共謀と強盗殺人罪:フィリピン最高裁判所判例解説 – パリホン対フィリピン国

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共謀が成立する場合、現場にいなくても強盗殺人罪の責任を負う

G.R. No. 123545, 2000年10月18日

はじめに

フィリピンでは、強盗事件の際に人が死亡した場合、「強盗殺人罪」という重罪が成立します。しかし、事件の計画段階には関与していても、実際に犯行現場にいなかった場合でも、共謀者として罪に問われるのでしょうか?本稿では、最高裁判所の判例「パリホン対フィリピン国」事件を基に、共謀と強盗殺人罪の成立要件、そして現場にいなかった共謀者の責任について解説します。この判例は、共謀罪における責任範囲を理解する上で重要な教訓を示唆しています。

事件の概要

1993年8月27日未明、パリホン、メルセーネ、デセーナの3被告は、サンパブロ市在住のレイエス夫妻宅に強盗目的で侵入しました。デセーナとメルセーネが家屋内に侵入し、寝室で現金や宝石を盗む計画を立て、パリホンは見張り役として家の外に待機していました。午前4時頃、トイレに向かうために寝室から出てきた妻のレイエス氏をデセーナが襲撃、助けを求める妻の声を聞き駆けつけた夫のゴンザロ・レイエス氏もデセーナに襲われ、その後死亡しました。家宅内は物色され、現金17,000ペソと100,000ペソ相当の宝石が盗まれました。

捜査の結果、パリホン、メルセーネ、デセーナ、そしてパリホンの内縁の妻であるプライアの4人が強盗殺人罪で起訴されました。メルセーネとデセーナは後に殺人罪で有罪を認めましたが、パリホンとプライアは無罪を主張しました。地方裁判所はパリホンとプライアを有罪としましたが、最高裁判所はこれを支持しました。

法的背景:強盗殺人罪と共謀

フィリピン刑法第294条第1項には、強盗殺人罪が規定されています。これは、強盗の機会またはその理由で殺人が行われた場合に成立する罪です。重要なのは、殺人が強盗の「機会に」または「その理由で」発生した場合に適用されるという点です。つまり、殺人が強盗計画の一部でなくても、強盗の遂行中に偶発的に発生した場合でも、強盗殺人罪が成立する可能性があります。

フィリピン刑法第294条第1項:強盗殺人罪 – 強盗の結果として殺人が発生した場合、その犯罪者は、より重い刑罰であるリクリューション・パーペチュアから死刑に処せられる。

また、共謀とは、2人以上の者が犯罪を犯すことで合意することを指します。共謀が立証された場合、共謀者は全員、実際に犯行を実行した者と同じ責任を負います。共謀は明示的な合意だけでなく、黙示的な合意でも成立し得ます。例えば、犯行前の打ち合わせや、犯行中の役割分担などが共謀の証拠となり得ます。

最高裁判所の判断

最高裁判所は、まずプライアのデュープロセス侵害の訴えを退けました。プライアは逮捕状なしで逮捕されたこと、予備調査が実施されなかったことを主張しましたが、裁判所は、プライアが罪状認否において異議を唱えなかったこと、裁判に積極的に参加したことから、これらの権利を放棄したと判断しました。

次に、プライアが強盗罪の共謀者であるかどうかが争点となりました。メルセーネの証言によれば、プライアはレイエス夫妻がアメリカからの帰国子女であり、金持ちであることを伝え、どのように家に入るかを指示したとされています。一方、デセーナはプライアは計画に関与しておらず、寝ていたと証言しました。

最高裁判所は、メルセーネの証言を信用できると判断しました。メルセーネは、計画が練られたパリホンの家は狭く、プライアは共謀の話し合いに容易に参加できる状況だったと証言しています。また、メルセーネの証言は肯定的証拠であり、デセーナの否認よりも証拠価値が高いと判断されました。

「共謀者は、たとえ犯行現場にいなくても、あたかも強盗と殺人に実際に参加したのと同様に、強盗殺人罪の責任を負う。共謀者が犯罪を犯すことに明示的または黙示的に合意し、それを追求した瞬間から、共謀の各メンバーは、そのうちの誰かが犯した重罪に対して刑事責任を負う。」

