税務監査は適法な権限付与状(LOA)なしには無効:企業役員の責任範囲を明確化
G.R. No. 256868, October 04, 2023
税務監査は、企業や個人の納税義務を適正に評価するために不可欠なプロセスです。しかし、その手続きが適法に行われなければ、課税処分は無効となり、納税者は不当な負担を免れることができます。本記事では、フィリピン最高裁判所の判例(PEOPLE OF THE PHILIPPINES, PETITIONER, VS. CORAZON C. GERNALE, RESPONDENT. G.R. No. 256868, October 04, 2023)を基に、税務監査における適法な権限付与状(Letter of Authority, LOA)の重要性、および企業役員の責任範囲について解説します。
はじめに
フィリピンでは、多くの企業が税務監査の対象となり、その結果、多額の追徴課税を受けることがあります。しかし、税務当局が監査を行う際には、適法な手続きを踏む必要があり、その中でもLOAは非常に重要な要素です。LOAは、税務当局が特定の納税者に対して監査を行う権限を付与するものであり、これがない場合、監査自体が無効となる可能性があります。本判例は、LOAの重要性を改めて強調し、企業が税務監査に対応する際の注意点を示唆しています。
法的背景
フィリピン国内歳入法(National Internal Revenue Code, NIRC)は、税務監査の実施にあたり、税務当局がLOAを必要とすることを明確に定めています。Section 6 of the NIRC には次のように規定されています。「税務署長またはその正式な代理人は、納税者の納税義務を調査するために、権限付与状(LOA)を発行しなければならない。」この規定は、税務当局が納税者の帳簿や記録を調査する前に、必ずLOAを取得することを義務付けています。LOAは、税務当局が適法に監査を行うための根拠となるものであり、納税者の権利を保護する上で重要な役割を果たします。
過去の判例においても、LOAの重要性は繰り返し強調されています。例えば、Commissioner of Internal Revenue v. Mcdonald’s Philippines Realty Corp. では、「収益担当者は、納税者のさらなる調査および評価を進める前に、LOAを確保しなければならない。そうでなければ、LOAの欠如は、被申立人のデュープロセス権の侵害に基づいて、検査および評価を無効にする。」と判示されています。このように、LOAは税務監査の適法性を判断する上で、非常に重要な要素となっています。
事案の概要
本件は、Gernale Electrical Contractor Corporation(GECC)の財務担当者であるCorazon C. Gernale氏が、2003年度の法人所得税および付加価値税の不足額について、NIRC第255条に違反したとして訴追された事案です。税務当局は、GECCに対して課税処分を行いましたが、Gernale氏は、税務当局が適法なLOAを取得していなかったこと、およびPAN(予備査定通知)とFAN(最終査定通知)がGECCの事業所ではなく、Gernale氏の自宅に送付されたことを主張しました。
CTA(税務裁判所)特別第三部およびCTAエンバンクは、Gernale氏の主張を認め、検察側がLOAの存在を証明できなかったこと、およびPANが適法に送付されなかったことを理由に、Gernale氏を無罪としました。検察側は、民事責任についても再考を求めましたが、CTAエンバンクはこれを退けました。
最高裁判所は、CTAエンバンクの判断を支持し、以下の理由からGernale氏の民事責任を否定しました。
- LOAの欠如:税務当局が適法なLOAを取得せずに監査を行った場合、その監査に基づいて行われた課税処分は無効となる。
- 企業役員の責任範囲:企業が納税義務を履行しない場合でも、企業役員個人がその責任を負うことは原則としてない。
最高裁判所は、Medicard Philippines, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue の判例を引用し、「LN(照会状)はLOAの代わりにはならない。デュープロセスは、RMO No. 32-2005で認識されているように、LNがその目的を果たした後、収益担当者が申立人のさらなる調査および評価を進める前に、LOAを適切に確保する必要があることを要求する。」と述べました。
実務上の意義
本判例は、企業が税務監査に対応する際に、以下の点に注意する必要があることを示唆しています。
- 税務当局が監査を開始する前に、適法なLOAが提示されているかを確認する。
- PANおよびFANが、企業の正式な事業所に送付されているかを確認する。
- 税務監査の手続きに不備がある場合、専門家(弁護士や税理士)に相談する。
重要な教訓
- 税務監査は適法な手続きに基づいて行われなければならない。
- LOAは税務監査の適法性を判断する上で非常に重要な要素である。
- 企業役員は、企業の納税義務について、原則として個人責任を負わない。
例えば、ある企業が税務当局から監査を受けた際、LOAが提示されなかったとします。この場合、企業は監査を拒否することができます。また、監査の結果、追徴課税を受けたとしても、LOAの欠如を理由に、課税処分の取り消しを求めることができます。
よくある質問
Q: 税務監査の際に、LOAの提示を求めることはできますか?
A: はい、できます。税務当局は、監査を開始する前に、LOAを提示する義務があります。
Q: LOAに記載されている内容を確認する必要がありますか?
A: はい、確認する必要があります。LOAには、監査の対象となる期間や税目などが記載されています。記載内容が不正確な場合、監査の範囲が不当に拡大される可能性があります。
Q: PANやFANが自宅に送付された場合、どうすればよいですか?
A: PANやFANが企業の正式な事業所に送付されていない場合、その通知は無効となる可能性があります。税務当局にその旨を通知し、適切な対応を求める必要があります。
Q: 税務監査に対応する際に、弁護士や税理士に相談する必要はありますか?
A: 税務監査は複雑な手続きであり、専門的な知識が必要となる場合があります。弁護士や税理士に相談することで、適切な対応をとることができます。
Q: 企業役員は、どのような場合に企業の納税義務について個人責任を負いますか?
A: 企業役員は、税法の規定により、意図的に脱税を行った場合や、企業の財産を不正に処分した場合などに、個人責任を負うことがあります。
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