正当防衛の主張は、明白かつ説得力のある証拠によって裏付けられなければならない
G.R. No. 169871, February 02, 2011
日常生活において、自己防衛は誰にとっても重要な権利です。しかし、フィリピンの法廷で自己防衛を主張する場合、単に言葉で述べるだけでは不十分です。ホセ・メディアド対フィリピン国事件は、自己防衛を主張する者が、その主張を裏付ける明確かつ説得力のある証拠を提示する責任を負うことを明確に示しています。この判例は、自己防衛が認められるための法的基準、立証責任の重要性、そしてそれが刑事事件に与える影響について、重要な教訓を提供します。
正当防衛の法的背景:フィリピン刑法第11条
フィリピン刑法第11条は、正当防衛を正当な弁護事由として認めています。これは、特定の状況下では、犯罪行為と見なされる行為であっても、刑事責任を問われない場合があることを意味します。正当防衛が認められるためには、以下の3つの要件がすべて満たされる必要があります。
- 不法な侵害: 防衛者が自己または他者を守るために行動を起こす前に、被害者から不法な攻撃を受けている必要があります。不法な侵害とは、正当な理由や権利なしに行われる違法な攻撃を指します。例えば、刃物で襲いかかる行為や、殴る蹴るなどの暴行がこれに該当します。
- 侵害を阻止または撃退するための手段の合理的な必要性: 防衛者が用いた手段は、差し迫った不法な侵害を阻止または撃退するために合理的に必要であった必要があります。これは、過剰な防衛行為は正当防衛として認められないことを意味します。例えば、素手で殴りかかってくる相手に対して銃を発砲するような行為は、合理的な必要性を逸脱していると判断される可能性があります。
- 防衛者側の挑発の欠如: 防衛者自身が、被害者の不法な侵害を引き起こすような挑発行為をしていない必要があります。自ら喧嘩を売っておいて、相手が反撃してきた場合に正当防衛を主張することは、原則として認められません。
これらの要件は、自己防衛の主張が真実であり、濫用されないようにするために設けられています。自己防衛は、生命や身体の危険が差し迫った状況下でのみ許される例外的な行為であり、その適用は厳格に解釈される必要があります。
メディアド事件の経緯:自己防衛の主張と裁判所の判断
メディアド事件は、ホセ・メディアドがジミー・ロリンを殺害した事件です。事件当日、リリア・ロリンは、夫のジミーがホセの父であるロドルフォ・メディアドと話しているのを目撃しました。その直後、ホセが背後から現れ、ジミーをボロ(フィリピンの伝統的な刃物)で二度頭部を切りつけました。ジミーが倒れた後も、ホセはさらに攻撃を続けました。ホセは現場から逃走しましたが、元バランガイ(村)議員のフアン・クララドに取り押さえられ、警察に引き渡されました。リリアは、ホセが以前ビセンテ・パラニャールを襲撃した事件をジミーが警察に通報することを恐れて犯行に及んだと証言しました。
一方、ホセは殺害を認めたものの、自己防衛を主張しました。ホセは、仕事に行く途中にバランガイホールを通りかかった際、ジミーがロドルフォを殴ったり石を投げつけたりするのを目撃したと述べました。さらに、ジミーが自分にも石を投げつけようとしたため、自己防衛のためにボロを抜いてジミーを切りつけた、と供述しました。しかし、裁判所はホセの自己防衛の主張を認めませんでした。
地方裁判所と控訴裁判所は、ホセに有罪判決を下し、最高裁判所もこれを支持しました。裁判所は、ホセが自己防衛の要件を満たす明白かつ説得力のある証拠を提示できなかったと判断しました。特に、不法な侵害の存在が証明されなかったことが重視されました。裁判所は、ホセがジミーから攻撃を受けたという証拠が乏しく、むしろホセが背後から一方的に攻撃を加えた可能性が高いと判断しました。さらに、ジミーの傷の数と深さも、自己防衛というよりも殺意を示すものと見なされました。
裁判所の重要な指摘:
「自己防衛という正当な弁護事由を主張する者は、明白かつ説得力のある証拠によってその行為の正当性を証明する責任を負う。なぜなら、殺害を認めた以上、検察側の証拠の弱さではなく、自身の証拠の強さに頼らなければならないからである。検察側の証拠が弱いとしても、被告の自白がある以上、それを否定することはできない。」