パリホンについては、アリバイを主張しましたが、メルセーネのパリホンを犯人とする証言が肯定的かつ明確であったため、アリバイは退けられました。また、パリホンは共犯者の自白は自身に不利に働く証拠とすることはできないと主張しましたが、最高裁判所は、メルセーネの証言は裁判での証言であり、反対尋問の機会が与えられているため、証拠能力があると判断しました。

最終的に、最高裁判所は、地方裁判所の判決を一部修正し、パリホンとプライアに対し、強盗殺人罪でリクリューション・パーペチュア(終身刑)を科し、被害者の遺族に対し損害賠償金100,000ペソを連帯して支払うよう命じました。当初、地方裁判所が科していた妻レイエス氏への傷害罪による刑罰は、強盗殺人罪に吸収されるとして取り消されました。

実務上の教訓

この判例から、以下の教訓が得られます。

  • 共謀の成立範囲:犯罪計画に加担した場合、たとえ現場にいなくても共謀者として重い罪に問われる可能性がある。
  • 共謀の立証:共謀は明示的な合意だけでなく、状況証拠からも立証されうる。
  • 供述の証拠能力:共犯者の裁判での供述は、他の共犯者に対する証拠となりうる。
  • 強盗殺人罪の適用範囲:殺人が強盗の機会またはその理由で発生した場合、強盗殺人罪が成立する。偶発的な殺人でも適用される可能性がある。

ビジネスや個人のための実務的アドバイス

  • 犯罪計画には絶対に関与しないこと。たとえ現場にいなくても、共謀罪で重罪に問われる可能性があります。
  • 他人の犯罪計画を知った場合は、直ちに警察に通報する。
  • 不審な人物や出来事に遭遇した場合は、身の安全を確保し、警察に通報する。
  • 海外からの帰国者(バリカバヤン)は、特に犯罪の標的になりやすいことを認識し、防犯対策を徹底する。

主な教訓

  • 共謀への安易な参加は厳禁: 軽い気持ちで犯罪計画に関わると、重大な結果を招く可能性があります。
  • 犯罪計画の早期通報: 犯罪を未然に防ぐために、計画を知ったらすぐに通報することが重要です。
  • 防犯意識の向上: 自身と財産を守るために、日頃から防犯意識を高めることが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q1: 強盗殺人罪はどのような場合に成立しますか?

A1: 強盗の機会またはその理由で人が死亡した場合に成立します。強盗計画の一部でなくても、強盗の遂行中に偶発的に殺人が発生した場合も含まれます。

Q2: 共謀とは何ですか?どのような場合に共謀が成立しますか?

A2: 共謀とは、2人以上の者が犯罪を犯すことで合意することです。明示的な合意だけでなく、黙示的な合意でも成立し得ます。犯行前の打ち合わせや役割分担などが共謀の証拠となります。

Q3: 犯行現場にいなかった共謀者も強盗殺人罪の責任を負いますか?

A3: はい、共謀が成立する場合、犯行現場にいなかった共謀者も、実際に犯行を実行した者と同じ強盗殺人罪の責任を負います。

Q4: 共犯者の供述は、他の共犯者の有罪を立証する証拠になりますか?

A4: はい、裁判での共犯者の供述は、反対尋問の機会が与えられているため、他の共犯者の有罪を立証する証拠となり得ます。

Q5: バリカバヤン(海外からの帰国者)はなぜ犯罪の標的になりやすいのですか?

A5: バリカバヤンは一般的に、海外で得た財産を持っていると見なされやすく、また、現地の治安状況に不慣れな場合があるため、犯罪者に狙われやすい傾向があります。

Q6: 強盗殺人罪の刑罰はどのくらいですか?

A6: フィリピンでは、強盗殺人罪の刑罰はリクリューション・パーペチュア(終身刑)から死刑までと非常に重いです。(ただし、フィリピンでは現在死刑は停止されています。)

Q7: 今回の判例で、プライアはなぜ有罪になったのですか?

A7: プライアは、強盗計画を主導し、被害者に関する情報を提供した共謀者と認定されたため、強盗殺人罪の有罪判決を受けました。彼女が犯行現場にいなかったことは、責任を免れる理由にはなりませんでした。

ASG Lawは、フィリピン法に関する専門知識を持つ法律事務所です。強盗殺人事件、共謀罪、その他刑事事件に関するご相談は、konnichiwa@asglawpartners.comまでお気軽にお問い合わせください。詳細については、お問い合わせページをご覧ください。初回のご相談は無料です。ご連絡をお待ちしております。

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