カテゴリー: メディア法

  • フィリピンの名誉毀損法:表現の自由と評判保護のバランス

    名誉毀損の構成要件と正当な弁護:事例分析

    G.R. No. 120715, March 29, 1996

    名誉毀損は、個人の評判を傷つける可能性のある深刻な法的問題です。フィリピン法では、表現の自由と個人の評判保護のバランスを取ることが重要視されています。本記事では、最高裁判所の判例を基に、名誉毀損の構成要件、免責事由、そして実務上の影響について詳しく解説します。

    名誉毀損の法的背景

    フィリピン刑法第353条は、名誉毀損を「犯罪、悪徳、欠陥、または名誉を汚し、信用を傷つけ、軽蔑させる可能性のある行為、不作為、状況、地位、または事情を公然かつ悪意を持って告発すること」と定義しています。名誉毀損が成立するためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

    • 告発の誹謗性:告発が他者の評判を傷つけるものであること。
    • 悪意:告発が悪意を持って行われたこと。
    • 公然性:告発が公にされたこと。
    • 被害者の特定:告発の対象が特定可能であること。

    刑法第354条では、誹謗的な告発は悪意があると推定されます。ただし、正当な意図と動機が示されれば、この推定は覆されます。また、同条には、以下の2つの免責事由が規定されています。

    • 法的、道徳的、または社会的義務の履行:個人が法的、道徳的、または社会的義務を履行する際に、他人に行った私的な通信。
    • 公式な手続きの公正かつ真実な報告:司法、立法、その他の公的な手続き、または公務員が職務遂行において行った行為についての、誠実な報告。

    これらの免責事由は、公益を保護し、表現の自由を確保するために設けられています。

    事件の経緯

    フェルナンド・サゾンは、PMLホームズの住民であり、PML-Parang Bagong Lipunan Community Association, Inc.(PML-BLCA)の会員でした。サゾンは、PML-BLCAの月刊ニュースレター「PML-Homemaker」の編集者でした。

    1983年12月11日、PML-BLCAの理事会選挙が行われ、サゾンは理事に選出され、その後、会長に選ばれました。アブドン・レイエスは選挙で落選し、1984年1月16日に住宅金融公社(EMO-HFC)に書簡を送り、サゾンの会長選出に抗議しました。

    その後、EMO-HFCはPML-BLCAに住民投票を実施するように命じました。その直後、「PML Scoop」と呼ばれるリーフレットが住民に配布され、「Sazon, nasaan ang pondo ng simbahan?」という落書きが入り口付近の壁に見られるようになりました。サゾンは、これらの行為はレイエスによるものだと考え、ニュースレターでレイエスを批判する記事を掲載しました。

    レイエスは、この記事に不快感を抱き、サゾンを名誉毀損で訴えました。地方裁判所はサゾンを有罪とし、控訴院も地裁の判決を支持しました。サゾンは最高裁判所に上訴しました。

    最高裁判所の判断

    最高裁判所は、サゾンの上訴を棄却し、控訴院の判決を支持しました。最高裁判所は、以下の理由から、サゾンの記事が名誉毀損に該当すると判断しました。

    • 記事で使用された言葉(「mandurugas」、「mag-ingat sa panlilinlang」など)は、レイエスを詐欺師や欺瞞者として描写するものであり、誹謗的である。
    • サゾンは、レイエスに対する悪意を持って記事を掲載した。記事の文脈や言葉遣いから、サゾンがレイエスの評判を傷つける意図を持っていたことが明らかである。
    • 記事は、公式な手続きの公正かつ真実な報告には該当しない。記事は、レイエスの公的な職務とは関係のない、私的な性格を攻撃するものであった。

    最高裁判所は、刑罰を懲役と罰金から罰金3,000ペソに変更しましたが、その他の点については控訴院の判決を支持しました。

    最高裁判所は、名誉毀損の構成要件を明確にし、表現の自由と個人の評判保護のバランスについて重要な判断を示しました。この判決は、今後の名誉毀損訴訟において重要な先例となるでしょう。

    実務上の影響

    この判決は、企業、団体、個人が情報発信する際に、より慎重になる必要性を示唆しています。特に、ソーシャルメディアやオンラインフォーラムなど、情報が広範囲に拡散される可能性がある媒体においては、誹謗的な内容の発信を避けることが重要です。

    重要な教訓

    • 発信する情報の正確性を確認する:不正確な情報や憶測に基づいた発言は、名誉毀損のリスクを高めます。
    • 感情的な表現を避ける:感情的な言葉遣いや侮辱的な表現は、悪意があると判断される可能性があります。
    • 免責事由を理解する:法的、道徳的、または社会的義務を履行する場合でも、免責事由の範囲を逸脱しないように注意が必要です。
    • 法的助言を求める:名誉毀損のリスクがあるかどうか判断が難しい場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

    よくある質問

    Q: 名誉毀損で訴えられた場合、どのような弁護が可能ですか?

