フィリピン法における抗弁の予備審問と仲裁条項:カリフォルニア・アンド・ハワイアン・シュガー・カンパニー対パイオニア保険アンド・シュアティ・コーポレーション事件

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抗弁の予備審問は、訴訟を迅速に解決するための重要な手段となり得る

G.R. No. 139273, 2000年11月28日

訴訟手続きにおいて、裁判所は、事件全体を審理する前に、特定の抗弁について予備審問を行う裁量権を持っています。この予備審問は、訴訟の早期解決を可能にする重要なメカニズムとなり得ます。本稿では、フィリピン最高裁判所のカリフォルニア・アンド・ハワイアン・シュガー・カンパニー対パイオニア保険アンド・シュアティ・コーポレーション事件(G.R. No. 139273)を分析し、抗弁の予備審問の法的根拠、手続き、および実務上の意義について解説します。

はじめに

貨物輸送中の損害賠償請求訴訟において、被告は、原告の訴えが仲裁条項に違反しているとして、訴えの却下を求めました。第一審裁判所は、この訴えの却下申立てを一旦保留し、被告に答弁書を提出するよう命じました。その後、被告は、仲裁条項の不遵守を抗弁として提起し、この抗弁に関する予備審問を求めましたが、裁判所はこれを認めませんでした。この裁判所の決定の適法性が争われたのが、本件です。

法的背景:抗弁の予備審問とは

フィリピンの旧民事訴訟規則(1997年改正前)第16条第5項は、訴えの却下事由となるべき事項を抗弁として提起し、訴えの却下申立てと同様に予備審問を行うことができると規定していました。この規定は、訴訟の不必要な長期化を防ぎ、早期に争点を絞り込むことを目的としていました。しかし、1997年の改正により、予備審問が認められるのは、訴えの却下申立てがなされていない場合に限られることになりました。

本件当時適用されていた旧規則第16条第5項は、以下の通りです。

「第5条 抗弁としての却下事由の主張 管轄違いを除く、本規則に定める却下事由は、抗弁として主張することができ、訴えの却下申立てがなされた場合と同様に、予備審問を行うことができる。」

重要な点は、旧規則下では、訴えの却下申立てが「無条件に却下されていない」場合、すなわち、裁判所が判断を保留した場合などには、抗弁として提起された却下事由について予備審問が認められる余地があったことです。これは、裁判所が訴えの却下申立ての理由が明白でないと判断した場合に、直ちに訴訟を却下するのではなく、より詳細な審理を行う機会を被告に与えることを意図したものでした。

事件の経緯:予備審問を巡る攻防

本件の経緯を時系列に沿って見ていきましょう。

  • 1990年11月27日:貨物船MV「SUGAR ISLANDER」号がマニラ港に到着。大豆ミールを積載。
  • 1990年11月30日:貨物の荷揚げ開始。
  • 貨物の一部が不足していることが判明。
  • 原告パイオニア保険は、保険契約に基づき、被保険者である荷受人に保険金を支払い。
  • 1992年3月26日:原告は、保険代位者として、被告ら(カリフォルニア・アンド・ハワイアン・シュガー・カンパニーら)に対し、損害賠償請求訴訟を提起。
  • 被告らは、仲裁条項の不遵守を理由に、訴えの却下申立てを行う。
  • 第一審裁判所は、訴えの却下申立ての判断を保留し、被告らに答弁書の提出を命じる。
  • 被告らは、答弁書において、仲裁条項の不遵守を抗弁として再度主張。
  • 被告らは、抗弁に関する予備審問を申し立てるが、第一審裁判所はこれを却下。
  • 控訴裁判所も第一審裁判所の決定を支持。

控訴裁判所は、被告らが訴えの却下申立てを既に行っていることを理由に、旧規則第16条第5項の適用を否定しました。また、仲裁条項は原告である保険会社を拘束しないと判断しました。控訴裁判所の判決理由は以下の通りです。

「申立人らは、仲裁条項の不遵守を理由とする訴えの却下申立てに関する予備審問を認めなかったことは、重大な裁量権の濫用に当たるとして主張する。

申立人らが抗弁としての訴えの却下申立てに関する予備審問を申し立てたのは、旧民事訴訟規則第16条第5項の規定に基づくものである。同条項は、以下のように規定している。

「第5条 抗弁としての却下事由の主張 管轄違いを除く、本規則に定める却下事由は、抗弁として主張することができ、訴えの却下申立てがなされた場合と同様に、予備審問を行うことができる。」

申立人らの上記規定への依拠は、誤りである。上記規定は、訴えの却下申立てがなされていない場合を想定している。本件のように、訴えの却下申立てがなされている場合、旧民事訴訟規則第16条第5項は適用されない。さらに、同条項は、裁判官に抗弁としての却下事由に関する予備審問を行うかどうかについて裁量権を与えている。裁判官は、申立人らが訴えの却下申立てにおいて依拠した理由が明白でないため、審理まで却下申立ての審理と決定を延期した。申立人らはその後、裁判所の命令に従い答弁書を提出し、その中で仲裁条項の不遵守を抗弁として再度主張し、訴えの却下を求め、その後、抗弁としての訴えの却下申立てに関する予備審問を申し立てた。実質的に、申立人らは第一審裁判所に対し、訴えの却下申立てを却下した命令と、その再考を却下した命令を破棄するよう求めているのである。

