将来の見通しに関する虚偽表示と取締役の責任:カラヤ・スプリングス事件から学ぶ
G.R. No. 230649, April 26, 2023
はじめに
証券取引において、企業の将来の見通しに関する情報が投資家の判断に大きな影響を与えることは言うまでもありません。しかし、その情報が不正確であった場合、誰が責任を負うのでしょうか?本記事では、フィリピン最高裁判所のカラヤ・スプリングス事件を基に、証券規制法における虚偽表示と取締役の責任範囲について解説します。
この事件は、ゴルフ場開発プロジェクトの完成予定日に関する虚偽の記述が、証券規制法に違反するかどうかが争点となりました。最高裁判所は、将来の見通しに関する記述の性質と、取締役個人の責任範囲について重要な判断を下しました。
法的背景
フィリピン証券規制法(Securities Regulation Code, RA No. 8799)は、証券市場の公正性と投資家保護を目的としています。特に、第12.7条および第73条は、登録声明における虚偽の記述や重要な事実の欠落を禁止し、違反者には罰則を科しています。
第12.7条:「登録声明が発効した場合、発行者はすべての登録要件が満たされ、すべての情報が発行者または声明を作成する者によって表明されたとおり真実かつ正確であることを宣誓しなければならない。そこに記載されるべき重要な事実の虚偽の記述または記載を誤解させないために必要な重要な事実の省略は、詐欺を構成するものとする。」
第73条:「本法または本法に基づいて委員会が公布した規則および規制の規定に違反する者、または本法に基づいて提出された登録声明において、重要な事実の虚偽の記述を行う者、またはそこに記載されるべき重要な事実の記述を省略する者、もしくは記述を誤解させないために必要な重要な事実の記述を省略する者は、有罪判決を受けた場合、5万ペソ以上500万ペソ以下の罰金、または7年以上21年以下の懲役、または裁判所の裁量によりその両方を科せられるものとする。」
これらの条項は、投資家が正確な情報に基づいて投資判断を行えるようにするために設けられています。虚偽の記述や重要な情報の欠落は、投資家を誤解させ、損害を与える可能性があるため、厳しく規制されています。
事件の経緯
カラヤ・スプリングス・ゴルフ・クラブ(Caliraya)は、1997年に証券取引委員会(SEC)に登録声明を提出し、株式の二次募集を通じてゴルフ場開発プロジェクトの資金調達を計画しました。登録声明には、プロジェクトの完成予定日を1999年7月と記載していました。
しかし、実際にはプロジェクトは予定通りに進まず、2003年の四半期報告書でSECが虚偽の記述を発見しました。SECはカラヤに対し、登録声明の修正と投資家への返金通知を命じましたが、カラヤはこれに従いませんでした。その結果、SECはカラヤの証券登録を取り消しました。
その後、SECはカラヤの取締役らに対し、証券規制法違反の疑いで告発状を提出しました。地方裁判所は当初、証拠不十分として訴えを棄却しましたが、検察官の再考要求を受け入れ、追加証拠の提出を認めました。しかし、追加証拠でも取締役の責任を立証するには至らず、訴えは再び棄却されました。高等裁判所も地方裁判所の判断を支持し、最高裁判所へと上告されました。
- 1997年:カラヤがSECに登録声明を提出
- 2003年:SECが登録声明の虚偽の記述を発見
- 2004年:SECがカラヤの証券登録を取り消し
- 2010年:SECが取締役らを告発
- 2013年:地方裁判所が訴えを棄却
- 2016年:高等裁判所が地方裁判所の判断を支持
最高裁判所は、以下の点を考慮して判断を下しました。
「刑法手続きの実施において、裁判所は検察にさらなる証拠を提出するよう命じる権限を十分に有している。これは必然的に、裁判官自身が被疑者を拘留する前に、相当な理由の存在に個人的に満足しなければならないからである。相当な理由がない場合、裁判官は逮捕状の発行を強制されることはない。」
「相当な理由の決定は、常に事件の事実の検討を伴うことになる。」
最高裁判所の判断
最高裁判所は、高等裁判所の判断を支持し、訴えを棄却しました。その理由として、以下の点を挙げました。
- 将来の見通しに関する記述は、その性質上、虚偽の記述には当たらない。
- 取締役個人が虚偽の記述に直接関与した証拠がない。
- 取締役としての地位のみでは、刑事責任を問えない。
ただし、最高裁判所は、カラヤが完成予定日を過ぎても登録声明を修正しなかった点については、証券規制法違反に該当する可能性を指摘しました。しかし、今回の訴えは虚偽の記述を理由としており、登録声明の修正義務違反ではないため、取締役の責任を問うことはできないと判断しました。
実務への影響
この判決は、企業が将来の見通しに関する情報を提供する際に、以下の点に注意する必要があることを示唆しています。
- 将来の見通しに関する情報は、あくまで予測であり、保証されたものではないことを明示する。
- 状況の変化に応じて、登録声明を適切に修正する。
- 取締役は、虚偽の記述や重要な情報の欠落に関与しないように注意する。
また、投資家は、将来の見通しに関する情報を鵜呑みにせず、多角的な分析に基づいて投資判断を行うことが重要です。
キーレッスン
- 将来の見通しに関する情報は、予測であり、保証されたものではない。
- 登録声明は、状況の変化に応じて適切に修正する必要がある。
- 取締役は、虚偽の記述や重要な情報の欠落に関与しないように注意する。
よくある質問(FAQ)
Q1: 証券規制法における虚偽の記述とは、具体的にどのようなものを指しますか?
A1: 証券規制法における虚偽の記述とは、登録声明や目論見書などの公式文書において、事実と異なる情報を提供することを指します。これには、意図的な虚偽だけでなく、不注意による誤りや誤解を招く可能性のある情報の欠落も含まれます。
Q2: 取締役は、会社の虚偽の記述に対して常に責任を負いますか?
A2: いいえ、取締役は会社の虚偽の記述に対して常に責任を負うわけではありません。取締役が責任を負うのは、虚偽の記述を故意に行ったり、重大な過失があったり、悪意があったりする場合に限られます。単に取締役としての地位にあるだけでは、刑事責任を問われることはありません。
Q3: 登録声明を修正する義務は、いつ発生しますか?
A3: 登録声明を修正する義務は、当初の声明が不正確になったり、重要な情報が欠落したりした場合に発生します。例えば、プロジェクトの遅延や計画の変更など、投資家の判断に影響を与える可能性のある事態が発生した場合、速やかに登録声明を修正する必要があります。
Q4: 将来の見通しに関する情報を提供する際に、注意すべき点は何ですか?
A4: 将来の見通しに関する情報を提供する際には、それが予測であり、保証されたものではないことを明確に示す必要があります。また、情報提供の根拠となる仮定やリスク要因を明示し、投資家が情報を適切に評価できるようにする必要があります。
Q5: 投資家は、虚偽の記述によって損害を受けた場合、どのような救済手段がありますか?
A5: 投資家は、虚偽の記述によって損害を受けた場合、会社や責任のある取締役に対して損害賠償請求を行うことができます。また、証券取引委員会(SEC)に苦情を申し立て、調査や制裁を求めることも可能です。
ASG Lawでは、証券規制に関するご相談を承っております。お問い合わせ または konnichiwa@asglawpartners.com までご連絡ください。
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