    A: 真実性、正当な意図と動機、免責事由(法的、道徳的、または社会的義務の履行、公式な手続きの公正かつ真実な報告)などが考えられます。

    Q: ソーシャルメディアでの発言も名誉毀損の対象になりますか?

    A: はい、ソーシャルメディアでの発言も、名誉毀損の構成要件を満たす場合は対象となります。

    Q: 匿名での発言は名誉毀損にならないですか?

    A: いいえ、匿名での発言でも、被害者が特定可能であれば名誉毀損になる可能性があります。

    Q: 名誉毀損で訴えられた場合、どのような損害賠償を請求される可能性がありますか?

    A: 評判の低下、精神的苦痛、経済的損失などに対する損害賠償が請求される可能性があります。

    Q: 名誉毀損の訴訟を起こす場合、どのような証拠が必要ですか?

    A: 誹謗的な発言の証拠、発言が公にされた証拠、被害者が特定可能である証拠、損害が発生した証拠などが必要です。

    ASG Lawは、名誉毀損に関する豊富な経験と専門知識を有しています。ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

    メールでのお問い合わせはkonnichiwa@asglawpartners.comまで。または、弊社のお問い合わせページからご連絡ください。フィリピン法に関するご相談は、ASG Lawにお任せください!

  • フィリピンにおけるフォーラム・ショッピングの禁止:映画上映差止命令の適法性に関する最高裁判所の判断

    フォーラム・ショッピングの禁止:訴訟戦略の誤りと裁判所の責務

    G.R. No. 123881, 平成9年3月13日

    イントロダクション

    訴訟において、原告が複数の裁判所に同様の訴えを提起し、有利な判決を得ようとする行為は「フォーラム・ショッピング」と呼ばれ、多くの法域で禁じられています。これは、司法制度の公正さを損ない、裁判所の資源を浪費する行為とみなされるためです。フィリピン最高裁判所は、映画『ジェシカ・アルファロ・ストーリー』の上映差止命令を巡る訴訟において、フォーラム・ショッピングの概念と、表現の自由との関係について重要な判断を示しました。本稿では、この判例を詳細に分析し、その教訓と実務への影響について解説します。

    本件は、1991年に発生した「ビゾンテ・マッサージ事件」に関連して制作された映画の上映を巡り、告訴された被告の一人であるヒューバート・J.P. ウェッブ氏が、映画制作会社であるビバ・プロダクションズ社に対し、上映差止と損害賠償を求めたものです。パラニャーケ地方裁判所とマカティ地方裁判所は、それぞれ上映差止命令と仮処分命令を発令しましたが、控訴裁判所はこれらの命令を支持しました。最高裁判所は、これらの下級審の判断を覆し、フォーラム・ショッピングの禁止と表現の自由の重要性を改めて強調しました。

    法的背景:フォーラム・ショッピング、サブ・ジュディス規則、および差止命令

    フォーラム・ショッピングとは、当事者が複数の裁判所または管轄区域に訴訟を提起し、有利な結果を得ようとする行為を指します。フィリピン最高裁判所は、回状No. 28-91および行政回状No. 04-94を通じて、フォーラム・ショッピングを明確に禁止しています。これらの回状は、同一の争点を複数の裁判所で争うことを防ぎ、司法の効率性と整合性を維持することを目的としています。違反した場合、訴えの却下、訴訟費用の負担、さらには侮辱罪や懲戒処分の対象となる可能性があります。

    サブ・ジュディス規則とは、係属中の裁判事件に関して、裁判所の判断に影響を与える可能性のある公表や議論を制限する原則です。これは、公正な裁判を受ける権利を保護し、裁判所の独立性を維持するために重要です。ただし、表現の自由との調和も求められるため、その適用範囲は慎重に判断される必要があります。

    差止命令とは、特定の行為を禁止または制限する裁判所の命令です。本件では、パラニャーケ地方裁判所とマカティ地方裁判所が、映画の上映を差し止める命令を発令しました。差止命令は、権利侵害の防止や現状維持のために重要な役割を果たしますが、表現の自由を制限する可能性もあるため、その発令には慎重な検討が必要です。フィリピン憲法は、表現の自由を保障しており、これを制限するためには「明白かつ現在の危険」(clear and present danger)の存在が要件とされています。

    事件の経緯:二つの裁判所における訴訟と最高裁判所の判断

    事件は、1995年9月6日、ヒューバート・J.P. ウェッブ氏がパラニャーケ地方裁判所に侮辱罪の申立てを行ったことから始まりました。これは、映画『ジェシカ・アルファロ・ストーリー』の上映がサブ・ジュディス規則に違反すると主張したものです。パラニャーケ地方裁判所は、9月8日に上映差止命令を発令しました。その直後の9月8日、ウェッブ氏はマカティ地方裁判所にも損害賠償請求訴訟を提起し、同裁判所も仮処分命令を発令しました。

    ビバ・プロダクションズ社は、これらの命令を不服として控訴裁判所に上訴しましたが、控訴裁判所は下級審の判断を支持しました。そこで、ビバ・プロダクションズ社は最高裁判所に上告しました。最高裁判所の主な争点は、マカティ地方裁判所が損害賠償請求訴訟を受理する管轄権を有するか、そしてウェッブ氏がフォーラム・ショッピングを行ったか否かでした。

