フィリピン政府調達における責任と返還義務:Bodo vs. Commission on Auditのケースから学ぶ
Reynaldo A. Bodo v. Commission on Audit, G.R. No. 228607, October 05, 2021
フィリピン政府の調達プロセスにおける不正行為が発覚した場合、その責任を問われるのは誰なのか?この問題は、政府の透明性と公正さを確保するために非常に重要です。特に、フィリピンで事業を展開する日系企業や在住日本人にとっては、政府との取引においてこのようなリスクを理解することが不可欠です。本記事では、Reynaldo A. Bodo v. Commission on Auditの事例を通じて、政府調達における責任と返還義務について詳しく解説します。
この事例では、バルのゴ市が液体肥料を購入する際の不正な調達手続きが問題となりました。市は、フィリピンの政府調達法(Republic Act No. 9184)に違反して直接契約を行い、結果として購入費用が不当に支出されました。中心的な法的疑問は、調達プロセスに関与した公務員がどの程度の責任を負うべきか、またその返還義務はどのように決定されるべきかという点にあります。
法的背景
フィリピンでは、政府調達に関する規制は厳格であり、透明性と公正さを確保するために詳細な手続きが定められています。特に重要なのは、Republic Act No. 9184(政府調達法)とその実施規則(IRR)です。この法律は、政府機関が商品やサービスを調達する際の入札プロセスや直接契約の条件を規定しています。
政府調達法(Republic Act No. 9184)は、公正な競争を促進し、政府の資金が効率的に使用されることを保証するために制定されました。例えば、入札(bidding)とは、政府機関が商品やサービスを購入する際に、複数のサプライヤーから提案を受け取り、最も有利な条件を選ぶプロセスのことを指します。また、直接契約(direct contracting)は、特定の条件下で入札を行わずに直接契約を結ぶことを許可する例外的な措置ですが、厳格な要件が課せられています。
この法律の適用例として、地方自治体が農業用品を購入する際には、入札プロセスを通じて最も適切なサプライヤーを選定することが求められます。もしこのプロセスが無視され、特定のサプライヤーと直接契約が行われた場合、それは法律違反となり、関与した公務員が責任を問われる可能性があります。
具体的な条項として、Republic Act No. 9184のSection 43は、違法な支出に対する責任を定めています。「Every expenditure or obligation authorized or incurred in violation of the provisions of this Code or of the general and special provisions contained in the annual General or other Appropriations Act shall be void. Every payment made in violation of said provisions shall be illegal and every official or employee authorizing or making such payment, or taking part therein, and every person receiving such payment shall be jointly and severally liable to the Government for the full amount so paid or received.」
事例分析
2004年、バルのゴ市は、農業省のプログラムの一環として、液体肥料「Fil-Ocean」を3,900リットル購入しました。しかし、この購入はRepublic Act No. 9184に違反しており、監査院(COA)によって不当支出として認定されました。市長、会計士、農業技術者、入札委員会のメンバーが責任を問われましたが、入札委員会は関与していなかったため責任を免れました。
この不当支出に対する最初の通知(Notice of Disallowance, ND)は2005年12月5日に出され、市長、会計士、農業技術者が責任を負うとされました。しかし、2009年にCOAは、市の農業技師であるReynaldo Bodoも責任を負うべきだと判断し、追加の通知を発行しました。Bodoは、液体肥料の購入リクエストに署名したことで、関与したと見なされました。
Bodoはこの決定に異議を唱え、COAに対して控訴しました。しかし、COAは2016年に彼の控訴を却下し、Bodoの責任を認めました。最高裁判所は、Bodoが不当支出に「重大な過失」または「悪意」で関与したと判断し、彼の責任を認めました。ただし、最高裁判所は、Bodoおよび他の責任者の返還義務の金額を決定するために、COAに再審を命じました。
最高裁判所の主要な推論の一部を以下に引用します:
「The preparation and signing of a purchase request, as a prelude to government procurement, is not a mere mechanical act.」
「Petitioner’s participation in the disallowed transaction is undisputed. He was the one who, in his capacity as head of the municipal agriculture office, signed the purchase request for the 3,900 liters of Fil-Ocean liquid fertilizers that eventually became the subject of sale between Barugo and Bals Enterprises.」
「The solidary liability of government officials who approved or took part in the illegal expenditure of public funds, pursuant to Section 43 of Book VI of the 1987 Administrative Code, does not necessarily equate to the total amount of the expenditure.」
この事例の進行は以下の通りです:
- 2004年:バルのゴ市が液体肥料を購入
- 2005年:COAが最初の不当支出通知を発行
- 2007年:COA-LAOが控訴を却下
- 2009年:COAがBodoを含む追加の責任者を指定
- 2010年:追加の不当支出通知がBodoに対して発行
- 2013年:COAがBodoの控訴を却下
- 2016年:COAが最終的な決定を下す
- 2021年:最高裁判所がBodoの責任を認め、COAに再審を命じる
実用的な影響
この判決は、フィリピン政府の調達プロセスに関与するすべての公務員に対して、法律と規制を厳格に遵守する必要性を強調しています。特に、調達プロセスにおける不正行為や違法な支出に対する責任は、直接的な関与者だけでなく、関連する文書に署名した者にも及ぶ可能性があります。
企業や個人に対しては、政府との取引において透明性と公正さを確保するために、適切な手続きを踏むことが重要です。特に日系企業は、フィリピンの政府調達法に精通し、適切な法的アドバイスを受けることで、リスクを最小限に抑えることができます。
主要な教訓:
- 政府調達プロセスにおける不正行為に対する責任は広範であり、直接的な関与者だけでなく、関連する文書に署名した者にも及ぶ可能性がある
- 違法な支出に対する返還義務は、quantum meruit(相当額)の原則に基づいて減額される可能性がある
- フィリピンで事業を展開する企業は、政府調達法に精通し、適切な法的アドバイスを受けることが重要
よくある質問
Q: 政府調達法(Republic Act No. 9184)とは何ですか?
A: 政府調達法は、フィリピン政府が商品やサービスを調達する際に公正な競争を確保し、効率的な資金使用を促進するための法律です。この法律は、入札プロセスや直接契約の条件を規定しています。
Q: 不当支出に対する責任は誰が負うのですか?
A: 不当支出に対する責任は、違法な支出を承認した公務員やその支出に関与した者に及ぶ可能性があります。また、関連する文書に署名した者も責任を問われることがあります。
Q: quantum meruitとは何ですか?
A: quantum meruitは、「相当額」を意味し、違法な契約に基づく支出に対する返還義務を減額するための原則です。政府が既に受け取った商品やサービスの価値に基づいて、返還義務が調整されます。
Q: フィリピンで事業を展開する日系企業は、政府調達法にどのように対応すべきですか?
A: 日系企業は、政府調達法に精通し、適切な法的アドバイスを受けることが重要です。特に、入札プロセスや直接契約の条件を理解し、透明性と公正さを確保するために適切な手続きを踏むべきです。
Q: フィリピンで事業を展開する日本人や日系企業が直面する特有の課題は何ですか?
A: 言語の壁や文化の違い、法律の違いなどが主な課題です。特に、政府との取引においては、フィリピンの法律と規制に精通することが重要です。
ASG Lawは、フィリピンで事業を展開する日本企業および在フィリピン日本人に特化した法律サービスを提供しています。特に政府調達に関する問題や、不当支出に対する責任と返還義務に関するアドバイスを提供しており、バイリンガルの法律専門家がチームにおり、言語の壁なく複雑な法的問題を解決します。今すぐ相談予約またはkonnichiwa@asglawpartners.comまでお問い合わせください。