市部の土地や1ヘクタールを超える土地には適用されません。
    5. 質問5:外国人配偶者がフィリピン国民名義で土地を購入することはできますか?
      回答:形式的には可能ですが、実質的に外国人配偶者が資金を提供している場合などは、名義貸しとみなされ違憲となるリスクがあります。
    6. 質問6:ハリリ判決は、すべての外国人譲渡の瑕疵を治癒すると解釈できますか?
      回答:いいえ、ハリリ判決は、フィリピン国民への再譲渡によって瑕疵が治癒されるという限定的な原則を示したものです。個別のケースごとに法的検討が必要です。
    7. 質問7:外国人から土地を相続した場合、何か手続きが必要ですか?
      回答:相続登記の手続きが必要です。また、相続税の納付も必要となる場合があります。専門家にご相談ください。

    外国人土地所有に関する問題でお困りの際は、フィリピン法に精通したASG Lawにご相談ください。当事務所は、不動産取引に関する豊富な経験と専門知識を有しており、お客様の状況に合わせた最適なリーガルアドバイスを提供いたします。初回無料相談も実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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