この判決は、フィリピンの法廷において自己防衛を主張することがいかに困難であるかを示しています。単に自己防衛を主張するだけでは不十分であり、その主張を裏付ける客観的な証拠と、法的に認められる要件を満たす必要があります。
実務上の意義:自己防衛を主張する際の注意点と教訓
メディアド事件の判決は、自己防衛を主張する際に注意すべき重要な教訓を提供しています。この判例から得られる実務上の意義は以下の通りです。
- 立証責任の重さ: 自己防衛を主張する者は、その主張を証明する重い立証責任を負います。これは、単に「自己防衛だった」と主張するだけでは認められず、具体的な状況証拠や目撃証言などによって、自己防衛の要件をすべて満たすことを証明しなければならないことを意味します。
- 不法な侵害の証明: 自己防衛が認められるための最も重要な要件の一つは、不法な侵害の存在です。防衛者は、自分が不法な攻撃を受けていたことを明確に証明する必要があります。客観的な証拠がない場合、自己防衛の主張は認められにくいでしょう。
- 過剰防衛の回避: 防衛行為は、不法な侵害を阻止または撃退するために合理的に必要な範囲内で行われる必要があります。過剰な防衛行為は、正当防衛として認められません。状況に応じて適切な防衛手段を選択し、必要以上の反撃は避けるべきです。
- 一貫性のある証言: 自己防衛を主張する者とその関係者の証言は、一貫性があり、矛盾がないことが重要です。証言に矛盾がある場合、裁判所は自己防衛の信憑性を疑う可能性があります。
主要な教訓:
- 自己防衛を主張する際には、弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受けることが不可欠です。
- 事件発生直後から、可能な限り証拠を収集し、保全することが重要です。例えば、現場の写真や動画、目撃者の連絡先などを記録しておきましょう。
- 警察の取り調べには慎重に対応し、不利な供述をしないように注意が必要です。
- 裁判においては、自己防衛の要件を満たすことを、客観的な証拠に基づいて説得力を持って主張する必要があります。
よくある質問(FAQ)
- 質問:正当防衛が認められるのはどのような場合ですか?
回答: 正当防衛が認められるためには、不法な侵害、侵害を阻止または撃退するための手段の合理的な必要性、防衛者側の挑発の欠如という3つの要件をすべて満たす必要があります。これらの要件は、フィリピン刑法第11条に規定されています。 - 質問:自己防衛を主張する場合、どのような証拠が必要ですか?
回答: 自己防衛を主張する際には、不法な侵害があったこと、防衛手段が合理的であったこと、挑発がなかったことなどを証明する証拠が必要です。具体的には、目撃者の証言、現場の写真や動画、医師の診断書、警察の捜査報告書などが考えられます。 - 質問:過剰防衛とは何ですか?過剰防衛と正当防衛の違いは何ですか?
回答: 過剰防衛とは、正当防衛の要件の一つである「侵害を阻止または撃退するための手段の合理的な必要性」を逸脱した防衛行為を指します。正当防衛は、合理的な範囲内の防衛行為であるのに対し、過剰防衛は、必要以上に過度な反撃を行った場合などに該当します。過剰防衛は、正当防衛としては認められず、違法な行為と見なされる可能性があります。 - 質問:もし正当防衛が認められなかった場合、どのような罪に問われますか?
回答: 正当防衛が認められなかった場合、その行為の内容に応じて、殺人罪、傷害致死罪、傷害罪などの罪に問われる可能性があります。メディアド事件では、ホセ・メディアドは殺人罪で有罪判決を受けました。 - 質問:フィリピンで自己防衛に関する法的アドバイスを受けるにはどうすればよいですか?
回答: フィリピンで自己防衛に関する法的アドバイスを受けるには、フィリピン法に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。特に、刑事事件に強い弁護士事務所に相談することで、具体的な状況に応じた適切なアドバイスを得ることができます。
ASG Lawは、フィリピン法、特に刑事事件における豊富な経験と専門知識を有する法律事務所です。正当防衛に関するご相談や、刑事事件に関する法的サポートが必要な場合は、お気軽にご連絡ください。経験豊富な弁護士が、お客様の権利を守り、最善の結果を導くために尽力いたします。
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