    最高裁判所は、ウェッブ氏がマカティ地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した行為は、パラニャーケ地方裁判所における侮辱罪訴訟と実質的に同一の目的、すなわち映画の上映差止を求めるものであり、フォーラム・ショッピングに該当すると判断しました。最高裁判所は、以下の点を指摘しました。

    • マカティ地方裁判所への訴訟提起は、パラニャーケ地方裁判所における侮辱罪訴訟で既に争われている上映差止命令を、別の裁判所で改めて取得しようとする意図が見られること。
    • 損害賠償請求は、上映差止命令を得るための手段に過ぎず、実質的な目的は上映を阻止することにあること。
    • パラニャーケ地方裁判所が先に事件を受理したため、マカティ地方裁判所は同一の争点について管轄権を行使すべきではなかったこと。

    最高裁判所は、フォーラム・ショッピングの禁止を明確にし、マカティ地方裁判所の仮処分命令と控訴裁判所の判断を無効としました。また、パラニャーケ地方裁判所の上映差止命令についても、フォーラム・ショッピングを理由に失効させました。さらに、ウェッブ氏とその弁護士に対し、フォーラム・ショッピングを繰り返さないよう厳重に戒告しました。

    実務への影響:企業、個人、弁護士が学ぶべき教訓

    本判例は、フォーラム・ショッピングが厳しく禁じられていることを改めて確認させました。企業や個人は、訴訟戦略を検討する際、複数の裁判所に同様の訴えを提起するのではなく、適切な裁判所を選択し、一貫した訴訟活動を行う必要があります。弁護士は、クライアントに対し、フォーラム・ショッピングのリスクを十分に説明し、適切な訴訟戦略を助言する責任があります。

    本判例はまた、表現の自由とサブ・ジュディス規則のバランスについても重要な示唆を与えています。裁判所は、表現の自由を尊重しつつ、公正な裁判を受ける権利を保護するために、サブ・ジュディス規則を適切に適用する必要があります。上映差止命令などの事前抑制措置は、明白かつ現在の危険が存在する場合にのみ許容されるべきであり、その判断は慎重に行われるべきです。

    主な教訓

    • フォーラム・ショッピングは、司法制度の公正さを損なう行為であり、厳しく禁じられています。
    • 訴訟を提起する際は、適切な裁判所を選択し、複数の裁判所に同様の訴えを提起することは避けるべきです。
    • 弁護士は、クライアントに対し、フォーラム・ショッピングのリスクを十分に説明し、適切な訴訟戦略を助言する責任があります。
    • 表現の自由は重要な権利ですが、公正な裁判を受ける権利とのバランスが求められます。
    • 上映差止命令などの事前抑制措置は、明白かつ現在の危険が存在する場合にのみ許容されるべきです。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: フォーラム・ショッピングとは具体的にどのような行為ですか?

    A1: フォーラム・ショッピングとは、原告が複数の裁判所に同様の訴えを提起し、有利な判決を得ようとする行為です。例えば、同じ事実関係に基づいて、複数の裁判所に訴訟を提起したり、異なる裁判所に同様の救済を求める訴えを提起したりする行為が該当します。

    Q2: フォーラム・ショッピングを行うとどのような制裁がありますか?

    A2: フォーラム・ショッピングを行うと、訴えが却下される、訴訟費用を負担させられる、侮辱罪で処罰される、弁護士が懲戒処分を受けるなどの制裁があります。悪質な場合には、刑事責任を問われる可能性もあります。

    Q3: サブ・ジュディス規則とはどのような規則ですか?

    A3: サブ・ジュディス規則とは、係属中の裁判事件に関して、裁判所の判断に影響を与える可能性のある公表や議論を制限する原則です。公正な裁判を受ける権利を保護し、裁判所の独立性を維持するために重要です。

    Q4: 表現の自由はどのように保護されていますか?

    A4: フィリピン憲法は、表現の自由を保障しています。ただし、表現の自由も絶対的なものではなく、公共の福祉や他者の権利を侵害する場合には、一定の制限を受けることがあります。表現の自由を制限するためには、「明白かつ現在の危険」の存在が要件とされています。

    Q5: 差止命令はどのような場合に発令されますか?

    A5: 差止命令は、権利侵害の防止や現状維持のために、裁判所が特定の行為を禁止または制限する場合に発令されます。差止命令は、緊急性や必要性、そして公益とのバランスなどを考慮して判断されます。表現の自由を制限する差止命令は、特に慎重な検討が必要です。

    ご不明な点やご相談がございましたら、ASG Lawにご連絡ください。当事務所は、訴訟戦略、フォーラム・ショッピング、表現の自由に関する問題について専門的なアドバイスを提供しております。お気軽にお問い合わせください。

    konnichiwa@asglawpartners.com
    お問い合わせページ


    Source: Supreme Court E-Library
    This page was dynamically generated
    by the E-Library Content Management System (E-LibCMS)