薬物事件における証拠の完全性:完全な保全手続きの重要性

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本判決は、薬物犯罪において、証拠の連鎖(chain of custody)が厳格に守られなければならないことを改めて強調するものです。証拠の完全性が疑われる場合、有罪認定は覆される可能性があります。特に、逮捕後の証拠品の写真撮影や目録作成に、司法省(DOJ)やメディアの代表者が立ち会わなかった場合、その理由が正当化されなければ、証拠としての価値は失われます。

不完全な手続きが被告人を解放する:薬物事件における手続き遵守の重要性

マルセリーノ・クリスポ(以下、クリスポ)とエンリコ・ヘレーラ(以下、ヘレーラ)は、危険薬物法違反の罪で起訴されました。クリスポは違法な薬物販売と所持、ヘレーラは違法な薬物販売の罪です。事件の核心は、警察がクリスポを逮捕し、薬物を押収した際の手続きにありました。法律で定められた手順、特に証拠の連鎖の遵守が厳格に行われたかが争点となりました。

この事件では、まずヘレーラが控訴中に死亡したため、彼の刑事責任は消滅しました。クリスポについては、最高裁判所は、逮捕時の手続きにおける重大な欠陥を認めました。重要なことは、押収された薬物の目録作成と写真撮影の際に、司法省(DOJ)の代表者やメディア関係者が立ち会っていなかったことです。このことは、共和国法9165号(包括的危険薬物法)第21条に違反するものであり、証拠の完全性に対する深刻な疑念を生じさせました。

同法第21条は、押収された薬物の証拠としての価値を保全するために、警察官が従うべき厳格な手続きを定めています。具体的には、逮捕直後に、被告人またはその代理人、メディアの代表者、司法省(DOJ)の代表者、および選出された公務員の立会いのもとで、押収品の物理的な目録作成と写真撮影を行う必要があります。この規定の目的は、証拠の改ざん、すり替え、または汚染のリスクを最小限に抑えることです。

第21条 Custody and Disposition of Confiscated, Seized, and/or Surrendered Dangerous Drugs, Plant Sources of Dangerous Drugs, Controlled Precursors and Essential Chemicals, Instruments/Paraphernalia and/or Laboratory Equipment. — The PDEA shall take charge and have custody of all dangerous drugs, plant sources of dangerous drugs, controlled precursors and essential chemicals, as well as instruments/paraphernalia and/or laboratory equipment so confiscated, seized and/or surrendered, for proper disposition in the following manner:

(1) The apprehending team having initial custody and control of the dangerous drugs, controlled precursors and essential chemicals, instruments/paraphernalia and/or laboratory equipment shall, immediately after seizure and confiscation, conduct a physical inventory of the seized items and photograph the same in the presence of the accused or the persons from whom such items were confiscated and/or seized, or his/her representative or counsel, with an elected public official and a representative of the National Prosecution Service or the media who shall be required to sign the copies of the inventory and be given a copy thereof: Provided, That the physical inventory and photograph shall be conducted at the place where the search warrant is served; or at the nearest police station or at the nearest office of the apprehending officer/team, whichever is practicable, in case of warrantless seizures: Provided, finally, That noncompliance of these requirements under justifiable grounds, as long as the integrity and the evidentiary value of the seized items are properly preserved by the apprehending officer/team, shall not render void and invalid such seizures and custody over said items.

本件において、警察官は目録作成時に選出された公務員(バランガイの役人)を立ち会わせましたが、DOJの代表者やメディア関係者の立会いはありませんでした。そして、検察は、この不遵守に対する正当な理由を提示できませんでした。裁判所は、正当な理由がない場合、証拠の完全性が損なわれると判断しました。たとえ軽微な逸脱であっても、その理由が説明されなければ、証拠の信頼性を損なう可能性があります。

本判決は、政府の薬物対策を支持しつつも、個人の権利保護の重要性を強調しています。警察官は、法律を執行する際に個人の権利を無視することはできません。法律の遵守は、秩序の維持と同じくらい重要です。検察官は、共和国法9165号第21条の手続き遵守を積極的に証明する義務があります。手続きの遵守は、証拠の完全性と価値、そして最終的には被告人の自由を左右するため、控訴裁判所は、手続きが完全に遵守されたかを検証する義務があります。

本件における主要な争点は何でしたか? 主要な争点は、薬物事件において証拠の連鎖が法律の定めに従って厳格に守られたかどうかでした。特に、証拠品の写真撮影や目録作成に、司法省(DOJ)やメディアの代表者が立ち会わなかったことが問題となりました。
共和国法9165号第21条とは何ですか? 共和国法9165号第21条は、包括的危険薬物法(Comprehensive Dangerous Drugs Act)の条項であり、薬物犯罪の捜査において押収された証拠の取り扱いに関する手続きを定めています。これにより、証拠の改ざんや汚染を防ぎ、裁判での信頼性を確保することを目的としています。
なぜ司法省(DOJ)やメディアの代表者の立会いが必要なのですか? 司法省(DOJ)やメディアの代表者の立会いは、証拠の改ざん、すり替え、または汚染のリスクを最小限に抑えるために必要とされます。第三者の監視があることで、手続きの透明性と信頼性が向上し、不正行為の可能性を減らすことができます。
もし手続きに違反があった場合、どうなりますか? 手続きの違反があった場合、検察は、その違反に対する正当な理由を提示する責任があります。正当な理由が提示されない場合、裁判所は証拠の完全性が損なわれたと判断し、証拠としての価値を否定する可能性があります。これにより、被告人の無罪判決につながることがあります。
本判決のヘレーラに対する影響は何でしたか? ヘレーラは控訴中に死亡したため、刑事責任は消滅しました。したがって、彼に対する刑事訴訟は却下されました。
本判決のクリスポに対する影響は何でしたか? クリスポについては、最高裁判所は手続きの違反を理由に、無罪判決を言い渡しました。証拠の連鎖が適切に維持されなかったため、有罪の立証が不十分であると判断されました。
警察はどのような「正当な理由」を示す必要がありますか? 警察は、司法省(DOJ)やメディアの代表者を確保するために、誠実かつ十分な努力をしたことを示す必要があります。単に「代表者がいなかった」というだけでなく、具体的な試みや努力の説明が必要です。
検察官の義務は何ですか? 検察官は、共和国法9165号第21条の手続き遵守を積極的に証明する義務があります。手続きの逸脱がある場合には、その理由を正当化し、証拠の完全性が損なわれていないことを立証する必要があります。

本判決は、薬物犯罪の捜査において、手続きの遵守がいかに重要であるかを明確に示しています。法律で定められた手続きを遵守することは、個人の権利を保護し、公正な裁判を実現するために不可欠です。

本判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Law(お問い合わせ)または電子メール(frontdesk@asglawpartners.com)までご連絡ください。

免責事項:本分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。ご自身の状況に合わせた具体的な法的指導については、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:People v. Crispo, G.R. No. 230065, 2018年3月14日

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