申立人らは、これを行うことはできない。

訴えの却下申立てを却下された当事者の救済手段は、答弁書を提出し、却下申立てにおいて提起した異議を抗弁として提起し、審理に進み、不利な判決の場合には、適正な手続きに従って事件全体を上訴することである。申立人らはまた、訴えの却下申立ての却下について異議を申し立てるために、職権訴訟、禁止命令、義務履行命令という特別の法的救済手段に訴えることもできた。第一審裁判所が1993年6月30日付の命令(1992年11月11日付の命令(訴えの却下申立ての却下)の再考申立てを却下)において正しく判示したように、申立人らが依拠した理由は抗弁事項であり、申立人らは審理において証拠をもって証明しなければならない。」

最高裁判所は、控訴裁判所の判断を覆し、第一審裁判所の予備審問の却下は裁量権の濫用であると判断しました。

最高裁判所の判断:予備審問の重要性と仲裁条項の適用

最高裁判所は、まず、本件の争点は、第一審裁判所が抗弁の予備審問を認めなかったことの適法性にあることを明確にしました。そして、旧規則第16条第5項の解釈として、訴えの却下申立てが「無条件に却下されていない」場合には、抗弁としての予備審問が認められるとしました。本件では、第一審裁判所が訴えの却下申立ての判断を保留していたため、予備審問を認める余地があったと判断しました。

さらに、最高裁判所は、本件のような状況においては、予備審問を認めなかった第一審裁判所の判断は、裁量権の濫用にあたるとしました。その理由として、争点が仲裁条項の適用という単一の事実に絞られており、予備審問によって事件が早期に解決される可能性があったことを挙げました。裁判所は、「予備審問で十分であると思われる場合、審理に進む理由はない。裁判所の事件記録が滞っている理由の一つは、訴訟の解決を短縮するために設計された手続き、例えば訴えの却下申立てのような手続きの使用を不合理に拒否することである」と指摘し、予備審問の積極的な活用を促しました。

また、控訴裁判所が仲裁条項は保険会社を拘束しないと判断した点についても、最高裁判所は誤りであるとしました。最高裁判所は、保険代位の権利は保険金支払いによって当然に発生するものであり、契約関係や債権譲渡に基づくものではないという判例(Pan Malayan Insurance Corporation v. CA)を引用しましたが、これは仲裁条項の適用を排除するものではないとしました。最高裁判所は、保険代位によって保険会社が取得する権利は、被保険者が有していた権利と同一であり、仲裁条項もその権利の一部として承継されると解釈しました。

最高裁判所の判決の要旨は以下の通りです。

「請願は認められ、被上告人の決定はここに破棄される。本件は、申立人らの抗弁に関する予備審問のため、第一審裁判所に差し戻される。訴訟費用は各自の負担とする。

よって、命じる。」

実務上の影響:仲裁条項と予備審問の活用

本判決は、フィリピンにおける訴訟手続きにおいて、以下の点で重要な実務上の影響を与えます。

  • **予備審問の積極的活用**: 裁判所は、特に争点が明確で、予備審問によって早期解決が期待できる場合には、抗弁の予備審問を積極的に活用すべきである。
  • **仲裁条項の適用範囲**: 保険代位の場合においても、仲裁条項は保険会社を拘束する。保険契約や輸送契約においては、仲裁条項の適用範囲を明確に定めることが重要である。

企業法務担当者や訴訟弁護士は、本判決を踏まえ、訴訟戦略を検討する際に、予備審問の活用を積極的に検討すべきです。特に、契約書に仲裁条項が含まれている場合には、訴訟提起前に仲裁条項の適用可能性を十分に検討し、必要に応じて仲裁手続きを選択することも考慮に入れるべきでしょう。

主な教訓

  • 抗弁の予備審問は、訴訟の早期解決に有効な手段である。
  • 裁判所は、争点が明確な場合には、予備審問を積極的に活用すべきである。
  • 仲裁条項は、保険代位の場合にも適用される。
  • 契約書を作成する際には、仲裁条項の適用範囲を明確に定めることが重要である。

よくある質問(FAQ)

Q1: 抗弁の予備審問とは何ですか?

A1: 抗弁の予備審問とは、訴訟において被告が主張する抗弁について、裁判所が事件全体を審理する前に、証拠調べや弁論を行う手続きです。訴訟の早期解決や争点整理を目的としています。

Q2: どのような場合に予備審問が認められますか?

A2: 旧民事訴訟規則下では、訴えの却下申立てがなされていない場合、または訴えの却下申立てが判断保留となっている場合に、裁判所の裁量で予備審問が認められていました。1997年改正後の規則では、原則として訴えの却下申立てがなされていない場合に限られます。

Q3: 仲裁条項とは何ですか?

A3: 仲裁条項とは、契約当事者間で紛争が生じた場合に、裁判所での訴訟ではなく、仲裁手続きによって解決することを合意する条項です。仲裁は、裁判に比べて迅速かつ柔軟な紛争解決手段として利用されます。

Q4: 保険代位とは何ですか?

A4: 保険代位とは、保険会社が被保険者に保険金を支払った場合に、被保険者が第三者に対して有する権利を保険会社が取得することです。例えば、貨物保険の場合、保険会社が荷主に保険金を支払うと、保険会社は荷主が運送業者に対して有する損害賠償請求権を代位取得します。

Q5: 本判決は、現在の訴訟手続きにどのように影響しますか?

A5: 本判決は、旧民事訴訟規則下の判例ですが、予備審問の意義や仲裁条項の適用範囲について重要な示唆を与えています。現在の規則下でも、裁判所は訴訟の効率化を図るために、適切な場面で予備審問を活用することが期待されます。また、仲裁条項の解釈についても、本判決の考え方が参考にされる可能性があります。


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